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98 チーム戦オープントーナメント開始

本日はお休みの予告をいたしましたが、時間が取れたので1話書き上げました。見直しが甘いのでいつものように誤字が多いかもしれません。どうか大目に見てください。

 八校戦の現時点での総合優勝の行方だが、チーム戦学年トーナメントを終えた時点で完全に第1魔法学院と第4魔法学院両校の争いに絞られてきている。


 勇者の反則によって100点の減点を食らった第1魔法学院は失った点数を挽回すべく奮起して、チーム戦学年トーナメントにおいてブルーホライズンと蒼き稲妻の2チームが優勝を飾って200点を加算。トータルで獲得したポイントは現在520点。


 対する第4魔法学院は2学年トーナメントで優勝したほか、3学年トーナメントでは準優勝、2チームがベスト4に食い込んでおり、こちらも200点を加算してトータルで450点。


 チーム戦オープントーナメントの優勝ポイントが200点で準優勝が120点となっているため、第4魔法学院は最後のトーナメントで優勝すれば、わずか10点の差で逆転を果たすことが可能となっている。最後のワンチャンスに賭ける意気込みで、第4魔法学院の応援席は過去に前例がないくらいの盛り上がりを見せている。



 2週目の木曜日を迎えた八校戦は、午前の一番に参加する全チームがメインスタンドである第1訓練場に集まって、これからチーム紹介に続いてトーナメントの公開抽選が行われる。どのチームと対戦するかによって作戦が大きく異なるだけに、各チームとも緊張した面持ちで紹介を受けている。ただし緊張しているのは、一番初めに紹介されたこのチーム以外という但し書きがつくのだが…



「第1魔法学院チーム、デビル&エンジェル~!」


「「「「「「「ウオォォォォ!」」」」」」」


 場内にアナウンスが行われると、メンバーたちは両手を挙げて応える。このチームが最大の優勝候補であるのは衆目の一致するところであるだけに、場内から贈られる歓声はスタンドを揺るがすほどの勢い。



「フフフ、縁なき衆生たちも、どうやら私の力を認めたようですわね」


「桜、もうちょっと謙虚な気持ちで受け止められないのか?」


「お兄様、これでも謙虚な態度で臨んでおりますの。もっと力を見せていいのだったら、今頃スタンドの全員が私の前にひれ伏しておりますわ」


「もういいから、調子にだけは乗るなよ! 目を覆いたくなる被害を出したくないからな」


「わかっておりますわ」


 兄妹をはじめとしたデビル&エンジェルは緊張感とは程遠い様子でフィールドに立っている。そしてチーム紹介が終わると、いよいよトーナメント抽選の時間。各校の代表がテーブルの上に並ぶ番号が記載された紙が入っている封筒を選ぶという形式で抽選は行われる。



「リーダーの俺がいくのか?」


「お待ちください、お兄様! このところのお兄様は私に連続でジャンケン勝負に敗れておりますわ。おそらくクジ運もクソ雑魚ナメクジに違いありません!」


「誰がナメクジだぁぁぁ! 人のクジ運をよくぞそこまでゴミ屑扱いしてくれたな!」


「SNSに投稿したら低評価が山盛りになるのは明らかな事実ですから。ということで私が行ってまいります」


 抗議する聡史に一瞥もくれることなく、桜は抽選番号が入った封筒が置いてあるテーブルへと向かっていく。合計8枚の封筒が置いてある中から、桜は迷わずに一番右端にある1枚を選ぶ。



「第1魔法学院、1番!」


 優勝候補筆頭チームが1番を引いたというアナウンスで会場にはどよめきが広がる。トーナメントの第1試合からデビル&エンジェルが登場するだから、これは誰もが声をあげるのも無理なかろう。



「1番とは、幸先がいいですわね」


 桜は満足した表情でパーティーメンバーが待つ場所へと戻っていく。意気揚々と戻ってくる桜を迎えるメンバーは…



「桜ちゃん、いきなり1番を引いたのね」


「美鈴ちゃん、常にナンバーワンである私には相応しいですわ」


「相手はどこになるのかしら?」


「誰の挑戦でも受ける! あのイノキさんもそう言っておりましたわ。王者として堂々と構えていればいいのです」


 呆れるばかりの自信に満ち溢れた桜を他のメンバーはもう諦め顔で見ている。桜の鋼鉄の神経にこれ以上付き合っていると、あらゆる意味で精神的に疲れると知っているのだろう。 


 そして第1魔法学院の最大のライバルである第4魔法学院は反対の山に入って決勝戦まで顔を合わせないこととなる。すべてのお膳立てが整って、いよいよ最後のトーナメントの開幕。試合開始が待ち遠しい会場は、今か今かと期待する盛り上がりを見せている。





   ◇◇◇◇◇





 午前10時半から、チーム戦オープントーナメント第1試合が開始。聡史たちデビル&エンジェルの相手は第7魔法学院のチームと決定している。


 開始戦に並ぶ双方のチーム、舌戦の口火を切ったのは第7魔法学院の三名。



「お前たちが優勝候補と騒がれている第1魔法学院のチームか。だがこの試合に勝つのは我々だ!」


「今大会は第4魔法学院の留学生が目立っているが、我らも香港からの留学生」


「俺たちのカンフーの前に散るがいい!」


 ここにも自信満々で試合に臨む人間がいるよう。彼ら香港からの留学生三人組はすでに昨年度から第7魔法学院に在籍しており、今大会の個人戦でもそこそこ上位に食い込んでいる。マギーたちの陰に隠れて目立たないとはいえ、相当な強敵といえるであろう。



「ほほう、カンフー使いとは初めての対戦ですわ。これは私が学んだカンフーとどちらが上かこの場で白黒つけましょうか」


「桜、いつのまにカンフーの修行なんかしていたんだ?」


「お兄様、私はスナック菓子を食べながらドラゴンさんとジャッキーのDVDを鑑賞して見よう見まねでカンフーを覚えましたの。軽い気持ちで覚えたカンフーをまさかこんな場で初披露するとは思っていませんでした」


「できれば普通に戦ってもらえないだろうか?」


「いいえ、カンフーにはカンフーで対抗する! これが私のポリシーですから」


 どうやら桜は聞く耳を持っていないよう。カンフー映画のDVDで覚えた技が果たして通用するのかどうか、聡史の心中には一抹の不安が残る。対して第7魔法学院の三人は…



「フハハハハハ! 見よう見まねで覚えられるほどカンフーは甘くない! この雲黒崔うんこくさいの前に貴様らは敗れるのだ」


「ガキの分際でバカも休み休み言え! この陳国蔡ちんこくさいの神にも等しいカンフーをとくと味わえ!」


「カンフーを甘く見ているようだな。この萬穀まんこく…」


「それ以上名乗るんじゃねぇぇぇぇぇ!」


 危険なフレーズが飛び出そうな気配を察した聡史が大慌てで止めに入る。あわやピーという音を被せなければならない大変な危険なフレーズが公の場で口から飛び出すところだった。香港からの留学生、恐るべし… 本国での呼び方は違うのだが、日本語読みにした場合明らかに放送禁止に該当する。



 こうして冷や汗をかくような舌戦が終わると、両チームはそれぞれの位置につく。


 デビル&エンジェルは、桜がひとりで開始戦の手前に立ってワントップを務め、その斜め後方には槍を構えた明日香ちゃんとメイスを手にするカレンがいる。聡史は片手剣を手にしてリーダーを守る位置にいて、この試合ではリーダーを務める美鈴が陣地の台上に立つという布陣。


 対する第7魔法学院の三人のカンフー使いは、開始戦の手前に横並びで試合開始とともに突進する構え。後方には日本人の魔法使いとリーダーを配置して極めて攻撃的なフォーメーションを採用している。個人戦オープントーナメントで優勝した桜を警戒して三人掛かりで対処しようという作戦に出る構えのよう。



「試合開始ぃぃ!」


 審判の合図とともに、第7魔法学院の三人が桜を半包囲する。対する桜は宣言通りにやや半身に構えて両足を前後に開き、前に出している左足の爪先を軽やかに動かしつつ軸となる右足に重心を置いたカンフースタイルで相手をしようと身構えている。



「ふん、構だけは一人前だな。だがこれが本物のカンフーだぁぁ!」


 桜と睨み合う雲黒崔が桜に襲い掛かる。雲黒崔の動きに合わせて、桜の手前に突き出し気味の両手が高速で回転を開始する。



「ハァ~! アチョウゥゥゥ!」


 掛け声に合わせて桜の両手が北〇百裂拳のように雲黒崔の体を捉える。



 ズガズガドコドコバキバキドスドスバカバカガキガキ!


 手先だけの拳とはいえ、何十発も食らっている雲黒崔は堪ったものではない。連続で桜の拳を受けて、その顔が歪んでいく。



「ハァ~! アチョウ!」


「グワァァァァ!」


 そして桜のとどめの一撃が水月を捉えると雲黒崔の体は大きく吹き飛んでいく。白目を剥いて戦闘不能に陥っているのは誰の目にも明らか。



「なんと恐ろしいカンフーだ! これは俺も覚悟を決めて奥義を出さねば勝てないようだな」


 この様子を見た陳国蔡は、自らの最終奥義を出す構えを取る。だが桜はそんな相手の動きにはまったく構わずに首を捻っている。一体どうしたというのだろうか?



「おかしいですねぇ~。ジャッキーと同じくらいのスピードで拳を繰り出したつもりなのに、一方的に叩きのめしてしまいましたわ。これでは面白くありませんね」


 桜はDVDと同じつもりとは言っているが、相手としたら「馬鹿を言うな!」と抗議したくなるようなスピードの拳が繰り出されている。おそらく倒れた相手にはDVDを10倍速で早送りにしたくらいの速度に映っただろう。



「しょうがないですねぇ~。せっかくのカンフー対決をもっと楽しみたいですからスピードを緩めましょうか… ラジオ体操くらいのリズムでやってみましょう!」


 独り言を呟いていた桜は気を取り直したように陳国蔡と向き合う。



「受けてみるがよい! 最終奥義、天虎爪牙拳てんこそうがけん!」


 虎が獲物に襲い掛かるがごとくに、雲黒崔の両手が桜を引き裂こうと迫りくる。これに対する桜は…



「それではラジオ体操第1、始めぇぇ! 1,2,3,4,5,6,7,8」


 本人はラジオ体操と主張しているが、桜の戦闘中のリズムは目で追うのはなかなか困難な仕儀。傍から見れば超高速ラジオ体操のテンポで拳が繰り出されていく。



 ドガドガバキバキズガズガボキボキ!



「ウガァァァァ!」


 こうして雲黒崔もあっという間に吹き飛ばされていく。残るはただひとり。



「クソォォ! よくもやりやがったな! だがこの萬穀まんこく…」


「だから、それ以上は名乗るんじゃねぇぇぇぇ!」


 またもや聡史の大声がフィールドに響く。そんなやり取りなど耳に入らない様子で、桜はしきりに何か呟いている。



「ラジオ体操のリズムでも早すぎましたか… もっとリズムを緩めるとなると… 盆踊りくらいにしてみましょうか」


 どうやらラジオ体操でも相手が簡単に吹き飛んでしまったことを反省しているよう。それにしても試合中に盆踊りはないであろう。桜だから何をやらかすか分かったものではないが…



「この萬穀まんこく


「いいから名乗るんじゃねぇぇ!」


さいの最終奥義、聖龍波動拳てんりゅうはどうけんを受けてみよぉぉ!」


 萬穀栽は天の龍が口から炎を吐き出すがごとくの猛烈な拳の連打で桜に迫る。そして迎え撃つ桜は…



「月が~、出た出~た、月が~出た、ヨイヨイ♪」


 バキバキ!


「三池炭鉱の~、上に出~た♪ ソレッ!」


 ドカ! 


「あんま~り煙突~が高すぎ~て、さ~ぞやお月さんも煙たかろ~♪ サノヨイヨイ!」


 ドカバキズガ!


「ブハァァァ!」


 合いの手が入るたびに桜の拳が萬穀栽にヒットしていく。そして炭坑節をワンフレーズ歌い終わると、萬穀栽も桜の盆踊りカンフーによって吹き飛ばされていく。



「おかしいですねぇ~。盆踊りのリズムでも相手にならないんですか? でもカンフーと盆踊りのリズムを合わせると、なぜかしっくりきますね~」


 などとどうでもいい感想を述べている。そのタイミングで…



「ファイアーボール!」


 カンフー使い三人がやられたのを見た第7魔法学院の魔法使いが、桜に向かって魔法を撃ち出してくる。飛んでくる魔法の気配に気づいた桜は…



「ふん!」


 拳を一閃しただけで、ファイアーボールを消し飛ばしている。あとから衝撃波の耳をつんざくような轟音が追いかけていく。



「な、なんだと…」


 あまりに非常識な方法で桜が魔法を迎撃した様子を見た第7魔法学院の魔法使いは、口をポッカリ広げたまま固まっている。その目は信じられないものを目の当たりにしたという様子で、これ以上ないほどに見開かれている。こんな非常識な方法で魔法が無効化されるなど、誰しもが予想外過ぎて信じられないだろう。その時…



「桜、場所を開けてくれ」


 その指示で桜が横に移動すると、聡史の右手に魔力が集まる。



「ファイアーボール!」


 邪魔な魔法使いを排除するために聡史の手からごくごく威力を抑えたファイアーボールが飛んでいく。


 ドーン!


 狙い違わずに魔法使いが立っている地面の手前で爆発したファイアーボールは、彼を吹き飛ばして戦闘不能に追い込む。残るは第7魔法学院のリーダーのみ。



「明日香ちゃんとカレンで仕留めてくるんだ」


「「はい」」


 聡史の指示で槍とメイスを手にする二人が駆け出していく。カレンはその立派なお胸をプルンプルンさせているのに対して、明日香ちゃんは腹回りをプルンプルンさせて走る。だが色々な部分をプルンプルンさせてはいるものの、そこはレベル30オーバーの二人。想像以上のスピードで敵陣に乗り込むと、カレンのメイスで相手のリーダーを転倒させてから、明日香ちゃんが槍の穂先を首元に突きつける。



「まいった」


「勝者、青!」


 こうしてほとんど桜の独り舞台であったデビル&エンジェルの初戦が終了する。



「やっぱりヤバすぎるチームだな。相手は上級生だったのに」


「ひとりで留学生のカンフー使いをまとめて倒すなんて、訳が分からないぞ」


「優勝は決まったかもしれないな」


 そんなスタンドのため息混じりの感想を聞きながら、デビル&エンジェルは桜を先頭にして悠々と控室に退場していくのであった。

 

桜の活躍? によって1回戦を突破したデビル&エンジェル、次回いよいよ八校戦の決着が…… 投稿を明日の予定です。どうぞお楽しみに!



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