俺より可愛い奴なんていません。6-13
◇ ◇ ◇ ◇
BLOOMの仕事を終え、橋本 美雪達は念願の浜辺へと訪れていた。
夏ということもあり、空はまだまだ明るかったが、時間的には既に15時半を既にまわり、夕方に片足を突っ込んでるような時間帯だった。
浜辺はまだ賑わいを見せていたが、帰り支度もする者も中にはいた、そんな中、浜に到着したばかりの美雪達はテンションが上がり、はしゃいでいた。
「いやぁ〜、ずっと見てるだけだった海にやっと入れるよ〜ッ!!」
先程、真鍋達とBLOOMに帰ってきた松野 晴海は目を輝かせ、目の前に広がる美しい海を見つめながらそう言った。
「時間的に少ししか楽しめないから、目一杯遊ばないとね」
「だねッ!」
晴海の声に反応するように清水 亜紀は腕を軽くストレッチしながら、万全の体制を作り答え、返事をした美雪もまたテンションが上がっているのが声色でよく分かった。
「なんかごめんね〜。
ホントならもっと早く仕事を切り上げて、海を楽しめる時間を取らせてあげたかったんだけど、ラッシュの時間がいつもよりもちょっと長くて……、切り上げの時間押しちゃって…………」
3人で何を遊ぶか相談する中、少し遅れてきた小竹 静が自分のせいでは無いはずだったが、それでも申し訳なさそうに声をかけた。
「い、いやッ! そんな!
私、結構足引張ちゃったりしてたし、こっちこそ申し訳ないです」
「そうだね、静の仕事の速さには凄い救われたよ」
申し訳なさそうにして謝る静に対して、美雪と亜紀は謙遜という訳ではなく、本心から答え、静にはなんの非も無いと訴えた。
「あっちゃん!みゆっち!何からやるッ!?
やっぱまずは海に入って泳ぐッ!? それとも、バナナボートやってるし行ってみる!?
静ちゃんも一緒にいこー!」
3人で会話をしていると、完全に興奮して話を聞いていなかったのか、遊ぶことしか頭にない晴海がそう呼びかけた。
晴海の呼びかけに、3人はお互いに顔を見わせ、これ以上のこの話題でのやり取りは無駄だと思い、遊ぶ事だけを考えるよう思考をシフトさせた。
そんな仲睦まじい4人の姿を、少し離れたところで見る男子が二人いた。
「な、なぁ龍……、お前はどう思うよ?」
「えぇ〜、いやぁ〜……、選べねぇよ…………。
どの子も魅力的過ぎて……、そういうお前はどうなんだよ、晴太」
4人のあり触れんばかりの美しいオーラに、知り合いなのに近くにまで近づく勇気がなかなか出ず、少し離れた位置で彼女たちを前野と長谷川は見つめ、ひたすらにタイプを聞きあっていた。
「そりゃあ、俺は清水さんかな。
見ろよあのあふれる色気を、大人っぽくてクールな印象の彼女が赤だよッ! 赤の水着だよッ!!
浜辺の男達を殺しに来てるよ…………」
「確かに……、あの赤は強烈……」
二人は赤いビキニに身を包んだ、美雪達の集団では一つ抜けた身長の亜紀を見つめながらそう呟いた。
亜紀はすらっとしたプロモーションだったが、出るところは出ている印象で、美雪達の中では一番スタイルがよく見えた。
「で、でもさッ!! あの小竹さんも凄くないか?
流石現地の人と言わんばかりの、健康的に焼けた黒肌に、まさかの白だよッ!!
昨日のテレビでやってた絶景特集の中で、色のコントラストが大事とか言ってけど、こういうことなんだな」
「俺もそのテレビ見たわ……。
ほんと絶景だよ…………」
静は白の少しだけ柄の入ったビキニを着ており、健康的に焼けた彼女が着るとそれはよく映えた。
亜紀に比べれば胸などは小さいものの、無いわけではなくしっかりと主張されており、彼女の魅力は十分に見て取れた。
前野と長谷川は終始頭の悪い会話を繰り広げながら、残りの二人の女性にも視線を向けた。
「まぁ、だからと言って残りの二人も魅力が無いわけじゃないんだよなぁ~……」
「だよな!!
まず、松野さんは学園のアイドル並みに人気があるから流石の魅力だよな。
彼女の水着姿を見れただけでも、ここに来たかいがあるよ」
「ほんそれ!
他の女性に比べれば胸とかはそんなに無いにしろ、あの可愛さと、水着よ!!
花柄てッ!! あのビキニの花になりたい……」
「なぁ~、あのビキニに生まれ変わりてぇ。
それよりなにより、俺びっくりしたんだけど橋本さんだよ、橋本さん!!」
晴美のビキニを見ては、花を伸ばし下劣な事を思いふける二人だったが、長谷川は思い出したように、声を上げた。
「意外とあるんだよなぁ~……」
長谷川は、美雪の胸に視線を向けながら呟き、長谷川の声に導かれるようにして前野も、美雪の可愛らしい水色のビキニへと視線を移していった。
「確かにデカい……。
橋本自体が普段おとなしいから尚の事、更にデカく見える」
「おとなしい子の方がデカい説……」
美雪がおとなしかろうと騒がしかろうと美雪の胸の大きさには変わりなかったが、頭が完全におかしくなっている二人は、何故かうんうんと頷きながら納得するように呟いていた。
先ほどから少し離れたところで、難しい表情をする二人に、美雪達もようやく気付き、楽しく女性陣同士で会話をしていた美雪達は二人を気にかけ始めた。
「ねぇ……、あの二人は知り合いなのに何で少し離れた位置で、しかも難しそうな表情を浮かべながらこっちを見てるんだろ……」
晴美は前野と長谷川の奇妙な行動を不思議に思い尋ねる形で呟いた。
「さぁね、アホな事でも考えてるんでしょ」
「アホな事?」
晴美の質問に亜紀は半ば呆れた様子で、二人を小ばかにするような形で答え、亜紀の答えでも晴美はピンと来ていなかったのか、はてなマークを浮かべた様子で亜紀の言葉を復唱し、美雪と静はなんて答えていいのかわからず、苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「お~い!
長谷川君も前野君も一緒に遊ぼうよ~!!」
陽の塊とも言える晴美は自然な形で、長谷川達に呼びかけ、笑顔で呼びかけられた長谷川達は、内心死ぬほど嬉しいはずだったが、やれやれといった様子で、どこかすかした雰囲気を出しながらこちらに向かってきていた。
長谷川と前野を呼びかける晴美を尻目に、静は不思議そうに首を傾げた後、辺りをキョロキョロと見渡した後、美雪と亜紀に尋ねるように呟いた。
「あれ? あおッ、立花君は??」
静は葵に、慣れないのであれば下の名前で呼んでいいと言われたが、流石に美雪達の前ではそれをすることができず、葵と言いかけたが言い直して、二人に尋ねた。
もちろん葵と言いかけたという事がわからない程、二人は鈍感ではなく一瞬疑問に思ったがそれを追求する事はなく、静の質問に答えた。
「立花さんなら、黛さんにお給料もらった後に、そのままホテルに帰ってしまいました」
「えぇ~!」
美雪が静の問いに答えると、静は驚き声を上げた。
「黛さんも私も誘ったりはしたんですけど、真鍋先生に何の連絡もしないまま、ホテルを出てBloomに来てしまってから、バレるとまずいって……」
「そっかぁ……」
何でと言わんばかりに声を上げた静に、詳細を美雪が伝えると静は露骨に残念そうな声で呟いた。
「そういえば、給料もらった時に黛さんに明日もBloom手伝いに来てッてお願いされてたけど、立花、露骨に嫌そうな顔して断ってたけな」
「そっかぁ……。
そうだよねぇ、今日、いつも以上に忙しかったし、初めてなのにキッチンで作業なんて、そりゃ大変だよねぇ……」
別に亜紀は追い打ちをかけるつもりではなく、ただ思い出すように当時の状況をポロっと呟いただけだったが、それを聞いた静はより声のトーンを落とし、暗い表情のまま、葵が嫌がるのも当然だといった様子で納得して呟いていた。
かなり落胆する静にも、気になったがそれよりも亜紀と美雪は静の呟いた言葉に引っかかった。
「え……?」
静の言葉に違和感を感じ、疑問に思った美雪は思わず声を漏らし、亜紀の方へと視線を向けた。
すると、亜紀も疑問を感じて美雪の方に視線を送っており、二人は自然と顔を見合わせる形で視線が合った。
「えっとぉ……。
立花がキッチンってどうゆうこと??」
今度は美雪に代わり、ハキハキと物事を話す亜紀が静に尋ねた。
「え? 立花君キッチンが嫌で明日来ないって言ってたんどよね?」
「えぇ~とぉ……」
静の問いかけに、亜紀は何処を勘違いしているのかわからず、すぐに答えることができなかった。
「立花はキッチンじゃなくてフロアにいたよ?」
静は葵の旧友だという事もあり、葵のあの趣味を知らないとは考えが及ばず、確認するように尋ねた。
「へ??」
亜紀の確認するような様子の受け答えに、静は一瞬何を言っているのかわからず、間抜けな声を漏らした。
◇ ◇ ◇ ◇
「まさか、私の知らない間に立花君がそんな事を趣味にしてるなんて…………」
亜紀や美雪からすべてを聞かされ、静は何とも言えない感情に襲われ、悲しく呟いていた。
亜紀や美雪は葵が女装を趣味にしている事を静に伝えていたが、当初は静も中々信じてることができず、ニコニコと微笑みながら冗談を聞くように、また冗談であろうと二人に答えていた。
しかし、二人はその冗談話を一向にやめることなく、いくつもの葵の女装のエピソードを聞かされ、またそのエピソードが具体的でもあったため、静もだんだんと疑い始めた。
そして、決定打となったのが、今日Bloomを手伝いに来ていた葵が、更衣室で別れた後、静に一度も接触することなく、更には何処か避けるようにしてホテルに戻っていた事だった。
「もしかして、今日清水さんと一緒にナンパされていたBloomの店員って……」
「あれは……立花だね……」
「な、な、ナンパされてるし…………」
静の問いかけに亜紀は気まずそうに答えると、女装をし同性にナンパまでされている事がかなり答えたのか、ガッカリとした様子で肩を落とした。
昔の友達が、久しぶりにあったらとんでもないものを趣味にしていたという衝撃を受け、打ちひしがれる静を見て、亜紀は少し同情し可哀そうに思え、美雪は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「葵のやつぅ~、なんてもの趣味にしてんだよぉ~……」
ショックが大きかったのか、今までは名字で葵を読んでいたが、昔の癖がもろに出ており、美雪達の前だったが、悔しそうに呟いていた。
「ま、まぁまぁ……」
流石に声を掛けずにはいられず亜紀が宥めようと声を掛けた次の瞬間、今度はそんな思い空気を吹き飛ばすような明るい声で、声がかけられた。
「あっちゃん達~ッ! バナナいこ~ッ! バナナッ!!」
声の主は晴海であり、視線を向けるとそこには大きく元気よく手を振る晴美の姿と後ろに長谷川と前野の姿があった。
「と、とりあえす行きますか?」
「そうだな……。
静も、大丈夫か?」
恐る恐る尋ねる美雪に亜紀は頷き、落胆する静を心配するように声を掛けた。
「うん……、大丈夫。
バナナいく…………」
亜紀の問いかけに、静は頷き声の元気は当初に比べたらかなりなくなっていたが、それでも行く意思を伝えた。
静の声に亜紀と美雪はお互いに顔見合わせた後、ひとまずはホッと息を付き、静と共に晴海の方へと向かって行った。




