表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王令嬢の教育係 ~勇者学院を追放された平民教師は魔王の娘たちの家庭教師となる~【Web版】  作者: 新人@コミカライズ連載中
第一章:クビから始まる新生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/97

第60話:フェムの試練

「次は私……じゃあ、行ってくる……」

「フェムちゃん、頑張ってくださいね!」


 名前を呼ばれてすぐに歩き出したフェムへと合格したばかりのフィーアが声援を送る。


「気をつけなさいよ」

「フェム、気合で負けたらダメだかんね!」


 続いて、イスナとサンも各々が言葉をかけていく。


 フェムはそんな姉妹たちからの応援に、無言で首を小さく縦に振って応える。


 本番を前にしたことで逆に冷静になったフェムは、姉妹たちの誰よりも落ち着き払っていた。


 そのままほとんど足音のしない歩調で魔王たちのいる方向へと向かっていく。

 その腕の中にフレイが送った杖が抱きながら。


「フェム!」


 待機場所から出て数歩のところで、フレイが姉妹の中で最も小さな背中に向かって呼びかける。


「気をつけろよ」


 師の言葉の意図を理解したフェムが微笑を浮かべる。

 そして、いつものように親指を立てた握り拳を突き出して応えた。


 言葉にはせずとも、それが『大丈夫』という意図を含んでいるのがフレイにだけ伝わる。


「何なの? あの手?」

「あれはな……俺とフェムだけの秘密の暗号だ」

「え!? なにそれ!? ずるい! いやらしい!」


 意味深な言葉を聞いたイスナが騒いでいる間に、フェムは会場の中央へとたどり着く。


「よう、久しぶりだな。おめぇもしばらく見ない間に、良い面構えになったじゃねーか」


 以前とは違い余計な物に覆われていないその顔を魔王が正視する。


「うん、先生のおかげ」


 父親の鋭い視線に一切臆することなく、大観衆の前に素顔を曝け出したフェムが応える。


 後ろからその姿を見守っていたフレイは、その状況下でも魔法が暴走しないと分かって安堵の息を吐く。


「そうかい、気分的にはそんだけで合格にしてやりてぇところだが……」


 その時点で、明確に成長した姿を見せた娘に対して魔王は感慨深い思いを抱く。


 一方、魔王の隣にいるフェムの母親は自分の娘の晴れ舞台にも拘らず、起きているのか寝ているのか分からない様子でぼーっと虚空を眺めている。


「まあ、そういうわけにもいかねぇわな。ちなみにもう分かってるとは思うが、お前に課すのは魔法に関する試験だ」

「うん……私は世界一の魔法使いだから、どんな試験でも余裕……」

「はっ、言うようになったじゃねーか……。それなら早速行くとするか、お前への試験は……こいつだ!」


 魔王が大きな声で宣言し、指をパチンと鳴らした。


 次の瞬間、闘技場の四方を囲む石柱が魔力を更に増していく。


 そこから新たな魔法障壁が作り出され、フェムを中心として新たに幾重もの魔法障壁が新たに出現した。


 その枚数は優に二十を超え、周囲からは中央にいるフェムの姿がぼやけて見える程になっている。


 既に試験の意図を理解した観客からは流石に無茶だというどよめきが起こる。


「この障壁をぶっ壊して外に出られりゃあ合格だ!」


 魔王は観客の障壁内のフェムへと向かって高らかに試験の内容を宣言する。


 観客たちの胸騒ぎは的中した。


 並の術者であれば一枚破壊するだけで体力を尽き果てさせてしまうような高密度の障壁。

 それが幾重も重なった場所から脱出するのは不可能だと誰もが思った。


 観客たちの反応とは逆に、今から挑戦するフェムは異様な程に落ち着き払っていた。


 手で最も手前にある障壁に触れながら、何かを確認するように小さく頷いている。


「制限時間は三十分だ! 当然、魔法の使用に制限はねぇ! そんじゃ、かい――」

「ちょっと待った!」


 開始の宣言をしようとした魔王にフレイが待ったをかけた。


「あ? なんだ?」


 良いところで横槍を入れられた魔王が、フレイに対して若干の怒気を込めた視線を向ける。


 見守る観客たちも流石にこの試験には抗議が入って当然だと考えた。


 しかし、フレイが憂慮したのは全く別の事だった。


「えーっと、始める前に一つお聞きしておきたいんですが、この建物の強度はどのくらいのものですか? 例えば、戦略級の魔法にも耐えられるのかとか……」

「は? 何言ってんだおま――」


 魔王がフレイへと向かって困惑の言葉を紡ごうとした瞬間――


 周囲の空間を切り裂くような超高音。


 幾重もの魔法障壁に囲まれた中心から天井へと向かって漆黒の閃光が奔った。


 瞬きにも満たない程の一瞬で全障壁が粉々に砕け散る。

 四散した破片は閃光の残滓のような奔流によって空気中へと霧散していく。


 閃光は更に天井を突き破り、その衝撃は建物全体が激しく震えさせた。


 突然巻き起こった破壊。


 観客席には大きな狂騒に生まれる。


 全ての発生源である闘技場の中心には、腰を落として杖を真上に向かって構えているフェムの姿があった。



**********



 フェムは魔王ハザールの第五子としてこの世に生を受けた。


 しかし、本来は同種以外と子を成すことは出来ないとされている幽鬼種。

 故にフェムは周囲から不吉の象徴であると忌み嫌われ、魔王の娘でありながら長年腫れ物扱いされ続けてきた。



**********



 しかし、そんな過去の話は今のフェムにとって最早振り返ることすらもない些末な事だった。


 嫌いだった特徴を自分だけの個性だと受け入れたことにより、彼女は他の誰にもない力を得るにまで至った。


 そして今、その力を自分を変えてくれた人のために放った。


「ふぅ……ちょっと疲れた……」


 場内で巻き起こっている狂騒とは対照的に可愛らしく一息をついたフェムが、ローブの袖で額の汗を拭う。


 天井には直径二メルトル程の真円上の穿孔。


 そこから暖かい色の陽光が、まるで生まれ変わった彼女を祝福するかのように小さな身体へと降り注ぐ。


 場内の混乱は徐々に収まり、天井の破片がパラパラと地面に落ちる音が聞こえる程の静寂が生まれ始める。


 観客たちは誰もが不可能だと思った試験を一瞬で突破したフェムに畏敬の念を抱く。


 魔王と母親たちは言葉を失い、目を丸く見開いて末子の姿を呆然と見つめている。


「わぁ~い、ご~かく~。フェムちゃん、えら~い」


 そんな中でフェムよりも高い透明度の女性だけが、ぱちぱちと小さく拍手しながら呑気な笑顔を娘に向ける。


「だから気をつけろって言ったのに……また無茶をして……」


 フレイが片手で頭を抱えながら、大きな事故が起こらなかったことに安堵の溜息をつく。


「相変わらず……とんでもない威力ね……」


 フレイの隣に立つイスナも顔を強張らせながら、若干引き気味に率直な感想を口にする。


 この世でフェムにしか使うことの出来ない純粋な破壊力のみに特化した魔法。


 フェムとしては真上に撃つことで安全に配慮したはずだった。

 それでも一般的な尺度から考えれば、やりすぎだというしかない。


 天才、逸材、天賦。


 優れた才能を評する言葉はこの世に多く存在している。

 しかし、この少女の内に秘められた力を表現する言葉は見当たらない。


 そう考えながら、フレイは圧倒的な合格を成し遂げたフェムへと向かって親指を立てた握り拳を突き出す。


 フェムは一瞬遅れてそれに気づくと、弾ける笑顔と共に同じ動作で応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ