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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
六章 夏休み ~沖縄篇~
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俺より可愛い奴なんていません。6-5

小竹こたけの案内で、あおいは目的の場所についていたが、目の前に広がる光景にただ、呆然としていた。


海の家からは想像つかない制服で、女性スタッフたちは接客をし、そのサービスもあってか、かなりの観光客で賑わっていた。


「一応、普通の飲食店のつもりなんだけど……」


沖縄にメイド喫茶があるのかとつぶやいている葵に、小竹は自信なさげに小声で返事を返した。


どう見ても普通の飲食店には見えない葵は、「マジか」といった様子で、口を開きながら小竹に視線を送った。


「いやいや、何度見ても素晴らしいなこの光景は、沖縄でこんなものが見れるとは」


困惑している葵と、何故か申し訳なさそうにしている小竹が話す隣で、前野まえのは満足そうに一人話始め、話始めたかと思うと今度は、葵に話を振り始めた。


「どうよッ!? 葵。

めちゃくちゃいい店だろッ? てゆうか、葵はどう?? ぶっちゃけどの娘がタイプ???」


「い、いや……、タイプとかそんなこと言ってる場合か? 真鍋まなべはこれ了承したのかよ……」


変にテンションの上がりつつある前野対して、葵は冷静にこの事に対して疑問を投げかけた。


葵の言う通り教員であり、学校の情事の一環として来ていることもあり、真鍋がこの状況を了承するとは、あまり考えられなかった。


そして、真鍋という男自体も、親しみやすさから生徒との距離が近く、その事から少しテキトーそうに見える事もあった彼だったが、根はかなり真面目で、しっかりするところはしていた。


もちろん葵も、一年間彼の授業を受けていたため、そのメリハリのある部分はよく知っていた。


「え? いや、最初からこういった店じゃなかったよ??

真鍋先生と来たときは、いたって普通の店だったよ?」


葵の質問に、前野は少し不思議そうな表情を浮かべながら答えた。


(教員がいる時は、普通の店だったって……。

それって、教師が居なくなったのを見図ってやってるって事だよな? どんだけ、小竹には悪いが、悪質なんだ……?)


葵は、これからお世話になるところではあったが、まゆずみと呼ばれるものに少し不信感を感じていた。


「と、止めはしたんだよ??

元々のお店の従業員じゃなくて、あくまでお手伝いさんなんだからって……。

だけど、止まらなくて……、ごめんね」


葵が不振に感じているのが伝わったのか、小竹は必死に弁明をしたがうまくお店の弁明にはならず最終的には、誤ってしまっていた。


「あ、いや、別に小竹さんが悪いってわけじゃ……。

それに、あいつらも嫌だったら断るだろうし……」


葵はそう言いながら、横目で店内のほうに視線を向けた。


そこには、割と楽しそうに働く美雪みゆきの姿と、亜紀の姿があった。


さすがに性格からして亜紀は、好んでやっているようには見えなかったが、彼女は自分の嫌なことはっきりとその意思を伝え、やろうとはしないし、美雪が遠慮しがちななところがあり、美雪のそんなところをよく知るため、美雪が嫌がったりすれば反論するはずだった。


(ひとまずあの女が黙っているっていう事は無理にってわけじゃなさそうだな……)


葵は冷静にそのことに気づくと、警戒を少し解き、申し訳なさそうにする小竹のためにも、これ以上不審がるのはやめた。


そうして葵がそのまま店内を、主に美雪を見つめていると、働くことに夢中だった彼女と不意に目が合った。


葵はまさか目が合うとは思わず、少し驚いたが、それ以上に美雪の方が驚いている様子だった。


目が合った瞬間に美雪は目を見開き、だんだんと起きている事象に思考が追いつくにつれ、顔を赤く染めていった。


「た、立花たちばな君……??」


葵と美雪の距離は会話をするには、それなりに離れていたが、葵は美雪の発した言葉が何だったのか何となく理解できた。


美雪の呟きに逆に偶々近くにいた亜紀は反応し、美雪が見つめる視線へと視線を持っていくと、そこには、飛行機酔いでダウンしていたはずの葵の姿があった。


亜紀と美雪に気づかれるとそのまま、無視というわけにもいかず、葵は彼女たちに近づいていった。


葵に続くようにして、前野と小竹も二人に向かった歩いていき、会話をするのに自然な距離まで近づいた。


「えぇ~っと……、何をしてるの??」


葵は少し気ごちなく開口一番にそう二人に尋ねた。


「お、お店のお手伝いですッ!

ねッ? 亜紀?」


葵の低いトーンで話された言葉に、美雪はあわあわといった様子で動揺しており、亜紀に助けを求めるようにして話を振った。


「え、あ、まぁ……、手伝いだね。

というか、アンタはなんでここにいんの? 飛行機酔いで死んでたんじゃないの??」


「たまたま、買い物に来てた前野と小竹さんに会って、調子も良くなってたから手伝いに来た。

てゆうか、死んでねぇし……」


亜紀の淡々とした冷たい話し方にとげを感じた葵は、不満そうにしながらも、亜紀の質問に答えた。


葵が不満げにそれを話していると、隣にいた小竹が何故か小さくクスクスと笑い始め、葵はもちろんその場にいた全員が小竹へ視線を向けた。


一斉に視線を向けられた小竹はそれに気づくと、不審がられているとすぐに察し、慌てて取り繕うように話し始めた。


「あぁ、ごめんごめん。

ちょっと面白くって……」


小竹は弁明するようにそう答えると、再び思いだしたようにクスクスと笑っていた。


「まぁ、確かにこの見た目で、飛行機に弱いって変だよな」


小竹の笑いにつられるように、前野もにやにやと薄ら笑いを浮かべ、葵は内心「またか……」とつぶやきながらも、この旅行中は何度もいじられる事は覚悟していたため、特に取り乱すこともなかった。


「うんッ! 変ッ」


前野の言葉に小竹は元気よく笑顔で答え、その様子はどこか嬉しそうに見えた。


そして小竹が返事を返すと、再び葵の飛行機での話で会話が弾みだし、みんなから葵がいじられ始めていた。


「相変わらず変わらないんだね……」


ワイワイと話す中で、小竹は横目で葵に視線を向け、昔を懐かしむように小さく呟いた。


「なんだい? 仕事中にどうした??」


葵達が話していると、不意に全員に語り掛けるように女性の声が投げかけられた。


葵達は、その声に反応するように声の主の方へ向いた。


すると、葵以外はその人物が誰なのか瞬時にわかった様子で、分からないのは葵だけで、全くもって初見の人物がそこにいた。


「あ、黛さん」


前野のその一言で、葵は目の前にいる人物なのがようやく分かり、これが黛なのかと理解した。


黛は女性にしては、かなりの長身で170後半くらいはありそうな身長で、長身で定評のある亜紀といい勝負だった。


髪は飲食店を営んでいる割には長く、黒く少し癖っけなカーブがかった髪が、背中の辺りまで伸びており、前の方にも髪を垂らしており胸の辺りまで伸びていた。


攻めてもの配慮なのか、髪が落ちないよう頭にはバンダナを巻いており、一件は職人のようにも見えた。


容姿は、まぁ間違いなくモテるであろう見た目をしており、葵は年齢を知らなかったが、年齢を問われた時に、確実に実年齢より若く答える自信があるほど、若々しく美人だった。


少しキレ顔な見た目で高圧的にも見えるが、黛の人柄なのか、どこか頼れる姉御といった印象を葵は持っていた。


「おぉ〜、帰ってきてたか。

で? 売ってたか??」


黛は前野の存在に気づくと、前野と小竹に頼んだのであろう物があるかどうか問うた。


黛の問いに前野はニヤッと笑いながら、自分の右手に持っていたレジ袋を黛に見えるように、少し前に突き出した。


前野と小竹は、葵と会ったホテルの売店で目当ての物を見つけており、きちんと購入してここまで持ってきていた。


「でかしたぞ! これで焼きそばはまだ売れるなッ!」


前野のレジ袋の中身を見ると、黛はニカッと笑いながら、前野からレジ袋を受け取り、そこから本題と言わんばかりに、葵に視線を向つつ話を進めた。


「それで、どうした? みんなで集まって、なんか問題でも起きた?」


黛は何かトラブルかと思っているのか、葵をお客として見ているような節を葵は感じていた。


「あぁ、私達と一緒に来た桜木高校の生徒が来たんで、ちょっと驚いてたんです」


「驚いてた??」


黛の質問に亜紀が反応し、亜紀の言葉が気になった黛は聞き返すように尋ねた。


「いや、こいつ……立花たちばなって名前なんですけど、沖縄に着くなり具合が悪くなって、ホテルでダウンしてたんです。

それで今日は1日、ホテルで過ごすと思ってたんで、まさかここに来るとは思わなくて……」


亜紀の説明を黙って聞いていた黛は、それを聞き終えると「なるほどね〜」と呟き少しの間、何かを考えるように黙り込んだ。


そして何かを思いつたかのように、再び葵へ視線を戻し、話し始めた。


「もう、普通にしてても問題のか??」


「あぁ、まぁ……」


黛の問いに葵は若干嫌な予感を感じながらも、今自分の体調はそこまで悪くも無く、元々は手伝うために来ていたため、自分の体調が問題ないことを素直に伝えた。


葵の答えを聞くと、黛は「よっしゃッ」と声を上げると、表情を明るくして続けて話し始めた。


「今、手伝いは沢山いるし、フルで働いてるんだけどキツくてね!

ちょっこっと、ちんちくりんな感じもするけど、今は猫の手も借りたいんだ」


黛はニコニコと笑いながら、屈託の無い笑顔で葵にそう言った。


葵の容姿を見て、男性にしては小柄な彼に少し頼りなさを感じているのか、初めてあった彼にいきなり失礼な言葉を掛けていたが、黛の雰囲気のせいか、あまり嫌味っぼくは聞こえなかった。


それでも、葵は割と気にしている身長の事を言われたため、少しムッと来ていたが、軽く表情に出す程度で、何かを言い返したりはしなかった。


「それで、俺は何を手伝えばいいんですか?」


「おッ! いいねぇ、やる気だね〜!

そうだねぇ〜、とりあえずは皿洗いかな〜。

晴太せいたもとりあえずは皿洗いだし、頼んだッ!」


葵は開き直り素直に黛に指示を仰ぐと、葵の姿勢に好感を持ったのか、黛は気を良くして指示を出した。


黛なりのコミュニケーションの取り方なのか、出会ったばかりであろう前野の事も下の名前で、気さくに呼んでいた。


「あぁ、それと、その服のまんまで仕事させるわけにもいかないし、着替えないとな……。

しずかッ、立花〜……、えぇ〜と、なんだっけ??」


「葵です……」


「葵ねッ!

静は葵を更衣室まで案内してあげて!」


黛はそう言って静と呼ばれる女性に指示を出し、葵は「誰の事だ?」と不思議に思っていると、隣にいた小竹が自然に返事を返した。


「うん、わかった」


「よしッ! それじゃあ、解散! 持ち場に戻れ〜」


静の返事を聞くと、黛は笑顔で元気よくそう呼びかけ持ち場に戻っていた。


美雪は葵や前野達に「じゃあ、また」と笑顔で声をかけると亜紀と共に、黛と同じように持ち場に戻っていき、前野もまた、「やるか〜」と気の抜けた声を上げながら、どこかに向かって歩いていった。


先程まで人の多かったこの場所に、葵と静だけが取り残されると、静は葵に話しかけ始めた。


「それじゃあ、私達も行こっか!

更衣室まで、案内するね!」


「あ、あぁ、悪い……」


静はニコニコと笑顔で葵にそう呼びかけると、葵は少しぎこちなく静に返事を返した。


葵のぎこちなさは静には伝わらなかったが、葵は黛の言った言葉に凄く引っ掛かりがあり、そればかりを考えてはいた。


(しずか……? しずかって言ってたよなあの女……)


葵には、その名前に1人だけ心当たりがあった。


その名前の人物は、葵の記憶の中で1番鮮明に覚えている名前で、葵が人生を大きく変えるに至る、原因となった人の名前と同じ名前だった。


(小竹 しずか……、漢字は分からないし、しずかって名前は別に珍しくも無いしな……。

それよりも…………)


葵は前を機嫌よさそうに歩く静を、不審がりながら、疑るような視線を向けながら難しい表情を浮かべ、考え込んでいた。


色々考え込んでいた葵だったが、葵の推測はどうしてもそうだとは断定できなかった。


昔、仲良くしていたしずかという女性は、確かに存在していたが、葵の知っているしずかとは、まずなにより苗字が違っていた。


(思い過ごしだろ……。

まず、見た目もあの頃と少し違ってるし……、もし居たとして、なんで沖縄にいるんだ……?

ありえない……)


葵はただ思い過ごしだと、決めつけそれ以上深く考える事はなかった。

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