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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
一章 出会い……そして、拉致…………
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俺より可愛い奴なんていません。1-10

橋本はしもと 美雪みゆき亜紀あき晴海はるみ等は美雪から放課後2人で立花たちばな あおいと話した時の話を聞きながら下校し、全てを伝え終わった頃には、彼女達がバラバラになってしまう駅まで来ていた。


家が同じ方向なのは亜紀と美雪だけで晴海は反対方向で、駅では必然的に晴海と別れる事になってしまっていた。


美雪達は軽く挨拶し晴海と別れ、亜紀と美雪は同じ電車に乗り込んだ。


最寄りの駅は美雪の方が学校の最寄り駅から近く、電車で最初に降りるのは美雪の方だった。


2人はまだ熱い話題だった葵の話を電車の中でもしていた。


「ホントにどうゆう事だったんだろ……」


美雪は全てを2人に話し終えたところで駅に着いてしまい、電車に乗ってしまったため、晴海の意見は結局聞けないままだった。


「昨日の事をやたら聞かれた結果、何故か途中で話を打ち切った……」


亜紀は俯き、先程聞いた話の内容を確認するように口に出し、考え込んだ。そして、少し考えると亜紀は顔をあげ、美雪に顔を向けた。


「昨日ってなんかあったよね? 女装した男にあったとかなんとか……」


亜紀はそういえばと思い出した様子で美雪が昨日、めちゃくちゃ美人な女装した男性を助けたと言っていた事を思い出し、訪ねた。


「うん。凄い綺麗な人だったよ、えっと……たちばなさんって名前」


美雪が答えると亜紀はスグにハッと何かに気づいた様子で驚いた表情で美雪を見つめた。


「え? たちばな?? それって……、偶然なわけないし……。でも、現に立花は美雪に接触してきたわけだし……会ってる確実に、当たってるはず……」


亜紀は再びブツブツと独り言を言いながら推理し始め、1つの結論に辿り着いた。


亜紀は何故これだけ情報が揃っていながら、別に頭が悪いわけでも無く、むしろ優秀な美雪が何故、自分と同じ解いにならないのかが不思議でしょうが無かった。


そしてその答えに辿り着いた亜紀は再び、今度は違う問題に突き当たった。


(分かったとしてどうすれば……。会いたがってるし、伝えるべき?……いや、あの立花を美雪に近付けなくは無い)


亜紀にとっては葵はあまり良いイメージは無かったため、これを伝え、再び葵が美雪に接触したりしてくるのが正直嫌だった。


「どうしたの? 亜紀」


ブツブツと独り言を言ったと思ったら今度は黙り込んで考え事をし始めた亜紀を見て美雪は不思議そうに亜紀の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。


「え? あ、あ〜、いやなんでもないない。ところでさ、その女装してた『たちばなさん』って凄い綺麗だったんだよね?」


「ヤバかったよ〜! 男の人だとは絶対思えないほどだった」


「そっかそか……変な質問何だけどさ。その人に似てるな〜みたいな人とかいなかった? えっと〜男でさ……」


亜紀は自分でも変な質問をしているなと思いつつも美雪の考えを少しでも知りたかったため、フワフワとした質問をした。


「ん? んん〜……、『たちばなさん』を男にしたとすると〜……、立花君似てるかな?? 名前も同じだし」


「はぁあッ!?」


美雪のまさかの答えに亜紀は電車内だと言うことも忘れ思わず大声を出してしまった。

もちろん他の乗客の視線を一気に集め、亜紀は顔を真っ赤にし恥ずかしそうに頭を数度下げ、周りに謝罪し美雪に向き直った。


「ちょ、ちょっと亜紀? 声大きいよ」


美雪の言葉に亜紀は一瞬「誰のせいだよ」とイラッとしたが、そんな事よりも美雪の答えの方が気になった。


「え? 立花? 一緒に実行委員になった」


「そう。喋り方とか雰囲気とかは似てるかな。でも多分昨日の『たちばな』さんでは無いよ。偶然だね〜……」


(いやいや、そこまで来ててなんで一致しないのよこの子は……)


ニコニコと笑いながら答える美雪を見ながら亜紀はため息をついた。


(でも、それほどまでに立花の女装が凄い……? ちょっと見たい気もするけど)


2人がそう話し込んでいると次停車する駅が美雪の家の最寄り駅になるとアナウンスが流れた。


そして、数分もしないうちに駅に停車し、美雪は亜紀に軽く別れの挨拶をし、電車から降りようとした。


美雪が電車から降りた時、亜紀はどうしてもその日に美雪に伝えたい事が浮かび、思わず美雪に声をかけ引き止めた。


「美雪! 立花の事だけど、アイツ何考えてるか分からないし、少し気をつけた方がいいと思う」


亜紀は得体の知れない葵を美雪に近づけたくない一心から思わず口をついて美雪に忠告してしまった。


「う〜ん……、うん。分かった!」


美雪は首を傾げ、少しの間悩んだ後に笑顔で答えた。


美雪の返事が返ってくるとスグに電車の扉が閉まり、これ以上亜紀は美雪と会話が出来なくなった。


(ホントに分かってんのかなあの娘……)


美雪の笑顔でハッキリとした答えに亜紀は何故か余計に不安になってきていた。


そして、案の定亜紀の予想通り美雪はそこまで亜紀の言葉を深く捉えておらず、亜紀は自分に対して少し過保護な部分があると昔から知っていたため、いつもの心配性が出たんだろう程度にしか考えてはいなかった。


◇ ◇ ◇


日が経ち、修学旅行の実行委員が決まった日の翌日。


昨日様々な事があり、葵は昨日よりも疲れた様子で不機嫌に学校へきていた。


あおい〜、お前、最近どんどん疲れていってるな」


学校に着くなり、机に顔を伏せ、完全に寝る体勢を取っていた葵に前の席にいた大和やまとは面白半分で葵にニヤニヤとしながら話しかけた。


大和から見ても今週の葵はどんどん疲弊しているように見えていた。


「今から三限目まで、寝るつもり何だ……、話しかけるなよ」


葵は大和から話しかけられたが、顔を上げることなく不機嫌に大和に答えた。


「3限ってお前、ほぼ午前中寝るつもりかよ。4限は……あ、体育だから出るのか……」


大和は三限目の授業まで居眠りをかますと発言した葵に驚き、時間割を確認しながら答えた。


「何いってんだよ、4限は保健室」


「いやいや、お前が何言ってんだよ……」


葵のあまりの図々しさに大和は若干引きながら答えた。


いつもは大和に対して常識的な葵が異常になり、普段おかしな事ばかり言っている大和が傍から見て珍しく真面目に見えるほどだった。


「体育、戸塚とづかでしょ? ちょっと頭痛いですって言っといて」


「お前な……。これでいて体育俺より成績いいから腹立つわ、世の中理不尽」


大和はこれ以上何を言っても無駄だと判断するとため息混じりに愚痴を零しながら葵の方から前の黒板の方へ体を向かせ、何故か落ち込んだ様子で前を向いていった。


「強く生きろ、大和〜」


「うっせ!」


葵のあまりに心のこもっていない大和の神経を逆撫でするような、テイトーな返しに大和は軽く怒りを表した。


そして、葵はそんな大和の反応が面白く、クスっと息を漏らし笑った後、ゆっくりと眠りに落ちていった。


しばらく時間が経ち、葵は無理やり体を揺らされ起こされた。葵の中でスグに思いついたのは授業が始まり、教員に起こされたのかと思い、ゆっくりと目を開け、意識をハッキリさせようとした。


しかし、葵が意識をハッキリとさせ、顔を上げる前にある人物の声が聞こえた。


「おい! 葵! 起きてくれ!」


葵の体を揺らし、葵の名を呼ぶのは前の席座る友である大和の声だった。


葵は寝かしてくれと頼んだにも関わらず起こされ少し不機嫌になったが、彼の声色からただ事では無いのだと分かるとゆっくりと顔を上げた。


「何だよ……、なんかあったのか?」


葵は顔上げながら、一応時計も確認すると1限目は既に終わっており、次の授業との間の休みになっていた。


そして、大和の表情を確認するとかなり焦った様子で、そのまま話し始めた。


「お前、俺の机にとんでもねぇ物入れただろ!?」


「は?」


大和の問いに葵は気づいていない様子で、大和はそんな葵に理解させるようある物を持ち上げ、ブラブラとさせ葵に見せてきた。


「ほら! コレ!! お前だろ!」


大和が必死にフルフルと振りながら見せてきた物は黒いビニール袋で中に何が入っているのか外からじゃ見えない袋だった。


「あ、それ……。何かあったのか?」


葵は明らかに何かに気付いた、思い出した様子で呟いた後、今まで不機嫌にしていた表情が一気に変わり、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべ始めた。


「何かあったのか? じゃねぇよ!! やべぇよ! クラスの女子からドン引きされてるよ!」


「いや、何でだよ……」


あまりに必死の大和を見て葵はおかしく思い、笑いながら答えた。


「いや、昨日いつもの様に置き勉して帰ったら誰かが俺の机ひっくり返したらしくて、それで中に入ってたこれを女子が拾って!」


「あぁ〜、言わんとしてる事が分かった。でもそれは、置き勉してたお前が悪い」


大和は前日この袋には気づかなかったようで、そのままいつもの様に置き勉(授業で使う教材などを机の中などに入れっぱなしにして置き、そのまま下校する事)してしまったようだ。


その結果女子に物を拾われ、特集過ぎる性癖が露見したという状況だった。


大和が朝からその事を知らなかった事から考えると女子から直接その事を言われる事はまず考えられないため、昼休みにその場に居合わせていた男子にでも聞かされたのだろうと葵は思った。


「あぁ〜、大和の夜のお供として良かれと思ってやった事が裏目に出るとは……、俺はなんて罪な男なんだ……、ごめ〜ん」


「ごめ〜んじゃねぇよ!! ちょい、どうにか弁明してくれよ! 葵!!」


葵は更に茶化すように話すと大和は本気で慌てている様子で、あまりに必死な大和を見て、少し可哀想に思えてきていた。


葵にとって別に女子になんと思われようと大した問題でもなく、ハッキリ言ってどうでもいい事だと思っており、自分のイタズラが原因でピュアな1人の男子高校生の学校生活が潰れるのに罪悪感を感じた。


葵は少し大きな声で他のクラスメートにも聞こえるよう、大和を庇うように真実を言おうと考えた。


「ッ……たく、しょうがねぇな。」


葵がそう呟くと大和は一気に暗い表情が晴れ、パァっと明るくなり、葵の事をまるで救世主を見るような目で見つめた。


そして、葵は胃を決し、大きく息を吸い、辺りをチラッと見渡した。


軽く辺りを見渡しただけだったが、葵にはある1人の生徒の姿が偶然か、視線に入ってしまった。そこで、葵は何故か決心が大きく揺らいだ。


葵は今度は息を大きく吐き、大和の肩をポンと手を乗せた。


葵のその行動に大和の表情は変わり、キョトンとした様子で葵を見つめた。


「まぁ、なんだ……、これも神様が与えた試練だよ? 自分で乗り越えなければ意味が無い」


「え……?」


てっきり何かしてくれて助けてくれると思った大和は驚き、間抜けな声出してしまった。


「神様は、乗り越えられないハードルは課さないらしい。こんな高いハードルを課される君はきっと大物なんだろう……、ネバ〜ギブアップ」


「いやいや! 葵が余計な事したせいだよね!? 飛ばなくても良い高い高いハードルが出来たのは!!」


大和はまだ文句が言い足りないのかその後もブーブーと文句を言っていたが葵は一言伝えると再び寝る体勢に戻っていってしまった。


(駄目だ……、調子悪い。寝足りねぇんだな。あるいわきっとあの変人の笑顔には毒があるんだろう、猛毒だな。)


葵は心の中で自分にそう言い聞かせるようにして、心を落ち着かせ再び無理やり眠ろうとしていた。


葵が見た生徒は休み時間に、新しく友達になった二宮にのみや 紗枝さえと紗枝の友人である加藤かとう あやと楽しげに話す、橋本はしもと 美雪みゆきの姿だった。


楽しそうに笑う彼女を見た葵は助けられた時に見せられた美雪の笑顔と重なり、庇うのを咄嗟にやめてしまった。


(マジで最近の俺、どうしちまったんだ……。今週このままなら病院行こう……、きっと病気だ……カウンセリング受けよう……。)


葵は自分らしくない度々の行動に動揺が隠せなかった。

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