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魔王令嬢の教育係 ~勇者学院を追放された平民教師は魔王の娘たちの家庭教師となる~【Web版】  作者: 新人@コミカライズ連載中
第一章:クビから始まる新生活

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第21話:来客

 魔王の娘たちの先生になって欲しいと言われて、今日でちょうど一週間が経過した。


 最初こそどうなるのかと戸惑ったものだが、想定していたよりかは順調に第二の教師生活は進んでいる。


 今日は、赴任してから初の授業がない休日。


 ロゼからは特に制限もなく好きにして良いと言われているので、まるで子供がそうするように広い屋敷の中を散策している。


 探検してみて改めてその大きさを実感する。


 たった八人で生活するには広すぎるこの屋敷は、内部の間取りを把握するだけでもまだ時間がかかりそうだ。


 そんな事を考えながら所在なげに歩いていると、ある区画に到達する。


「ここは確か……」


 他の場所よりも少し広い間隔で扉が並んだ廊下。


 記憶が確かなら、ここから先はあの子たちの居住区域のはずだ。


 目の前の光景とロゼから教えてもらった記憶が一致して足がピタリと止まる。


 流石にここに入って行くのはまずいな。


 ロゼからは特に入るなと言われたわけではないが、自分でそう判断して引き返そうとした時――


 ガチャっという音と共に、向かって左側の一番手前にある扉が開かれた。


 深緑の長髪を揺らしながら、寝間着らしい薄い衣服に身を包んだ次女のイスナが出てくる


 時刻はもう昼前だが今しがたまで寝ていたのか、重たそうな瞼をこすりながらやや緩慢に動いている。


 その姿を見て俺は……


「おはよう。今朝は良い天気だな」


 一瞬だけ逡巡した上で、そう声をかけた。


 露骨に嫌われているとはいえ、教師として雇われている身だ。


 どんな状況であれ挨拶はすべきだろう。


 一方のイスナも声に反応して、ゆっくりと顔をこちらへと向ける。


 俺の顔を見たと同時に、重そうに半分閉じていた目を見開いた。


 かと思えば、すぐにそっぽを向くように背中が向けられ、無言で廊下の向こう側へとスタスタと歩いて行った。


 まるで最初から俺の存在を認識していなかったかのように。


 これは想像以上に嫌われてるな……。


 その背中と寝間着の裾からはみ出た黒い尻尾を見送りながら考える。


 あの日以降、イスナは授業には大人しく出席してくれるようになった。


 しかし、その受講態度は相変わらず良いとは言えない。


 以前のように直接的な悪態こそはつかないものの。


 どこか上の空で俺の話を聞いているのか聞いていないのかも分からないようにぼーっとしている。


 加えて寝不足なのか、キレ長の目の下にはいつも大きな隈をこしらえている。


 サンのように居眠りこそしないが、このままにしておくわけにはいかないのも確かだ。


「さて……どうしたもんか……」


 あの時のようなパフォーマンスを何度もやるわけにはいかないし、行き過ぎると俺個人に対する恐怖を植え付けてしまうかもしれない。


 そうなると考えられるのは他の姉妹からの説得か、もしくは更に上の立場の誰かに――


 そんな事を考えながら適当に歩いていると、いつの間にか表の庭園にたどり着いていた。


「ふぅ、気持ちいいな……」


 程よい心地よさの風、それが運んできた花の甘い香りが身体を包む。


 身体のあらゆる感覚を使って綺麗に彩られたその庭園を満喫していると、日頃溜まった心身の疲れが芯から抜けていくのが分かる。


 確かこの庭園はロゼが手入れしていると言っていたが、一人でここまで綺麗に手入れしているのは流石としか言いようがない。


 あの無表情なメイドの顔を思い出しながら、本人に変わって様々な表情を見せてくれる庭園をぼーっと眺めていると……


「――さ~い」


 どこかから声が聞こえてきた。


「――くださ~い」


 困っている響きの声が何度も何度もこだまする。


 謎の女性らしき声はどうやら庭園を挟んで屋敷の反対側――正面入口の方から聞こえてきている。


 こんな場所に来客? それとも誰かが迷い込んできたのか?


 誰が何の目的でやってきたのかは分からないが、聞いてしまった以上は無視するわけにもいかない。


 少しの警戒心と共に声が聞こえてくる方向へと歩を進める。


「ごめんくださ~い!」


 少しおっとりとした声がはっきりと聞こえる距離にたどり着く。


 閉じられた立派な門の向こう側に、この距離でも分かる立派すぎる双丘を持つ女性が立っていた。

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