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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
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俺より可愛い奴なんていません。5-15

カラオケは盛り上がり、順番も3巡目ぐらいに入っていた。


大人数で入ったため、2巡でもそれなりの時間が経っていたが、そんな3巡目に差し掛かろうとしていたカラオケで、未だに歌わずにいたメンバーが2人ほどいた。


その内の1人はあおいで、もう1人が里中さとなかだった。


葵は部屋に置いてあったタンバリンなんかを呆然と叩いたり、テキトーに会話を交わしたりするだけで、特に自分から歌おうとしたりはせず、元気の無い声で歌うメンバーの応援をしていた。


里中さとなかも葵とさほど変わらず、基本的には静かに静観をしていた。


普通であれば、そんな2人にも順番が強引に回されるところだが、河野や佐々ささき馬場ばばがかなり盛り上がっており、あや達もそれに負けじとかなりの盛り上がりを見せていたため、葵達に強引にマイクが回ってくる事がなかった。


河野や馬場は自分の自信のある、メジャーな曲を選んだり、2人でデュエットしたり、時には北川きたがわも巻き込んでいた。


そして彼等だけではなく、佐々木も自分1人で歌ったのは最初の1曲だけで、2曲目以降は男女でデュエットする曲を選曲し、北川を巻き込んでいた。


それに対して、綾達はそれ以外の女性陣でかなり盛り上がり、デュエットしたり、皆で回して歌ったりと仲良く盛り上がっていた。


個々に自由に楽しでいるようにも見えるが、それでも時折、互いに声が飛び交い、全体的に楽しでるように感じていた。


そんな会話に偶に入っては抜けて、タンバリンや手拍子をしていた葵だったが、別に今の状態が楽しくないわけではなかった。


応援する声は相変わらずのいつもの気だるげな声であり、自分は歌には参加はしなかったが、それでも他の人達が歌うのを見るのはそれなり面白く、かなり新鮮だった。


カラオケに行きなれているであろうチャラ男達、河野、馬場はやはり歌が上手く、素直に関心擦るほどの出来だった。


いかにもな佐々木はさておき、綾も紗枝も歌が上手く、七城ななしろ、美雪も聞いていて違和感があったりなんてことはなかった。


全員の歌う姿は新鮮で、柄にもなく葵はそれを見ているだけでもカラオケを楽しむことができた。


しかし、流石に3巡目を回っているという事もあり、葵や里中に声がかからないという事もなく、ソレは唐突に訪れた。


「どう? 三回目に回ってるしそろそろ歌わないか? 涼太りょうた


北川が今日一日中男子としか関わらず、このイベントを葵以上に最初から最後まで、つまらなそうにしていた親友の里中にそう呼びかけた。


「そうだぞ~涼太。

今日、まだ一度も歌ってないだろ~??」


北川の声に、河野も反応し里中に攻寄る形でそう続けた。


葵は内心やばいなと思いつつも、できるだけ息を殺し、気配をなくすことに努め始めた。


しかし、そんな葵の努力も空しく、当然といえば当然なのだが、里中に向いていたその声が葵にも向き始めた。


「そういえば、立花君もまだ歌ってないよね??」


紗枝の声に葵に視線が集まりだした。


「そういえば、さっきクイズに参加してたから、カラオケにも参加してる風を装ってたけど歌ってないな」


葵には別に装っているつもりはなかったが、いろいろと抜けている所が多い河野にはそう感じていたようだった。


「別にそんなつもりはねぇけど……。

え? なに? やっぱり歌はなくちゃダメなの??

そこまで下手くそな奴もいないし、別に聞いてるだけでも俺はいいんだけど……」


葵は少し嫌そうな表情を浮かべながらそう言うと、別に葵には何の意図も無く素直に感想を交えて答えただけだったが、あの普段冷たい葵が総じて、カラオケの歌声を褒めた事で、少しその場にどよめきが走った。


葵に褒められた事で、ある者は恥ずかしそうにしながらも、まんざらでも無さそうに喜び、またある者は、葵がそんなことを言うのかと一瞬驚いた表情を浮かべた後、何かを疑うような表情を浮かべながら葵を見つめていた。


「もしかして立花、周りのレベルの高さに怖気づいたのかな~??」


「は?」


「いやいや、いいんだよ? 皆まで言わなくてもわかる。

確かに、私たちのレベルは高いッ。

個々へ入る前に大口を叩いていた分歌いずらくなっちゃったんだよね? わかるよ~、すごくわかるッ」


葵が歌いたがらないのが、自分の歌に自信が無いからだと断定した綾が葵に突っかかり始め、葵は勝ち誇ったような笑みを浮かべる綾にイラっと来ていた。


「なんだ? またミスコンの時みたいに負かされてぇのか??」


「いや、アタシ三位ッ!!」


葵は一歩的に綾にそう言い捨て、そのあとに大きな声で綾が反論していたが、都合の悪いことは葵の耳には届かず、葵の負けず嫌いに火をつけたのか、テーブルに置いてあったカラオケのリモコンを取り上げた。


葵が歌う姿勢をみせた事で、周りはおぉッとどよめき、視線を集めた。


葵は慣れた手つきでリモコンを操作し、適当に曲を入れると、テレビ画面に曲が入れられた事を知らせる通知が出た。


「あ……、この曲…………」


画面に出た通知に紗枝が知っているのか小さく声を漏らした。


そして、この曲が分かるのは紗枝だけではなかった。


この場に来ている女子数人が通知を見て、はッとした様子で何かに気づき、曲の予約も入っていなかったため、葵の入れた曲が流れ始めると、曲の題名だけでは気づかなかった女子も気づき始め、結果としてこの場にいる女子全員が何の曲なのかを理解した。


逆に男性陣はピンと来ている様子は無く、周りが何かに気づいているのに気づき、キョロキョロと辺りを見渡していた。


男子だけが気づかないこの状況だったが、それも当然といえば当然だった。


葵が入れた曲は少し古い時代の曲で、小学生くらいの時に流行った曲だった。


女性のボーカリストが歌うロック調の曲で、かなりのハスキーボイスで女性ながらにしてかなりかっこいい物だった。


ボーカリストの服装もビジュアル系で、ヘビメタ程そこまで派手派手しくはないものの、髪の毛は青く染められ、ボブヘアーで、服装も少しパンク系の黒い服を身にまとっていた。


女性だったがその風貌だったため女性人気がとてつもなかった。


女性ボーカルの人気もあったが、この曲が女子に広く知られている理由はそれだけでなかった。


その当時、ある少女漫画が女性の中で爆発的に流行っており、その人気から実写映画化も決まっていた。

そして、そんな実写化の映画の曲に使われたのが、葵の入れた曲だった。


「なんでこんな曲知ってんだよ~。

男友達と何回かカラオケ行ったことあるけど、こんな曲いれないでしょ……」


葵の選曲のセンスに綾は、あきれた様子で呟いていた。


そんな綾の声にも反応せず、葵はゆっくりと歌い始めた。

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