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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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361 黒い貴族の暗躍

大変長らくお待たせいたしました。投稿を再開させていただきます。前話でヨーロッパにおける黒い貴族の本拠地を天の浮舟が焼き払ったお話の続きからとなります。

 話は一旦日本に戻って、黒い貴族たちの居城に対する一斉攻撃が行われた当時のダンジョン対策室。


 レーザー砲による全てを灰に変えていく苛烈な攻撃は現地時間の午前2時に開始されているが、時差の関係で日本では午前8時となっている。


 昨夜から泊りがけで今回のミッションの成否を見つめ続けていた対策室の幹部たちは、次々に寄せられてくる「目標の完全破壊に成功」という報告に胸を撫で下ろした表情を浮かべる。


 そんな安堵した様子の幕僚たちに岡山室長が…



「一回の作戦の成功に一喜一憂するモノではない。我々はこの先ディープステート並びにヨーロッパ中の黒い貴族たちがどのような出方をするか見極めていく必要がある。敵はマスコミや金融資本の大部分をいまだに握り続けており、社会における影響力は絶大なままだ。今回の出来事は小さな第一歩をしるしたに過ぎない。願わくばこれまで不当に人類を支配してきた連中に対する日本の態度が欧米の人々にも伝わると良いのだが」


「室長、それにしても今回の作戦は思い切りましたね。これまで表に現れようとしなかった敵の中枢に対していきなりの先制攻撃なんて考えも付きませんでした」


「君はこの対策室に着任してどのくらいの期間が経過しているんだ? そろそろ戦後長らく続いてきた隷属的な同盟関係から考えを改めてもらいたいものだな。現状日本政府は第2次世界大戦以降に結ばれた条約をすべて破棄もしくは凍結しているんだ。今は世界を相手に戦っている状況といっても過言ではない。専守防衛など過去の遺物だよ。そんな古い発想はさっさとゴミ箱に捨ててしまうんだ」


「失礼いたしました。自分の至らない発言を撤回させていただきます」


「うむ、これまでの様々なしがらみに足を取られて考えが揺らぐこともあるかもしれない。だが我々がそんな態度では銀河連邦も思い切った協力がしにくくなる。君たちには新たな歴史の転換点を切り開く気概を持ってこれからの日本の針路に一命を賭してもらいたい」


「「「「「「了解しました」」」」」」


 幕僚たちの声が揃う。これまでの地球内部の国同士の対立という構図に銀河連邦という巨大な超科学技術を誇る存在が加わったことによって、大航海時代以降の世界史及び国際関係に多大なる影響をもたらしてきた〔ヨーロッパ至上主義〕という一握りの上級白人によって形作られた国際秩序と社会常識が一切通用しない混沌の時代が開幕したという思いを新たにしているよう。


 幕僚たちが気概を新たにした雰囲気をしかと感じ取った岡山室長は言葉を続ける。



「さて、黒い貴族の連中もこのままやられっ放しでは済ませないだろう。ヤツらはプライドだけは高い。その伸び切った鼻をへし折るのに我々は精を出そうじゃないか」


「承知いたしました。つきましては量子コンピューターオペレーションルームからの情報を精査しつつ、適切な対応を行っていくという方向でよろしいでしょうか?」


「ああ、いいだろう。どうせすぐに何らかの動きが観測されるはずだ。いかにも旨そうなエサを蒔いておいて、こちらが仕掛けた大きな網で一網打尽と行きたいものだね」


 これ以降は岡山室長も敢えて発言しようとはせずに、部下たちの仕事ぶりを見守るだけであった。





   ◇◇◇◇◇




 打って変って、こちらは昨夜天の浮舟による奇襲とでもいうべき攻撃を受けて代々伝わってきた家系の本拠地ともいえる居城や屋敷を破壊された黒い貴族たち。


 中にはこの攻撃によって当主やその家族が命を落とした例もあるが、ほとんどの有力家系は象徴的な拠点ではなくて別の場所に居を構えているので、無事だった面々が回線を繋いで話し合いを行っている。



「昨夜の空襲は一体何者の手によるものなのだ?!」


「我らに対する敵意は確実とはいえ、現段階では襲撃者の正体に関する手掛かりは何も得られていない」


「バカな! 此度の空襲で三家系の当主が命を落としているのだぞ! しかも巻き添えになった家族を含めると、その被害は甚大としか言いようがない」


 自分たちの金儲けのために戦争を引き起こしてその犠牲になる人々のことなど髪の毛の先ほどにも考慮に入れない冷血非道な面々ではあるが、ひとたび自らが被害を受ける立場になると殊更に大事のように喚き立てるのは、彼らが長い歴史の間に醸成してきた「自分たちは守られて当然」という思い込みというか、もしくは脳内に潜在的に刷り込まれている特権階級意識というものなのだろう。


 次々と各位からもたらされる被害報告内容に納得がいかないひとりの有力貴族が声を荒げる。



「あれだけの攻撃がヨーロッパの20か所で実行されたんだぞ! 各国の防空レーダーは何も捉えていないのか?!」


「レーダーはまったく異常なしという状況で、明らかに民間機と表示されるマーカー以外は当日の空には何ら異常な物体は映っていなかったそうです」


「空軍並びに被害状況を調査した国防当局の専門家の話によると、爆弾などではなくて超高温で焼き払われたような痕跡があるということが報告されている」


「さらに目撃者が複数いて、その話によると上空から赤い光が複数投射されたという情報が得られているぞ」


「ということは、ロシアや中国の軍事基地が破壊された時と同じ状況だな」


「となると、ますます日本の関与が疑われてきますな」


「アメリカにおける例の地下拠点の潰滅といい、今回の我らが代々所有してきた居城への攻撃といい、ヤツらは一体何を握っているのだ?!」


「日本政府は『強力な魔法の力を保持している』という点は認めているようだが…」


「あれが魔法による被害だと言いたいのかね? バカバカしい! 個人で何とかできるレベルの破壊工作ではないのは明らかだ! 何らかの組織的な技術開発が成されているはず」


「魔法を現代技術に組み込んだという可能性は?」


「魔法と現代技術の相性は悪いという結論が我らの支配者から下されているではないか。神にも等しい存在が不可能なモノを、日本という一国で成し得ることなど誇大妄想狂の絵空事に決まっている」


「となると結論は出せないまま、今回の原因究明は暗礁に乗り上げますな」


 何世代にもわたって国家の裏側で権力を握って世界を牛耳ってきた黒い貴族たちでも、さすがに日本と銀河連邦が手を取り合ったという事実に関してはいまだに想像の埒外といった様子。


 仮にこの事実を知ったところで銀河連邦の超科学技術を前にすれば、彼らも「まったく打つ手がない」と絶望感に苛まれるだけかもしれない。


 ひと通り状況報告を終えたところで、今回のリモート会議の取りまとめ役が口を開く。



「攻撃手段の解明は今後とも継続していく。それよりも例の神殺し一派を叩く工作のほうはどうなっているんだ?」


「すでにとある高貴なお方に使いの者を送る手筈は整っている。一両日中に何らかの返事があるだろう」


「そうか、そちらのほうは任せる。さて、今回は著しい緊急性のためにこうして回線を繋いでの会議となったが、昨夜の被害を鑑みるに、どうやら我々の話し合いは襲撃者並びに背後に控える組織に筒抜けのようだ。以降は手紙のやり取りと直接顔を合わせての話し合いに徹して、ネット回線を用いたお互いの遣り取りは禁止する」


「ああ、その方がいいだろう。不便にはなるが、30年前に戻ったと思えば大きな支障はない」


「方々は日本の動きに注意を払ってもらいたい」


「それはもちろん現状の最優先事項だ。さて、他に意見がないようだったら解散としよう」


 こうして緊急の打ち合わせは終了する。


 もちろんこの遣り取りはすべて量子コンピューターオペレーションルームに筒抜けとなっているのは言うまでもない。現代社会において携帯電話やネット回線を使用せずに生活するのはまずをもって不可能。彼らはこのような大人数での集まりに関しては文書で連絡を取り合うのだろうが、個人的な通信まで徹底的に回線の使用を排除するというのは無理があるだろう。


 そのような個人的な遣り取りの中から黒い貴族たちの中枢の考え方を焙り出すのは、ある意味諜報部門の腕の見せ所かもしれない。


 今回の天の浮舟による攻撃は黒い貴族たちに「あまり調子に乗るなよ」という警告を発する意味で行われたが、その分彼らに警戒心と日本の今後の出方に今まで以上に注意を払うという考えを抱かせている。


 一見すると何も警戒しないまま好き放題にさせておいた方が情報を集めやすいのではないかと思われるかもしれないが、人間というのは生存が脅かされるというプレッシャーが掛かると必ずどこかでボロを出すもの。


 おそらく岡山室長の目論見は彼らにどこかでボロを出させておいてシッポを掴み、そこからより大掛かりな黒い貴族の潰滅に乗り出していく… そんなところかもしれない。


 今までは国際社会の主導権を握って人々に戦禍や社会不安を撒き散らす立場だった者たちが、銀河連邦というイレギュラーな存在が加わったせいで今度は狩られる立場に追い込まれていく。そんな人類の歴史の大きな転換点を迎えているのだろうか。これまでの社会常識がまったく通用しない世界を日本が切り開いていくという未来が改めて浮き彫りにされていくような気がしてならない。


 そんな感慨はさて置いて、19世紀以降の世界の歴史で常に暗躍し続けて権力と富を貪ってきた極悪人どもが坂道を転げ落ちるように転落していく無様な姿… 岡山室長の本心では「その様を見届けようじゃないか」などという冷徹な思いがあるのかもしれない。




   ◇◇◇◇◇



 

 場所は変わって、こちらはモナコの高級ホテルの最上階。世界中のセレブたちが集う社交パーティーの会場に執事姿の男性が姿を現す。


 会場を見渡した彼の目には、シャンパングラスを片手にした20代の青年が華やかなドレスに身を包んだ若い令嬢たちに取り囲まれている様子が飛び込んでくる。


 毛足の長いカーペットを踏みしめてゆっくりと近づいてくる執事服姿の男にその青年も気付いた様子で、彼を取り囲む女性たちに声をかける。



「楽しい時間だったが、どうやらビジネスの話が舞い込んできたようだ。君たちは引き続き思い思いのひと時を過ごしてくれたまえ」


「仕方ありませんわ。この次の機会にはぜひともご一緒にダンスを踊っていただけますか?」


「ああ、もちろん約束するよ。どうか今宵も素敵な一夜を過ごしてくれたまえ」


 優雅な態度で女性たちにお引き取りを願ってから、青年は執事服の男に視線を送る。



「そなたは確かシチリア公爵家の家中の者だな」


「しがない執事風情の私めの顔を覚えていてくださるとは、まことに恐悦至極に存じまする」


「月並みな挨拶などよい。そなたの主人もこの場に来ておるのか?」


「はい、何のお約束もなくお目に掛かるのは失礼かと存じまして、あちらに控えておりまする」


「そうか、相分かった。そなたの主人共々付いてくるがよかろう」


「ありがとうございまする」


 やや離れた場所に佇んでいたシチリア公爵が青年の目の前に顔を出すと、両者は互いに軽く頷き合ってから会場の出口へと向かっていく。そのまま歩を進めては、華やかなパーティーの喧騒から少し離れた一角にある個室へと消えてゆく。



「このような集まりには滅多に顔を出さない貴卿が急に私の前に姿を見せるとは、よほどの急用のようだね」


「敬愛するカイザーにはご機嫌麗しゅうございます。本日はお楽しみのところご無礼申し上げまする。さるお方からから書状を預かってまいりました」


「そうか、貴卿ほどの人物を使いに寄越すとは、書状の送り手も自ずと想像はできてくるな」


 カイザーと呼ばれた青年は個室に控えていた侍従に目で合図すると、政府の外交文書にも匹敵する重厚な装丁の封書を受け取らせる。



「確かにサヴォイ王家の紋章でございます」


 侍従は蜜蝋で封をされた封書を確認すると、慣れた手付きで取り出したナイフで封を開いて文書を主人に手渡す。侍従の発言にあったサヴォイ家とは、長きにわたって諸侯が分割支配していたイタリア半島を統一してイタリア王国を築いた名門中の名門。


 そしてシチリア公爵を遣いっパシリにするところを見ると、シチリアマフィアとも深い繋がりがあるのだろうという背後関係が自ずと浮かび上がってくる。


 しばらく書状に目を通していたカイザーは、おもむろに公爵に問いかける。



「ふむ、昨夜の何者かによる襲撃の件は私も耳にはしている。して、こんな文書を寄越して私に何をさせたいのだ?」


「はい、私が常々仰ぎ見たるイタリア王家も昨夜の不届き者による暴挙には大そう憂いておりまする。つきましては偉大なるカイザーのお力をもってして、我等に歯向かう愚か者たちに鉄槌を下していただきたく存じまする」


「具体的には?」


「偉大なるカイザーの親衛隊を動かしていただければ、すべての敵は葬られたも同然にございます」


「なるほど…」


 カイザーと呼ばれた青年はやや考え込む風を取る。



「相分かった。私の右手となる者を貸そう。それで、標的は何奴となるのだ?」


「どうやら我らにチョッカイを出しているのは日本ではないかと。ひいては日本の裏の武力の象徴たる神殺しを抹殺していただきとう存じ上げまする」


「なるほど、神殺しか… とはいえ遠き日本にいる以上はこちらも手出しはしにくい。なんとかしてきゃつをヨーロッパにおびき寄せる手はないか?」


「ございます。かつて神殺しに手を貸した者がセルビアにて孤児院を営んでおりまする。この者に圧力を加えて子供の命を盾にすれば、神殺しもみすみす見捨てるわけにはいかぬでありましょう」


「そうか、きゃつをおびき寄せる算段はそちたちに任せるゆえ、首尾よく神殺しがノコノコ現れたら我が手の者を差し向けよう」


「ありがたきご決断に深く感謝いたしまする。さっそく公爵閣下に伝えて手筈を整えますゆえ、今宵はこれにて失礼いたします」


「ああ、サヴォイ家の当主にもよろしく伝えてくれ」


「はっ」


 必要な遣り取りが終わって退出していくシチリア公の後ろ姿を見送るカイザーと呼ばれる青年。彼の右手には旧プロイセン皇帝家の紋章が刻まれた指輪が光を放っている。


 ドイツにおけるプロイセン皇帝は、第一次世界大戦の敗北によって退位に追い込まれた。だがこれはあくまでも退位であって、フランス革命やロシア革命のように王家や皇帝家が民衆によって一族すべてが根絶やしにされたわけではない。


 それだけではなくて所領こそ手放さざるを得なかったものの、金銀や美術品、財宝や現金などはスイスの銀行に保全されており、ドイツの戦後賠償にすら充てられることもなく、現在は投資ファンドの名を借りて各国企業を裏側で牛耳る存在として暗躍している。


 声高に民主主義や人権を訴えるヨーロッパ社会ではあるが、一皮めくってみるといまだに封建的なネットワークが跋扈する状況といえるだろう。だからこそ「ヨーロッパは階級社会」という声がいまだに根強く残っているのかもしれない。


 それどころか地球温暖化や多様性といった誰にとっても耳障りの言いフレーズによって多くの人々を洗脳状態にしては、国庫から支出される補助金を懐にして私腹を肥やすだけではなく、グローバリズムを旗印にして世界中から富を吸い上げようというのだから始末に負えない。


 それはともかくとして、なんとも気になるのはカイザーの口から出た「我が親衛隊」というフレーズ。ドイツで親衛隊といえば第二次世界大戦時のナチス政権が組織した総統親衛隊を思い浮かべるかもしれないが、それとはまったく別物の組織だと考えてよいだろう。


 黒い貴族の有力な家系がこうして使いを送ってわざわざ出動を要請するからには相当な力を持っていると考えて間違いなさそう。それだけではなくてこのカイザーと呼ばれる青年には、もっと何というか後ろ暗い秘密が隠されているようにしか思えない。


 このような成り行きを経て、岡山室長の指示で天の浮舟による強襲を受けたヨーロッパ側も動き始めることとなる。


 どうやらその中心には神殺しこと魔法学院の学院長の存在がクローズアップされているようだが、これが今後の国際社会にどのような影響をもたらすのかは今のところ未知数としか言いようがない。





   ◇◇◇◇◇





 場所は変わって、こちらはセルビアにある地方都市の教会。その敷地の一角には内戦の戦禍を免れた古い造りの孤児院が建っている。


 近くの小学校から帰ってきた幼い子供たちはシスターに宿題を見てもらってから、終わった順番に目をキラキラさせて彼女の周りに集まってくる。



「シスター、またあのお話を聞かせてよ」


「シスターのお話が聞きたくて、みんな毎日学校の昼休みに宿題を半分終わらせているんだよ」


「シスター、早くぅ」


 子供たちにまとわりつかれて両袖を引っ張られている年配のシスターは「まあまあ、しょうがない子たちねぇ~」という優しげな表情を浮かべて話を始める。その内容は… 教会のシスターだからキリスト教にまつわるはないかと思ったらまったく違っていて、言ってみれば日本のラノベによくあるような異世界での冒険の話が語られていく。どうりで子供たちが目をキラキラさせるはず。



「冒険者になったエレナはたまたまギルドで知り合った同世代の少女3人組に仲間に入れてもらって依頼を受けることにしました」


 登場人物は偶然にもシスターと同じ名前。子供たちはシスターが若い頃の話だと思い込んでいるよう。



「仲間になった女の子は、ミュリン、シャロン、ライムという名前の3人。ミュリンとシャロンが剣で戦って、ライムは魔法使い」


「シスターはどんな役目なの?」


「私じゃないわよ。これは物語だからね。エレナは回復魔法が使えるから、パーティーメンバーが怪我をしたときに治療する役目よ」


「魔法で怪我が治せるなんてスゴイんだね」


「私も誰かを助ける魔法が使えたらいいのにな」


「あっ、でもマリアお姉ちゃんは魔法が使えたよね」


「お姉ちゃん、元気かな?」


「一昨日、マリアからメールが届いていたわよ。日本に留学して元気にやっているらしいわ。それにね、ビックリするような大金を送ってくれたの。みんなに美味しい物を食べさせてほしいって」


「マリアお姉ちゃん、スゴイねぇ~」


「お姉ちゃんに感謝しないと」


「そうね、みんなでマリアに感謝しましょう」


 シスターが目を閉じて両手を組むと、子供たちは彼女をマネるように同じ仕草をして感謝の祈りを始める。ちょうどその時…



「シスター・エレナ。お客様がいらっしゃっています。応接室でお待ちです」


「わかりました。みんな、今日のお話はこれでお仕舞いね。晩ご飯はとっても美味しい料理を用意するから楽しみに待っていなさい」


「シスター、続きはまた明日ね」


「ぜったいにね! 約束だよ」


 子供たちに見送られてシスターは学習室を出ていく。応接室に入ると、そこで待っている男が体から発散させる空気によって、彼女の表情が一瞬だけ強張るのが見て取れる。



「お忙しいところ失礼いたします。シスター・エレナ… いや、名前は正しく口にしなければなりませんな。異世界からの帰還者エレナ・テレジア」


 言葉遣いこそ礼儀正しいが、得も言えぬ毒気を含んだ短い挨拶にシスターに表情がさらに強張っていく。


 彼女の目に映る目の前の男が漂わせる雰囲気は警戒心を掻き立てるのに十分なモノ。それだけではなくて、これまでひた隠しにしていた自らの過去すらアッサリ明かされるとなると、どう考えてもロクな用件でこの場に出向いているとは考えにくい。



「あなたが何を言っているのか、私にはわかりかねます。つまらない冗談を言いに来たのでしたらお帰りください」


 目の前にいるどうにも気味の悪い男に言質を取られぬように注意を払いながら、シスターは拒絶の意思を伝える。だが、彼女の強い意志はこの男には何も効果がなかったよう。



「そのような冷たい態度ではこの孤児院がどうなっても知りませんよ。政府や教会の方針如何ではいつでも取り潰せるんですからね」


「私を脅すつもりですか?」


 何とか自分の心の内を見透かされないように無表情で答えるのが精一杯のシスター。だが、そんな彼女の心情などすっかりお見通しとばかりに男は心無い言葉を続ける。



「聡明なシスターでしたらお判りのはず。この孤児院が潰されて行くアテのなくなった子供たちの運命がどうなるかということをね。今でも東ヨーロッパに張り巡らされた人身売買のルートは活発な活動をしていまして、特に東欧出身の身寄りのない孤児というのは世界各国の顧客から色々と需要があるんですよ」


「なんという神を恐れぬ罪深い言葉を。あなたの行く手には地獄に通じる運命が口を開いて待ってますよ」


「地獄に至る運命ですか… まあ、それも面白いかもしれなせんね。私は現世の快楽しか信じない主義なんでね。自分が死んでからどうなるなんて、知ったこっちゃありませんよ」


 どうやらこの男は人道だとか神の教えといった人間が本質的に持ち合わせている善なる心というものを髪の毛一筋も持ち合せていないよう。ここまで邪悪を凝縮したような背景を持つ人間はなかなかお目に掛かれないだろう。


 この男の言葉が本当だとして異世界で様々な悪人を目にしてきたであろうシスターからしても、この場に居合わせるのは神すら恐れぬ本質的な悪徳の化身そのもののように映っている。



「あなたが言いたいことはわかりました。それで、一体私に何をさせようというのですか?」


「話が早くて助かりますよ。なに、それほど大そうなことを頼みたいってわけじゃありません。シスターの旧知の人物をどうにかしてヨーロッパに呼び寄せてくれればいいんです」


「そんな曖昧なものの言い方では判断がつきません。その人は一体誰ですか?」


「ハハハ、すでにあなたもおおよその見当がついているでしょう。シスターが以前に色々と手を貸した、言ってみれば協力者ともいえる人物。その名は神殺しですよ」


「なんという恐ろしいことを言い出すんですか。あの人が再びヨーロッパの地に足を踏み入れたら、今度こそ只事ではすみませんよ。それこそ小国のひとつや二つは完全に地図から消えてなくなります」


「何をバカなことを… シスターもご冗談がお好きですな。たったひとりの人間が国家権力を相手に一体どれほどのことが出来るって言うんですか? どうせ神殺しの伝説など、人の口から口に伝わる間に話がどんどん大袈裟になって現在に残っているだけでしょう。個人が国家相手に何かをやらかすとすれば、精々ちょっとした騒ぎを引き起こす程度のテロ活動くらいですよ」


 どうやらひと昔前に学院長がヨーロッパ中の諜報機関を恐怖のドン底に叩き落した前例がない大暴れの逸話も、現地では時間の経過とともに過少に評価されているよう。確かに「たったひとりの人間が引き起こしたにしては、あまりに規模が大きすぎて信じられない… いや、信じたくない」というのが普通の人間の感覚なのかもしれない。


 そんな男の態度にやや呆れた表情を浮かべてシスターは言葉を返す。 


「その口振りからすると、あなたは神殺しの本当の姿を直接目にしていないようですね。仮に彼女がこの地に姿を現したら、本当に後悔しますよ」


「まだそんな強がりを口にする余裕があるんですね。それじゃあ、ひとつ試してみましょうか。あなたが首を縦に振らない限り、明日にでも隣街の孤児院が潰されますよ。何しろ私に命令をしてきた組織は政府なんかよりももっと大きな権力を握っていますからね~。人身売買に携わるシンジケートは、さぞかし儲かるでしょうね」


 心の底から嫌悪感が湧き上がるようないやらしい笑みを浮かべている男に対して、シスターは苦悩の表情を浮かべながら首を縦に振るしかできない。この孤児院の子供たちを自分のコネで何とか救いだしたとしても、その身代わりに他の孤児院の子供たちが犠牲になるという悪辣な罠に完全に絡め捕られているような心地となっている。



「わかりました。何とか連絡を取ってみますが、神殺しが動くかどうかは私の力だけでは如何ともし難い点は了承してください」


「そうですか。まあ、年内中に何とかしてもらえますか。私の組織の上のほうも色々と事情があるようで、あまり長い時間待ってはくれはないのでね」


「用件はそれだけでしたら、すぐに立ち去ってください。あなたと同じ空間にいるのは神への冒涜ですから」


「へいへい、用件が済めばすぐに消えますよ。くれぐれも年内には何らかの回答を出してくださいよ」


 こうして男は孤児院を去っていく。シスターはその後ろ姿を絶望に満ちた表情で見送ることしかできなかった。



遠く離れたセルビアで学院長の協力者が危機を迎える状況。この困難な状況に学院長並びに聡史たちはどう動き出すのか… 続きは出来上がり次第投稿いたします。


体長の不備や仕事の忙しさで大幅に投稿間隔が開いたことをお詫びいたします。しばらく仕事も休んだことによってだいぶ状況が良くなって、体力的にも余裕が出てきました。以前ほどのペースでは投稿できないかもしれませんが、完結を目指して一歩一歩進んでいきたいと思っております。今後とも当作品を、どうぞよろしくお願いいたします。


この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


最後に皆様にいつものお願いです。


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