二章 31.マリナ対イアム
闘技場を脱出したセロルは、すぐさま闇雲に宝を探しに行くのではなく、冷静に分析から入ることにした。
「出鱈目に探しても恐らく宝は見つからないよね。ここは賭けだけど、ある程度的を絞って重点的に探した方がいいかな」
計画性の高いセロルは、すぐさま己の行動の目算を立てる。持久力の少ないセロルにとっては、最も最善の答えだ。
「よしっ、それじゃあ皆が探さずに宝が隠されてそうな酒場のゴミ箱を、敢えて僕は全部漁ってみよう!」
ただ悔やまれるのは、セロルの狙った的が致命的なまでに的外れであったことだ。
人が絶対に無いだろうと思う所をセロルは探し出してしまう。これが吉と出るか凶と出るか、全てはセロル次第だ。
――
セロルが正面ゲートからの脱出を諦め裏手へと回った頃、その正面ゲートでの開幕早々の乱戦はより激しさを増していた。
「ほらほらほら!どうしたんですの?こんなんじゃ誰も外には出られないですわよ!」
バタバタと倒れゆく勇者一族と共に、イアムの高笑いが出口いっぱいに広がる。
自らを本家と名乗るだけはあり、分家の中でも随一の実力を誇るレインディア家を前に、他の勇者一族は悪戦苦闘していた。
「くそっ、あの野郎自分の家系の人間だけ通して宝を独り占めする気か……!」、「どうする、出口変えるか?」、「いやダメだ、今更他の出口に向かったって、どうせ別のレインディア家が陣取ってる可能性が高い。なら全員でここを押し通る方が早いだろ!」
このままイアムと戦闘を続けるか、もしくは他の出口からの脱出を試みるか、勇者一族の中でも色々と意見が飛び交う。
だが、そんな中でも迷わずイアムに真正面から戦闘を挑む者がいた。
「皆さんどいて下さい!私がやります!」
「むっ、この色……遂に出て来ましたわね本家の人間!」
「ブレイディア家長女マリナ、剣舞会優勝の為にあなたを倒しここを通させてもらいます!」
イアムに挑戦したのは、勇者一族本家マリナであった。
魔剣は赤、緑、黄……と家毎に様々な色の光を見せるが、その中でも蒼き輝きを放てるのは、勇者一族本家のみである。
故に青い閃光が瞬いたら、それは本家の人間が現れたという証明であった。
「出ましたわね本家の小娘が……!いいですわ、それなら今日ここでどちらが上か、はっきり分からせてあげましょう!」
「身内同士の争いにしか興味の無いあなた達に、私は負ける訳にはいかない!」
イアムの魔剣を鮮やかに受け流し、マリナの青き閃光が弧を描く。その光の残像はさながら美しい演舞であった。
この芸術的動きを見たいが為に、観衆は皆剣舞会を待ち望んでいたのだ。
『うおぉぉー!何て鮮やかな剣術だ!これぞ正に勇者一族伝統剣の流舞!まさかこんな序盤から今大会最大の戦闘が繰り広げられるというのかー!?』
マリナとイアムの激戦には、実況席も興奮で喉が枯れそうな程叫び声を上げていた。
観客席から傍観していたアカリ達も、この戦いには目が離せないでいる。
「さすが二年生のトップですね。あのレインディア家とまともに渡り合うなんて……」
「ああ、やはり勇者一族はどいつもこいつも実力者揃いだ」
「だけど、実力はマリナの方が上だ。すぐに決着は着くさ」
イアムとマリナの戦闘は一見すると拮抗しているようにも見えるが、よく見てみると、マリナの方が若干押している。
お互い攻撃と防御を高水準で繰り広げてはいるが、その中でもマリナは要所要所で的確にイアムにダメージを与えていた。この小さなダメージが、最終的には大きな開きとなり優劣が決する。
「はあぁっ!」
「くっ、流石は本家の人間、状況は私の方がやや不利ですわね……!」
僅かなダメージが次第に大きな開きとなっていき、イアムは自分が押されていることに危機感を覚え始めた。
だが、彼女は全くの無策で序盤からこんな大胆な行動をしている訳では無い。この状況も含め、全てはイアム達レインディア家の罠であった。
「いい加減諦めて道を開けなさい!」
「ふ……ふふふっ、本当におバカさんですわね。道を開ける?そんな戯言、すぐに言えなくしてあげますわ!今ですわよあなた達!」
「「「はっ!」」」
イアムがそう合図を出した途端、出口の影に隠れていた他のレインディア家が一斉に飛び出してきた。その数七名、イアムとですらほぼ互角だったこの状況で更に人数が増えては、もはやマリナに勝ち目はない。
「これを狙ってたって訳ね、相変わらず卑怯な奴ら……!」
「何とでも言うがいいですわ!結局称えられるのはは勝ち残った者だけなのですから!」
まさかの伏兵に顔を青くし冷や汗を流すマリナ。対するイアムは、高笑いと共に隠れていた七人と同時に襲いかかる。さすがのマリナといえども、一対多では通常の剣技のみで太刀打ちするのは不可能だ。
ただしそれは剣技のみの話であり、彼女にはまだ取っておきの切り札がある。
「これで終わりだ本家の小娘!」
「甘いです……魔力解放!」
マリナには対人戦において最上級のテンス、魔力解放がある。
敵の振るう魔剣が自身に命中する直前、素早く左手で刀身に触れることで、魔剣を形成していた魔力を一瞬にして掻き消す。その影響で魔剣の輝きが周囲に激しく飛び散った。
「なっ!?俺の剣が――がばぁっ!」
「ふん、女だからって甘く見ないで下さいね」
魔剣が消失したことに困惑していた敵の一人をマリナは鮮やかに斬り捌き、あっという間に敵のダウンを奪う。
「本当に厄介ですわね、あなたのそのテンスは……」
「あんた達こそ、毎度毎度突っかかって来ないで下さいよ。ほんとに面倒なんですから!」
「ふふふっ、面倒なら本家の座を私達に譲ってはいかが?」
「誰があんた達なんかに譲るもんですか!」
口論を挟みつつも、マリナとイアム達レインディア家の激戦は続く。
さすがに数の不利もあってマリナは何度か攻撃を受けてしまうが、それでも魔力解放を駆使して最終的には再びイアム一人にまで立て直す。
「くっ、まさかここまでやるとは。腕を上げましたわね……!」
「当たり前です、私だって遊んでた訳ではないんですから。もう観念しなさい」
「……ふふっ、強がってはいてもうちの連中のダメージが消える訳じゃありませんわよ。望み通り、ここでケリをつけてあげますわ!」
マリナとイアム、両者は互いに覚悟を決めると魔剣を構え走り出す。だが、二人の一騎打ちかに見えたその時、両者の魔剣が交わる寸前にイアムは不敵な笑みを見せた。
「……ここでわよ!」
「了解!」
そう、最後の一騎打ちかと思わせた僅かな隙を狙い、イアムは最後まで忍ばせていた残り一人の伏兵に、マリナの背後を襲わせたのだ。
マリナは既にイアムと鍔迫り合いの体勢にっており、回避は間に合わない。
「ふん、そんなことだろうと思ったわ……魔力解放!」
だが、マリナはこの状況を予想していた。小賢しいレインディア家が最後に何か仕掛けてくることを想定し、あえて深く踏み込まずにすぐさま背後にも対応出来るよう備えていたのだ。
右手で持った魔剣でイアムを抑え込みつつ、空いた左手で背後から迫る魔剣を消滅させる。見事な曲芸を披露してマリナは挟み撃ちの危機を乗り切った。
「ちっ、生意気ですわね……でも両手が塞がった今あなたに勝機は無いですわ!」
「その通り!こんなもんもう一度斬って終いだ!」
不意打ちは失敗したが、両手を塞いだ今ならまだマリナを倒せると踏んだイアムはすぐさま持ち直す。
マリナの動きを更に封じる様に鍔迫り合いに力を込め、背後の仲間がその隙に魔剣を再起動させて襲いかかる。
「そんなの遅過ぎますよ」
しかし更なる追撃を仕掛けるイアム達を相手に、マリナは足の力を抜くことで鮮やかにイアムの剣を受け流す。
抑え込むために力を加えたのが仇となったのか、イアムは勢い止まらぬまま前のめりに体勢を崩してしまう。
「なっ、じゃ、邪魔ですわよ!」
「ひいぃ、すみませんもう止まらな――どわぁ!」
そして本来マリナが居たはずの場所で、イアムともう一人の仲間は激しく衝突してしまった。
「悪いけどこの勝負、勝たせてもらいます!」
ぶつかり地面に倒れるイアム達を相手に、一切の慈悲も無くマリナは魔剣を振り抜き同時に倒す。
「ぐふぅ……!」
「ここ、までか……」
鮮やかな剣技を見せて、イアム達を地に眠らせた。
「ふぅ、本当に面倒な人達ですね……」
こうして、予選開始早々起こった大波乱を制したのは、勇者一族本家の長女マリナ・ブレイディアであった。
その全貌を目撃していた観客席からは、盛大な拍手と歓声が響き渡る。




