一章 31.先輩に連れられて
「あ、あら、貴方がマリナの言っていた、今日一緒に同行するという一年生ですの……?」
「は、初めましてー、アカリ・リーシャンと言います。今日は一日お世話になります……」
マリナのクラス担任シーラと俺は昔馴染みの知り合いだが、バレるということは彼女の正体が魔人だということを知られることにも繋がってしまうので、それをマリナ達に悟られる訳にはいかない。
だから初対面を装い挨拶を交わしたのだが、お互い恐ろしい程の片言だった。
二人とも、まさかここまで演技が苦手だとは。
「どうしたのアカリ?あなたにしては珍しくよそよそしいわね……」
「な、何言ってんだマリナ!俺だって初対面の先生には敬語くらい使うさ!」
「ふーん……」
俺の態度が怪しかったのか、マリナは俺を疑う目で見てくる。
必死に言い訳の言葉を重ねるが、彼女の怪しむ目が緩むことは無い。
セリーダ先生のことは今は考えるな。
「まぁまぁ、アカリくんは私と初対面の時もこんな感じだったし、あんまり気にすることじゃないと思うわよ?」
「そーかなー?」
「そうそう、それよりも早く行きましょうよ。のんびりしてたら夜までに帰って来れないわ」
「うーん……そうね。ならそろそろ出発しましょうか」
ナイスセルシー先輩!見事なフォローで、俺への疑いの目を見事に逸らしてくれた!
俺の中でのセルシー先輩の株が急上昇中だ。
ともかくこれからは、言動には細心の注意を払おう。
「二年の管理してる区域は遠いいのか?」
「歩いたら二時間は掛かるわね。だから移動用のマジカロイドを使うのよ」
「おー、そういうのもあるんだな」
「えぇ、事前にレンタルしておいたら着いてきて」
どうやら管理区域までの移動にはマジカロイドを使うらしい。
そうしてマリナの案内に従って歩いていると、すぐにそれらしいものを発見した。
「もしかして、あれか?」
「えぇ、見た目は不格好だけど、あれで結構速いのよ」
「全然そうは見えないけどな……」
「クウ〜(変な形〜)」
俺の目撃した移動用マジカロイド。そのモチーフとなった生物は、あの鈍足で有名なカメだった。
外見は普通の乗用車位な巨大サイズのカメで、足部分は戦車の如きキャタピラーとなっている。
甲羅部分の分け目がそれぞれ扉となっていて、中を覗くと四人分の座席が敷かれていた。
「ほら、ボーッと見てないでさっさと乗りなさい。置いてくわよ?」
「お、おう……」
あまりの異様さに呆然と眺めていると、いつの間にかマリナ達は席に着いていた。
置いて行かれる訳にはいかないので、俺も慌ててカメ型マジカロイドに乗り込む。
『ベェエー』
俺が乗り込むと、カメ型マジカロイドはなんとも奇っ怪な鳴き声を上げながら、ゆっくりとキャタピラーを回転させて走り出した。
「意味不明な鳴き声だな」
「可愛いでしょ〜。この子の名前はべェランドって言うのよ。見た目に似合わず最大速度は時速百キロを超える、優秀な移動用マジカロイドなのよ」
「へ、へぇー、詳しいんですねセルシー先輩」
「まぁねー、私マジカロイド大好きだから」
カメの鳴き声に気味悪さを覚えていると、何故かセルシー先輩が解説してくる。
こいつの名前とかはっきり言ってどうでもいいが、それよりも何故か俺はセルシー先輩の語るその姿にデジャブを感じていた。
マリスと同じ騎士団に所属していた女性、アマネと同じ面影を感じたのは気の所為だろうか。いや、気の所為であってほしい。
「ところでそのクウちゃんって言うマジカロイド、私程のマジカロイド好きでも見たことないんだけど、どこ製なの?」
「あー、まぁ、それはどうでもいいじゃないですか……」
「ほぅ、この私の質問をはぐらかすとはいい度胸してるわね」
マズい、これまでクウのことはマジカロイドということで通してきたが、この手のマニア相手には通用しない。誤魔化そうにも、適当なことを言えばすぐにボロが出てしまう。
「アカリ、そんなマジカロイドバカの言うことなんて無視していいからね。関わったら永遠に付き合わされるんだから……」
だが、どう切り抜けるか悩みに悩んでいると、マリナから助け舟を出してもらえた。
さすが事情を知っているだけあって、こういう時は頼りになる。
「えー!それは酷いよー」
「セルシーもプライベートにずかずかと踏み込むんじゃないわよ!」
「ちぇー。ごめんねアカリくん、無理に聞いちゃって……」
「いえいえ、分かってもらえれば気にしないですよ」
マリナの説得もあって、俺はどうにかセルシー先輩から逃げ切ることに成功した。
しかし今後は、クウの存在にも最新の注意を払わなければ。なんか今日は気をつけることばっかりだな。
「あなた達、わたくしを放置して随分と楽しそうですわね……」
「「「ご、ごめんなさい……」」」
現在シーラはべェランドを操縦している為、こっちの会話に入ってくることが出来なかった。
だから俺達が楽しげに話していたのが気に入らなかったのか、彼女は静かな声音に凄まじい怒気を混じえてそう指摘してくる。
「まぁいいですわ。そろそろ着きますわよ」
「おっ、もう着くのか。確かにこいつ結構速いんだな」
俺達はべェランドに乗ってからまだ二十分くらいしか経っていないので、それを考えるとかなりの速度で移動したことになる。
見た目は遅そうに見えるが、意外と優秀なマジカロイドだった。
「ここが私達二年の管理する区域よ。来年はあなた達の担当になる所ね」
「へぇー、なんか普通な場所だな」
べェランドを降りて周囲を見渡してみるが、そこには小さな町が一つあるだけで、他は麦畑の様なものが広がっているだった。
魔物を退治するのだからもっと荒野みたいな所を想像していた手前、なんとも微妙な場所である。
「区域は大きく分けると、一年は学園の周囲、二年はそこから少し離れた町周辺、三年は人の寄り付かない奥地って感じになってるから」
「なるほど、だから一、二年は強敵と出会うことは滅多にないのか」
「えぇ、私達の役目は基本的に治安維持だからね」
担当の区域は、学年毎に安全面も考えながら設定されている様だ。
これなら一年の内はそれほど危険な目に合うことも無さそうだな。
「何してるのー?早く情報収集に行きましょうよー」
「ごめんごめん」
「了解っす」
マリナと色々話していると、いつの間にかセルシー先輩は町の方へと歩いて向かっていた。
俺達はそんな彼女の後を駆け足で追う。
「さてと、それじゃあまずは何から集める?」
「今日はあまり時間も無いから、怪しい魔物の情報だけを集めるわ」
「おっけー、それじゃ行ってくるわね!」
マリナと手早く打ち合わせを終えたセルシー先輩は、足早に町の中へと姿を消してしまった。
さすが先輩ということもあり、こういう時の行動はスムーズだ。
「アカリは私に着いてきて。私が色々教えてあげるから、きっとそのうち役に立つはずよ」
「おぉー、さすが一学年上は頼りになるな。よろしく先輩!」
「アホなこと言ってないで、早く行くわよ!」
マリナは相変わらず怒りながら歩きだす。
だが、俺は彼女の顔が一瞬赤くなっていたのを見逃さなかった。俺はマリナに対しては友達感覚で接しているが、なんだかんだで先輩扱いさせるのは嬉しいらしい。
「どーも町長さん」
「おぉ、マリナ様!来ていただけたのですな!」
「……様?」
まず俺達は町長と呼ばれる人物の居る役場へ向かったのだが、何故かその男はマリナのことを様付けで呼んでいた。
学生とはいえ、さすがは勇者一族本家の娘だな。
「えぇ、早速だけど例の魔物について詳しく教えてくれる?」
「それは構いませんが、そちらの方は……?」
「ああ、こっちは今年入学した後輩のアカリ・リーシャンよ。今日は勉強の為に連れて来ただけだから気にしなくていいわ」
「どーもー」
マリナが紹介してくれたので、俺も笑顔を作りながら挨拶をする。
「そうでしたか、では詳しくはこちらで」
俺の存在にも納得した町長は、俺達を役場の一室へと案内してくる。
ようやく魔物の情報を入手出来そうだ。




