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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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362/362

362 マギーの決断

シスターの元にガラの悪い男がやってきた続きです

 再び舞台は変わって、こちらは茨城県筑波にある第4魔法学院。


 本日もダンジョンから学生寮に帰ってきた留学生のマリアが、玄関横の事務室の係員から呼び止められている。



「マリアさん、お手紙が届いていますよ」


「あっ、どうもありがとうございますぅ」


 彼女が受け取ったのはセルビアから届いたエアメール。差出人には当然ながら孤児院のシスターの名が記されている。


 普段はメールでやり取りしているのに「なんでわざわざ手間をかけて手紙を送ってくるのだろうか?」と、ちょっと不思議そうに顔を傾けながらマリアは受け取っている。



「あら、手紙なんて珍しいわね。もしかしてマリアが大好きなシスターからなの?」


 マリアの隣からマギーが声を掛けてくる。



「そうですぅ。でも改まって手紙を送ってくるなんて、一体何が書いてあるのかわからないですぅ」


「きっとメールじゃ味気ないからわざわざ心がこもった手紙を送ってくれたのよ」


「マギーさんはいいことを言ってくれるですぅ! さっそく部屋で開けてみるですぅ」


 マギーの言葉にパッと花が咲いたような明るい表情になったマリアは、大事そうに封筒を両手で胸にあてたまま自室へと向かっていく。


 荷物を棚に置いてから机に向かって丁寧に封を開くマリア。ちなみに彼女たち留学生はさすがに聡史たちのような特待生待遇とまではいかないにしても、その活躍ぶりが評価されて学生寮では個室を与えられている。


 ともかく手紙の中身を早く読みたいマリアは、もどかし気な手つきで数枚の便せんに綴られている手紙を広げては目を通し始める。


〔親愛なるマリア、先日はビックリするくらいの大金を送ってくれてありがとう。おかげで子供たちとささやかながら誕生日のパーティーを開くことが出来ました。子供たちはみんな大喜びで、声を揃えてマリアに感謝していましたよ。


 でも、私はマリアが心配でなりません。私たちのためにムリをしていませんか? 孤児院のことは何とかなりますから、マリアは自分のために生きてもらいたいと願っています。


 そうそう、マリアが3歳の時に一緒に植えたアカシアが今ではすっかり大きくなりました。もう少し暖かくなったらたくさんの小さな花が咲くことでしょう。いつかマリアと一緒に見られたらいいですね。


 ともかく孤児院はマリアが心配しなくても大丈夫ですから、これからはマリア自身が自分の人生を歩んでくれたら私は幸せです。


 どうかいつまでも元気でいてくださいね〕


 ひとしきり 手紙を読み終えたマリアの脳裏には、なんとも言えないスッキリとしない感覚が残る。それに文の最後のほうは、なんというか… マリアに対する別れを告げているような気がしてならない。


 なぜこのような手紙をシスターが自分に送ってきたのか今ひとつ要領を得ないマリアはしばし考えこむが、やはり何も結論が出ないまま時間だけが過ぎていく。


 その時…


 コンコンコン


「マリア、いるの? 夕ご飯の時間よ」


 突然ノックする音とドアの向こうから響くマギーの声に、イスから跳ね上がる勢いでビクッとするマリア。



「ハ、ハヒーー! い、今行きますぅ」


 慌ててドアを開くと、そこにはマギーがひとりで立っている。



「食堂に行ってみたら、食いしん坊のマリアがいないからわざわざ呼びに来てあげたのよ」


「あ、ありがとうございましたですぅ。す、すぐに行きますぅ」


「そんな慌てなくてもいいわよ。マリア、それよりも何かあったの?」


「何かあったというか… シスターから送られてきた手紙が今ひとつ意味が分からないですぅ」


「一体どういうことなの?」


「私にも全然わからないですぅ。何回読み返しても、どうもおかしいですぅ」


 マリアは明日香ちゃんと同レベルの物事を深く考えないタイプの性格。あんな人間がもうひとりいるはずないと多くの方々が考えるかもしれないが〔セルビア人の明日香ちゃん=マリア〕という世にも奇妙な等式が出来上がるのは紛れもない事実。


 そんなマリアがこれだけ訴えてくるということは、マギーとしても気にならないわけにはいかなくなる。



「ねえ、マリア。その手紙を私にも見せてくれないかしら? あなたが気付かないことでも、私には何かわかるかもしれないわ」

 

 マギーが言っていることは「お花畑のお前じゃ何もわからないから、私が解決してやる」という意味に他ならないが、絶賛混乱中のマリアには天の助けにも等しく聞こえたよう。



「こんな時はマギーさんが頼りですぅ。ちょっと見てくださいですぅ」


 ということでマギーも部屋に入り込んで空いているベッドに腰を下ろして、マリアから手渡された手紙に目を通す。だがマギーは、受け取った手紙をすぐにマリアに突っ返す。



「さすがにセルビア語の文章は私にはわからないわ。マリアが読み上げながら日本語か英語に訳してくれないかしら」


「ウッカリしていたですぅ。それでは読み上げるですぅ」


 マギーから手紙を差し戻されたマリアはそこに書かれている文面を声をあげて読み上げ始める。マギーは彼女が読む内容に集中している。



「まず最初の『親愛なるマリア、先日はビックリするくらいの大金を送ってくれてありがとう。おかげで子供たちとささやかながら誕生日のパーティーを開くことが出来ました。子供たちはみんな大喜びで、声を揃えてマリアに感謝していました』の部分ですが、ここは書いてある通りなので特に問題はないですぅ」


「そうなのね。じゃあ、次をお願いするわ」


「はいですぅ。続く『でも、私はマリアが心配でなりません。私たちのためにムリをしていませんか? 孤児院のことは何とかなりますから、マリアは自分のために生きてもらいたいと願っています』のところなんですが、本当に孤児院の財政は火の車で、ちょっとした寄付でもシスターはすごくありがたがっているですぅ。私の仕送りがもういらないなんてことは絶対に有り得ないですぅ」


「なるほどねぇ~。確かにちょっと引っ掛かるわね」


 マリアの説明に頷くマギー。確かに財政が苦しいのはその通りかもしれないし、それをわざわざ手紙にして「もういらない」と伝えてくる必要性が感じられない。



「それから私が一番意味が分からないのは次の文なんですぅ。『そうそう、マリアが3歳の時に一緒に植えたアカシアが今ではすっかり大きくなりました。もう少し暖かくなったらたくさんの小さな花が咲くことでしょう。いつかマリアと一緒に見られたらいいですね』というところなんですが、私にはサッパリわからないですぅ」


「何がわからないっていうの? 今聞いた限りでは普通の出来事のように聞こえるんだけど」


「でも、本当に意味が分からないんですぅ」


「一体どの部分がわからないっていうのよ?」


 さすがに気の短いマギーはややキレ気味になっている。



「私が孤児院に引き取られたのは5歳の時ですぅ。そんな大事なことをシスターが間違うはずないですぅ。それに孤児院だけじゃなくって教会の敷地にもアカシヤの木なんか一本もないですぅ」


「ええええ、それってどういうことよ?!」


 マリアの話を聞いて、さすがのマギーも彼女が口にする「手紙の意味が分からない」という言葉に納得がいった表情。


(明らかな間違いをわざわざ織り交ぜてくるのは、絶対に何らかの隠された意図があるはずよね。ひょっとして、ワザとマリアを遠ざけようとしているのかもしれないわね)


 なるべくマリアに感情を読み取られないように繕ってはいるものの、その表情の奥には「ひょっとして何らかのイヤなトラブルが起きたのでは?」という感情が鎌首をもたげている。


 マギーのそんな心の内に気付く様子もなく、さらにマリアは続ける。



「それから最後の『ともかく孤児院はマリアが心配しなくても大丈夫ですから、これからはマリア自身が自分の人生を歩んでくれたら私は幸せです。どうかいつまでも元気でいてくださいね』という挨拶もおかしいですぅ。いつものシスターだったら必ず『私の愛しい娘のマリア』って言ってくれるですぅ。なんだかこれはお別れの言葉のように感じてしまってならないですぅ」


「確かにそうね。マリアの言うことには一理あるわ。私自身もうちょっと考えてみたいから、先に食事に摂るのはどうかしら?」


「手紙が気になって晩ご飯が喉を通るかわからないですぅ」


「そんなことを言いながら、いつもペロリと平らげるのがマリアでしょう。さあ、クズクズ言ってないで食堂に行くわよ」


「キャ! 無理やり手を引っ張らないでほしいですぅ」


 マギーが引っ張る勢いに負けて前方につんのめりそうになりながら、なんとかマリアが立ち上がる。するとここで、マギーが何かに気付いたように真剣な表情で口を開く。



「マリアにひとつだけ忠告しておくわ。手紙の件はフィオには教えないほうがいいと思うの」


「えっ? フィオさんにも相談した方がいいような気がするですぅ」


「あなたは知らないだろうけど、フィオにも彼女なりの立場っていうものがあるのよ。わざわざあの子を私たちとの友達関係と家系のあれやこれやの煩わしさとの板挟みにする必要はないでしょう」


「なんだかよくわからないけど、フィオさんには何も言わないですぅ」


 どうやらこの時点でマギーの頭の中にはかなり明確な何かがあるよう。これまでペンタゴンからもたらされた様々な情報と全米ナンバーワンと称される頭脳から導き出した何らかの解答が浮かんでいるのだろう。


 だがそんなことは億尾にも出さずに、にこやかな表情でマリアに話し掛ける。



「わかったならよろしい。それじゃあ、いきましょう。食事が終わったらもう一度この部屋に来るわね」


「はいですぅ」


 こうしてマリアはマギーに手を引っ張られるままに食堂に向かうのだった。




   ◇◇◇◇◇




 夕食を終えて一旦部屋に戻ったマギーは、もう一度頭の中で考えをまとめ始める。


(黒い貴族の屋敷や城が焼き払われたのが10日近く前。そこから何らかの動きがあって手紙が日本にいるマリアの元に届くまでのタイムラグを計算したら、あまりにも話が符合しすぎるわね。それにしてもマリアを育てたシスターが、あの神殺しの協力者だったとは驚きだわ。いや、ちょっと待って… ひょっとするとそれすらも貴族たちの手の平の上での話かもしれないわ。素知らぬフリをしながら「何もかもわかっているんだぞ」と脅してくるのは、あいつらがいかにも好みそうな手口じゃない)


 世界中に諜報ネットワークを張り巡らせている米国だけに、この程度の情報を集めるのは当然だろう。ここまでひと通り考えたところで、マギーの口から小さな笑い声が漏れる。


(フフフ、それにしてもマリアったら「食欲が…」とか言いながら一人前をペロリと食べたのに、すぐに立ち上がってお代わりでパスタをもらいに行ってたわよね。どの口が「食欲がない」なんて言えるのよ)


 あの調子だったらマリアの精神状態は心配ないだろうという結論を出すマギー。


(さて、ペンタゴンから許可を得ないとね。大佐だったらギリギリ起きている時間でしょう)


 日本時間で現在午後8時で、ワシントンは朝の6時という時間帯。とはいえノンビリしていられないマギ-としては躊躇いなく通話ボタンをプッシュする。



「おはよう、マギー。ずいぶん朝が早いんだね」


「大佐、おはようございます。こちらは夜の8時ですよ」


「ああ、そうだったね。それで、何かあったのかい?」


「シスター・エレナの元に何らかのトラブルが持ち込まれたようです」


「シスター・エレナって… 念のため確認するが、あの神殺しの協力者のシスター・エレナかい?」


 ゆったりした気分でモーニングコーヒーを口にしていたような雰囲気を漂わせていたのが、電話口の向こう側でいきなり冷や水をぶっかけられたような緊迫した口調に早変わりする大佐がいる。

 


「マギー、キミはどこからその情報を手に入れたんだ?」


「マリアの元にシスターから手紙が届きました。その内容が、日本にいるマリアを自らのトラブルに巻き込まないように遠ざけようとするニュアンスでした」


 先ほども述べたとおり、アメリカの諜報網は伊達ではない。


 黒い貴族たちの屋敷が焼き払われた件は即座にマギーに伝達されたし、マリアを育てたシスターが神殺しに繋がる重要人物だという話については留学の当初から調べはついている。


 そしてフィオことフィオレーヌ・ド・ローゼンタールに関して、彼女の家系がDS側に位置するということも。だからマギーはこの件についてフィオには告げないようにとマリアに忠告したと考えて間違いなさそう。



「シスターの元に降って湧いたトラブルというの正体が、マギーには見当がついているのかね?」


「十中八九、黒い貴族の仕業ではないかと。彼らの拠点が急襲を受けた件で神殺しに報復しようと企み、シスターに何らかの形で圧力を加えたんだと思われます」


 マギーの冷静な返答のあとで、電話口では数瞬の沈黙が流れる。そして、ややあってから…



「おいおい、たった今私のすべての毛穴から冷や汗が噴き出してきたぞ。連中はヨーロッパ中を地獄に叩き落したいのか?」


「思惑は何であれ、黒い貴族たちは神殺しに手を出しました。これはもう事実として認識しておいた方がいいと思います」


「おお、ジーザス! こんな不安定な世界情勢でヨーロッパが引っ繰り返ってしまうのか!」


 電話口の向こうの大佐はおそらくは天を仰いでいるだろうと、その様子がマギーにはアリアリと伝わってくる。だがマギーは至って冷静にツッコミを入れる。



「今さら何を大袈裟な。大佐が熱心なクリスチャンだったなんて初めて知りました。それよりもこの一件で、日本と黒い貴族は全面戦争に突入したも同然です。せっかくですから、この際ヤツらが一掃できないまでもその勢力を弱める方向で考えるべきでしょう。上手く事が運べば、年明けに就任する新しい大統領は仕事がやりやすくなるんじゃありませんか?」


「マギー、キミは恐ろしいことを口にするね。神殺しに関わると破滅的な運命が待ち受けているというのは、我々欧米の政府関係者の共通認識なんだが」


「その恐ろしい事態だったらとっくに米国内で起きているじゃありませんか。厳密にいえば、我が国の国土の地下深くで発生したものですけど」


「ひょっとして例の地下施設が壊滅した一件かね? 確かに同時期に神殺しの姿が米国国内で確認されてはいるが…」


「確かに神殺し本人はロスで所在が確認されただけですが、どんな形であれ裏で一枚噛んでいるのは明白です」


「まあ、それが当たり前の見方だろうね。それよりもマギー、君は一体何を仕出かそうとしているんだ?」


「まずは神殺しと接触します。それから私のヨーロッパ行きの許可をください」


「神殺しと手を結ぼうというのかね?」


「ソルトレークシティーの一件を加味すれば、どちらと手を組むかは明らかなはずですが」


「はぁ~… 君は朝っぱらからとんでもない問題を持ち込んでくれるな。いいだろう、ヨーロッパ行きは認めよう。だがこの件に関してはアメリカ政府は何の力添えも出来ない。君がどのようなトラブルに巻き込まれたとしても自己責任で何とかしてもらいたい。緊急脱出時の米軍基地の使用くらいは認められるかもしれないが」


「緊急脱出なんて事態は今のところ想定はしていませんが、相当な危険があるのは最初から覚悟の上です。その上でヨーロッパの動向と日本政府がどんな隠し玉を持っているのか探ってみます」


「君の勇気に敬意を払うよ。私への土産は日本製の効き目のある胃薬で頼む」


「承知しました。では失礼します」


 通話を切ると、マギーはニンマリとした笑みを浮かべる。そしてもう一度スマホの通話ボタンをプッシュ。



「はい、もしもし」


「聡史、なにを腑抜けた声を出しているのよ!」


「マギー、いきなり何の話だ?」


「これから疾風怒濤の時代が始まるのよ! ノンビリなんかしていられないわ」


「だから何の話か分かるように説明してくれ!」


「いいわ、具体的に説明してあげるから明日は空けておいてね。私とマリアでそっちに行くから」


「いきなりだな。何時ごろ来るんだ?」


「午前中の内にそちらに着くと思うから。あと、神崎学院長とも話がしたいの。アポをお願いね」


「ゲ、学院長も絡むのかよ。わかった、話は通しておく」


「それじゃあ、また明日ね」


「ああ、待ってる」


 こんな内容の通話を終えると、マギーはそそくさとマリアの部屋に向かっていくのであった。




   ◇◇◇◇◇




「マギーさん、待っていたですぅ!」


 ドアをノックするなり、バタバタと足音を響かせながらマリアがドアを開く。


 いつものように夕食でお腹いっぱいになっているおかげもあってか、その表情は先程よりもずいぶん落ち着いたように見受けられる。


 やはりこんなところも明日香ちゃんと瓜ふたつ。唯一の違いといえばデザート至上主義の明日香ちゃんに対して、マリアはといえば食事全般が人生最大の喜びだという点だろうか。



「さっそくマギーさんの考えを聞かせてもらいたいですぅ」


「ええ、いいわ。大事な話だから落ち着いて聞いてね。マリア、あなたの大切なシスターと孤児院は何らかの危険な事態に直面している確率が高いわ」


「えぇぇぇぇぇぇ! た、大変ですぅ! 何とかしないといけないですぅ!」


 マギーから告げられた思わぬ言葉にマリアは相当に泡を食った表情を浮かべて頭の中はパニック状態のよう。アタフタしながらも、自身はどうしていいのかわからない様子で収拾がつかない。



「だから『落ち着いて』って言ったじゃないの。それほど時間の猶予はないけど、たぶんあと数日は何も起こらないはずよ」


「ど、どうしてそんなことがわかるんですかぁ?」


「私の手元にある様々な情報を総合した結論よ。それよりもマリア、明日から一足早い学期末のお休みに入りましょう」


「えぇぇぇぇぇぇ! マギーさん、一体どういうことですかぁ?」


 さすがにあまりに唐突な申し出に驚きを隠せないマリアがいる。マギーが持っている情報量とシスターから手紙を受け取っただけのマリアという立場の違いが、この格差を生み出している。



「マリア、よく聞いてね。あなたの大切なシスターと孤児院が大きな危機に見舞われているの。助けに行かないでどうするっていうのよ!」


 マギーの思いもかけない申し出に、マリアの表情がハッとしたモノへと変わっていくのが見て取れる。



「そ、そうですぅ。シスターがピンチだったら助けに行くですぅ! ひょっとしてマギーさんも一緒に行ってくれるんですかぁ?」


「当たり前でしょう。友達が困っているのをみすみす放っておけないわよ」


「ありがとうございますぅ。マギーさんがいれば心強いですぅ」


 マリアは今にも抱き着かんばかりの態度でマギーに礼を述べている。マギーとしては純粋な友情だけでの申し出ではないので若干の心苦しさを感じざるを得なくて、真剣な表情の裏には少々の後ろめたさもある。



「それじゃあ、年内はヨーロッパにいるつもりで荷物を用意してちょうだい。もちろん学院への届とパスポートは忘れないでよ」


「わかったですぅ」


「それから明日は第一魔法学院に向かうわ」


「えっ、なんでですかぁ?」


「さすがに私ひとりじゃ色々と心許ないでしょう。応援を要請するのよ」


「マギーさんはさすがですぅ! でも桜ちゃんだけは怖いですぅ」


 どうやらマリアの心の奥底には筑波ダンジョン攻略時の桜の人智を越えた暴虐な所業がトラウマとして刻まれているよう。



「だからこそ応援として頼りがいがあるんじゃないの。フィオには私からうまく言っておくから、マリアも口裏を合わせるのよ」


「わかったですぅ」


 こうしてこの日は過ぎていって、迎えた翌朝…



「あら、お二人ともキャリーケースなんか準備してどうしたんですか?」


 何も知らされていないフィオが旅支度を整えたマギーとマリアを見つけて少々驚いた表情を向けている。



「私はペンタゴンから急な呼び出しがあったの。今から大急ぎでワシントンに向かうわ。しばらくは日本に戻れないかも」


「私は昨日シスターから手紙を受け取って急にセルビアが恋しくなったですぅ。完全なるホームシックですぅ」


 フィオに対する申し訳なさを感じつつも、なんとか昨日のうちに考えた言い訳を口にする二人。



「まあ、そうだったんですね。私もクリスマスの前にはフランスに戻ろうと思っていたんですよ。ということは、次に会うのは新しい年になってからですね」


「そうかもしれないわね。フィオも良いクリスマスを過ごしてね」


「はい、お二人こそ良いクリスマスをお迎えください。旅路の安全をお祈りしています」


 こうしてフィオに別れを告げると、二人は電車に乗って聡史たちが待つ魔法学院に向かうのであった。




   ◇◇◇◇◇





 昼の時間が近づいた頃合いに、マギーとマリアは約束通りに魔法学院の管理棟前のエントランスにタクシーで乗り付けている。


 Eクラスの脳筋共とは違って、マギーには学習能力がある。前回伊勢原の駅前でどのバスに乗ればいいのか散々迷った反省を生かして、今回は間違いようのないタクシーを利用している。


 ちなみにマリアも明日香ちゃん同様の方向音痴らしい。もしひとりだったらとても学院まで辿り着けなかっただろう。仮に奇跡的に伊勢原までこれたとしても、このような機転を利かした行動など絶対にムリ。さしたるアテもなくウロウロ彷徨い出すほうに3000ウォン賭けてもいい。


 スマホで聡史を呼び出すと、程なくして兄妹がエントランスまで降りてくる。桜の姿を久しぶりに目の当たりにしたマリアの表情が思いっ切り引き攣っているのは言うまでもない。



「ようこそ、俺たちの部屋に案内するよ。すでにパーティーメンバーが全員集まってる」


「話が早くて助かるわ」


「よ、よろしくお願いするですぅ」


 エレベーターに乗り込んで最上階へと向かうと、室内にはデビル&エンジェルのメンバーが勢揃い。



「マギーさん、マリアさん、遠い所わざわざお越しいただいてありがとうございます」


「美鈴さん、対抗戦の戦いは本当に素晴らしかったわ。私は魔法のことはあまり詳しくないけど、あの桜をあそこまで追い詰めるなんて、私の中の魔法に対する認識が改まったわ」


 マギーは明日香ちゃんとのエキシビジョンマッチに敗れた後、控室で桜と美鈴の対戦をモニター越しに見ていたよう。いつも強気な彼女にしては珍しく、心から感じ入った表情をしている。


 続いてカレンが挨拶をすると、残るは明日香ちゃん。



「これはこれは、私に負けたマギーさんじゃありませんか。どうもお久しぶりですよ~」


「明日香、あなたは着いて早々の私にケンカを売ってるの?」


「強者には媚びへつらって、弱者は思いっ切り見下すのが私のポリシーですよ~」


「まったく、全米最強のこの私があんな負け方をするとは思わなかったわ。今度は絶対に勝つからね」


 両者の間に一発触発の空気が流れる。それにしてもこの明日香ちゃんらしからぬ言動は一体どうしたんだろうとデビル&エンジェルの他のメンバーが頭を傾げている。


 なんだか変な雰囲気が特待生寮に流れるが、これではいつまで経っても肝心の用件に入れないと業を煮やした桜が割って入る。



「明日香ちゃん、なんでマギーさんにそこまで突っかかるんですか?」


「桜ちゃん、これは大事なことなので負け犬にしっかり教え聞かせているんですよ~」


「普段勝ち負けなんて全然こだわらないくせに、なんで今日に限って… もういいです、明日香ちゃんは隅っこでこれでも食べていてください」


「作戦通りですよ~。マギーさんに突っかかればきっと桜ちゃんが止めに入ると思っていました。これでお昼前に豆大福ゲットですよ~」


「タマのおやつ用に買っておいたのに。あとでタマからギチギチに詰められるといいですわ」


「もらってしまえばこっちのモノですよ~」


 どうやら明日香ちゃんは大して役に立たない頭を振り絞って、マギーをダシにおやつをゲットするつもりだったらしい。一体どこまで姑息な性格をしているのだろうかと、周囲から冷たい視線が集まっている。


 ソファーの端で豆大福を食べ始めた明日香ちゃんは放置して、聡史が話を切り出す。



「それで、一体どんなあ用件があってわざわざ俺たちを訪ねてきたんだ?」


「ええ、実はマリアの元に手紙が届いて… ということなのよ」


「そうなんですぅ。マギーさんが言うにはシスターと孤児院が何らかの危機に陥っているんじゃないかという話で、皆さんに協力してもらいたくてこうしてやって来たですぅ」


 マギーとマリアからひと通りの説明がなされて、明日香ちゃんを除いた全員が「どうしたものか」という表情に変わっていく。


 その中でカレンだけは、頭の中に何事か浮かんだ表情でマリアに向かって口を開く。



「マリアさん、あなたがお世話になったシスターのお名前を教えてもらえますか?」


「はい、シスター・エレナですぅ」


「ご本名は?」


「エレナ・テレジアですぅ」


 マリアはカレンがなぜこんなことを聞いてくるのか今ひとつ腑に落ちない表情ながらも、聞かれたことに素直に答えていく。


 すると、カレンの表情が目に見えて変わってくる。



「やっぱり、そうでしたか。その方は私の母の古い友人です」


「「「「「ええええええええええ!!」」」」」


 マギーと明日香ちゃん以外の声がキレイに揃っている。マギーはこの情報をただ一点を除いて知っていたし、明日香ちゃんは豆大福を食べ終えて完全に気を抜いたまま話なんか聞いちゃいない。


 全員の驚きの声が静まったのを見計らって、マギーはカレンに尋ねる。



「カレンさん、『私の母』って、どういうことかしら?」


 どうやらマギーにも知らされていなかった情報があったよう。というか学院長とカレンの親子関係というのは一部の人間以外は意外と知られていない。べつに極秘扱いという訳でもないのだが、パッと見の風貌があまりに違いすぎてほとんどの人間が二人の間の関係を疑うことすらしないというのが実のところ。



「はい、この学院の学院長を務める神崎真奈美は、正真正銘私の母親です」


「「ええええええええええ!!」」


 今度はマギーとマリアの声が揃っている。


 驚く二人を面白そうに見つめながら、カレンが話を続けていく。



「以前母から聞いたことがあるんです。セルビアの教会に昔馴染みのシスターがいるって。それが偶然にもマリアさんがお世話になった方だったんですね」


「カレンさん、たぶん偶然というのは違うと思うわ」


「マギーさん、どういうことですか?」


「少なくとも神殺しの協力者が務まるほどの人物よ。そこいらにいるようなただのシスターな訳ないじゃない。おそらくだけどかなりのレベルで魔法に通じているシスター・エレナが、マリアの才能に気が付いて特別な教育を施したのよ。その結果として、マリアは日本に留学を果たしたという訳」


「シスター・エレナはスゴイ魔法の力を持っているですぅ。私は10歳になった頃から色々と教えてもらったですぅ」


 二人の話を聞いたデビル&エンジェルのメンバーも、どうやら偶然マリアが日本に来たわけではなさそうだと理解したよう。



「ということはマリアさんはシスター・エレナの英才教育のおかげで今のような優れた魔法使いになったのね」


 ここでしばらく成り行きを見守っていた美鈴が久しぶりに口を開く。



「美鈴さんに『優れた魔法使い』なんて言われると恥ずかしいですぅ。絶対に敵わないですぅ」


 このような遣り取りをしていると、玄関がカチっという音を立てて開錠しドアが開く音がする。



「聡史お兄さん、桜お姉さん、ただいま… えっ!」


 すでに学期末も迫っているので学院は午前中授業。まさか客がいるとも知らずに普段通りに特待生寮に戻ってきた弥生だが、ソファーに腰を下ろすマギーとマリアの姿を見てその場で硬直している。



「聡史、どなたかしら?」


「ああ、二人とも初対面だよな。俺たち兄妹の従姉で1年生の楢崎弥生だ」


「は、はじめまして」


 思いっきり挙動不審な態度でペコリと頭を下げる弥生。そんな弥生の姿を見たマギーは、ニッコリと微笑みつつ挨拶をする。



「はじめまして、第4魔法学院の留学生、マーガレット・ヒルダ=オースチンよ」


「同じくマリア=ヴロビッチですぅ」


「お、お二人のことは知っていました。クラスの子たちと一緒に対抗戦を見てて、他校にもスゴイ人がいるんだとビックリしました」


 やや落ち着きを取り戻した表情で弥生が答えている。そこに聡史が割り込んで…



「弥生は7月までアメリカのハイスクールにいたんだ。9月からの編入で、こうして俺たちと学院で過ごしている」


「まあ、そうなのね」


 ここからマギーと弥生の英語のやり取りがしばらく続く。どこのハイスクールだったかとか、その学校は知っているとか、そんな他愛もない遣り取りだが、二人とも久しぶりに思いっ切り英語を話せる相手がいるせいか、思いの外会話が弾んでいる。



「聡史、あなたの従姉はかなり優秀ね。こうして特待生寮にいるってことは、能力のほうもスゴいんでしょう?」


「いや、他の生徒に比べて半年近く遅れているから、魔法のほうはまだまだといったところだ。縁故入学と将来性込みで特待生待遇になっている」 


 聡史としては弥生の極めて特殊な魔法スキルをおいそれと知られるわけにはいかない。弥生に関しては、こんな感じで当たり障りのない説明に終始している。



「聡史お兄さん、皆さんのお話の邪魔にならないように私は先に食堂に行ってます」


「ああ、もうそんな時間なんだな。マギーとマリアも一緒に食堂に行かないか?」


「そうね、まずはランチにしましょうか」


「お腹が空いてきたですぅ。早く行くですぅ」


「やっと私の時間が来ましたよ~」


 いつの間にか明日香ちゃんまで立ち上がっている。つい先ほど豆大福をペロリと2個食べたはずなのに、普通に昼食を食べて、あまつさえ桜の監視を掻い潜ってデザートまで口にしようと企んでいる様子がアリアリ。


 こうしてなんとなく流れで弥生も交えた一同は、学生食堂に向かうのであった。




   ◇◇◇◇◇




 昼食を終えると、聡史たちは挙って学院長室に向かい、弥生はひとりで特待生寮に戻ってくる。


 自分の部屋に入るなりベッドに体を投げ出してついさっきの出来事を思い出している。


(はぁ~、ビックリした~。まさか自分の部屋に監視対象がいるとは思わなかった~)


 どうやら弥生がマギーとマリアを見て固まったのは、突然の来客に驚いただけではなさそう。


 実は第4魔法学院の留学生3名は量子コンピューターオペレーションルームにおいてレベルこそ低いが監視対象に置かれている。具体的には彼女たちのスマホには今年の10月以降弥生のアバターが侵入しており、通話やメールの内容が逐一量子コンピューターに送られている。


 なおも弥生の心の中での呟きは続く。


(近いうちに何らかの動きがあるとは思っていたけど、まさか今日いきなりこの部屋にやってくるなんてさすがに想定外)


 弥生は黒い貴族の会合が量子コンピューターによって補足された際に、会合の参加者全員のパソコンにアバターを忍び込ませていた。


 当然パソコンの中にあるメールアドレスや電話番号などもすっかり吸い上げており、続いてそのアドレスや通話先にもアバターを送り付ける作業に1週間程度従事し、その間はオペレーションルームに缶詰めの生活を送る。


 そして3日前にようやく作業が一段落して、久しぶりの学院生活に戻っているという次第。


 この間弥生のアバターが吸い上げた情報によって量子コンピューターとAI知能が黒い貴族の人間関係や商取引の内容などを克明に記録し続けており、貴族たちや彼らを取り巻く多くの人間の位置情報をはじめとする事細かな個人情報まですっかり丸裸にしている。


 もちろんマギーたちの情報も継続して集められてはいるが、弥生自身はアバター任せで他のオペレーターがモニタリングしているので、彼女たちが今日魔法学院にやってくることに気付かなかったのも無理はない。


(今度は誰がヨーロッパに向かうんだろう? まあ、私には実戦はムリだから精々バックアップに徹するしかないよね)


 こんなことを考えていると、連日のパソコン作業の疲れがどっと押し寄せてきたのか、弥生は深いまどろみの中に落ちていくのであった。



意外なところで活躍を見せる弥生さん。作者的には桜、美晴、ジジイといった脳筋がガンガン暴れるところが一番筆が進みますが、弥生のような裏方にも時折スポットライトを当てていきたいと思っております。次回、果たしてヨーロッパに一体誰が送り込まれるのか、そしてどのような内容で作戦が進められていくのか… 出来上がり次第投稿いたしますので、どうぞお楽しみに!


最後に皆様にいつものお願いです。


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「続きが気になる」

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