358 レプティリアンの動揺
成層圏に飛び出したレプティリアンの宇宙船は…
グレートソルトレイクの湖底から浮上して成層圏まで一気に飛び出していったレプティリアンの宇宙船。地下施設に潜んでいた非戦闘員を乗せてこのまま大西洋を渡ってヨーロッパのとある地点を目指して巡航速度で航行する。順調にいけば1時間程度で目的地の上空に到着できるはずと搭乗する誰もが考えている。
だがアメリカからの脱出を企てるレプティリアンたちをみすみす見逃すまいとばかりにさらに超高高度から監視する多数のより巨大な宇宙船の集団が存在する。もちろん自衛隊の組織などではない。これらの艦船の正体は銀河連邦太陽系駐留艦隊第1機動部隊。1万メートル級プレアデス型戦艦のハイペリオンⅢを中心とする合計20艦からなる正真正銘の宇宙艦隊。これまで影の地球の支配者としてブイブイ言わせていたいってみればチンピラたちの集団のレプティリアンに対して、こちらは正真正銘の銀河のおまわりさん。比較のしようがないほどにあまりにも格が違いすぎる。
中でも圧倒的なのは艦隊の旗艦を務めるハイペリオンⅢ。全長10キロにも及ぶ巨大な船体は宇宙空間に浮かぶ人工都市のような規模で、内部には数万名のクルーが乗船している。当然ながらその攻撃力に関しては1艦で惑星を簡単に滅ぼしかねない途轍もない戦力を誇る。縦に伸ばした菱形で平べったい威容ともいうべきフォルムはあたかもスター〇ォーズに登場してくる帝国軍の戦艦のよう。航行時は搭載されている武器群は船体内部に秘匿されているが、一旦戦闘ともなるとハリネズミのような防空攻撃用の火器類と高出力のレーザー光を発射する砲口がビッシリと並ぶ。そんな旗艦から艦隊全体に高速通信が流される。
「こちらハイペリオンⅢ、ターゲットが成層圏までノコノコやってきたぞ。シミュレーション通りに捕獲せよ」
「了解しました」
高速通信によって指令が伝達されると、ハイペリオンⅢ旗下の巡洋艦や駆逐艦が数隻艦隊から離脱して高度を下げつつレプティリアンの宇宙船に接近していく。
実は今回の聡史たちによるアメリカ強襲作戦は銀河連邦との合同で進められてきており、このケースのように敵方の宇宙船が脱出を図る事態に備えて銀河連邦の艦隊が大西洋のはるか上空を数日前から哨戒していた。何も知らないレプティリアンたちはまんまとワナに自分から飛び込んでいった形。
艦隊を離脱した銀河連邦の攻撃部隊はあっという間にレプティリアンの宇宙船を取り囲む位置に展開していく。
「電子戦開始」
2隻の巡洋艦と3隻の駆逐艦から強力な電波が照射されていく。この電波を受信した直後、レプティリアンの宇宙船は中枢コンピューターが乗っ取られて船の攻撃機能や防御機能だけでなく航行に必要な制御や艦内の環境維持などの一切合切を銀河連邦に握られて完全に自由を奪われる。レプティリアンの船は数万年前に地球に移住してきた際の技術を元に建造されているのに対して銀河連邦の艦船は最新型。技術的なギャップが数万年にも及ぶと抵抗のヒマも与えずに勝敗がついてしまう。
こうなると生命維持すらも相手の思うがままなので、レプティリアン側の航行クルーたちも打つ手なし。そうこうするうちに拿捕された艦内には絶望的な内容の放送が流されてくる。
「こちらは銀河連邦太陽系駐留艦隊。貴艦は現在完全に我々の制御下に置かれている。万が一にも反抗の意思を見せるのであれば艦全体の生命維持機能をシャットダウンする」
船内には無事な脱出を信じていたレプティリアンたちの悲鳴がこだまする。だがこれまで地球を我が物顔で陰から支配してきたレプティリアンたちに対する銀河連邦の無慈悲な宣告は続く。
「諸君らは一旦銀河連邦の冥王星基地に曳航される。その後に船を乗り換えて猟犬座のベータ3-Bという惑星に移動してもらう。地球から離れてその星でどうか生き永らえてもらいたい」
猟犬座ベータ-B惑星というのは銀河の中では地球よりもさらに外縁部にある惑星で、大気中の酸素は十分にあるのだが星全体が砂漠と化した乾ききった大地が広がっている。現状では知的生命体どころか哺乳類すら確認されてはおらず、生息しているのは砂漠の環境に順応したムカデやサソリのような節足動物のみ。生命を維持する環境としては最悪の部類に区分できるだろう。銀河連邦としては表面上は移住と銘打ってはいるものの、要はレプティリアンたちに「干からびて死ね」と言っているに等しい。
銀河連邦に拿捕されたレプティリアンの宇宙船は、そのままさらに高空で待ち構える艦隊主力と合流した後にあっという間にその場を去って星々の瞬きの中に消えていくのであった。
◇◇◇◇◇
聡史たちが日本に戻ってきて数日が経過したダンジョン対策室。その室長室では岡山室長が量子コンピューターオペレーションルームから送られてきたレプティリアンの地下施設内部の解析資料と画像を確認しながら考えを巡らせている。
そしてその表情はいつになくとっても悪い顔に。明日香ちゃんに向かって「力士長」と呼び掛ける時のイタズラっぽい人格とではあまりにもギャップが大きすぎ。
「さて、せっかくの資料だから有効に活用させてもらおう」
独り言をつぶやいたと思ったら、時計を確認しつつ米軍国防総省との間に構築されている極秘回線を繋ぐ。相手は以前レプティリアンの画像をメールで送りつけたQに属する国防情報局長官のオコーネル。回線が繋がるとモニターには情報局長官室の映像が映り込む。
「長官、お久しぶりです」
「岡山室長、こちらこそ。我が国のアホ政府が選挙対策のために日本に大きな迷惑をかけて大変申し訳なく思っている」
「政治のことに関して本官は口出しする権限を持っておりませんので何とも申し上げられませんが、個人的な意見としては新たな大統領の下で友好的な枠組みが構築できることを希望しております」
「君にそう言ってもらえると助かるよ。何しろ我が国の情報筋の間では『室長こそが日本政府を動かしている』と囁かれているからね」
「これはまた面白いご冗談を」
「ハハハ、必ずしも冗談とは言えないだろう。それに私は秘かに考えているんだが、先日ロスで起きた大統領首席補佐官の狙撃事件は君の差し金じゃないかな?」
「はて、私には何のことやら計りかねますな」
何とか岡山室長の口から言質を引き出したいオコーネルだが、この腹黒いタヌキ親父がそうそう簡単に口を割るはずもない。白昼堂々とイベント会場において狙撃を敢行するなど「俺の背後に立つな」で知られる世界的に有名な超A級スナイパーか神殺し以外にはいないとわかっているのだが、この場でそれを口にしても室長にとぼけられるだけと割り切っている。ならばと話題を変えることにして…
「岡山室長、新政権が発足した暁には直後に開かれる日米合同委員会には私も出席するつもりだよ」
「え~と、いつの時代の話をしているんでしょうか? 我が国ではそのような会議は当の昔に過去の遺物と見做されておりますよ」
「えっ」
「アメリカ政府が先に我が国にケンカを売ってきたんでしょう。その結果として日本政府はサンフランシスコ講和条約や日米安保条約等を一切破棄しましたよ。そのような会議が今後開催されることなど二度とありませんから」
オコーネルが言葉を失っている。彼自身… というか次期米国政権自体が日本との信頼関係を取り戻せれば今まで通りに政府間で同じような交流が行えると高を括っていた節が窺える。ちなみに日米合同委員会とは都内の某ホテルで定期的に開かれる会議で、いってみれば戦勝国の米国側が敗戦国の日本に対して「誠意を見せろ」とヤクザ屋さんばりに圧力をかけてアメリカに都合のいい政策を実現させるみかじめ料の取り立てのようなものと考えてもらえればいい。
「しかしそれでは米国は日本に対する防衛協力が行えなくなる恐れがある」
「それはどこの国に対する防衛協力でしょうか? すでに我が国を取り巻く国家のいくつかは完全に破綻して統治機能すら喪失しております。内戦でアタフタしているのに、どうやって我が国に攻め込むというのでしょうね」
「そう言われてしまうと身も蓋もないが、我が国と日本のこれまでの協力関係をいきなり完全にリセットするのもどうかと思う」
「リセットを望んだのは米国側ですから、日本としては貴国の主張に従ったまでです。とはいえ私の立場ではこれ以上政府の方針に対して口を挟めませんのでそろそろ本題に入りましょう」
「本題?」
日本政府の内部でダンジョン対策を名目に岡山室長が絶大な権限を手にしているのはオコーネルとしても周知の事実。その上今回の4か国連合の宣戦布告に対して、わずか1週間で戦争を吹っ掛けてきた相手すべてに再起不能のダメージを与えたのも裏側では岡山室長が何らかの形で関わっていると考えている。ただし国防を統括する情報局の長であるオコーネルにしても、まさか日本が銀河連邦と深い協力関係にあるという最も重要な情報は掴んでいない。何らかの新たな技術を日本が独自に開発して、その成果をもってして4か国連合の軍事基地や関連施設を虱潰しに殲滅していった… それ以上の情報を今のオコーネルは持ち合わせてはいない。もちろん今回の圧倒的な日本の勝利の要因を懸命に探ろうと努力はしているものの、日本政府のガードが固くてこれといった有力な情報を何も得られてはいない。
そんな当惑した表情を浮かべるオコーネルに対して岡山室長はポーカーフェイスで話を続ける。
「面白い映像を入手しまして、今から長官に送りますからご覧になってください」
モニターの向こう側で岡山室長がパソコンを操作すると、すぐにオコーネルの元にデータが送信されてくる。彼は送信された中身をその場で開いて確認を開始すると、見る見るその表情が驚愕に包まれていく。
「こ、これは… ひょっとして我が国の内部の映像なのか?」
「場所はソルトレークシティーとだけ申し上げておきましょうか」
「まさか、国防省情報局の私ですら知らなかったこのような施設が国内にあっただなんて…」
「早いところ死体を回収しないと腐敗して大変なことになりますよ。ああ、それからこの地下施設の内部にある物資や技術に関する情報は米国に帰属すると日本政府は認めています。どうか有効活用してください」
「こんな宝の山を日本政府はみすみす見逃すというのか?」
「はて、宝といってもどこかの誰かによって完全に破壊できる程度のそれほど大したことない技術ですから、日本からしたら興味がないというのが正直なところです」
「これほどの高度な技術の集積に興味がないだと! 君たちは一体何を隠しているんだ?」
「別に隠してはいませんよ。ご存知でしょうか? 日本にはダンジョンを完全攻略する優秀な人材がいまして、彼らに掛かればレプティリアンなど敵ではないという証明ですよ」
「ということはこの地下施設に驚くべき破壊をもたらしたのは日本だと受け取っていいのか?」
「そう考えるのは自由ですが、私は否定も肯定もしません。たったひとつ要求したいのは、遺体や遺棄された物資の回収及び調査は速やかに開始して構いませんが、政府関係者に情報を広めるのはもうしばらく待っていただきたい」
「どういうことだね?」
「あなたと少数の人間の間で工兵部隊を組織して地下に入り込むのは構いませんが、この情報を広く政府の内部で共有するのは焙り出しに差し支えるから待ってもらいたいという意味です」
「なるほど、そういうことか」
どうやら岡山室長のこの説明でオコーネルには納得がいったよう。これでも情報局のトップなので「焙り出し」というフレーズの意味を理解している。
「わかったよ。君の言う通りに極秘裏に工兵部隊を集結させて地下施設を調査する。その焙り出しの結果については教えてもらえるだろうか?」
「もちろんです。日本政府の手が届かない場所でもアメリカなら届く… そんなこともあるでしょうから結果についてはお知らせしますよ。それがどのような結果であろうとも」
「なんだかイヤな予感がしてならないな」
「少なくとも過去何代かの大統領やホワイトハウスの高官とその家族。それから上下院の議員や経済界、マスコミの大物まで色々と正体が浮き彫りになってくる可能性が考えられますな」
「我が国の地下にこのようなレプティリアンの居住空間が存在していたとなると汚染は国内の様々な場所に広がっているだろうということは覚悟している。これは骨の折れる戦いになりそうだよ」
「いや、意外とそうでもないかもしれませんよ」
「どうしてそう言い切れるんだね?」
「アメリカの権力層の間に広がっていたレプティリアンたちのネットワークは、この地下施設にいる彼らの上位種の権威をかさに着て好き放題やってこれたのだと考えます。仮にその権威のかさが無くなったら挙って新たな寄生先に逃げ出すのではないでしょうか。ですから近々米国から脱出を図る人間を監視していれば、自ずと汚染の範囲が明らかになるはずです」
「なるほど、出入国の管理は民主党政権においてあまりにも杜撰すぎたから、この際一気に引き締めておいた方が良さそうだな。こちらとしても国外脱出を図る人間に紛れ込んだレプティリアンとその協力者たちを一網打尽にしたいのは山々だ」
「とはいえ地上をウロウロしているレプティリアンでもそれなりの力を持っています。捕縛は容易ではないでしょう」
「その点に関しては何とかなると思う。現在エリア51では対エイリアン兵器の開発が急ピッチで行われている。たぶん間に合うだろう」
「それはよいことです。是非とも米軍の力を見せてください」
最後の岡山室長の言葉は「こっちは高みの見物だからお手並み拝借」という意味が込められている。本当にどこまでも腹黒い。
こうして岡山室長とオコーネルの通話は終了する。すると室長は間髪入れずに今度は米国CIA長官に動画のみのメールを送り付ける。ちなみにオコーネルは共和党の次期大統領派に対してCIA長官はバリバリの民主党の現職大統領に忠誠を誓う勢力。いわば最もレプティリアンに近い存在ではないかと岡山室長から見做されている。
もちろん室長はメールの送信に際して弥生のアバターを利用して発信元を隠蔽しており、受け取ったCIA長官にしてみればどこの誰かもわからない謎の人物から送り付けられたメールとなる。普通ならばこのようなメールは即座にゴミ箱行きなのだが、内容が内容なだけに絶対にこの長官から各方面に拡散していくはずと室長は睨んでいる。さらにこの動画には弥生の手によってコッソリと追跡タグを潜り込ませてあるので、誰がどこに送信したかは一目瞭然。この結果を量子コンピューターで解析すれば、米国内のレプティリアンネットワークの広がりが一目瞭然となるはず。
そして1週間もする頃には芋づる式に政財界やマスコミ、ハリウッド、IT企業の社長や役員等々に紛れて潜んでいるいわゆるレプティリアンとその協力者たちの実態が浮かび上がってくる。もちろん通信内容もすべて量子コンピューターが吸い上げているので、彼らの遣り取りはすでに丸裸状態。
その中身からはアメリカ国内のレプティリアンとその協力者たちを取り囲む危機的な状況が垣間見えてくる。
「おい、この映像は本物なのか?」
「現在全力で確認中だが、どうやら最悪な状況のようだ」
「なぜそう言い切れる?」
「フリ〇メーソンのグランドマスターが地下と連絡を取ろうとしたが、いくら通話を試みても何の反応もなかったらしい」
「となると本当に我らが王は滅びてしまったのか?」
「そのように考えたほうがいいだろう。君は今後はどうするつもりだ?」
「次期大統領がジョーカーとなると、下手をする我らに対して本腰を入れて弾圧してくるケースも考えられるな。王がいなくなったとあっては他の大陸に渡って別の王の庇護下に入るのが無難かもしれない」
「私もそう考えている。やはり欧州か?」
「そうだな。南米やアフリカは現在治安が悪いし、アジアは日本の息がかかっているから危険だろう。残っているのは欧州くらいだ」
「アメリカにある不動産はなるべく早めに処分したほうが良さそうだな」
「そうだな。預金は国外に移せるが、土地は持ち運びできない」
「速やかに行動を開始しよう」
「ああ、口座の凍結なんかを食らった日には目も当てられないからな」
まさに尻に帆を掛けて逃げ出す勢いというのだろう。年が明けた1月の20日には共和党新政権が発足する。脱出の期限を考えると余裕はそれほどなさそう。ということで米国中であちこちの大型不動産や豪邸が突然売りに出されるという一般人には理解しがたい状況が発生する。したり顔のエコノミストたちは「国内が混乱している中国の企業や個人が不動産を処分して手元に現金を残そうという動き」などと見当違いの意見を述べているのはお笑い草としか言いようがない。
こうして聡史たちの米国強襲作戦によってアメリア国内においても様々な影響が出始めるのであった。
◇◇◇◇◇
聡史たちが日本に戻ってから2週間が経過して、こちらはジジイが運び込まれた防衛医科大学病院。この2週間、カレンはジジイにずっと付きっ切りで魂の再生に心血を注いできている。
最初の頃は1日に10代程度の魂を定着させるのがやっとだったのだが、カレン自身がやり方に慣れてきたのもあって数日するとパパッと50代くらいまとめて魂を定着させられるようになっている。
そのおかげもあってついにこの日ジジイの長い転生輪廻の間の魂をすべて再生して体に定着させる困難な仕事をやり終える。1日につき12時間以上失敗の許されない作業に従事していただけに、カレンの表情には疲労の色が濃い。だがここまでやり切ったのは「さすがは女神」と称賛を受けるには十分な働きだったはず。
すべての魂を再生して体に定着させたとはいえ、肝心のジジイはいまだに目覚めてはいない。聡史や桜が面会の打診をしてきたものの、カレンの「定着の邪魔になる可能性がある」という言葉に自重してこの日を迎えている。
そしてようやくこの日、カレンの許可が出たので兄妹がジジイの見舞いにやってくる。とはいってもガラス越しに状況を見るしかないのだが。
聡史たちが見舞いに来たことに気付いたカレンがガラス越しににこやかに手を振っている。
「お兄様、カレンさんの表情からしておジイ様の回復は順調なようですね」
「そうだな。早く目覚めて元気な声を聞きたいな」
このような遣り取りをしている間に、様々な細かい手配を終えたカレンが二人の元にやってくる。
「カレンさん、おジイ様が本当にお世話になりましたわ」
「寝ているだけでも色々と手がかかったんじゃないのか?」
「聡史さん、桜ちゃん、大丈夫ですよ。それほど手は掛かりませんでしたから」
微笑み返しながら応えるカレン。さらに続けて…
「おジイ様は今から魂の最終調整のためにメドベッドに運ばれます」
「メドベッド?」
「何ですか、それは?」
兄妹が首を捻っている。耳慣れない言葉だけに「一体何をするのだろう?」という表情。
「メドベッドは銀河連邦の技術で生み出された医療機器です。怪我を治したり若返ったりするほかに、心の傷を癒したり魂の調整を行うんです。私が取り敢えず再生した5百代に渡る魂ですが、このままおジイ様の体に定着させておくと肉体のキャパオーバーでいつまでたっても意識を取り戻せないんです。だからメドベッドによって最適な状態に魂の形を調整する必要があります」
「そうなんだ。さすがは銀河連邦だな」
「日本国内にもまだこの病院にしか置いていない設備なので、私の意見でこちらに運んでもらいました。魂の再生をしている間はなるべく外部の刺激を避けたかったのでお見舞いも許可せずにすみませんでした」
「とんでもないですわ。カレンさんに頭を下げられたら申し訳ないですの。おジイ様がこうして無事なのは全部カレンさんのおかげですわ」
「カレン、本当にありがとう。この感謝の気持ちは一生忘れないぞ」
「お二人とも、そんなに畏まらないでください。あとしばらくすればおジイ様も意識を取り戻すはずですから」
こんな感じで3人で喋っている間にジジイは銀河連邦の医療技師たちによって睡眠カプセルのような形状の機器の内部に運ばれていく。ガラス越しに一瞬だけ聡史たちに見えたその顔は血色もよさそうで単に眠っているだけのように映る。
「普通でしたら2~3時間で魂の調整は終わるらしいんですが、何分おジイ様は色々と特殊なので1週間程度このまま寝かせておく必要があるらしいです。おジイ様の脳に残されている記憶と魂のシンクロが徐々に構築されて、最適な形で新たな魂が肉体と紐づけられていくそうです」
カレンの説明は肉体と魂の関係をわかりやすく解説しているのだが、女神が理解している肉体と魂双方の在りようと聡史たちが何となく理解している在りようでは根本的にレベルが違いすぎてなんのこっちゃサッパリわからんという表情。
ともあれこの場はカレンと銀河連邦の医療技師に任せるしかない。
「私はおジイ様が目覚めるまでこちらに残りますので、母や美鈴さんたちによろしく伝えてください」
「こちらこそおジイ様のことはよろしくお願いしますわ」
「カレンには世話になりっ放しだな。今度お礼を考えておくから」
「そんな、お礼なんて…」
カレンが遠慮気味に答えるのをぶった切って、桜が強引に割り込んでくる。
「カレンさん、ここは絶対に遠慮するべきではありませんわ! どうせだったらクリスマスデートぐらい約束しましょう」
「ええええええ、きゅ、急にそんなことを言われましても…」
「おや、カレンさんはお兄様とのクリスマスデートがイヤなのでしょうか?」
桜の意地の悪い質問にカレンは真っ赤になりながら首を左右に振っている。
「だったら決まりですわ! お兄様は今回のお礼としてカレンさんとクリスマスデートすると約束してくださいませ」
「なんだか強引すぎないか。カレン、お礼はクリスマスデートでいいのか?」
「も、もちろんです。聡史さんとクリスマスデート出来るなんてまるで夢みたいです」
ここが病院だというのも忘れてウットリした表情で聡史を見つめるカレン。
「わかった。それじゃあ24日はカレンと二人で出掛けようか」
「はい、聡史さん、とっても楽しみにしています」
約1か月後のデートが楽しみで仕方がないカレン。いつになく舞い上がっている。
こうしてジジイの経過を色々と聞いた聡史と桜は一旦実家に立ち寄って家族にジジイの状況を伝えてから魔法学院に戻っていく。
それからちょうど1週間後にカレンから「ジジイの意識が戻った」という吉報が届くのであった。
どうやらジジイも無事に蘇生したようです。そのお礼にカレントのクリスマスデートを約束した聡史ですが、これは多方面に影響が出てきそうな予感。この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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