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55 ブルーホライズンダンジョン奮戦記

聡史に鍛えてもらっている5人組がダンジョンへ……


誤字報告ありがとうございました。

 聡史によるブルーホライズンの訓練は、まだまだ続いている。


 美晴の盾の扱い方をまずは徹底的に体に覚えさせていく。たとえ女子であっても、脳筋に対しては理論や理屈は横に置いて、体に覚えさせるのが最も手っ取り早いのだ。変に理屈を教えると、頭の中で考える動きと体の実際の動きのギャップによって、何がなんだかわけがわからなくなるのがこの手合いだった。


 よって聡史は、美晴に対しては体が感じる感覚重視で撃ち合いをしながらコツを掴んでいく方針を徹底する。その分何度も木刀が体にヒットして、美晴はカレンのお世話になるのだった。だがちっとやそっとの痛みでは挫けないのが、脳筋の最大の強みであった。というよりも他にメリットを見つけるほうが難しい。


 どんなに痛みが体を駆け巡ろうが、美晴のその闘志だけは絶対に衰えない。気合強化をフル活用して立ち上がっては、聡史の木刀を何とか盾で防ごうと懸命になっているのだった。ある程度盾の扱いに慣れてくると、逆に聡史の木刀を押し返してくるこの気の強さだけは、誰にもマネができないであろう。ついでだからとその気の強さを生かして、聡史は盾を用いた攻撃方法も伝授しておく。



 美晴が一段落すると、今度はほのかの番となる。彼女も美晴同様に左手に小型の盾を装着するようになったので、今までとは戦法がガラリと変わる。元々剣道をベースにして両手持ちの剣を振るっていたのだが、体格に合わせた短剣と小盾の組み合わせに挑む。



「いいか、剣道で覚えた技術は全部忘れるんだぞ! 間合いや相手の剣の受け方がまったく別物になるからな」


「はい、わかりました!」


 と口では答えるものの、手にしたばかりの短剣と盾を早々簡単に扱えるはずもない。聡史の木刀を受ける盾の動きと、攻撃を仕掛ける剣の動きがてんでんバラバラで、ほのかは四苦八苦している。


 脳筋ゆえに体に覚えこませる必要がある美晴と違って、ほのかはいきなり打ち合いをしていてもまったく効果がなかった。そこで聡史は、右受け左受け剣を振ってから再び右受けという具合に、ほのかには反復練習を課した。彼女の場合は、基本的な型を覚えるのが上達の近道であろうという判断だ。ある程度基本形を身に着けてから、徐々に応用を覚えていくのが彼女には最も相応しい。


 この辺の見極めに関しては、聡史がこれまで培ってきた指導者としての経験がものをいう。それぞれに最も効果がある訓練方法を模索しながら、少しずつ技術の底上げを図っていく方針を聡史は選択していた。その分だけ、聡史とブルーホライズンの師弟関係は相当な長期間に及ぶことが決定したのであった。





 その次の順番は真美であった。元々は中剣を両手持ちで扱っていた彼女は、レイピアの二刀流に挑むという途方もなく高い峰を目指している。これがどれだけ困難な道のりかというと、かの剣豪宮本武蔵ですら、その生涯を懸けて追及しようとした剣の道の奥義であった。


 右手と左手で1本ずつの剣を扱うのだから、素振りと基本動作だけで倍の時間がかかる。しかも相手に合わせて左右の剣を個別に動かしていくのだから、脳内の処理もざっと2倍だ。それだけでなくて左右に視線と気を配らないといけないので、神経も2倍使わなくてはならない。


 例えるならば、ピアノのアドリブ演奏で左右の手で別々のメロディーを完璧に奏でていく緻密さが、剣を振るうという動きの中で求められるのであった。


 この困難な道のりを克服するために、まず聡史は、当面利き手である右の剣をメインにして、左手は補助として使用する方法を提案する。真美自身も右手一本で剣を扱うのはまだしも、左手の剣は素振りでさえもぎこちなさを感じているので、この提案に素直に納得している。彼女はその分、左手の素振りは右手の倍にしようと誓っているのだった。

 

 こうして3人の基礎練習を開始した聡史は、順に各自の元を回って気付いた点をアドバイスしたり実際に見本を見せたりしながら、少しずつ基礎を固めていく。彼女たちは汗だらけになりながら、必死に剣や盾を振るうのだった。



 この三人とは別に、槍を手にする二人は桜に預けられている。彼女たちは手にする槍が大幅にグレードアップしただけなので、基本的な技術自体はこれまでの継続であった。新たな槍を手にしてしばらく素振りをしてその感触を体に馴染ませてから、明日香ちゃんとカレンを相手にして打ち合いをを始めている。


 もちろんこの場でトライデントvsロンギヌスなどといった神話級の槍が刃を交えたら、周囲にどんな影響を及ぼすかわからないので、木槍を手にして立ち会っている。現在は明日香ちゃんと渚、カレンと絵美の組み合わせで盛んに打ち合う。


 この場で槍を交えている四人の中では、明日香ちゃんの槍術スキルレベル3というのは、抜きんでた存在だ。体の捌き方や手にする槍を突き出したり引いたりする技術ともども、渚を圧倒している。


 対して、カレンは棒術スキルレベル1に対して絵美は槍術スキルレベル1とこちらの面では互角ではある。だが大本のステータスのレベル自体が段違いなので、体力的な部分でカレンが圧倒しているのだった。


 しかしながら、こうして格上の相手を槍を交えることによって、渚と絵美の両名にとっては技術面や駆け引きなどの点で学ぶべきことが多い。もちろん側で見ている桜が時折声を掛けてはアドバイスを送っているので、そのたびに渚と絵美は打ち合いの手を止めては、指摘された点を振り返って動きの修正している。




 こうして午前中は、訓練場の反対側のサイドから送られてくる男子たちの羨ましげな視線を受けながらの訓練が続いていく。


 時折、カレンが動くたびにブルンブルンする上半身のとある部分に、視線というのは憚られるばかりの欲情に塗れた波動が飛んでくるが、カレン自身は特に気にする様子はなかった。このサービスぶりが、カレンがEクラスの男子から熱い支持を受ける理由でもある。カレンとしては、そんなものをいちいち気にしてはいられないという心境なのだ。


 だが、彼女の鷹揚な態度に便乗した一部男子がスマホを取り出して撮影するに及んで、その様子に気が付いた桜から大目玉を食らって正座させられていた。



 


  ◇◇◇◇◇




 昼食を終えて午後に入ると、訓練場にいた全員が装備に身を包んでダンジョンへと向かう。


 本日は聡史だけはブルーホライゾンに同行して、桜たちとは別行動の予定だ。


 せっかく生徒会の仕事を猛スピードでこなして何とかこの時間に間に合わせた美鈴が、心の底からガッカリしている。聡史と一緒にダンジョンに入るためにあれだけ大量の書類を作成したのに、ここから先は別行動とは…… 『私の頑張りは何だったのよぉぉ!』という心の叫びが聞こえてきそうだ。


 だが美鈴もこの場に多くの目がある手前、声には出さないように努力している。その分だけジト目で聡史を見ているのは、彼女の心情ゆえのやむを得ないささやかな反抗だ。


 そして美鈴は決心している。今日は女子寮に外泊許可を提出して特待生寮に泊まってやる! …と。


 頭の中は完全に切り替わって、今夜ゆっくりと聡史と話をする話題を考えていたりする。もうそれだけですっかり機嫌が直ってしまうのは、揺れ動く恋する乙女の心境の複雑怪奇さであろう。傍から見てもコロコロ変わっていくその表情は、なんだかとってもわかりやすい。



 ブルーホライズンのメンバーは、腰や背中に聡史から貸し出してもらった新たな武器や盾を装備している。習熟度としてはまったく完成には程遠いが、とりあえず実戦で試してみないことには、これから先この武器でやっていけるかどうか判断がつかないということで、聡史から使用のオーケーが出たのだ。


 今までのありふれた普及品の剣や槍とは違って、武器自体から立ち込めるオーラが彼女たちを包んでいるかのようだ。殊に絵美が背にするロンギヌスの存在感が尋常ではない。よくぞ彼女はこんな神話級の槍を手にしようと考えたものだ。それを言うと、『フォークみたいで可愛い!』という理由でトライデントを選んだ明日香ちゃんも、大概なのだが……



 入場手続きを終えると、聡史が全体に向かって本日の予定の最終確認を始める。



「俺はブルーホライズンを引き連れて1階層を回る。可能だったら2階層に足を運ぶかもしれない。桜たちはどうする?」


 聡史が不在のため、本日臨時でリーダを務めるのは当然桜だった。一応行動の予定を確認しておかないと、このまま10階層を目指すなどと言いかねない。



「お兄様! 今日は5階層でオーク狩りをいたします。食堂に納入するオーク肉を集めないといけませんので!」


 桜は学生食堂の仕入れ担当と交渉の結果、オーク肉10キロあたり6500円で引き取ってもらう契約を結んでいた。魔石よりも10倍近い価格で引き取ってもらえるのは、パーティーの財政に大きな寄与をもたらす。食堂側も豚肉の相場と比べて2割以上安いので、お互いにウィン‐ウィンの関係なのだ。



 ということで、入り口を入ったらすぐに別行動を開始する。桜に率いられたパーティーは下層へ向かい、ブルーホライズンはこのまま1階層に残って行動開始だ。



「渚が斥候役か?」


「はい! 気配察知のスキルがあるので、いつも先頭を務めています」


 本来槍持ちは、一列下がった場所に控えているほうが咄嗟の場合に対処しやすい。斥候役は短剣やナイフを持った身軽な人間に任せたいのだが、彼女しか適任がいないのでこの際仕方がない。


 隊列は渚を先頭にして、大型の盾を手にする美晴、小型の盾と短剣を手にするほのか、ロンギヌスを手にする絵美、一番後ろにリーダーの真美という布陣であった。さらに聡史がその後ろについて、全体の様子を観察している。



「それでは、渚が一番適切だと思う方向に向かってくれ」


「はい!」


 こうしてパーティーは、ひとまずは1階層の東側に向かって歩き出す。こちらの方向はゴブリンの出現頻度が比較的低いので、初心者にはお勧めのコースとなっている。もちろん1階層をほとんど素通りしていた聡史は、東側に足を踏み入れるのは初めてだ。



「前方で、ゴブリンと他のパーティーが戦っています!」


 耳を澄ますと、前から人の声や器物がぶつかり合う音が確かに聞こえてくる。おそらく1年生の他のパーティーが戦闘中なのであろう。このような場合は、ゆっくりと接近していって状況を観察して、生徒たちが優勢であったらそのまま距離をとって待機、劣勢であったら後方から声を掛けて応援に加わると、教官から口を酸っぱくして教え込まれている。



 ある程度離れた場所から観察すると、どうやら生徒側が押しており、あと一息でゴブリンを仕留められそうであった。だが、その時……



「おわぁぁぁ!」


「牧田! 大丈夫かぁ!」


「おい、牧田を安全な場所に運べ!」


 どうやら一人負傷者が出た模様だ。これまで優勢だったのが、戦列から負傷者と彼を後方に運ぶ人員が一時離脱した影響で、逆に棍棒を振り回すゴブリンから反撃を受けて徐々にこちら側に後退し始める様子が目に飛び込んでくる。



「距離を詰めて、応援の必要を確認しましょう!」


 リーダーの真美の指示によって、パーティーは警戒しながら前進を開始する。声が届く範囲まで近づくと、先頭の渚が大声で確認する。



「応援は必要ですかぁ!」


「すまない! 負傷者がいるから頼む!」


 どうやら他のクラスの生徒のようで、聡史は知らない顔だった。だが同じ学院生が危機に陥っているのは、彼としても捨ててはおけない。



「美晴! 盾でゴブリンを押し留めろ! 渚とほのかは美晴の後について前進して、左右から攻撃を加えるんだ! 絵美は中間地点で負傷者の手当て! 真美は後方を見張っていろ!」


「「「「「はい!」」」」」


 ここまでなるべく口を挟まないようにしていた聡史が一気呵成に指示を出すと、美晴を先頭にしてブルーホライズンは動き出す。前衛3人が負傷者の安全を確保してから絵美にその場を任せて、さらに苦戦している残った生徒がいる方向へ移動する。



「この場は任せて、後ろに下がっていろ!」


 ゴブリンの棍棒を何とか受け止めていた男子二人が、美晴の指示にほっとした表情で距離を置くと、その間隙を埋めるようにして三人が入り込む。まずは暴れるゴブリンに向かって美晴が立ちはだかって、乱打されてくる棍棒を体を張って盾で受け止める。



 ガシッ! ガンガンガン!


 あまり知恵があるとは言えないゴブリンは、美晴の盾に向かって何度も棍棒を振り下ろすが、スキル気合強化を発動した美晴はテコでも動かない構えだ。



「ほのか! いくよ!」


「はい!」

 

 このスキに、美晴の陰になっていた場所から、槍を構えた渚と短剣を手にするほのかが飛び出していく。左右から飛び出してきた二人の姿を見て、ゴブリンは一瞬どちらに飛び掛かろうかと迷う素振りを見せる。その瞬間……



「食らえぇぇぇ!」


 美晴がその全力を手にする盾に込めて、ゴブリンに叩き付けた。シールドバッシュという盾で攻撃を加える技術だ。



「ギギャ!」


 左右に気を取られていたゴブリンにとっては意表を突かれた格好となる。美晴が加える圧力に負けて、その体がバランスを崩しかけた。



「今だ!」


「今よ!」


 体勢を崩したゴブリンの胴体に、渚の槍とほのかの剣が突き出されていく。



「ギギャァァァァ!」


 渚の疾風の槍はゴブリンの右脇腹を刺し貫き、ほのかの短剣は左の胸部に差し込まれた。だが両者は油断せずに、突き刺した槍と剣を素早く抜き取る。今度は先に動いたのはほのかであった。短剣の取り回しの良さを生かして、苦しんでいるゴブリンの首に向けて止めの一刀を振るう。



 シュパッ!


 ドサッ!


 短剣の切れ味は、聡史が自信をもって保証したように圧倒的であった。そのたった一振りで、ゴブリンの首を切り落としている。



「「「えっ!」」」


 この結果に、倒れたゴブリンを取り囲む三人が逆に呆然とした表情で固まっている。今まで頑張って頑張って死ぬ気で戦っても3回に1回しか討伐できなかったゴブリンを、こうもあっさりと倒した事実が逆に信じられなかった。



「た、倒したんだよね?」


「う、うん… なんか目の前にゴブリンの死体がある」


「こんな簡単だったっけ?」


 どうやらまだこの三人は納得がいかない様子であった。そのうちゴブリンは床に吸収されて、濁った緑色の魔石を残して消え去っていく。



「おーい! 終わったのか?」


 そこに様子を見に来た聡史が声を掛けてきた。



「えーと、なんだか簡単に終わっちゃったんですけど……」


「うん? ゴブリン討伐なんて、簡単だろう! お前たちは何を言っているんだ?」


「嘘だぁぁぁ! 絶対に嘘だぁぁぁ! ゴブリンがこんなに簡単に倒せるはずなんかないんだぁぁぁ!」


 状況に対する頭の理解が追い付かないで混乱している美晴の絶叫だけが、ダンジョンの1階層に響き渡るのだった。



明日の投稿はお休みをいただいて、続きは火曜日を予定しております。ご了承ください。


ローファンタジーランキングの30位です。上位を目指すために重ねて読者の皆様におねがいです。どうか、以下の点にご協力ください。


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