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91 個人戦決勝 3

いよいよ桜が決勝戦に登場… でもなんだか様子が…

 八校戦において個人戦の最終種目である近接戦闘部門オープントーナメント決勝戦がいよいよ始まる。


 決勝までコマを進めた二人が控室を出て入場のアナウンスを待つ。


 青の入場門の前に立つ桜はまったく気負った様子もなく、普段通りにこれから始まる戦いを楽しみにする表情で軽くジャンプしながら体を温めている。



「さて、軽く相手をして差し上げますわよ。留学生がどの程度の腕をしているのか実際にこの目で確かめるのも一興ですね」


 その口振りは既に自らの勝利を確信しているかのよう。


 対して赤の入場門に控えるマギーは口を真一文字に結んでこれから始まろうとする一戦に向けて気持ちを引き締めている。



「噂の兄妹がどの程度の力を持っているのか、この目で確かめてやるわ」


 こちらも桜同様に勝利を確信した態度で試合を迎える様子が窺える。それだけではなくて世界一の超大国の威信を両肩に背負っているかのような祖国を代表する誇りを持った凛とした表情。そしてまだ明かされてはいないが、彼女はこの対戦を通して得るべき秘匿された意図もある。



「ただいまから近接戦闘部門オープントーナメント決勝戦、第1魔法学院楢崎桜対第4魔法学院マーガレット=ヒルダ=オースチンの対戦を開始いたします」


 アナウンスとともに両者がフィールドに姿を現す。桜とマギー双方ともに、武器を手にしないで両手にグローブを嵌めたスタイルでこの決勝戦に臨んでいる。桜の戦闘はご存じの通り肉体そのものを武器に使用する格闘戦であるが、マギーも同様に全身を武器にして戦う桜と共通したスタイルのよう。


 開始戦を挟んで睨み合う両者の姿は、まるでこれから総合格闘技のタイトルマッチが始めるかのような雰囲気を湛えている。


 桜にガンをつけるがごとくに鋭い視線を送っていたマギーのほうから口を開く。



「ついにあなたの化けの皮を剥がれる瞬間が来たわね。今からあなたは私の前に屈服するのよ!」


「まあ、これは驚きですわ! 私の前でこれだけの大口を叩ける人間なんて、久しぶりに目にしましたわ」


 桜は目を見開いて驚きを示している。桜の実力を知らずに叩きのめすと宣言した東十条雅美のような者は過去にもいたが、これまでのトーナメントで公開してきた戦いを目の当たりにしているにも拘らず、マギーがこれほどの自信をもって放ったセリフに対して真顔で驚いている。



「私は全米でナンバーワンの現役冒険者よ。その程度の実力では私の足元にも及ばない厳然たる事実をあなたは今から思い知るの」


「私の実力ですか… もしそれを知ったらあなたは冗談抜きで死にますよ。まあ、それなりに手加減はするつもりですが」


 桜は口でも負けていない。マギーを頭ごなしに見下すような物の言い方をしている。他の人間がこのようなセリフを吐いたらその場で殴り掛かられても仕方ないであろうが、何しろ口にしたのは自他ともに認める絶対強者である桜。このような挑発など戦いが始まる前の基本的なマナーの初歩のさらに初歩だと考えている。むしろ挑発には挑発で応じてしてあげないと失礼に当たるなどと、真剣に信じているのかもしれない。



「呆れたわね。その強気がいつまで続くか覚えておくといいわ」


「ご安心くださいませ。私の強気は永遠に続きます。信頼と保証のジャパネットやかた並みの安心感です」


「安心感が安っぽすぎるだろうがぁぁぁぁ!」


 突然二人の間に割り込むようにスタンドの最前列から聡史の声が響く。桜に突っ込めという天の声が聞こえてきたのだろう。けっして出番がないから強引に割り込んでわけではない。


 だがこの聡史のツッコミがヒリつくように緊迫感に包まれていた会場の雰囲気を和らげる効果を発揮している。声を出すのも憚られるピリピリしたムードが平常化して、ようやくスタンドをぎっしりと埋めている観衆が声を出せる環境を取り戻す。



「どっちが勝つんだろうな?」


「まったく予想がつかない」


「第1の代表は準決勝であっち向いてホイの結果で勝ち上がったと聞いているぞ」


「バカ! お前は見ていなかったからそんな呑気なことを言えるんだ! とんでもない轟音が鳴り響いた凄い試合だったんだからな」


「えっ! そうだったのか? てっきり俺は第4が勝つと思っていたんだが」


「確かに第4の代表も強烈な印象を残しているのは間違いないから、いい勝負になるだろうな」


 スタンドの生徒からはこの試合を行く末を占う様々な予想が飛び交うが、彼らの意見は結局はどちらが勝つかわからないという結論が大勢を占めている。




 ようやく環境が整った会場で、いよいよ決勝戦が開始。



「決勝戦、開始ぃぃ!」


 審判の声が響くと今後は別の緊張感が広がって、再び会場全体が息をのんでフィールド上の両者を見つめる。開始戦に立つマギーは隙あらば懐に飛び込もうという前傾姿勢で構えているのに対して、桜はいつものように両手をだらんと下げたままの自然体で待ち構える。


 

「構えも取らないで余裕を見せていると、あとから後悔するわよ!」


 その姿を見て取ったマギーは、一向に構えようとしない桜に向かって警告を発している。そのセリフを待ってましたと言わんばかりの桜。対戦相手に一度は投げ掛けてみたい桜的セリフ第5位を口にする絶好の機会が巡ってきている。思いっきり胸を反らして声高々に発したそのフレーズは…



「フフフ、真の帝王には構えなど不要!」


「どこの聖帝様だぁぁぁ! 今日の食事は口に合わないと言うつもりかぁぁぁ!」


 再びスタンドの最前列から兄のツッコミが炸裂する。今年の魔法学院全ての生徒の頂点を決めようという対戦においてこの桜のセリフ。聡史にとって盛大に突っ込むべしという神様からの預言が下された結果だろう。けっして出番が欲しかったわけではない。繰り返し述べておくが、主人公のはずなのに決勝に出られなかった憂さを晴らしているわけではない。 



「お兄様はいちいちうるさいですねぇ。試合に集中させてもらいたいですわ」


「急に真面目か! いいから無駄口を叩かずに相手に集中しろ!」


 桜はマギーではなくてスタンドの最前列の兄に視線を向けている。試合開始が告げられているのだからもっと相手に集中しなければならないのは桜も重々承知。それでもなおかつ、つい癖で聡史のツッコミに反応してしまう桜。もはやこのような兄妹の遣り取りは伝統芸能の域に達している。


 この様子を見たマギーは…



「チャンス!」


 その目がキラリと光ると、マギーの体は一陣の風となって流れるような動きを開始する。風となったマギーは横を向いている桜目掛けてほんの一瞬で接近して必殺の右のストレートを叩きこむ。


 スカ!


「えっ?!」


 完全に仕留めたとマギーは確信していたよう。だが自信を持って放ったパンチが空を切る手応えにマギー自身が驚いている。パンチが届く直前まで目の前にいたはずの桜が急に姿を掻き消した状況に目を見開いている。



「どこを見ているんですか? 私はこちらですわ」


 マギーが振り向くと桜は真後ろに立っている。あの瞬きすら叶わない刹那の時間で、桜は驚くほどの距離を移動した計算になる。この事実にマギーは脳内で演算した結果を冷静にはじき出そうとするが、解答不能という計算結果が生み出されるだけ。



「風と一体になった私の動きが通用しないようね」


 マギーのセリフに、桜はまたしても待ってました顔に変わる。対戦相手に一度は投げ掛けてみたい桜的セリフ第8位を口にする絶好の機会が巡ってきたよう。思いっきり胸を反らして声高々に発したフレーズは…



「フフフ、風の動きを制するのは、光の動きのみ! 光の動きは誰の目にもとまらぬ!」


 自信満々の表情で腰に手を当てて言い放つ桜。この様子にスタンドの別の場所から呆れた声が上がる。



「また桜ちゃんのドヤ顔が始まりましたよ~。本人はあれでいいことを言ったつもりになっているんです」


「明日香ちゃん、そこはそっとしておいてあげましょう。大していいことを言えていないなんて指摘したらダメよ」


 明日香ちゃんと美鈴の会話が聞こえてきた桜はガーンという表情になって固まっている。殊に美鈴の追撃が精神的に大ダメージを与えているよう。



「そ、そんな… 完璧に決まったと思ったのに…」


 小声でブツブツ呟く桜… その表情からはつい今しがたまでの自信がすっかり影を潜めている。どうやらこの試合において桜の最大の敵は自分自身とスタンドから足を引っ張るパーティーメンバーのよう。


 さらにスタンドからはカレンがトドメの一撃をぶっ放す。



「厨2病は明日香ちゃんだけだと思っていましたが、どうやら桜ちゃんも影響されているようですね」


 カレンの言動に真っ先に反応したのは名指しで厨2扱いされた明日香ちゃん。



「誰が厨2病ですかぁぁ! 私はいたって正常な高校生ですよ~」


「明日香ちゃん、ちょっとは自分を見つめる努力をしましょうね」


「そうですよ、明日香ちゃん。美鈴さんが言う通りですからね。お薬を増やしてもらったほうがいいんじゃないですか? なんだったら致死量を超えても大丈夫です! 私の回復魔法で命だけは取り留められますから」


 明日香ちゃんが、美鈴とカレンから集中砲火を浴びてノックダウン寸前まで追い詰められている。ついに明日香ちゃんは二人によってこの場で厨2認定されてしまって、口から白いものを吐き出して白目を剥きかかっている。



「美鈴ちゃんとカレンさん! 私は明日香ちゃんとは違って厨2病ではありませんから!」


 必死になってフィールドからアピールする桜ではあるが、二人の反応は…



「五十歩百歩よね」


「桜ちゃんもお薬を多目に処方してもらったほうがいいと思います」


 身も蓋もない美鈴たちの塩対応に桜はついに涙目になっている。完全に試合中だと忘れているかのよう。



「チャンス再来!」


 これを好機と捉えたマギーは先程よりもさらに速度を上げて桜に迫るが、またもやその奇襲は失敗に終わっていつの間にか桜に背後を取られている。これにはマギーも相当に頭にきた表情。ブチ切れる寸前といっても過言ではない。



「いい加減真面目にやれぇぇぇぇ! 私の存在感がどこにもないだろうがぁぁぁぁ!」


 どうやらキレる寸前というのは間違いだったようで、マギーは既に完全にキレている。



「そんなことを言われても… 今一番大切なのは美鈴ちゃんとカレンさんの大きな誤解を解くことですわ」


 桜にとって厨2疑惑を解くことが現在の最大の課題となっている模様。決勝戦という大事な試合はどうするつもりなんだ? 桜の脳内では事の優先順位がどうなっているのか開けて調べてみたい。



「美鈴とカレンが桜の厨2問題を否定しないと、ずっとこのままの調子になりかねないぞ」


 見るに見かねて聡史が横から口を挟む。このままでは一向に決勝戦が進行しないから、二人に何とかしてもらいたいと切望している。聡史にこうまで言われると美鈴とカレンは弱い。渋々ながら桜の厨2疑惑を否定する。



「そ、そうよね! 厨2病を患っているのは明日香ちゃんだけよね。ホントウデスヨ」


「そうです! 明日香ちゃんだけが真の厨2病で、桜ちゃんなんか軽症も軽症ですから全然問題外です。マチガイアリマセン」


 二人の棒読みのセリフではあったが、残酷にも明日香ちゃんにトドメを刺した模様。この場で息を引き取って明日香ちゃんは帰らぬ人となっている。


 そして桜は明日香ちゃんの尊い犠牲を礎にして見事なまでの立ち直りを見せている。



「フフフ、やはり私は誰から見ても真っ当な人間という結論に達したようですね! さあ、それでは試合を再開しましょう」


「単純か!」


 控えめな声で飛び出した聡史のツッコミは無視した桜がようやく気力を取り戻すと、ここからまともな決勝戦がスタートする。ここまでどれだけ余計な時間がかかったか、ちょっとは反省してもらいたい。桜には試合後に美鈴と聡史二人掛かりの説教を食らわせるべきだろう。



「やっとまともな試合ができそうね」


「対戦者があまりにも存在感がなかったので、ついつい他のことに気を取られていましたわ」


 一度キレたマギーを桜は煽りに煽る。この娘は異世界で散々対人戦を繰り返しただけあって、どうすれば相手を効果的に煽れるのか熟知している。戦闘以外の駆け引きにおいても、相手にマウントを譲る気などさらさらない。敵に回すと本当に恐ろしい戦闘の超エキスパートがここにいる。


 だがマギーも相当に場慣れしている。意図的に煽ってくる桜の手口などすっかりお見通しという表情で逆に煽り返す。



「今から私の存在感をその体に叩き込んでいくわ! あとから吠え面かいても手遅れよ」


「うーん… 果たして私に存在感を叩き込めるかは、どうにも疑問の余地が残りますね。まあいいでしょう、お好きなタイミングでかかってきていいですわ」


 あくまで上から目線で押し通所存す所存の桜。この気の強さは尋常ではない。


 こうして脱線に脱線を重ねた決勝戦はここから本格的な戦いを繰り広げる。


 だが関係者一同はすっかり忘れている。尊い犠牲となって椅子にもたれかかって泡を吹いている明日香ちゃんだけが、会場の熱気からポツンと取り残されているのであった。



どうも不満が残る決勝戦となって、スッキリした決着をお望みの読者の皆様も多いことと存じます。そこでご安心いただきたい! 本日の夕方にこの続きを投稿いたします。作者自身のスケジュール管理を根底から崩す恐れのある危険な行為ですが、今日中にお届けできるように頑張ります!


ということで、この続きはもうしばらくお待ちくださいませ!

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