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三章 17.魔石の怪物

 敵の正体は人型の魔物だった。一応予想していたとはいえ、目の前でその姿を見るとやはり驚きは隠せない。

 だが、ゴツゴツとした魔石に浸食されたような左腕と宝石に変貌した両眼、その二つを見ただけで奴が普通の人間でないことは一目瞭然であった。

 知性を持った魔物というわけか。そりゃ手強いのも納得だ。


「人型の魔物か、面白い解釈をするな……」

「なんだよ、違うのか?」

「いや、別にそんなことはどうでもいい。これから死ぬ人間に何を語ろうと無駄なのだからな!」

「うおぉっ!?」


 人型の魔物という表現に、赤髪の男は何やら思う所でもあるのか嫌な笑みを浮かべていた。

 その真意を探ろうと尋ねてみたが、残念ながらのんびり会話をしている余裕は無く、奴は地面から魔石を波のように生やすことで襲いかかってくる。

 さっきまで魔石を飛ばすくらいしかしてこなかった筈なのに、正体を知られた途端随分と容赦が無くなったものだ。


「おらぁ!」


 迫り来る魔石の波を前に、俺は渾身のストレートで迎え撃つ。


「ちっ、馬鹿力がよ」

「ぐうっ、硬過ぎるだろ……でも、砕けない訳じゃない!」


 悔しがる赤髪の男に向かって、俺は痛む拳を擦りながら苦し紛れの笑みを向けた。

 状況としてはどこまでも向こうの方が優勢に見えるだろうが、それでもまだ俺も食らいついていけている。まだ戦えている以上必ず勝機はあるだろう。こちらはまだ、切り札だって温存しているのだから。


「遠距離攻撃じゃ硬度が足らないか。ならば、直接殴って貴様を地に填めてやる……!」


 赤髪の男は左腕の魔石を拡大させ、鋭さと硬度を上げていく。最早腕だけなら化物と言って相違ないだろう。


「うわっ、なんか腕がめっちゃ凶器になった」

『クウー(アカリの手みたいだね)』

「確かに俺の融合体とちょっと似てるかも……」


 ただ腕だけを変化させるというのは俺の融合と考え方が似てるので、ちょっとだけ親近感が湧く。まぁそれでも倒さなければならない相手に変わりはないが。


「いい加減くたばれ!」

「ふざけんな、お前こそ諦めろ!」


 醜い罵りあいと同時に、俺の右腕と奴の強化されたひだり腕が激しく衝突する。

 やはり硬度を上げている影響で砕くことは困難だ。一撃では粉砕出来ないだろうし、直接殴り続ければこっちの骨がイカれてしまう。それ程に奴の腕は強固だった。


「くそっ、鬱陶しい硬さだな……!」

「そんな小細工が通用するか!」


 あまりの硬さに俺は堪らず距離を取って魔弾での迎撃に切り替える。だが、もはや魔弾が通用する程やつの腕は脆くは無くなってしまっていた。

 トイブラスターも効果が無いとなると、いよいよ俺の打てる手は切り札だけとなる。


「お前の相手もそろそろ飽きてきたな。いい加減奴らは頂いて行く!」


 どう戦うべきか対策に手を焼いている一瞬の隙を突かれ、後衛に押さえ込んでいたリリフィナ達が狙われてしまった。


「なっ!しまっ――」


 止めようと動くが間に合わず、後ろの連中目掛け放たれた魔石の弾丸は、寸分違わずリリフィナ達に向けて牙を剥いた。


「大丈夫、私に任せて」


 だが、後ろの連中を狙っていた魔石の弾丸は、後衛で守りに専念していたドロシーによって防がれた。ドロシーは自身の腕から泥を噴射することで泥の壁を形成し、魔石の威力を殺して全て飲み込んだのだ。


「ふぅ、ナイスだドロシー」

「こっちの心配はいらないから、ご主人様は戦いに集中して」

「あいよ」


 ドロシーに礼を言うと、彼女から戦闘に集中するよう指摘されてしまった。数百年振りの再会だというのに、随分と不甲斐ない姿を見せてしまい申し訳ない。


 それではご期待通り、そろそろ本気で奴の相手をするとしようか。


「ちっ、やっぱりあの後ろの女が一番厄介だ……」

「おいおい、俺は厄介じゃないってか?」

「お前がか?俺の攻撃に手も足も出ないで傷だらけの奴は黙ってろ」

「はっはっは!随分と厳しい評価だな、言い返す言葉も無いよ。だからこそ、行動でそれを示してやろう……!」


 赤髪の男は俺のことを全く脅威だとは思っていない様だ。少なくとも、ドロシーよりは格下たという評価らしい。まぁこれまでの戦いの経過を見ればその評価も仕方ないことではあるが。

 しかしならばこそ、切り札を使い本気で相手をするに相応しい強敵である。


「御託はもう十分だ、とっとと死にな!」

「クウ、返せ」

『クアッ!(うん!)』


 もう話すことは無いとばかりに赤髪の男は強化された左腕を荒々しく振るってくる。

 対する俺は、その左腕を避ける素振りも一切見せず、ただ薄く笑みを浮かべるだけであった。


「なっ、がはっ……!」


 本来なら直撃する筈だった奴の腕は、俺には当たらなかった。

 ただ呆然と立ち尽くす俺を前にして、奴は自分の腕を自身の顔に受け、その衝撃で大きく吹き飛ぶ。

 結果としては、奴は己の攻撃で自滅したという訳だ。これこそがクウの空間魔法の真骨頂、回避不能な究極のカウンター攻撃である。


「き、貴様、一体何をした……!?」

「別に大したことはしてないさ。ただお前が自分の腕を自分で勝手に食らっただけだろ?」

「ぐっ、ふざけたことを抜かすな!そんな小細工そう何度も通用すると思うなよ!」


 赤髪の男は自分が何をされたのか理解出来ないという様子で、激怒しながら再び攻め込んでくる。

 無駄な足掻きだ。そんなことじゃいつまで経っても真実には辿り着けないだろう。


「はあぁぁ!」

「クウ、もう一度だ」

『クウー!(任せてー!)』


 赤髪の男は、今度はハンマーの様に上段から腕を振り下ろし攻めてくる。だからその攻撃も、クウのワープで軌道をずらし自身の足元へ払うように出現させた。


「ぐおっ!?」


 自分の腕で足払いをされるというなんとも珍しい体験をしながら、赤髪の男は俺の目の前で地に転がった。


「もらった!」

「ごふっ……!」


 目の前に転がる赤髪の男目掛け、俺はサッカーボールを蹴るかの如く土手っ腹につま先をねじ込んだ。サッカーのシュートならつま先ではあまり蹴らないらしいが、今は戦闘中だし相手はボールでは無いのだから、一番ダメージの出る爪先蹴りを見舞う。

 強烈な一撃を受け、奴はゴロゴロと何回転も地面を回り大きな土埃を立てて蹲った。これで勝負あったか。


「ごふっ!かはっ……ふはは、分かったぞ、貴様のその奇っ怪な手品の種が。お前、魔法を使ってるな?」

「……ほぅ、魔法ね。これはまた唐突に」

「馬鹿にするな、自分の攻撃を自分で食らうなんて芸当が出来るのは、魔法ぐらいのものだろうが」


 どうにかポーカーフェイスを保っているが油断した。まさか奴が魔法の知識を有していたとは。

 この世界は魔道兵器の技術が発展したが故に、魔法の知識は退廃しているが、知ってる人間も極小数ながら存在する。そして、その極小数の中に奴は含まれているということか。

 人型の魔物だというのに知識だけは人間以上だな。


「その口ぶりからして、お前は魔法の力をよく知ってるらしいな」

「当然だ。何故かこの世界は魔法を軽視しているが、俺からしてみればその玩具こそ廃れるべき技術だろうに」


 この世界は、か。その言い方だとまるで、お前はこの世界の人間じゃないみたいだな。いや、奴は人型の魔物だから、人間の多くいるこの世界を敵視しているということか。


「下らない与太話はここまでだ。種が割れればもう恐るものなど無い、今度こそ地に沈んでもらうぞ!」

「へっ、やれるもんならやってみろよ!」


 正体を掴んだからといってそう簡単に攻略出来る程クウのワープは甘くない。また攻めてくるというのなら返り討ちにしてやろう。


 こうして、俺達と赤髪の男との死闘は更に激しさを増していくのだった。


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