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89 個人戦決勝 1

いよいよ個人戦の決勝開始です。

 八高戦は4日目を迎えて、いよいよ個人戦各種目の決勝戦が行われる。


 各種目の決勝戦は全て第1屋外訓練場で実施されるとあって、この日は朝からいい席を確保するために各校の生徒が続々と詰め掛けている。


 もちろん第1魔法学院の生徒たちも例外ではなく、指定された応援席はあっという間に埋まっているのはいうまでもない。


 そのような中で、聡史はギリギリまで美鈴と決勝の戦術打ち合わせをしていたため彼がスタンドに姿を現した時には後方の座席しか空いておらず、已む無く一番後ろの席に腰を下ろそうとする。だが…



「師匠! こっちですよぉぉ! 師匠のために席を確保しておきましたぁぁ!」


 スタンドの下から聡史を呼ぶ声。桜さえも凌ぐ馬鹿デカい声の主はもちろん美晴。スタンドに姿を現した聡史に真っ先に気が付いて大声で呼び掛けている。彼女の右手には竿に巻いた派手な布地が存在感を醸し出している。決勝戦は大漁旗をはためかせて応援する気満々の様子。



「わざわざ席を取ってもらってすまなかったな」


「せっかくの決勝戦をこうして間近で見られるんですから師匠と一緒に応援したかったんですよ~」


「それにしても、昨日の師匠は残念でしたね」


「正々堂々とあっち向いてホイで決着をつけたんだから、全然気にしていないぞ」


 ブルーホライズンに取り囲まれながら聡史は昨日の桜との激戦を振り返っているが、その表情には悔いはないよう。むしろ妹に4連敗を喫したとはいえサバサバした表情をしている。そもそもジャンケンやあっち向いてホイで勝った負けたと騒ぐほうが間違いだと彼自身考えているのだろう。



「それよりも師匠、桜ちゃんからあんな強烈なパンチを食らって本当に大丈夫なんですか?」


「そうですよ! 30メートルも吹き飛ばされて地面に3回バウンドしていましたから、師匠が立ち上がるまでは心配で心配で生きた心地がしなかったんですよ」


 渚と真美が聡史のダメージを心配するが、それをよそに聡史は全くの平常運転。



「ああ、あのくらいのパンチなら桜と俺で訓練している時にしょっちゅう食らっているから、特に心配する問題ではないな」


「タフすぎるぞぉぉ! 師匠はどこまで丈夫にできているんですかぁぁ?!」


 聡史の話を聞いた美晴が驚きの声を上げている。このところ散々桜からパンチの雨あられをもらってその度にダウンを喫しているだけに、聡史の頑丈さが信じられない様子。もっとも桜が大幅に手加減しているからこそ、美晴は無事にこの場にいられる。



「でも、それでこそ私たちの師匠よね! タフで頼り甲斐があって!」


「私たちはどこまでも師匠についていきますから!」


 恵美とほのかが口を揃えて聡史を褒めちぎっている。本当に彼女たちから愛されている聡史だが、ここまで大っぴらに褒めそやされてやや居心地が悪そうな表情。


 だがこれまで敢えて口を出さなかった千里が聡史に気になる点を質問する。



「師匠、美鈴さんの決勝戦ですが相手はかなり強力な留学生の魔法使いです。勝算はありますか?」


 千里は同じ魔法使いとして美鈴の試合の行方を案じている様子。表面的な相手の魔法の威力ではなくて、その魔法原理や術式に込められている高度な内容について気が付いているよう。千里の懸念を聞いた聡史は彼女が持っている魔法センスの高さに逆に目を細めている。



「千里が心配するのはもっともだな。普通に戦ったら美鈴でも圧倒される相手だと俺も考えている。だがこの大会は、何も勝つためだけに存在しているわけではないぞ。何かを発見して自分の能力や技術に生かせれば、それだけで真の目的を達しているんだ」


「さすがは師匠だな。含蓄があるぜ!」


「美晴は師匠の言葉の意味を半分も理解していないでしょうがぁぁ!」


「そ、そんなことはないよ~! 何事も勉強だと師匠は言いたいんだろう!」


「そうだ! 美晴の答えで大体合っているから、全員この大会で何かを学び取るんだぞ」


 何事も考えるよりも先に行動という脳筋の美晴にしては珍しく聡史から合格をもらえる回答。これは奇跡だろうかとメンバーたちは目をパチクリしているのを尻目に、ひとりだけ美晴はドヤ顔で踏ん反り返っている。


 このメンバーたちの仲の良さと、何でも言い合える関係性がブルーホライズンのパーティとしての結束の強さと互いをフォローし合う絶妙なチームワークを生んでいる。つい最近加入したばかりの千里もすっかり打ち解けてずっと一緒に戦っているような雰囲気で他のメンバーたちの間に馴染んでいるのであった。



 


   ◇◇◇◇◇





 時刻は午前9時半、いよいよ各種目の決勝戦が開始される。近接戦闘部門と魔法部門のトーナメント決勝が交互に組まれており、午前中に1、2学年決勝、午後には3学年とオープントーナメント決勝が予定されている。


 そして個人戦決勝のトップを切って登場したのは明日香ちゃんとカレン。ヤル気のない態度は一旦封印して真面目な表情で開始線に立っている明日香ちゃんと、今回こそはリベンジを誓うカレンの姿がフィールドにある。



「決勝戦、開始ぃぃ!」


 合図とともにカレンの猛攻がスタートする。メイスを左右から振りかざして明日香ちゃんの槍を弾き飛ばそうと迫る。だが明日香ちゃんもさるもので、カレンを上回る技量を生かして巧みな槍捌きでメイスの猛攻を凌いでいく。



「すげえ打ち合いだな!」


「槍の穂先がブレて見えるほどの素早さですよ!」


「槍とメイスが唸りを上げてぶつかり合うって、尋常な戦いじゃないわよ!」


 美晴、恵美、渚の3人が、感嘆した声を上げている。彼女たちはすでにレベル17に達しており、各自の盾や槍のスキルはランク3まで上昇している。だからこそこの激戦の模様をハッキリとその目で捉えられている。


 

「師匠、カレンさんって本職は回復役ですよね。本来なら後方支援要員なのに、最前線に立っていても十分にやっていけるんじゃないですか?」


「まあ、身を守るために始めた棒術だけど、桜の指導に熱が入っていつの間にかこんな姿になっていた」


 真美の質問に聡史が苦笑いしながら答えている。聡史たちのパーティーでは護身術のはずが身を守る範疇を大幅に超えてしまうらしい。後方支援要員でも前衛以上に働けるという、まったく常識から逸脱したパーティーだといえよう。


 時折カレンの背後に撲殺天使のスタンドが浮かび上がるが、まあこれも無理もない現象であろうと自ずと頷けてしまう。



 明日香ちゃんとカレンの決勝戦はしばしの打ち合いが続くが、前回の模擬戦と同様に時間の経過とともに明日香ちゃんが優勢に試合を進めだす。


  パシッ!


 そして前回同様に明日香ちゃんの槍がカレンの小手を叩いて、カレンはついにメイスを取り落とす。そのまま喉元に槍の穂先を突き付ける形で勝敗は決する。



「勝者、青!」


 遂に明日香ちゃんが全国の魔法学院1年生の頂点に立ってしまった瞬間を迎える。同時に八高戦の近接戦闘部門で女子が優勝したのは初という偉業も達成している。


 だがこのような誰もが羨む偉業は明日香ちゃんにとってはどうでもいい話。いま最も彼女が気にかけているのは、夕食のビュッフェで提供される無料のデザートのおかげでポッコリと膨らんでしまった腹回り。これを何とかしないと、ますます女子としてヤバい状況に陥るのをさすがに本人も自覚しているよう。



 なにはともあれ決勝戦を終えた明日香ちゃんとカレンの両名が観戦スタンドに戻ってくる。第1魔法学院の生徒が集まっている応援席では両者の健闘と優勝と準優勝という最高の結果に歓声と温かい拍手に包まれる。



「明日香、頑張ったな! 優勝おめでとう」


「すごかったよ! 八校戦で優勝するなんて名誉だよね」


 ブルーホライズンからも同じクラスの仲間として明日香ちゃんにオメデトウの声が飛んでいる。入学当初からしばらくの間はEクラス最弱の存在であったにも拘らず、こうして頂点に立った明日香ちゃんを誰もが祝福している。この状況を喜んでいないのはたったひとり、まったく望んでいない優勝を心ならずもしてしまった明日香ちゃん本人だけであろう。


 そもそも魔法学院を受験したのも「魔法学院に入学すれば憧れの魔法少女になれる気がする」という水溜まりよりも浅い動機というのだから呆れてモノも言えない。


 だが、そんな明日香ちゃんでも個人戦を無事に終えた点に関してはホッとしている。



「結果はともかくとして、これで私の出番はお仕舞ですよ~」


 明日香ちゃんは何も気が付いていない。そもそも開催要項すら頭に入っていないほどのヤル気のなさで常々桜をドン引きさせるのだから、このくらいの能天気さ加減は平常運転。こんな人物が優勝してしまって、負けて悔しい思いをしている他校の生徒の皆さんに謝ってもらいたい。心から陳謝してもらいたい! なんだったらこの場で土下座しろ!


 

「明日香はこの後に始まるチーム戦にも出るんだろう?」


「師匠たちのパーティーの一員だからダブル優勝のチャンスだよな!」


「今度は私たちと一緒に頑張りましょう!」


 美晴、渚、真美は揃って励ますつもりで声をかけているが、このセリフは明日香ちゃん本人にとっては絶望を意味する宣告。



「ええええええええええええ! まだ試合が続くんですかぁぁぁぁぁ!」


 これで自分の出番が終わったと思って完全に油断していた明日香ちゃんは、その場にヘナヘナと崩れ落ちるのであった。





   ◇◇◇◇◇




 続く魔法部門の1学年トーナメント決勝戦は第4魔法学院の留学生マリアが圧勝して幕を閉じる。


 2学年トーナメントは、近接戦闘部門では第5魔法学院、魔法部門では第7魔法学院がそれぞれの部門で優勝を分け合って午前中が終了する。



 午後に入って3学年トーナメントは近藤勇人が貫録を見せつけて優勝を果たし、魔法部門の有栖川鳴海は惜しくも準優勝に終わった。

   


 さて、学年トーナメントは全種目が終了して、いよいよオープントーナメントの決勝を迎える。これまでは近接戦闘部門の決勝が先に実施されていたが、オープントーナメントの決勝ではこの順番が逆になる。


 個人戦の花形はやはり参加人数が圧倒的に多い近接戦闘部門なので、こちらをトーナメントの最後の決勝戦にしようと運営委員会の協議によって決定されている。


 ということで、先に魔法部門の決勝戦が行われる運びとなる。



「ただいまから魔法部門オープントーナメント決勝戦、第1魔法学院西川美鈴対第4魔法学院フィオレーヌ=ド=ローゼンタールの対戦を行います」


 攻守ともに鉄壁の危なげない勝ち方で決勝戦に進出した美鈴と、数種類の属性魔法を鮮やかに使い分ける天才留学生フィオレーヌの対戦とあって、魔法を操る者もそうでない者も注目する一戦を迎える。



 青の入場門から美鈴が、赤の入場門からフィオレーヌがフィールドに入場してくると、両者を応援する歓声が一段とヒートアップする。フィールド上ではこれから対戦する両者が言葉を交わしている。



「改めて自己紹介させていただきます。フランスからやってまいりましたフィオレーヌと申します。今後ともどうかお見知りおきを」


 フィオレーヌはとても留学してきてから間もないとは思えない流暢な日本語で美鈴に挨拶をする。その態度は極めて気品に満ちており、故国フランスでも名門の家系出身を窺わせる。対する美鈴は…



「ご丁寧な紹介をいただいてありがとうございます。第1魔法学院の西川美鈴です。今後ともよろしくお願いいたします」


 こちらは日本的なお辞儀でフィオレーヌに応えている。



「すごい歓声ですね。日本人がこんなに熱狂的だとは知りませんでした」


「時と場合によってはどこの民族よりも熱くなるのが日本人の特性ですから」


「声援で集中できなかったという言い訳はなしですよ」


「それはお互い様ですね」


 丁寧ながらも火花が飛び散るような言葉を互いに交わして両者は開始線まで下がって合図を待つ。



「決勝戦、開始ぃぃ!」


 こうして、オープントーナメントの決勝の火蓋が切って落とされるのであった。 

次回はいよいよオープントーナメントの決勝を迎えて…… 投稿は明日の予定です。どうぞお楽しみに!



本日のランキングは50位台となっております。もう少し上に行けたら嬉しいなぁ…


どうか作者のモチベーション維持のために、評価とブックマークをお待ちします!


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