67 3回戦開始!
カレンと明日香ちゃんの活躍が……
誤字報告ありがとうございました。
模擬戦週間5日目、近接戦闘部門のフィールドにはカレンが立っている。軽々1回戦を突破した彼女は、現在2回戦の相手とこれから対峙するところであった。
手にするは、聡史から手渡されたミスリル製のメイス。カレンが身に着けている棒術に適した武器を学院が準備していなかったので、特例で自前の品を持ち込んでいる。メイスは打撃武器であり刃がついていないので、それほどの危険はないだろうという結論が学院側では出されていた。
だがこの学院の見込みは、とんでもない間違いであると後から判明する。ステータスレベル20で体力の数値は明日香ちゃんを上回るカレンが振り回す金属の棒は、死に直結する恐怖を対戦相手に与えていた。
当のカレンは……
「怪我をしても私が治しますから心配いりません!」
とまったく取り合わずに、ミスリル製のメイスをブンブン振り回すのであった。
スタンドでは……
「おい、女張飛が出てきたぞ!」
「ビッグタイフーンとも呼ばれているな」
「あんな金属の棒でぶっ叩かれたら、防具を着けていても危険だろう!」
「で、でも叩かれてみたい……」
「お、俺は踏み付けられたい!」
若干頭のおかしい人間、若しくは変わった嗜好を持った人間がいるようだが、メイスを手に暴れるカレンの姿は大体の生徒から恐怖をもって受け取られている。プロレスラーを上回る膂力で振り回されるメイスに一度でも当たったら、その瞬間に戦闘不能に陥るのだから誰もが恐れるのは当然であろう。
フィールドにはカレンとCクラスの生徒が開始線で向き合っている。
「試合開始!」
審判の掛け声で、カレンの2回戦がスタートする。相手の生徒はジリジリと下がって距離を取りながら、なんとかメイスの攻撃範囲を避けようと慎重に間合いを図っている。
だがカレンは、そんな生温い戦い方を是とはしない。オークの頭を叩き割る時のように、メイスを肩より高く振り上げては相手に迫っていく。
「ヒイィィ!」
バキッ!
相手の男子生徒は引き攣った表情で何とか手にする剣で受け止めようとするが、カレンが振り下ろしたメイスによって呆気なく地面に叩き落された。そのままカレンは、返すメイスで相手の横腹を叩く。
ドサッ!
メイスによって体ごと持っていかれた男子生徒は、10メートル先の芝生の上に横たわっている。立ち上がるどころか身動き自体が不可能となった。
「それまでぇぇ! 勝者、青!」
カレンは勝ち名乗りを受けてから、右手をかざして倒れている生徒に回復魔法を掛けると、彼は首を捻りながら立ち上がった。たった今まで脇腹に疼くような痛みを感じていたのが、あっという間に消え去っているのが信じられない様子だ。
「マッチポンプだよな!」
「相手を叩きのめしてから治すなんて、もう何でもありだろう!」
「仮に試合中にダメージを負っても、自分で治せるんだよな!」
「それって、もう無敵じゃないか!」
スタンドはカレンの試合を見てざわついている。勇者が1回戦で姿を消した今、トーナメントを制する最右翼は誰もがカレンだと考えているのだった。
こうして模擬戦の2回戦は着々と進行していく。全ての対戦を終えると、32人の生徒が残った。その中には、2回戦を勝ち抜いた明日香ちゃんやカレンと共に美晴も含まれている。気合を前面に押し出したシールドバッシュで2回戦を突破していたのだ。もしかしたら聡史とのデートの内容がグレードアップするかもしれない。
翌日から2日間は土日を挟むため、模擬戦は一旦休止となる。来週からは3回戦が幕を開けるのだ。この2日間、生徒たちはめいめいの過ごし方をする。
まだ勝ち残っている生徒は一心に素振りを繰り返したり、パーティーメンバーを相手にして打ち合っている姿が、訓練場の中で見受けられる。
すでに敗退した生徒は、すぐにダンジョンに入って一つでもレベルを上げようと目の色を変えている。今回の模擬戦は、勝った生徒にも負けた生徒にも大きな刺激を与えていた。各自が自ら設定した目標のために、これから先の更なる努力を誓っているのであった。
土曜日の夕方、聡史たちのパーティー全員が特待生寮に集まっている。本日は朝からダンジョンに入って、7階層でオークを大量に狩っていた。模擬戦が始まったために中々ダンジョンに入れなかったのだが、この日はその分までまとめてオーク肉の確保に努めていた。
「はぁ~… これでようやく今週の納入予定を達成しました」
「まったく、桜ちゃんが食堂とあんな契約を結ぶから、私たちはいい迷惑ですよ!」
「明日香ちゃん! そんなことを言っていいんですか? 月末にはオークの代金がお兄様の口座に入金されるんですよ!」
「いくらになるんですか?」
「すでに100キロは収めていますからねぇ~! 軽く70万くらいでしょうか」
「桜ちゃん! 私、頑張ります! もっといっぱいオークを倒します! 片っ端から餌食にしてやります!」
いつにもまして現金な明日香ちゃんであった。金額を聞いて目がハートマークになっている。分け前が手に入ったら、当分デザート食べ放題だ。秋のデザート祭りが脳内で開催されている。
そんな明日香ちゃんは横に置いといて、聡史は美鈴やカレンと真面目な話をしている。
「美鈴の魔法部門トーナメントはどんな感じだ?」
「今のところは問題ないわね。シールドを破られるような強力な魔法が使える生徒はいないから、決勝までたぶん大丈夫でしょう」
やはり魔法シールドを構築できるようになったのは、美鈴にとっても大きいようだ。一月以上かけて解析を進めただけあって、ようやくその努力が実を結んでいた。威力が高すぎて模擬戦では闇属性魔法を使用できないので、シールドを用いた戦術で今回は戦うと決めている。
「カレンの調子はどうなんだ?」
「メイスは護身用で本職ではありませんが、手を抜かずに頑張ります!」
カレンとしてはあくまでも本職は回復役だと考えているが、もともと生真面目な性格なので力の限り戦おうと決めている。他の生徒としては、おそらく手を抜いてもらいたいところだろう。防御不可能なカレンのメイスなど、誰もが食らいたくないはずだ。
こうして翌日の日曜日は近接戦闘部門で勝ち残っている3人は軽い調整を行い、美鈴と聡史は千里の魔法練習に充てて過ごす。
◇◇◇◇◇
そして迎えた月曜日! この日からいよいよ3回戦がスタートする。フィールドに一番乗りで登場したのは明日香ちゃんであった。もちろん今日も負ける気満々で開始戦に立っている。
(もうここまで勝ち抜けば十分ですから、この試合は絶対に負けて、今週いっぱいのんびり過ごしましょう!)
期末試験もそこそこの成績を残しており、この模擬戦も成績の評価に加わるとあれば、明日香ちゃんが落第する可能性は限りなく低くなっている。もう本人としてはお腹いっぱいであった。とっとと負けて、変なプレッシャーから解放されたいのだ。
試合を見つめるスタンドでは……
「おっ! 勇者殺しが出てきたな!」
「初戦はマグレだと思っていたけど、あの槍の扱いは並じゃないよな!」
「おいおい! お前はマグレでも勇者を完封できるのか?」
すでにスタンド全体が、明日香ちゃんの実力を認めている。あれだけの槍捌きを見せつけられては、誰もが納得させられてしまうのは当然の成り行きであった。今回はどのような戦い方を見せるのかと、スタンドの注目は自然と明日香ちゃんへと集まっている。
「フフフ… どうやら観客の皆さんも、まんざらボンクラではありませんね! 私が直々に鍛えたんですから、明日香ちゃんが強くなって当然です!」
桜だけは、スタンドから弟子を見つめるような視線を送っている。明日香ちゃんの勝利を信じて疑わないようだ。
「試合開始!」
審判の手が振り下ろされて、3回戦が始まる。
(さて、どうやって負けましょうか? まずは相手の出方を窺いながら慎重に行きましょう)
明日香ちゃんは自分からは前に出ず、どっしりと槍を構えて相手の出方を窺う。何しろこの試合の最大の課題は痛くないように負けることなので、相手に合わせた上手な負け方を考えているのだった。
だがこのような明日香ちゃんの様子は、対戦相手からするとどうにも隙だらけのように映る。気持ちが入っていない様子がありありで、今打ち掛かっていけば簡単に勝てそうな気持を抱かせるのであった。
(先手必勝!)
対戦相手はBクラスの男子生徒であった。彼はこの土日の2日間、同じパーティーの槍持ちの生徒と散々打ち合って、明日香ちゃん対策は万全と自負している。槍の独特の間合いや柄の長さを生かした攻撃を彼なりに見切れるまで訓練を積み上げていた。
地面を蹴って対戦者が動き出す。剣をやや斜めに振り上げて、突き出されるであろう槍の穂先を袈裟斬りに叩き付けようという思惑だ。
(えっ! ええええ! いきなり来ましたよ~! 当たったら痛そうなので、突進を止めないと不味いですねぇ~)
明日香ちゃんは、さほど慌てた様子も見せずに冷静に槍の穂先を引く。この程度の突進ならば慣れている。つい一昨日の土曜日も、オークジェネラルを相手に散々交戦したばかりだ。
相手の剣は斜めに振り下ろされたが、虚しく空を切る。剣が下を向いているところに、明日香ちゃんは『はい! 避けてくださいね』という気持ちで、優しく槍を突き出す。
「なんだとぉぉ!」
だが、振り下ろした剣をスカされてもなお突進している相手生徒にとっては、想像以上に早い槍の突き出しであった。練習してきた生徒とは、突き出してくる速度が段違いである。必死で振り下ろした剣を戻そうとするが、もう間に合わなかった。
その結果、加速がついた足を止めることはできずに、そのまま明日香ちゃんが突き出す槍の先端に向かって体が進んでいく。
「グエッ!」
刃を丸めてあるので串刺しにはならなかったが、槍の先端が鳩尾に食い込んでいる。
(ええええええ! 突進を止めようとして差し出した槍に、なんで自分から突っ込んでくるんですかぁぁぁぁ!)
明日香ちゃん茫然! 全然本気で攻めようなどと考えていなかった牽制の槍に、相手のほうから飛び込んできたから、もうビックリ状態だ!
ドサッ!
鳩尾に槍の先端が食い込んだ男子生徒は、そのまま崩れ落ちる。呼吸ができないようで、口をパクパクして酸素を求めているようだ。
「そこまでぇぇ! 勝者、赤!」
「なんでですかぁぁぁぁ!」
勝ち名乗りを受けても、どうにも納得がいかない明日香ちゃんの叫びが、フィールドに響くのであった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。この続きは月曜日に投稿します。
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