94 八校戦の合間に 2
90話を改稿しました。
美鈴の地雷術式が爆発の威力によってフィオレーヌを負傷させた ⇒ 美鈴の地雷術式が強烈な光と音響でフィオレーヌの視覚と聴覚を奪って失神に至らしめた。
※ 危険度からして魔法戦のルールに抵触する可能性があったため、このような術式の効果に変更しました。
翌日の土曜日、デビル&エンジェルの面々は初めて葛城ダンジョンへと入っていく。
八校戦の大会中ということもあって今回はさほど無理をせずに、4階層~5階層で主に学生食堂に納入するオークを狩って過ごす。おかげで2週間分の納入ノルマを達成しており、桜はホクホク顔をしている。
聡史だけはブルーホライズンを率いて桜たちとは別行動。来週の月曜日からスタートするチーム戦に備えて、メンバーのレベルを20まで引き上げることを目標にしてまる2日間魔物と対峙する。
おかげで千里がレベル22に、他の五人も全員が目標であったレベル20に到達して、しかも全員新たなスキルを獲得したこともあって、初の大舞台に立つブルーホライズンにとっては収穫の多い土日となった。
◇◇◇◇◇◇
土日の間も忙しなく働いているのは生徒会の面々。生徒会長をはじめとした役員の大半は選手としてトーナメントに出場するだけではなくて、裏方の仕事も務めている。
自校から持ち込んでいる防具や武器の管理、最終エントリーの申し込み、他校との練習場所の調整、参加生徒の体調管理など、役員の肩に伸し掛かる業務は多岐に渡る。
今年の第1魔法学院全体の戦いぶりは、ことに1年生の活躍もあって個人戦では予想以上の成績を上げており、学校全体の獲得ポイントで競う総合優勝にもあと一息で手が届くところまで来ている。
過去3回の八校戦では第1魔法学院が常に総合優勝をしてきただけに、4連覇がかかる今回は役員たちが背負っている目に見えない重圧は相当なものがある。
だが現在、ポイントで2位の第4魔法学院を大きくリードしている状況もあって、少しだけ心に余裕をもって仕事をこなしている。
もちろん油断は大敵。役員の間から楽観的な言動が飛び出ると生徒会長が気持ちを引き締めるように注意を促しているため、大きなリードをしていても皆がいい意味での緊張感を保って月曜日からスタートするチーム戦に臨む決意を固めている。
美鈴はダンジョンへ出向いて不在。チーム戦のオープントーナメント優勝の最有力候補であるデビル&エンジェルに所属している彼女は、今回は雑務を免除されている。
そして現在、美鈴を除いた生徒会役員と元生徒会長の近藤勇人が顔を揃えてチーム戦の最終エントリーを決定する会議を開いている。
司会役の会長が話を切り出す。
「今年の八校戦も前半が終了しました。皆さんと選手が頑張ってくれたおかげでここまで我が魔法学院は好成績を収めています。まずは来年度に向けて個人戦の各種目で何か気づいた点はありますか?」
「会長」
「どうぞ」
「やはり第4魔法学院の留学生は脅威ですね。我が校に特待生が編入していなければ今頃は第4魔法学院がトップを独走していたでしょう」
「その点は僕も幸運だったと考えている。だが運だけに頼るのはどうかとも考えているんだ。もっと個人の魔法技術や戦闘技術を高める必要性を強く感じている」
「種田、その点に関しては俺も同感だ。何か具体的な方策を考えているのか?」
生徒会長を名前で呼び捨てにする人物はこの会議の席には一人しかいない。
「近藤先輩、カギは例の特待生にあると思います。現に彼らは1年Eクラスの女子をダンジョンの5階層に到達するまでに育て上げています。もっと多くの生徒が特待生の下で研鑽を積めば、第1魔法学院はより強固な戦力を維持できるのではないかと考えています」
「さすがだな、俺とは違って頭のキレる奴はいい所に目をつける。これから先はあの特待生の力をさらに活用しようというんだな」
豪放磊落で自ら全体を引っ張っていくタイプの前生徒会長近藤勇人とは違って、現会長の種田篤紀はどちらかというと参謀タイプ。その分視野が広くて、先々を見通した戦略の構築に長けている。
「近藤先輩に褒めていただいて恐縮です」
「お前が腹の底から恐縮なんて考える玉か!」
勇人はガハハハハと豪快に笑いながら現会長をからかっている。いかに切れ者の会長であっても、勇人の前に出るとただの後輩扱いされるのが現実。というのも、元々勇人が会長を務めている時分から副会長に就任していただけあって二人ははなっから気心が知れている間柄。勇人が退任するまでは、グイグイ引っ張っていく会長と裏で支える副会長という名コンビと周囲から見做されていた。
この光景を目撃している役員たちは「また始まった」という表情で会議中であるのも忘れて束の間ホッコリした表情になっている。
「他に何か気づいた点はないかな?」
現会長が話題を戻すと、会計の安田美咲が手を挙げる。
「あの~… 1年Aクラスの浜川茂樹なんですけど、やはり魔法部門のトーナメントに出場させたほうがポイント的にもよかったんじゃないかと思うんですが…」
「安田、それは違うぞ!」
「近藤先輩、どこが違うのか教えていただけますか?」
「まず浜川は、模擬戦週間において自ら近接戦闘部門に出場して1回戦で敗れた。この時点で魔法部門の出場権を自分から放棄している」
「ですが、彼は魔法に関しても相当な実力を持っています」
「それは俺も重々承知している。では、魔法部門で上位に入った生徒はどうするんだ? 彼らだって努力の末に八校戦の出場権を実力で掴んでいる。その人間を無視して勇者だからと言って無理やり浜川を魔法部門に捻じ込むのは道理が通らない」
「それは、その通りだと思います」
「このように道理が通らない事態が発生すると、全体の士気が低下する危険を孕んでいる。高々一部門の成績よりも、全体の士気を維持したほうが健全だと思わないか?」
「近藤先輩、ありがとうございます。やはり公平を重んじて実力主義と機会均等に徹する必要があるということですね」
「どうやらわかってもらえたようだな。生徒会というのは公正な機関であるべきだと俺は考えている。その生徒会が筋を曲げるのは、けっして生徒のためにも学院のためにもならないと心してもらいたい」
現執行部からは身を引いているとはいえ、勇人の言葉の重みは現役員全員が知っている。これが近藤勇人なのだと改めて思い知らされただけではなくて、この場の全員が生徒会役員に課せられた責務に身を引き締めている。
その後、2、3の反省点を検証すると個人戦に関する議題が終わる。続いては、いよいよチーム戦のエントリーが決定する段となる。
「オープントーナメントからだけど、これには異論はないと思う。デビル&エンジェルでいいだろうか?」
チーム戦のエントリーは、オープントーナメントのみ各校から1チームとなっている。各学年トーナメントには2チーム出場するだけに、このオープントーナメントは各校の意地がぶつかり合う特別な舞台となっている。
「楢崎のパーティーか。個人戦ではオープントーナメント両部門優勝に加えて、準決勝で敗れた兄のほうも間違いなく優勝を狙える器だ。そこに加えて1学年トーナメント決勝進出者が2名となると、どこからも文句の出ようはないな」
勇人ですら聡史たちのパーティーが今大会で上げた成績にため息をついている。しかも最大のライバルである第4魔法学院の留学生のうち2名を個人戦で破っているとなれば、文句なしの最有力優勝候補と言って差し支えない。
勇人のお墨付きまで出たのだからデビル&エンジェルのエントリーは満場一致で承認される。続いては1学年トーナメント出場者と話が移る。
「西川副会長の案によると、浜川茂樹率いる〔栄光の暁〕とEクラス女子で結成された〔ブルーホライズン〕の2チームとなっている。何か異論はあるかな?」
司会役の会長の提案に対して、役員全体には「本当にEクラス女子で大丈夫だろうか?」という不安が過る。だが……
「ハハハハハ! 面白い! 実に面白いぞ!」
豪快な笑い声をあげたのは勇人に他ならない。しばし笑ったのちに彼は話を続ける。
「実はな、先日ダンジョンの5階層で楢崎率いるその女子のパーティーと出くわしたが、中々見事な戦いぶりだったぞ! オークを軽く捻っていたからな。あのパーティーだったら十分な活躍が期待できるだろう。それに…」
「近藤先輩、続きは何ですか?」
「Eクラス女子が活躍したら全体の士気が上がる。これこそ一石二鳥だろう」
最弱と見做されているEクラス女子に負けてはならじと、他のチーム全体が奮起することを勇人は狙っているよう。もちろんその目で目撃したブルーホライズンの実力も正当に評価したうえでの話ではあるが…
生徒会執行部を退任した勇人であるが、今回の八校戦に関しては相談役という臨時の立場で生徒会に手を貸している。過去にオープントーナメント優勝まで果たしている誰よりも八校戦を知っている勇人の意見でブルーホライズンの最終エントリーがここに決定する。
その後、他学年の出場者も随時決定して最終エントリーが固まる。出場メンバー表を事務局に提出すれば、あとは月曜日を迎えるだけとなるのであった。
◇◇◇◇◇◇
あっという間に時間は経過して、日曜日の夜を迎える。
葛城ダンジョンから早めに戻ってきた聡史たちはシャワーで汗を流してから夕食を取りに食堂へ集まっている。
「お兄様、予定よりもたくさんの魔物を狩ることができましたわ」
「そうか、こちらもかなりの収穫になったぞ。ドロップアイテムではなくて、ブルーホライズンの話だ。全メンバーがレベル20を超えたからな」
別行動をしていた聡史がダンジョンでの経過を語る。その報告に美鈴は目を見張っている。
「ずいぶんレベルアップが早いのね。うかうかしていると私たちも追いつかれてしまうかもしれないわ」
「美鈴ちゃん、そうならないようにこれからもガンガン深層に潜ってレベルを上げるんですよ」
桜の戦闘狂の荒ぶる魂が燃え盛っている。もうちょっと落ち着いてもらわないと今度はどこに連れていかれるかもわからないので、美鈴、明日香ちゃん、カレンの3人は引きつった顔で聡史に視線を送る。だが…
「転移魔法陣があれば、一直線で20階層まで行けるからな。いよいよ大山ダンジョン最終攻略も近いな」
「さすがはお兄様ですわ。すでに最下層の攻略まで視野に入れているとは! 先陣は私が務めますので心おきなく最下層へ向かいましょう」
火に油という結果に終わる。燃え上がる桜の魂は、ますますその色合いを濃くして地獄の業火のごとくに燃え盛っている。
「はぁ~… なんだか気が重くなってきたわ」
「ずっと八校戦が続いてくれたら、デザートも食べ放題なのに… 帰ったらあの悪夢が待っているんですか」
「あまり急に物事を進めないで、できれば基礎を固めて一歩ずつ行きましょう」
女子3人に弱気の虫が湧いている。というよりもダンジョンの最下層なんて、そうそう行きたいと考えないだろう。普通の人間ならば…
だが普通でない人間が声を大にして発言する。
「皆さんは何を甘っちょろいことを言っているんですか!『ダンジョン攻略は迅速をもってなすべし』と偉人が言葉を残していますよ」
「桜、その偉人というのは誰のことだ?」
「私です」
「はっ?」
「私ですわ。攻略最短日数7日を達成した折に、冒険者ギルドのマスターに申し伝えました」
「拙速を絵にかいたような展開が待っていそうな響きしか感じないぞ」
「お兄様、どうかご安心を。この私が日本中全てのダンジョンをいずれは攻略いたしますから、どうか皆さんは安心してついてきてください」
「「「不安しか感じないだろうがぁぁぁぁ!」」」
美鈴、明日香ちゃん、カレンの叫び声が、大勢の他校の生徒もいる食堂に響き渡るのであった。
次回からはいよいよチーム戦トーナメントが始まります。投稿は明日の予定です。どうぞお楽しみに!
何とか2話分のストックができたので、気持ちを切り替えて仕事に邁進中。まとめて仕事を片付けたら、再び週末の投稿に向けて準備を始めます。
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