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69 全学年トーナメント 1

いよいよ兄妹が登場の模擬戦は、クライマックスを迎えて……

 魔法学院の模擬戦もいよいよ大詰めに差し掛かる。迎えた9日目からは各学年上位の生徒が選抜されて出場する全学年トーナメントが始まる。


 出場するのは、シードされている特待生2名、3年生6名、2年生4名、1年生4名の計16人となっている。魔法部門と近接戦闘部門の双方で、最後の2日間このトーナメントの優勝が争われるのだ。


 ここ第1訓練場では、近接戦闘部門に出場する16選手がスタンドを埋める生徒に紹介をされているところだ。



「1年特待生、楢崎桜」


 パチパチパチパチ! とまばらな拍手が起こる。大多数の生徒にとっては7月に急に編入してきた特待生というのは、ベールに包まれた謎の存在という印象をもたらしている。


 もちろん、その人間離れした身体能力や戦闘力について一部には知れ渡っているのだが、大方の生徒は直接目にしたことがないので、どんなレベルなのか見極めてやろう程度の認識であった。


 そして出場選手の中には、誠に不本意ながら1年生のトーナメントを優勝してしまった明日香ちゃんも並んでいる。アナウンスで名前を呼ばれてペコリとお辞儀をしてはいるが、どうもその表情は気もそぞろという感じだ。というよりも、なんだかブツブツ呟いている。



「どうか桜ちゃんとだけは対戦しませんように。桜ちゃんとだけは絶対に当たりませんように! お願いします! 桜ちゃんとだけは……」


 日々の訓練で散々シゴかれている明日香ちゃんにとっては、公式戦で桜と対戦するなどまさに悪夢であった。もし仮に対戦となったら、どうせ調子に乗って理不尽かつ有り得ない攻撃を放ってくるのは明白なだけに、カレンの回復魔法の世話になるのは確実であろうと考えている。生存本能にこれ以上ない危機を感じている状態だ。



「それではただいまより、トーナメントの抽選を行います」


 アナウンスが流れると、出場選手の間にはある種の緊張感が流れる。対戦者が誰になるかによって自分の勝利の可能性が左右されるだけに、大方の生徒が表情を引き締めて番号が書かれているカードを選ぶ箱が置かれている場所に集合する。



「フフフ、どなたの挑戦でも受けますわ!」


「桜! いいからこの場では口を謹んでいろ!」


 どうやらこの兄妹の二人は、緊張とは程遠いようだ。ことにようやく出番が回ってきた桜は、目をキラッキラにして来るべき試合を楽しみにしている。


 すでに兄妹と3年生のトーナメント決勝進出者は対戦表に名前が記されている。シード選手として桜が1番、聡史が16番の枠に入っており、3年生の2名はそれぞれ8番と9番に名を連ねている。残った枠に他の選手が抽選で入っていく仕組みだ。


 

「どうかお願いしますから、桜ちゃんだけは…… 神様!」


 明日香ちゃんが心の底から祈りながら引いたカードには、10という数字が書いてあった。



「よかったぁぁぁぁ!」


 明日香ちゃんの対戦相手が決まった。本人は桜と当たらなくてホッとした心境なのだが、実はその相手とは3年生のトーナメントを圧勝した近藤勇人であった。どうやら明日香ちゃんは新たな試練を迎えたようだ。



 聡史たちのパーティーはこのトーナメントに五人全員が出場している。そのため付き添い役の手が足りなくて、2日間ブルーホライズンのメンバーが防具の着脱を手伝う。同時にスタートする魔法部門に出場する美鈴の付き添いは千里が務めている。


 毎日一緒に訓練している間柄なので、ブルーホライズンのメンバーはこの役を快く引き受けてくれた。だがその裏には、聡史の付き添い役を巡る壮絶なジャンケン5回勝負が行われたのは、ここではナイショの話だ。





 開会式が終わって選手控室では、第1試合に出場する桜と介助役の絵美が防具の装着をしている最中。



「明日香ちゃんが言っていた通りで、この防具は確かに動きにくいですねぇ…」


「そうなんですよ! なんだか別人になったような体の動きになっちゃうんですよね」


 身軽なフットワークを身上とする桜にとっては、動きを阻害されるのは何よりも大きな問題であった。ヘルメット、プロテクター、レガースを全て装着してから立ち上がって、体の動きの感覚を確かめている。



「まあこのくらい動ければ、それほど問題はないでしょう」


「それよりも桜ちゃん! 本当に武器は使わないんですか? 相手は2年生ですよ!」


「大丈夫ですよ! この拳が私の最強の武器ですから!」


 絵美の心配をよそに、桜は威力を加減するオープンフィンガーグローブを嵌めた手をパフンパフン打ち付けてから控室を出ていくのであった。






「ただいまから全学年トーナメント1回戦、1年Eクラス楢崎桜対2年Aクラス本郷肇の試合を開始いたします」


 場内に流れるアナウンスとともに、桜と対戦相手が入場する。いよいよベールを脱ぐ特待生の実力に、スタンドの殊に上級生たちは興味津々な表情をして待ち構えている。



「実際に目にするのは初めてだが、どの程度の能力を持っているのか楽しみだな」


「相手は2年生の2位か。実力を測るにはちょうどいい相手だろう」


「それにしても、何も武器を手にしていないようだが、どうやって戦うつもりなんだ?」


 一見すると丸腰の桜に、誰もが疑問を覚えるのは当然だ。しかも相手はリーチの長い槍を手にしているだけに、より一層桜の戦い方に興味を惹かれている。



「試合開始ぃぃ!」


 審判の腕が振り下ろされると、槍を手にする2年生が積極的に前に出てくる。この生徒は、丸腰の桜を見て秘かに考えていた。



(武器を持っていないんだったら、こんな楽な相手はいないな)


 それこそが桜の思う壺だとは知らずに、無警戒に前進して思いっ切り槍を一閃する。



「仕留めた!」


 と、彼は考えた。通常ならば絶対に避けられないタイミングで突き出した槍は、確実に相手を捉えているはずだ。だが槍から伝わる感触は何もない。



「中々の突きでしたが、もう半歩足りませんね!」


 槍が向かう正面にいたはずの桜は、いつの間にか相手の左側方に移動している。スキルを用いたのでもなんでもなく、ただ普通に槍を避けただけだ。動きを阻害する防具を装着しても、なお目にも止まらない桜のフットワークであった。



「クソッ!」


 視界の片隅にようやく桜の姿を捉えた相手は、今度は手にする槍を横薙ぎに振るう。だが、そこにも桜の姿はなかった。



「こちらですよ!」


 なんと、桜はいつの間にか相手の後ろ側まで回り込んでいる。


 最初の攻防を目撃したスタンドの1年生は、何が起きているのか全く理解していなかった。だが上級生の中には、桜の動きを目で追える人間もある程度存在する。彼らは、レベルの上昇とともに動体視力が向上した一部の生徒であった。



「信じられないスピードだな」


「防具をつけてもあんな動きが可能とは… 特待生というのは、どうやら伊達ではないようだ」


 彼らはすでに桜のちょっとした試合での動きに、その大器の片鱗以上のものを見て取っていた。そう、それはもはや神業と呼べるようなレベルで……



「なんて動きが速いんだ!」


 対戦者も桜に関しては呆れている。槍がその動きを捉えるのは相当困難であろうと、彼自身覚悟を決めているようだ。いつの間にか後ろ側に回り込んでいた桜に、彼は改めて向き直ってから槍を構える。そして自らの最速で手にする槍を突き出していくが、それはむなしく空を切るばかりであった。



「どうやら防具を着けた動きにも慣れてきましたから、今度はこちらから参りますわ!」


 必死で槍を繰り出す相手に対して、今度は桜から前に出る。



「そうはいくかぁぁ!」


 対戦者も前に出てこようとする桜目掛けて、渾身の一突きを放つ。だが、彼の目に映る桜の姿が一瞬ブレたかと思ったら、その直後体に強烈な衝撃が走った。



「うげぇぇぇぇ!」


 桜は突き出される槍を一歩右に避けると、そのまま前進して対戦者の胴体に拳をめり込ませている。たったその一撃で、相手は地面に崩れ去った。



「そこまでぇぇ! 勝者、青!」


 勝ち名乗りを受けた桜は、悠然とした態度で一礼してから控室に下がっていく。その背中にまとう雰囲気には、王者の風格すら漂うかのようだ。



「ワンパンかよ!」


「最後の動きは見えたか?」


「残像しか映らなかった。気が付いたらもう終わっていたな!」


「あれは、想像以上の化け物だぞ!」


 スタンドの一部では、桜を巡って騒然としたざわめきが広がっている。大体3年生が固まって座っているエリアが中心であろう。もちろん彼らの目でも、桜の戦いの最後の部分は理解できてはいない。ただただ想像を絶するレベルの戦い方であったという印象を残したのみであった。



 控室に戻ってきた桜を、絵美が出迎える。



「桜ちゃん! 今何が起きたんですか?」


 モニターの画面を見つめていた絵美だったが、桜が最後に何をしたかなどてんで理解が及んでいなかった。



「絵美ちゃんは、槍が専門ですよね?」


「はい、そうです」


「槍使いが一番困る状況って何ですか?」


「懐に飛び込まれて超接近戦になることですね」


「私は相手の槍を躱して、その超接近戦に持ち込んだだけですよ。とっても簡単なお話でしょう!」


「そんなことが簡単に出来たら、誰も苦労なんかしないでしょうがぁぁぁ!」


 ケロッとした表情で答える桜に、絵美の渾身のツッコミが炸裂する。彼女が打ち合いで相手にするのは、明日香ちゃんかカレンがほとんどだ。いまだにその二人から手玉に取られるのに、さらにはるか上に存在する桜は、やはり絵美にとっては理解の範疇の外であった。


 


最後までお付き合いいただいてありがとうございました。この続きは水曜日に投稿します。


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[気になる点] 「相手は2年生の2位か。実力を測るにはちょうどいい相手ろう」 ちょうどいい相手だろう では無いでしょうか?
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