90 個人戦決勝 2
土曜日の投稿に間に合わなかったぁぁ! 申し訳ありませんです。ということで、あまり目立たないように夜中にコッソリと投稿いたします。
美鈴とフィオレーヌが激突するオープントーナメント魔法部門の決勝戦が開始された。
魔法による模擬戦の場合、相手に先に魔法を当てたほうが圧倒的に優位に立てる。この大会でも大抵の魔法使いは開始の合図があると同時に魔法を発動してより早く相手に魔法を当てようと企図するケースがほとんどだったといえる。
だがこの決勝戦では様相を異にしている。美鈴とフィオレーヌは相手の出方を窺いながら、どのように有効な魔法を発動していくかを慎重に探り合っている。というのは、これまで双方が勝ち抜いてきた1回戦からの試合の中で、ある程度互いの手の内が明らかになっているから。
具体的に説明すると美鈴とフィオレーヌには相手の魔法を無効化する手立てがある。美鈴は魔法シールドや物理シールドを瞬時に発動できるし、フィオレーヌは強固な結界を築くことが可能。
個人が保有する魔力は有限である以上は魔法の無駄撃ちを避けたいのは山々という心理が働いているよう。その結果として二人の間には目に見えない激烈な駆け引きが行われており、それは外野から見ると何もしないでただ睨み合っているように映っている。
「聡史さん、美鈴さんが攻めあぐねているようですね」
スタンドで観戦している千里はこの様子を見て聡史に意見を求めている。この状況を見ただけで美鈴が攻めあぐねていると看破するのは千里が持っている魔法センスに由来する戦術眼であろう。
「いい分析だ。美鈴だけではなくて相手も美鈴をどう攻めるか相応の迷いが生じているようだな」
「ということは、今のところは互角なのですか?」
「いや、相手のほうが総合的に勝っているから、いずれは美鈴が劣勢に追い込まれるだろう」
聡史の予測に千里はやや不安そうな表情を浮かべる。自分に懇切丁寧に魔法の初歩を教えてくれた、いわば師である美鈴が負けるシーンを彼女自身見たくないという心理が働いているかのよう。
フィールドで睨み合っている美鈴とフィオレーヌの戦力分析については、聡史の見立てが正確に現状を言い表している。ステータス上のレベルだけを比較しても美鈴が33に対してフィオレーヌは50に近い高い数値に達している。これが世界の層の厚さであって、日本国内だけで争っていても所詮は井の中の蛙なのかもしれない。聡史と桜の兄妹が飛び抜けているだけで、他の人間は世界的に見てもさほど優れている状況ではないというのが実際のところかもしれない。
2分近い睨み合いが続く中で先に動き出したのはフィオレーヌ。意を決した表情で最も得意な魔法を発動する。
「我が命に応えて地に降り注げ。氷の流星群!」
その短い呪文が発せられると、フィールドの上空100メートルに真っ黒な雲が湧き起こる。急激に雲が形成されて周囲の気温が急激に下降したと思ったら、暗雲の内部で生み出された氷の礫が雨あられと美鈴に向かって降り注いでいく。
「物理シールド!」
美鈴は地面から伸びて自分を覆うような斜め屋根状のシールドを瞬時に構築すると降り注ぐ氷の礫を防ぎとめる。
「我が命に応えて地に降り落ちよ! 氷の流星群!」
さらにフィオレーヌは美鈴の左右に同様の2つの雲を作り上げて、3方向から氷の雨を降らせようと企む。
「物理シールド!」
だが美鈴は同様の物理シールドを自分の左右に作り上げてこれを防いでいく。
もちろんこの展開はフィオレーヌにとっては想定内。さらに美鈴の後方にも同様の雲を作り上げて360度全ての方向から激しい氷の雨を叩き付ける。どうやら力任せに美鈴のシールドを破って、この試合の勝利をもぎ取る方針を選択したよう。
さらにフィオレーヌは四方から氷を降らせる雲を維持しながら、美鈴に向けて真正面から強力な魔法を放つ。
「我の命に従いて全てを貫け! アイスアロー!」
長さ2メートルを超える先端が尖った氷の矢が美鈴のシールドに襲い掛かる。フィオレーヌは実に同時に5つの術式を操って美鈴を一方的に攻め立てている。対して美鈴は現段階で同時に発動可能な術式は2つに過ぎない。フィオレーヌの魔法操作の能力がどれ程のものか、この事実だけでも明らかであろう。
美鈴はフィオレーヌの猛攻を受けて防戦一方のように映る。ひたすら物理シールドを重ね掛けして、飛びすさぶ氷の圧力に抗している。時折美鈴のシールドが割れる音が響くが、その度に彼女はシールドを内側に追加して氷による攻撃を辛うじて防いでいる状況。
5分以上に及ぶフィオレーヌと美鈴の鬩ぎあいが続くが、攻めるフィオレーヌと守る美鈴は、魔力をひたすら術式につぎ込んでこの攻防を維持している。どちらかが一瞬でも気を抜くとあっという間に形勢が逆転するだけに、懸命に魔力をつぎ込んでは現状を維持している。
レベルにして15以上も上回るフィオレーヌに対して美鈴の戦線維持が可能なのは、ひとえに彼女のスキルが強く影響している。彼女の固有スキルである魔法ブーストが実際のレベルよりも強力な防御力を発揮している。仮にこのスキルがなかったら美鈴のシールドはあっという間に破られて、フィオレーヌに敗北している可能性が高い。
「このままではジリ貧ね」
防御に徹していればある程度この状況を維持できるが、フィオレーヌに一方的に攻められている現状を打破できない。どこかで攻めに転じなければ勝ち目がないことは美鈴自身が一番わかっている。現にシールドを1箇所築くたびに美鈴の魔力はガリガリと削られて、今ではかなり心許なくなっている。
「一か八かで始めるしかないわね」
美鈴は決断したように頷くと、小声で術式名を呟く。
「掘削」
地面に指先が通るくらいの小穴をあけていく美鈴。彼女の指には先日大山ダンジョンの20階層でボスを倒した際に手に入れたマジックリングが嵌められている。その中でも茶色い魔石が取り付けられているリングが一瞬のキラメキを放つと、美鈴の足元に小さな穴を穿っていく。
美鈴は地面にあけた小穴を地中を通して、こっそりとフィオレーヌが立っている方向に向かって伸ばしていく。それだけではなくて土魔法に気付かれないように、シールドのわずかな隙間から攻撃魔法を放っていく。
「ファイアーボール!」
宙を飛翔する炎だが、もちろんフィオレーヌにあっさりと対処される。
「結界構築!」
彼女を取り囲むように周囲に全ての攻撃を防ぎとめる結界が構築されると、美鈴が放ったファイアーボールはその結界にぶつかって四散する。
ここまで防御に徹していた美鈴が、ここにきて攻撃の姿勢を見せたことに対して、フィオレーヌの心の中に様々な疑念が湧き起こる。
(魔力の残量が危なくなって一か八かの攻撃に出てきたのでしょうか? それとも何らかの思惑があっての牽制という可能性もありますね)
フィオレーヌには美鈴がこっそり発動した魔法に気付いた様子がない。それは美鈴の演技が上手かったせいもある。後方のシールドを重ね掛けしようとわざと後ろを向いてその際に土魔法を発動していたので、フィオレーヌには完全にブラインドになっていたよう。しかも魔法は地面の下に小穴をあけているだけなので、地表には何の変化も見当たらない。
美鈴は懸命に精神を集中して地面の下を穿つ穴をフィオレーヌが立っている真下まで伸ばしていく。その間にも次々と破られていくシールドを補修したり隙を見てはファイアーボールを放ったりと、過去に経験してこなかったレベルの精神集中を余儀なくされている。あまりに集中しているその表情は、当然ながら眉間に皺が寄ってあたかも苦悶しているかのよう。
だがその表情を見て取ったフィオレーヌは、この美鈴の表情を別の意味に解釈してしている。
(やはり魔力切れが近いようですわね。このまま力押しで行けば、いずれは魔力が切れて立っていられないくなるでしょう)
少しでも魔力を削って美鈴を追い込んでいこうと、フィオレーヌはますます攻勢を強めていく。シールドに当たる氷の礫は勢いを増すだけではなくて、正面から飛来するアイスアローは飛翔間隔が短くなって3発に1発は確実に美鈴のシールドを貫いていく。
(あと一息)
すでに美鈴の魔力は残量が25パーセントを切っている。彼女は残り僅かな魔力のほとんどを地中にあけた小穴につぎ込んで、シールドの維持は最小限にとどめている。
この状況を見たフィオレーヌは嵩に懸かるかのように攻勢を強める。美鈴の魔力を全て奪い去ろうという勢いで氷の礫と矢が宙を飛び交う。
美鈴は究極の集中力をもってしてひたすら地中の穴に意識を向ける。すでに魔力は残り15パーセントを切った危機的な状況。魔力が少なくなるとともに美鈴の額には汗が浮かんで呼吸が荒くなっていく。フィオレーヌにとっては、美鈴を追い詰めているという実感がますます募っていく。事実その通りであるのは間違いない。そして…
(届いた!)
ついに美鈴が地中にあけた小穴がフィオレーヌの足元まで到達する。聡史の意見を基にして二人三脚で作り上げたこの決勝で僅かな勝利の機会を掴む術式。それがようやく発動の瞬間を迎える。
彼我のレベル差を考えれば防戦一方に追い込まれるのは承知のうえ。ただひとつこの術式によって最後の逆転のチャンスをものにしようと、何度も聡史に協力を得て練習し二人で作り上げていた。これを絶対に成功させなければ美鈴に逆転の目はなくなる。まもなく訪れる魔力切れとともに、意識を失って敗北の瞬間を迎える運命が待ち受けるはず。
(お願い、成功して!)
テストの段階で上手く発動したのは3回に1回に過ぎない。だがレベルにおいてフィオレーヌに後れを取る美鈴はこの術式に賭けるしかない。
フィオレーヌが立つ足元には美鈴の魔力が静かに広がっていく。周囲はフィオレーヌ自身が展開した結界によってどこにも逃げ場がない閉鎖された空間となっている。聡史はこの状況まで見越したうえで、この術式を美鈴に提案している。なんという先々を見越した戦術眼であろうか! レベルにおいて圧倒的に劣勢の美鈴に勝利のワンチャンスをもたらす方策… ここまで来れたのは全ては聡史のおかげだと美鈴の心に温かいものが流れ込んでくる。
「クレイモア!」
美鈴の口からはっきりとした術式名が飛び出す。クレイモアとは本来は大剣の呼称であるが、もう一つ米軍によって別種の武器の名称にも使用されている。それは地中に仕掛けられてその上を通行する人や車両を破壊する悪魔の兵器の名称。日本語では〔地雷〕と呼ばれている。美鈴は土魔法で地面を掘削してからその小さなトンネルに自らの魔力を通し、フィオレーヌに気付かれないように彼女の足元を自らの魔力で満たした。
あとは、この術式が発動してくれれば美鈴の勝利が決定する。祈るような気持ちで結果を見つめる美鈴、地中を伝わる術式が発動するまではいくばくかの時間を要する。その間にもフィオレーヌが飛ばしてくる氷の槍がシールドを破壊していく。
正面に展開しているシールドはすでに残り1枚となっており、この1枚が破れると美鈴は空から降り注ぐ夥しい氷の礫にその身を晒すこととなる。
美鈴の魔法が発動するか、それともシールドが先に破れるか、1秒1秒が永遠に感じるほどのゆっくりとした流れに感じてくる。そして…
ズドドーン!
フィオレーヌが展開する結界の足元で目が眩むほどの光と轟音を伴う爆発が発生。その瞬間に美鈴の最後のシールドがパリンと音を立てて破れる。
空から降り注ぐ氷の礫が自分の体を直撃してくる恐怖に美鈴は思わず目を瞑ってしまう。
だが恐る恐る目を開くと、すでに宙に浮かんでいる真っ黒な雲は形を失って霧散している。空から降り注ぐ氷の礫はもうどこにも見当たらない。
美鈴は視線を正面に戻して対戦していたフィオレーヌの姿を探すと、薄れていく煙の中で地面に倒れている様子が目に飛び込んでくる。フィオレーヌが意識を失っているため、魔力の供給が途絶えた結界はすでに消え去っている。
閉ざされた空間で爆発が足元から直撃したにしては、まともに食らったフィオレーヌ体には目立った外傷が見当たらない。美鈴が発動したのは爆発の威力を最小限にとどめてその分強力な光と音で視覚と聴覚を奪って、場合によっては三半規管に伝わる衝撃で意識まで奪い去る術式。スタングレネードという、相手を殺傷せずに無力化する敵の鎮圧用に用いる武器を参考にして聡史が考案していた。
「カレン!」
美鈴はスタンドの最前列に陣取っているカレンを大声で呼ぶ。カレンはフェンスを身軽に飛び越えてフィールドに入ってくる。
「勝手にフィールドに入ってはならないぞ!」
「回復魔法を使用するだけですから」
その様子を見て審判が慌てて止めようとするが、カレンの一言でその行動を認めざるを得ない。
倒れているフィオレーヌに向かってカレンが回復魔法を掛ける。その様子を間近で美鈴と審判が見つめる。
しばらく様子を見ていると、意識を失っていたフィオレーヌの目が薄っすらと開いてくる。顔色には赤みがさして次第に目のピントが合ってくると、フィオレーヌの口からハッキリとした言葉が紡がれていく。
「見事な魔法でした。まさか足元が爆発するとは思ってもみませんでした。私の負けです」
この言葉を聞いた審判は、試合の判定を下す。
「勝者、青!」
本来ならフィールドに乱入してきたカレンの行動は反則を取られてもおかしくない。だが負傷したフィオレーヌを助けようとする行動であったとこの場で正式に認められたよう。後から異議を申し立てても一切認めないという強固な意志が審判の目に宿っている。
「「「「「「「「「「ウオォォォォォォ!」」」」」」」」」」
スタンドからは会場全体を揺るがすような大歓声と惜しみない拍手が湧き起こる。これほどレベルが高い魔法戦はこれまで誰も目にしてこなかった。敗れたとはいえフィオレーヌは攻めも攻めたり。そして劣勢にじっと耐えて最後の最後に見事な逆転劇を演じた美鈴の驚くべき魔法技術。彼女たちの攻防の全てが称賛に値する。
ほぼ一瞬で勝敗がつく魔法戦にしては異例の12分に及ぶ好勝負に誰も異を唱えないし、この結果を受け入れている。そしてフィオレーヌを助けるために迅速な行動をしたカレンにも惜しみない拍手が送られる。
こうして世紀の名勝負と呼ぶべきオープントーナメントの魔法部門決勝戦は美鈴の優勝で幕を閉じる。個人戦で残るのは、桜Vsマギーの一戦のみとなるのであった。
次回はいよいよ最後の個人戦決勝を迎えて、あの暴虐の人物が登場…… 投稿は火曜日の予定です。どうぞお楽しみに!
本日のランキングは60位台となっております。もう少し上に行けたら嬉しいなぁ…
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