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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
118/204

俺より可愛い奴なんていません。6-15

「さて、私の話はこれくらいかな!

その後も両親が離婚しちゃったり、色々あったけど、今はホントに幸せだよ!

というか、暗い話はここまでッ!!

楽しい話をしよッ! ねッ!!」


今までしずかの昔の話を聞きながら、美雪みゆきは静と二人、波に揺られていたが、不意に静は美雪に話題を変えるよう提案し始めた。


「そうですね。

……でも、私楽しい話なんて持ってないですよ?」


「いいんだよ! そんものなくたって!

恋バナしよッ! 恋バナッ!!」


「えぇ~ッ!! そんな急にッ」


美雪はあまり得意では無いジャンルの話題と、この手の話題には羞恥心が付きまとうため、自然と頬を赤らませ、話を振り始めた静も少し頬を赤く染めていた。


「橋本さんはさぁ、好きな人とかいたりするの?」


「え、ええぇ~~……」


静はかなり強引に恋バナに話題を振り、直球で美雪に尋ねた。


いきなりの事に美雪は、震えたような声しか出せず、恥ずかしさばかりがましてきていた。


「まぁまぁ、そんな隠さずにさぁッ、教えてよ~」


話すことに躊躇する美雪に対して、静は少し甘えたような声で、可愛くねだるように美雪に尋ねた。


美雪に頼み込む静の可愛らしさは途轍もなく、同性の美雪から見てもとても可愛らしかった。


間違いなく、美雪でなくこれが前野まえの長谷川はせがわであったり、彼ら二人だけでなくても異性であれば一発で恋に落ちてしまう程のインパクトがあった。


「す、好きな人ですか~?

き、気になる人といいますか……、尊敬してる人とかはいますけど……」


「やっぱりいるんだ~ッ

誰々? なんて人?? もしかして……、私の知ってる人だったりしてぇ~ッ!?」


「な、名前までは言えないです! そ、それより、小竹さんはどうなんですか?」


恥ずかしがる美雪を見てはニヤニヤと笑みを浮かべる静に、美雪も切り返すように尋ねた。


「いるよ……、好きな人」


「え……?」


恥ずかしがる美雪に対して、静ははっきりとした口調で答えた。


静の表情は嘘を言っているような表情には見えず、先ほどのようなニヤニヤとした表情でなく軽く優しく笑った表情をしており、堂々とした様子で答えていたが、顔は先ほどよりも目に見てわかるほどに赤くなっていた。


透き通る、よく聞こえる声で、声色にはどこか芯のあるようなはっきりとし静の声と、静の表情に、美雪はまるで見とれるように一瞬固まり、静を驚いた表情で見つめ、声を漏らした。


「い、いるんですか……?」


何の躊躇なく答えた静に一瞬固まってしまった美雪だったが、すぐに我に返り、恐る恐る静に尋ねた。


「うん」


再度聞かれた事で、静も最初は勢いで答えているところがあったため、言い直すのは余計に恥ずかしく、さっきよりは堂々とした雰囲気は無く、恥ずかしげに小さく頷きながら答えた。


その姿はホントに可愛らしかった。


「ど、どんな方なんですか……?」


「んん? どんな人かぁ〜……。

いつもはちょっと意地悪で〜、なのに偶に、何故か弱っている時に優しくしてくれる、そんな人かな……」


美雪はそれを聞いて静の好きな人が、先程の話に出ていた昔の腐れ縁の彼だということは何となく分かった。


そして、確証は無いがそれはあおいである可能性が高く、静の話を聞いた途端に、美雪は何故か胸が少し痛むようなそんな感覚を感じ、どんな方かと尋ねた事に後悔が残った。


美雪がその感覚を何故感じたのか分からず、その事に気を取られ始めたその瞬間、不意に海に浮かぶ2人に呼びかけるように声が掛けられた。


「美雪〜ッ! 静〜ッ!

そろそろ上がりなって〜〜ッ!」


美雪が思考を凝らす間もなく呼びかけられ、声のする方へと視線を向けるとそこには浜で大きく手を振る亜紀あきの姿がそこにあった。


「オッケ〜ッ! 分かったぁ〜〜ッ!」


亜紀の呼び掛けに答えるようにして、静が答えると今度は美雪の方に視線を向け、ニコッと微笑みながら一言、「上がろっか」と言い渡すと浜の方へと漕ぎ始めた。


美雪も小さく頷くと静に続くように、胸の中に小さな違和感を感じながら亜紀の方へと漕ぎ始めた。


◇ ◇ ◇ ◇


Bloomブルームでの手伝いを終え、美雪みゆき達は真鍋まなべに引率され、ホテルへと戻ってきていた。


海でひとしきり遊び、一時間弱の間だったがそれぞれがかなりの体力を使うほどには疲れ、ホテルに付くなり一息ついていた。


真鍋は簡単にこの後の予定の説明を生徒にした後。再び男女で別れ、それぞれが自分たちの用意された部屋へと戻っていった。


前野まえの長谷川はせがわ、真鍋が部屋に着くとそこには、窓際で外から流れてくる風にあたりながら本を読むあおいの姿がそこにあった。


「お、帰ってきたか。 おかえり……」


部屋の玄関が開いたことで、葵は本から帰ってきた前野達に視線を移し、声をかけた。


「おぉ~、ただいま~」


「ただいま~、体調は治ったか~?」


前野と長谷川は、葵の言葉に疲れた様子で返事を返しつつ、お互いにそれぞれ自分が寝る予定のベットに倒れこんだ。


「まぁ、ぼちぼちだな……」


倒れこむ前野達を尻目に、葵は自身の手荷持つ本へと視線を落とし、つまらなそうに返事を返した。


「ぼちぼちかな、じゃないぞ~葵。

他から聞いてるからな~? まゆずみさんのとこいただろ??」


前野と長谷川の後に続いて部屋に入ってきた真鍋は、注意すような口調で葵にそう声をかけた。


葵は内心ギクりと、図星をつかれた感覚になったが、ある程度真鍋につつかれるであろう事は予想していた。


一応念のため、Bloomブルームを去る前に、葵がここに訪れたことは、真鍋には言わないようそれぞれに口止めをしてはいたが、口の緩い彼や彼女等の事はあまり信用していなかった。


「そんなわけ無いじゃないですか、部屋で大人しくしてましたよ」


葵は半ばあきらめてはいたが、しらばっくれるようにして真鍋の質問に答えた。


質問に答える中で、真鍋に気づかれないようベットで伸びている前野に、睨みつけるような鋭い視線を送り、葵の圧に気が付いたのか前野は葵と目が合い、自分が責められている事を察すると、勢いよく首を横に振り自分の身の潔白を主張していた。


「はぁ~……、しらばっくれても無駄だぞ?

現地の小竹こたけさんって子がいたのは知ってるだろ?

あの子が俺に明日は、今いないもう一人の子も島回るんですか?って聞いてきたぞ」


「さ、さぁ~……、その子知らないんで分からないっす……。

橋本さんとかがホテルにもう一人いるとか言ってたんじゃないですか?」


葵は内心「ヤバい」と思いつつも、しらばっくれ通し続ける手でなんとか逃げ切ろうと考えた。


Bloomブルームを出た際に、葵は確かに口止めをして回ったが、お店の関係者に関しては黛しか口止めしておらず、静には女装をしていた関係上会うわけにはいかなかった。


「はぁ~~、ホテルから出るなよって言ったのに…………。

せめて俺に一言連絡くらいしろよ~……、番号事前に教えてるし、携帯持ってないわけじゃないだろ……」


バックレ続ける葵に真鍋はついに追及を諦め、ため息をつきながら葵にそう告げた。


葵はそんな真鍋に「さーせん」と軽く謝罪すると、この話題を真鍋がすることはなかった。


「それじゃ、前野も長谷川も海で遊んだし、ここまで歩いて帰ってきて汗かいてるだろ?

夕食までまだ少し時間あるから先にお風呂でも、入ってくるか?」


「えぇ~~、どうしよ……。

ベットから動けない…………」


「なぁ~~」


真鍋の指示もむなしく、フカフカのベットを前に無気力になっている二人を動かすことができず、怠けた二人は中々行動を起こさなかった。


二人の反応に真鍋は、再び大きくため息をつきうなだれると、今度は葵が真鍋に声を掛けた。


「先生、お風呂ってここは何度でも入って大丈夫なの??」


お風呂を勧めた二人にではなく、何故か部屋にいた葵がその話題に食いついた。


「ん? あ、あぁ、一応時間は決まってるけどその時間内であれば何度でも入っていいぞ?

修学旅行本番の時は、二学年全生徒だからお風呂の時間を決められるだろうけど……」


「なるほどね……。 じゃあ俺、行ってきてもいい??」


真鍋は修学旅行当日の事を考え、この事前旅行で全生徒のお風呂時間割りも考えており、夕食の時間はズラすことが難しいため、スケジュール等の事もどうすれば一番スムーズで、ストレスが無いかどうかも確かめる必要があった。


お風呂に興味を持っている葵に対して、真鍋は一言「いいぞ」と頷きながら了承すると、葵はお風呂の準備を始めた。


お風呂の準備をする葵は心なしか楽しそうに見え、手早く準備を済ませると部屋を出ようとし始めた。


部屋を後にしようとする葵に、机で何かしらメモのようなものを書いていた真鍋は何気なく呟いた


「そういえば、女子も先にお風呂入るって言ってたから、無いとは思うけどあんまりうるさくするなよ?

ここのホテルの露天風呂、壁があって男女別れてはいるけど声は届くから、話そうと思えば会話できるんだから……」


ホントに何気なく、ただ注意するつもりで呟いた真鍋だったが、部屋を出ようとした葵は足を止めた。


そして、ホントに静かにただ安らぎを求めお風呂に向かうはずだった葵は、驚愕の表情を浮かべていた。


「おい前野……、聞いたか??」


「おう、聞いてた……。

俺らも行くぞ」


ベットで仰向けになって寝ていた長谷川は、目を閉じたまま前野に語り掛け、逆にうつ伏せで寝ていた前野はところどころボフボフと言わせながらも、長谷川の声に答えた。


一人でゆっくりと静かに休まりたかった葵は嫌な予感しかせず、また前野達が来なくともすぐ隣で美雪達がお風呂に入っている状況では、葵の求めている安らぎは手に入らず、それどころではない状況になりえなかった。


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