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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
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俺より可愛い奴なんていません。6-16

◇ ◇ ◇ ◇


あおい前野まえの長谷川はせがわは、入浴の準備を済ませると、更衣室まで訪れていた。


更衣室に来る間も、真鍋まなべのちょっとした一言により、前野と長谷川はウキウキ気分で機嫌よく、下品な話題で、期待感を持ちながら盛り上がっていた。


そんな中葵は、一度お風呂に行くと言い出した手前、前野達と入浴することになり、更衣室に来る間も二人の卑しい会話を聞いていたおかげで、嫌な予感ばかりが募っていた。


「立花はどうなのよ?

ぶっちゃけ楽しみでしょうがないでしょ?」


更衣室に設けられたロッカーを開けながら、前野は今まで会話に参加していなかった葵にも、自分たちのブームな話題を振り始めた。


「お前たちと一緒にするな。

せっかくゆっくり一人でリラックスできると思っていたのに……」


「一緒にするなってまじかよ……。

立花、お前の性欲どうなってんだ??」


至極不満そうに答える葵に対して、長谷川は若干引いているような、驚いた表情を浮かべがら、真面目なトーンで葵にそう呟いた。


葵には、先ほどから下品な会話ばかりを繰り広げていた長谷川に、変なものを見るような目でみられたのはとても心外だったが、不満を口にすることはなく言葉を飲みこみ、耐えていた。


「立花ぁ~……、そんなわけないだろ??

ぶっちゃけ、誰よ? あの三人の中だったら誰タイプ??」


葵がノーコメントでいると今度は、前野がそんなはずはないと質問を少し変え葵に尋ねた。


「楽しみな奴なんていねぇよ……。

俺よりかわいい奴がいるなら見てみたいよ」


とてもじゃないが付き合いきれないと感じた葵は、いち早く入浴の準備を整えると、二人に冷たく興味なさげにそう呟きながら、浴場の方へと向かって行った。


「お前、着替えるの速ッ……」


会話を楽しみながらとのんびりと着替えていた長谷川と前野に対し、葵はてきぱきと準備を終えていた。


りゅう、立花もなんだかんだ言いつつも楽しみだってこただよッ」


「あぁ~……、なるほどな」


まだ同じ部屋にいた葵は、後ろでこそこそと話す二人の最後の話声が聞こえ、大きなため息付を一つついた後、浴場への扉へ手を掛けた。


◇ ◇ ◇ ◇


「そういえばさぁ、明日はどうやって班分けするんだろうなぁ~?」


一足先に浴場へと足を踏み入れた葵に続き、長谷川と前野も浴場へと進み、それぞれ鏡とシャワーのついたところへと隣り合わせで座っていた。


仲良くシャンプーを使い、それぞれが頭を洗いながら会話をしていると、不意に前野が疑問を二人に投げかけた。


「う~ん、シンプルに考えたら俺と松野まつのさんがまゆずみさんのとこの手伝いで、今度は橋本はしもとさんとかお前とか、清水しみずさんが真鍋まなべ先生と一緒に回るんじゃないか??」


「まぁ、確かに順当にそう考えたらそうなるだろうけど、そうしたら立花は??

それに今日、真鍋先生を含めて三人で回れたんだろ??

そしたら明日も別に三人でいいよってことになんじゃないか?」


前野の質問に長谷川が答えると、前野は続いてそれについて質問を返した。


浴場はかなり広く天井も高いため彼らの声は反響し、シャワーで頭を流していたとしても声を聞き取ることができた。


「えぇ~ッ!? もう俺回るのいいよ……。

結構歩き疲れるし、何件も何件も挨拶いくから疲れちゃうし……」


明日は黛の手伝いだと仮定していたのか、長谷川は嫌そうにしながらそう答えた。


「そんなにしんどいの?? だってほぼ今日一日中、真鍋先生がいるにしても、あの松野さんと一緒だったんだろ?

俺からしたら普通に羨ましいんだけど……。

それに、ぶっちゃけ俺らの方もきつかったよな??」


「あぁ、しんどかった。

めちゃくちゃ客来るは、変なのに絡まれるはで……」


苦労そうに語る長谷川に対して、前野も今日の事を振り返り、楽ではなかったことを伝え、葵に同意を求めた。


葵も前野の意見には同意し、葵の場合は彼の私情により、他の事も気にかけなくてはならなく、思い返しても楽な一日ではなかった。


「えぇ~……、それでも、橋本さんや清水さん、それだけじゃなくいろんな美人なBloomブルームの店員の制服を見れたんだろ?」


前野と葵の話を聞いても引き下がれず、長谷川は続けて答えた。


「まぁ、見れたっていっても俺キッチンで、ひたすら皿洗いだし…………」


「俺もそんなに見れてないぞぁ~……。

フロアにいても忙しすぎてそれどころじゃなかった」


前野が答えた後、葵は二人の性格からして自分にもこの話が周り、羨ましいやらズルいやらの声が出てくることは目に見えたので、すかさず釘をさすように答えた。


葵のそんなそっけないような答え方もあり、二人は葵の予想したようにはならず、特に非難されつ事もなかった。


「そっかぁ……、じゃあ結局どこに回されようが大変って事かぁ~……」


長谷川は少し悲しそうにそう呟きながら、楽な道がない事を確認した。


「じゃあさッ! 二人は、もし代わりに民家のあいさつ回りの班になったとしたら誰と行きたい??」


質問タイムは終わりかと葵がそう思った時、長谷川は、今度は違う話題で二人に話を振り始めた。


葵は内心「また答えずらい話題を……」と嘆いたが、前阿野が答え始めた事で三人の次なる話題はそれへと変わっていった。


「俺はやっぱり清水さん一択だなッ!

真鍋先生はいるにしても、清水さんのほぼ二人っきりとか、最高すぎる!!」


「清水ぅ~??

あんなのどこがいいんだ? 気が強いからお前なんてすごまれて終わりだぞ?

地獄の一日になる…………」


亜紀あきの名前を挙げた前野に対して葵は、嫌そうな表情を浮かべ、信じられないといった様子で、バッサリと前野の意見を否定した。


「はぁ~? いいだろぉ~! 清水さん。

めちゃくちゃスタイル良くて、クールで美人で……、あれは仲良くなったらデレるタイプだなッ!!

めちゃいいッ!!」


何故か亜紀の事をあまりよく知らないはずの前野は、自身の脳内では亜紀の性格が完全に設定されており、何故かすべてを分かったように力説し始めた。


「いや、お前デレられたことあんのかよ……、ねぇだろ。

というかデレに行く前に、冷たすぎて心折れるだろ」


「確かに、清水さんは冷たい。

だが、それもいいッ!!」


前野の想像の亜紀をぶち壊すように、葵は普段の亜紀の一面だけを伝えると、前野はそれでもくじけず前向きに評価をしていた。


前野の思考についていけず、葵は呆れたようにため息を付き、これ以上の反論は無意味だとあきらめた。


「立花はどうなの?

もし真鍋先生側になったとしたら誰が良い? もちろん俺ら以外で……」


葵はこの質問自体正直どうでもよく、テキトーに長谷川か前野の名前を出すつもりでいたが、今度は逆に釘をさされ、葵の答えようとした答えは使えなくなっていた。


「んん~、まぁ、気をあんま使わなくてもいい橋本とかかな……」


葵は何か答えようと考えたが、すぐに美雪が楽だと思いつき、それをそのまま答えた。


葵が答えると急に二人は静かになり、先ほどまで騒がしかったはずの二人が静かになれば、葵もその異変に気付き二人の方に視線を向けた。


するとそこには、素っ頓狂な顔をして、目を丸くしながら表情を固まらせる二人の姿があった。


「な、なに……?」


流石に二人にまじまじと見つめられるのは嫌な印象を受け、その空気に耐えられず葵は二人に何事かと尋ねた。


「いや……、また答えないかと思ったらわりとすんなり答えたから……」


「そういえば、あんまり気にしたことなかったけど、立花と橋本って仲いいよな?」


長谷川と前野はお互い顔を一度見合わせた後、それぞれが疑問を口にした。


長谷川と前野はお互いに少し違う疑問を持っていたが、二人が違和感を感じるその根底は同じもののようにも思えた。


「別に普通だろ……」


葵は何故か疲れたくもないところを付かれているような感じがし、せっかく体を洗い流したのに嫌な汗をかき始めていることに気が付いた。


「まぁ、最近の立花は前に比べたら女子と会話するようにもなってきてるから普通っちゃ普通のようにも思えるけど……。

橋本もそんなに自分からグイグイと話しかけるタイプでもないから、ちょっと思い返せば不思議だよな……」


「なんだかんだで一緒にいることが多い気がするしなぁ……」


葵を会話から置いてきぼりにし始め、二人はどんどんと深く思考をしていくように会話をし始め、葵はこんな状況はすぐに抜け出したく思えてきていた。


「どうでもいいだろそんな事……。

それよりももう体洗ったんだろ? 風呂行こうぜ、風呂」


葵はわざと会話を逸らすようにして、二人に呼びかけると単純な彼らは、「それもそうだな」と一言答えると、再び、更衣室に来る時のような下品な話をし始めた。


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