63 出場決定戦?
ついに理事長を追放して、魔法学院は新学期を……
8月も半ばを過ぎて魔法学院は2学期のスタートを迎える。
今日から模擬戦週間が始まるとあって、どこのクラスの生徒も自分が誰と対戦するのかに関心が集まっている。ここEクラスでも黒板に張り出された対戦表に生徒が群がって、自分の名前を発見すると一喜一憂する姿が見受けられる。
とはいってもEクラスの生徒は殆どがA~Bクラスの生徒との対戦が一回戦から組まれているので「ダメだこりゃ!」と最初から投げ出す者が半数以上という体たらくぶり。
だがそんなクラスの雰囲気にあって心の中で密かに番狂わせを狙っているグループがある。それは頼朝たち男子の自主練組と、ブルーホライズンの五人。
「いいか、俺たちは剣の腕でなら十分にAクラス相手に通用するはずだ!」
「そうだ! 最初から気合で負けるんじゃないぞ!」
「Aクラスの連中を負かせば女子にモテモテだ!」
「か、彼女が出来たらどうしようかな?」
「俺が先だぁぁ!」
「それよりも、カレンさんは見ていてくれるかな?」
「安心しろ! カレンさんは俺だけを見ているはずだ!」
「鏡を見てから言いやがれ! そんなハンペンにマジックで目鼻を描いた顔をカレンさんが見るわけないだろうがぁぁ!」
「テメェこそ、チクワに手足を付けたような体つきじゃねえかぁぁ!」
おでんの具同士が醜い争いを始めている。今にもカレンを巡って掴み合いの喧嘩が勃発しそうな勢い。背後からどす黒いオーラを吹き出しながら、仲間内でカレンの奪い合い状態(妄想)だが、そもそも名前を覚えてもらっているかさえ怪しい。
このように自主練組の中には相当不純な動機で勝利を目指している人間も混ざっている。物事を単純にしか考えられない脳筋集団なので〔模擬戦の勝利=彼女ができる〕と短絡思考に陥る悲しい男たちがここにいる。さすがは底辺のEクラス! 安定のバカっぷりが輝いている。
こんな男子たちとは別にブルーホライズンの五人は聡史の周りに集まって何やら熱い言葉をぶつけているよう。
「師匠! 誰が相手でも絶対に負けません!」
「いい感じにレベルが上がったから勝つしかないよな!」
「師匠から教わった技をこの機会に披露します!」
「師匠! もし勝ったら何かご褒美をください!」
「おっ! それはいいな! 師匠と一日デートとか?」
「それじゃあ、ますます気合が入ってくるよね! 絶対に勝つわ!」
「ちょっと待つんだ! なんで俺がデートしないといけないんだ?」
「だ・か・ら~、私たちも何かご褒美が欲しいんですよ~!」
「師匠とのデートが懸っているって考えたら、なんだかドキドキしてきた!」
元気のいい五人は朝から快調に飛ばしている。すでに「勝ったら聡史とデート」を決定事項としているよう。
当然これだけ大騒ぎをしていると、その声は周囲の耳に入ってくる。
「聡史のヤツ! いつか絶対に殺す!」
「殺意しか湧かないぞ!」
「今だけ精々楽しんでいろ! 後から殺し甲斐があるぜ!」
「ワラ人形の準備ならいつでも言ってくれ!」
暗黒街の殺し屋張りに先程の比ではないどす黒いオーラを背後から噴き出したモテない男たちから、憎しみ、妬み、嫉み等々、有り余るヘイトを一身に買ってしまう聡史であった。
◇◇◇◇◇
こんなクラス内の喧騒とは全く別に朝からバタバタ騒がしい人物がいる。それは言わずと知れた明日香ちゃん。
「桜ちゃん! 桜ちゃん! トーナメント表に私の名前がありません! これは試合に出場しなくていいというラッキーなお話なんでしょうか?」
「明日香ちゃんはなんで毎朝騒がしいんですか? せっかく今日のお昼に何を食べるか考えていたのに」
「ああ、いいですねぇ~。お昼はパスタにしようかなぁ…… って、そんなことは今は横に置いといてください! 私の模擬戦がどこに行ったのか、桜ちゃんも一緒に探してください」
「本当に手がかかる人ですよねぇ~。しょうがないから一緒に探してみましょう」
こうして明日香ちゃんは桜の手を引いてトーナメント表が張り出されている黒板へと向かう。そして桜がその表を見ると、一目で明日香ちゃんの名前を探し当てる。
「ほら、ここにありましたよ。ナニナニ… 学年トーナメント出場決定戦?」
「こんな欄外にあるなんて、どういうことなんですかぁぁ!」
「まあまあ明日香ちゃん、ちょっと落ち着いてください。どうやら人数が余ったせいで本戦開始の前に予選のようなものがあるみたいですね。明日香ちゃんは学年のビリなんですから予選から出場するんですよ」
1年生で模擬戦の近接戦闘部門にエントリーしたのは129名。トーナメントを組む際に、ピッタリの人数からひとり余ってしまうためのやむを得ない措置として、明日香ちゃんは予選を課されたよう。
「明日香ちゃん、相手の人は、このクラスの山浦千里さんですね」
「勝ったほうが勇者とかいう厨2病の人と対戦するんですか?」
「厨2病なんて口にしたら明日香ちゃんはブーメランが突き刺さりますから、注意したほうがいいですよ。ふむふむ、どうやらその通りですね。開会式の前に予選が行われるようですから、明日香ちゃんは早めに準備をしないとダメですからね」
「はあ~、お昼ご飯の前に試合があるとは思いませんでした。なんだか面倒になってきましたから仮病を使って休んじゃいましょうか?」
「仮病にはあの苦い薬がよく効きますよ」
「ヒィィィィィ! 出ますから! ちゃんと試合に出ますから! 仮病なんかじゃないですぅぅ!」
こうして明日香ちゃんは10時から行われる出場決定戦に臨むこととなる。
9時半になると、明日香ちゃんは桜を伴って第3訓練場の控室へ入っていく。ここで装備を整えて模擬戦の準備をする。
今回は公式戦となっているので、刃を潰した金属製の武器が用いられる。そのため普段ダンジョンに入る際に着用しているヘルメットとプロテクターの他に強化プラスチック製のフェイスガードと衝撃吸収素材を挟み込んだ革製のレガーズを両手足に装着する。これだけ完全防備にするとひとりでは着用が困難なので、付き添いが防具の装着を手伝うのが認められている。その重装備ぶりはアイスホッケーの選手を想像してもらえば、大体オーケーではないだろうか。
「桜ちゃん、なんだかモコモコして動きにくいです」
「何も着けないで痛い目に遭いますか?」
「しょうがないですねぇ~… 痛いのは嫌なので、これで我慢します」
「明日香ちゃん、そこに置いてある武器の中から好きな物を選んでください。重さとか長さに慣れるように何回か素振りをするんですよ」
「はあ~… こんな試合はとっとと負けましょう。そうすればずっと自由時間ですよ~」
「一度でいいからデザートは関係なしでヤル気になる明日香ちゃんを見てみたいものです。本当に……」
「桜ちゃん、ご馳走してくれるんだったら、いつでも言ってください! すぐにやる気になりますから!」
清々しいまでのヤル気のなさ! 明日香ちゃんにとって模擬戦など一文の得にもならないどうでもいい物に映っているらしい。いつもの怠け癖が顔を覗かせているよう。この娘は成績にも影響する公式戦を一体何だと心得ているのだろうか?
控室に用意されてある金属製の槍を手にした明日香ちゃんは軽く素振りを開始する。普段手にするトライデントとは感触がかなり違っているので、慣れるまでに少々時間がかかりそう。
「明日香ちゃん、防具は大丈夫ですか?」
「多分大丈夫です!」
「それでは私はスタンドから応援していますから、頑張ってください」
「はい、すぐに負けるように頑張ります!」
「そうじゃないでしょうがぁぁぁぁ!」
一抹の不安を感じながらも、桜は明日香ちゃんを残して観戦スタンドへ戻っていく。ガランとした観戦席には明日香ちゃんの初戦を応援しようと聡史、美鈴、カレンが顔を揃えている。
ちなみに真夏の日差しが照り付けるこの訓練場でフル装備で動き回るのは熱中症の心配もあってかなり危険。そこで学院側は布製の屋根で訓練場全体を覆った上で、魔石を利用した冷房システムをフル稼働させており、スタンドを含めた訓練場の内部は24℃に保たれている。魔法学院はこうした魔力を生活エネルギーに生かす実験も行っている。
「そろそろ明日香ちゃんが出てくるわね」
「頑張ってもらいたいですね」
控室での桜との遣り取りなど何も知らない美鈴とカレンは純粋に明日香ちゃんを応援している。これだけ普段から一緒にいるにも拘らず、明日香ちゃんを普通の感覚の持ち主だと思っているよう。まさか面倒だから負けたがっているなど、品行方正なAクラスの二人には想像の彼方の話。
「Eクラス同士の対戦か。相手の山浦千里というのはどんな子なんだ?」
「眼鏡を掛けて小柄な子ですね。大人しいから教室にいてもあまり目立ちません」
「そうか…」
兄妹がこのような会話をしていると、入場口から対戦する二人がフィールドに出てくる。赤いプロテクターが明日香ちゃんで青が対戦相手。
両者が中央に歩んでいく。10メートル離れた位置に開始線が引かれており、二人はその場で正対する。明日香ちゃんが手にするのは金属製の長槍に対して、千里は短めの剣を手にしている。
「試合開始!」
審判役の教員の合図で双方が得物を手にして距離を縮めていく。先に仕掛けたのは千里のほう。剣を振りかざして正面から突っ込もうと果敢に前に出る。だが彼女はレベル5で剣術スキルはレベル1、対する明日香ちゃんはレベル23で槍術スキルは4。これだけレベル差があると最初から相手にもならない。
キン!
明日香ちゃんの槍が千里の剣を撥ね上げると、そのまま喉元に穂先を突き付ける。
「そこまでぇぇ! 勝負あり! 勝者、赤!」
勝敗は一瞬で決する。勝ち名乗りを受けた明日香ちゃんは相手に一礼して控室に戻っていく。
観戦していた美鈴とカレンはあまりに呆気なく勝負がついてポカンとしている。まだ頑張っての一言も口にしないうちに勝敗が決してしまった。
ちょうどその時、聡史の視線はフィールドに取り残された千里に注がれている。小柄な体で肩を震わせて、どうやら泣いているよう。本トーナメントにも進めずにこうして誰も知らない場所で敗退していく悔しさが、彼女を包んでいるかのよう。
「桜、あの子をどう思う?」
「おや? お兄様ったら今度はメガネ属性に興味をお持ちですか?」
美鈴とカレンのこめかみがピクリと動く。二人の背後からは大鎌を手にする死神属性のスタンドと、両手で巨大ハンマー握りしめる撲殺天使のスタンドが浮かび上がっている。
「違ぁぁぁぁう! 俺の目にはあの千里という子は魔法向きのように見えるんだ」
「お兄様! メガネっ子にとんがり帽子を被せて、今度は魔女っ子属性を目指すのですか?」
再び美鈴とカレンの背後に死神と撲殺天使が顔を持ち上げる。聡史に向かって恐るべきプレッシャーを放っている。
「だから、そうじゃないんだって! あの子はおそらくまだ魔法スキルが開花していないだけで、魔力の許容量だけならもしかしたらカレンと互角かもしれない。これは俺の勘だから100パーセント正確とは限らないが」
「カレンと互角ってことは相当な才能があるということかしら?」
ようやく冷静さを取り戻した美鈴が聡史から情報を引き出そうとしている。魔法オタクとも呼べる美鈴の習性で聡史が口にする千里の才能に興味を惹かれているらしい。
「おそらくな。ブルーホライズンには魔法使いがいないだろう。もしあの子にその気があったらスカウトしようかと思っている」
「お兄様、その件でしたら私にお任せくださいませ。千里ちゃんとは時々お話をする仲ですから」
「それは好都合だな。桜に任せようか」
「はい、必ずや仲間に引き入れて御覧に入れます」
こうしてまたひとり、新たな仲間となる候補が出現するのだった。
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