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356 地下施設での顛末

投稿間隔が開いて申し訳ありませんでした。

 レプティリアンからの急襲を切り抜けた一行は装備の確認を終えて建物の外へと出る。地下施設のさらに奥の方向に向かって周囲を警戒しながら進んでいる最中、ブルーホライズンはパーティーメンバーだけのグループ回線を繋いでナイショの話を始める。



「なあ、明日香っていつからあんな危険人物になったんだ?」


 最初に話を切り出したのは美晴。味方丸ごと電撃で仕留めようとしたあの人でなしの所業が、どう考えても常日頃の明日香ちゃんとは別人に思えて仕方がないよう。



「桜ちゃんから聞いたことがあるわ。明日香ちゃんは甘いものが長期間食べられなかったり、目の前にあるデザートを盗られたりすると人格が豹変するらしいのよ」


「なるほど、そうだったのか… 明日香の口の周りに白いクリームの跡が残っていたから、敵の奇襲にデザートを楽しむ憩いの時間を邪魔された… きっとそんなところだろうな」


 渚が冷静な分析をしている。それもかなり的確に。実際食べていたパフェの最後のひと口を邪魔された明日香ちゃんがキレて今回の大暴れに繋がったのだから、ブルーホライズンにこれだけ言い放題されても文句は言えないはず。



「それにしてもあの攻撃はないんじゃないですか。もしパワードスーツを着用していなかったら私たちもレプティリアンと同じ運命でしたよ」


「しょうがないでしょう。デザートを邪魔されて見境いが無くなった状態なんだから」


「だから桜ちゃんがあれだけ強く警告を発したんだね」


 ほのかが納得したような表情で話に割り込んでくる。するとここで千里が…



「思えば1年生の時に私と明日香ちゃんで模擬戦トーナメントの本戦出場を賭けた試合をしたけど、あの頃を思えばなんだか別次元にいるような気がしてきます」


「確かに… 入学試験の順位でいえば明日香がビリで千里がブービーだったんだろう」


「はい、私にもそんな時期がありました。でもあの出場決定戦があったからこそ聡史さんに魔法の才能を見出してもらって、そのおかげで今の私がいるんです」


「そうだよなぁ~… あの頃のことを思い返してみると、私もずいぶん遠い所まで来ちゃった気がしてくるな~」


 過去を振り返らない脳筋の美晴が珍しく1年生の頃を思い出しているよう。ここで絵美が…



「ところでさぁ、ぶっちゃけ明日香ちゃんってなんでデビル&エンジェルに所属しているんだろうって時々疑問に思ったことない?」


「時々どころかずっと疑問だったわよ! でもあんな力を隠し持っていたんだったらデビル&エンジェルの一員だって納得してしまうわよねぇ~。やり方はヒドすぎるけど」


「っていうよりもさっきの明日香ちゃんはちょっとした決戦兵器級じゃないかしら。50体のレプティリアンを瞬殺だなんて普通の人間には出来ないわよ」


「そうだよなぁ~、そもそも明日香は1年生の時の八校戦の優勝者なんだし、実績としては申し分ないんだよな」


「それに今年だって、エキシビジョンマッチで個人戦優勝のマギーさんに勝っているしね」


「決まり手は寄り切りだったけどな」


 なぜかここでグループ回線内に笑い声が響き合う。全員が明日香ちゃんに対して秘かに囁かれているニックネームの〔二宮力士長〕を思い出しているからに違いない。



「まあそれはともかくとして、敵だけじゃなくって味方の攻撃にもしっかりと注意を払いましょう。フレンドリーファイアなんてシャレにならないんだから」


 最後は真美が話をまとめてパーティーメンバー間のナイショのお喋りは終了。一行は更に地下施設の奥を目指して進んでいくのだった。






   ◇◇◇◇◇






 その後は数体の上位種に率いられたレプティリアンたちが待ち構える敵陣を幾度となく突破していく。この際に最も戦力になったのは、いうまでもなくジジイと桜。両名が初手から必殺の迷わず成仏波と太極波を放ったおかげで敵陣はほぼ壊滅的な状況に陥り、あとはたまたま生き残った個体を各個に討伐して終了という極々手軽なお仕事が続く。

 

 そしてこちらはレプティリアン側の最終防衛陣地と呼ぶべき拠点。ここを越えられてしまうとレプティリアンとしては後がない状況。なぜならこの陣地の背後には巨大な神殿と思しき建物がある。彼らとしては何が何でもこの神殿を守りたいという意思の表れなのか、この場にはこれまで指揮官を務めていたレプティリアン・ナイトばかりの守備隊がおよそ1000体ほど集結している。



「まさか下等な人間共に我らがここまで攻め込まれるとは…」


「いや、あのような少数の集団でここまで我らを圧倒するとは通常は考えにくい。何か理由があるはず」


「ひょっとして銀河の連中が本格的に介入してきたか?」


「その意見はもっともかもしれぬ。人間共が着用しておるパワードスーツは、我らの技術力をはるかに上回っていた」


「クソッ! 銀河の連中め。ムーが海中に沈んでせっかくヤツらの勢力を地球外に追い出したと安心していたのに、いつの間に舞い戻ってきたのだ?」


「これ、左様な泣き言ばかり申しておっても埒が明かぬぞ。あの人間共をこの場で必ず食い止めねばならぬ」


「そうだ。我らの命に代えてもここから先には進ませるな」


「そうそういきり立つモノではない。これだけの精鋭が集まれば高々人間共など凱歌一蹴で蹴散らしてみせるわ」


「その通り。我らが人間など恐れる必要はない。初手から最強の切り札を用いて木端微塵に吹き飛ばしてくれようぞ」


 地下施設の最奥の絶対領域まで侵入された不安と「高々人間ごときが何するものぞ」というレプティリアンたちが何万年も抱き続けてきた人類への優越感が交錯している。結局この話合いともつかない無駄な遣り取りではまともな結論など出せるはずもなく、レプティリアンたちは間もなくやってくる聡史たちを決死の覚悟で迎え撃つという精神的な方針だけが繰り返されるのであった。






   ◇◇◇◇◇






 レプティリアンたちが内心では大きな焦りを抱えながら迎撃の用意をしていると、ついに望遠鏡の視野に映る距離まで聡史たちがゆっくりと接近してくる。


 陣地を死守したいレプティリアン側の指揮官が声を枯らして各所に布陣の確認と迎撃体制への移行を伝達して間もなく、双方の間で地下施設における最後の大規模の戦闘が火蓋を切ろうとしている。


 このような状況で聡史たちはといえば…


「お兄様、どうやらトカゲ人間の上位種だけで組織された軍団が集結しているようですわ」


「それなりに手強そうだが、ひとまずはこれまでと同様の攻め方で挑んでみるか」


 聡史が初手の方針を決定するところに、これまであまり戦闘に参加してこなかった美鈴が口を挟んでくる。


「聡史君、相手はおそらく死に物狂いで立ち向かってくるはずよ。布陣から窺える様子だと、レプティリアンたちは何があっても奥にある神殿を死守するという意思が伝わってくるわ。となるとかなり苛烈な抵抗が予想されると思うの」


「うん、それは俺も考慮に入れている」


「そこでね、私にとっておきの術式があるんだけど、ここで試してみていいかしら?」


「成功させる自信があるのか?」


「ええ、120パーセントあるわよ。術式自体はさほど難しくはないの。ただし範囲の設定を入念に行わないと大変なことになるから、300メートル以内に接近してもらいたいのよ」


「敵の攻撃が十分に飛んでくる距離だな」


「ええ、おまけに私は術式の構築に専念するからシールドの展開も出来ないわ」


「となるとこちらも防御を無視した殴り合いに応じなければならなくなるか。桜、どうだ?」


「お兄様、殴り合い上等ですわ。私とおジイ様がいる限り絶対に殴り勝ってご覧にいれますの」


「聡史よ、ここまできて慎重になる過ぎるのも考え物じゃてな。ここはワシを信じるがよかろう」


 桜に続いてジジイまでが自信たっぷりな物言い。この両者の意見が一致するとロクなことがないのだが、聡史としては今はこの意見に乗るしかなさそう。



「わかった。こちらがギリギリ持ち堪えられそうな距離まで接近して攻撃を仕掛ける。美鈴はとっておきの術式とやらに支障がないタイミングまではシールドの展開を頼む」


「ええ、任せてもらって大丈夫よ」


「よし、それでは前進を開始だ」


「聡史よ、ちょっと待つのじゃ」


 さあ前に進もうというところでジジイが待ったをかける。一体何事かと聡史が振り向くと、ジジイがニヤニヤしながら喋りだす。



「敵の出方もわからんうちに無暗に突っ込んでいくのも芸がなかろう。まずはこのワシに任せて全員下がっておれ」


 誰にも有無を言わせぬ口調のジジイ。その言葉に気圧されるように全員が10メートルほど後方に下がっていく。



「ガハハハハ、ワシの喧嘩の流儀というのはこのように始めるのよ。よく見ておくがよい」


 と言いつつジジイの両手には闘気が集められていく。それもこれまで地下施設で放った技の2倍マシマシの量で。さらに両手を合わせてこの大量の闘気を圧縮していく。そして…



「食らってみるがよいぞ。迷わず成仏波ぁぁぁぁ!」


 これまで見たこともない馬鹿デカい闘気の塊が敵陣目掛けて音速の3倍以上の速度で空中を一直線に突き進む。一瞬の後に敵陣のど真ん中に着弾すると…


 ズゴズゴズゴズゴズゴゴゴゴゴゴーーーーーン!


 途轍もない勢いの爆発を巻き起こして辺り一面には閃光と轟音を撒き散らす。さらにジジイは同じ規模の闘気をもう1発放っていく。次の狙いはレプティリアンたちが待ち構える陣地ではなくてさらに後方の巨大な構造物。


 ズゴズゴズゴズゴズゴゴゴゴゴゴーーーーーン!


 立て続けに2回の大爆発が引き起こされた結果、周辺区域は爆発によって生じた衝撃波に襲われて建物の多くが倒壊してとんでもない惨状を呈している。


 しかも2回目のジジイの攻撃はレプティリアンたちが是が非でも死守したい神殿へと向けられており、爆発の威力で屋根の一部分が崩落するという有様。この結果を見てジジイは満足そうに高笑い。



「ガハハハハ、命に代えても守りたい物をいとも簡単に壊されれば、きゃつらも頭に血がのぼって冷静な判断が出来なくなるじゃろうて。聡史よ、それこそが攻め手にとっては格好の狙い目よ。ワシの好意を無駄にせぬよう敵の焦りに乗じるのじゃ」


「ジイさん、ずいぶんとハデにやってくれたな。まあ確かにこれでレプティリアンたちの頭に血が昇ってくれたら闇雲な攻撃を仕掛けてくれるかもしれない」


 聡史の言葉が終わらないうちにレプティリアン側から強烈な波動による攻撃が開始される。万物の粒子を振動させて分解に至らしめる波動や分子運動を極端に滞らせてマイナス70度の寒冷地獄を出現させる波動など、その種類は様々。



「ワンパターンすぎですわ」


 だがレプティリアンたちが放ってきたこれらの波動は、桜の拳から放たれる衝撃波によって悉く霧散していく。距離が離れすぎているので、桜としても余裕をもって迎撃に出られる。


 逆にレプティリアン側の陣地を見渡してみると、彼らは強固なシールでによって守られているおかげでジジイの必殺技が引き起こした大爆発の被害はほとんど受けていないように見受けられる。


 だが肝心な神殿の一部が破壊されたという心理的な衝撃はレプティリアンにとっては別物らしい。その証拠に陣の後方に控えていた部隊の一部が神殿に向かって泡を食って駆け出していく様子が見て取れる。


 初っ端の攻防では互いに出血を強いることはできず、その後の状況は膠着した展開が続く。当初の双方の距離は3000メートルほどであったが、聡史たちは美鈴が現在の立ち位置から30メートル先にシールドを築き上げて、そのポイントまで前進すると、再び美鈴が先の地点にシールドを構築するという地味な方法で徐々に前進していく。その間にもレプティリアンからの絶え間ない攻撃が続くが、彼らとしてもこのような後先を考えない無茶な攻勢が永遠に可能かと問われればそういうわけにはいかない。


 もちろんこの場に布陣するのは一般的なレプティリアンと比較すればはるかにスペックの高いレプティリアン・ナイトではあるが、いくら上位種といえども頭に血が昇った末におのれの限界を超える波動を操る術を連続で行使した結果疲労で倒れる個体が出てくる始末。


 当然ながら聡史がこのようなレプティリアン側の失態を見逃すはずもない。



「パワードスーツ部隊、敵の左翼に集中的にレーザーガンを撃ち込んでやれ」


「「「「「「了解!」」」」」」


 これまで散発的に敵陣に向けてレーザビームを撃ち込んでいてやや手持無沙汰をかこっていた頼朝たちとブルーホライズンに全力攻撃の命令が下る。



「なるべく一点に射線を集中して敵のシールドを突き破るんだ」


「了解」


 たちまちパワードスーツに内蔵されているAI知能が聡史の指令を理解して全員の照準を微調整。敵陣の最もシールドが手薄な箇所に集中砲火を浴びせていく。


 レプティリアン側も慌ててシールドの強化に乗り出すが、パワードスーツ軍団だけではなくて桜が太極波による攻撃を加えるものだから、呆気なくシールドが破れ去って内側に陣取っていたレプティリアンの一団はレーザーガンの餌食になっていく。


 一か所が突き崩されるとそこにできた穴は中々埋め切れずに、逆にレプティリアン側の被害だけが一方的に増えていく。その結果約15分程の敵陣左翼を巡る攻防でレプティリアン側はほぼ壊滅して、これまでの攻勢がウソのように沈黙する。



「だいぶ楽になったわね」


 敵陣の3分の1が消え去るとシールドを構築する美鈴の負担がグッと減って前進速度が急激に早まっていく。


 そしてついに彼我の距離が300メートルという位置まで接近を果たした聡史たち。



「美鈴、ここから先は任せて大丈夫か?」


「ええ、あと20分くらいここで踏ん張ってもらえるかしら。そうしてもらえたら私が一気に決着をつけるわ」


「よし、全員、あと少しの辛抱だ! 持ち場を維持してくれ。敵の右翼に攻撃を集中!」


「了解」


 パワードスーツ軍団は聡史の指令通りに敵陣右翼側を攻め立てる。だが左翼側が呆気なく崩れた教訓から彼らは持久戦に切り替えたようで、戦闘開始直後から比べると明らかに攻撃のペースを落としつつ防御重視の構え。


 もちろん美鈴の魔法のためにこの位置をキープしたい聡史としては中々好都合な流れ。こちらもレプティリアンに合わせて攻勢のレベルを抑えつつ、押し戻されない程度に攻撃を加えていく。


 そして20分が経過していく。これまで押し黙って術式の構築に専念していた美鈴が顔を上げる。



「お待たせしたわね。全員この場所から可能な限り下がってもらえるかしら。範囲の設定は完璧だけど、余波に巻き込まれる可能性があるの」


「美鈴はひとりで大丈夫なのか?」


「私は大魔王よ。レプティリアンごときにやられたりしないわ」


「わかった、俺たちは下がっている」


 美鈴は一瞬だけ聡史の顔をジッと見つめて頷く。それを合図に聡史は全員に後退の指令を通達。


 全員が後方に下がったのを見届けると、美鈴の口が厳かに動き出す。



「銀河の数多の闇を支配するルシファーの名をもってここに命ずる。銀河の果てのすべてが凍てつく世界よ、この場に照覧あれ。アブソリュート・ゼロ!」


 その瞬間、レプティリアンたちが陣取っている区域が暗黒に包まれていく。それだけではなくて果てしない銀河のさらに最果て… 星々の光すらほとんど届かない真の暗闇が支配する世界が、美鈴によって他の空間と明確に区切られたレプティリアンたちの陣地に出現。驚くことに美鈴はルシファーが支配する銀河の真の暗黒をこの場に召喚している。


 暗黒を召喚する術式の最後にあった「アブソリュート・ゼロ」とは絶対零度のこと。マイナス273度… 分子すらも運動を停止する完全なる死の世界がこの場に顕現するという空前絶後の状況が引き起こされている。


 とはいえ美鈴としてはそこまで完全を求めてはいない。銀河の最果ての空間を召喚した際に押し出されて設定された範囲の外に拡散した元々その場に存在する大気の一部を残している。したがって実際にはマイナス265度くらいの超低温がこの場に再現されただけというのが本当のところ。


 仮に真の絶対零度など再現しようものならば、その場所を元に戻すためには膨大なエネルギーを要するので、美鈴としてはその手間を省いたといえる。


 とはいえ変温動物が進化したレプティリアンにとってはこの超低温は死に直結する。いや、変温動物だけではなくて哺乳類のような恒温動物でも一瞬で死が待ち受けているだろうが…


 こうしてレプティリアン側の最終防衛ラインは潰滅して、聡史たちはついに残された神殿と思しき建物の敷地に踏み込んでいく。



「それにしてもビックリですよ~。美鈴さんはあんなスゴイ氷魔法が使えたんですね」


「う~ん、氷魔法とはちょっと違うんだけど、まあ説明がややこしいからそういうことにしておくわね」


「それにしても後始末が大変でしたよ~」


「そうね~。ちょっと冷やしすぎちゃったけど、あと2時間もしたら元に戻るでしょう」


 魔法に関してからっきしのド素人である明日香ちゃんにはこの程度の説明で十分。というかこれ以上小難しい内容になるとテンで理解が追い付かない。


 こんなお気楽な明日香ちゃんだが、一応これまでのところは撮影係の役目をしっかりと果たしている。もちろん闇の明日香ちゃんになって大暴れしたあの場面も本人目線で動画に残されている。当の明日香ちゃんはまったく気づいていないけど…


 ともあれ神殿の敷地はとてもここが地下だとは思えない規模で広がっている。贅をつくした庭園のような前庭は悪魔の姿を模した彫像が正面通路の左右に並べて置かれており、これらの塑像をひと目見ただけでレプティリアンが種族として持ち合せる邪悪な本性が垣間見えてくる。


 建物に向かって延びる長い通路を進むと、目の前には巨大な正面扉が控える。もちろんノックなどせずに桜がひと蹴り加えて蝶番ごと重厚な一枚板の扉を吹き飛ばしていく。


 入り口の先には天井まで吹き抜けになっているホールが広がり、その先にもやはり重厚なつくりの扉が。もちろん桜が蹴破って内部に入ると、そこには予想通り玉座が置かれており、1体のレプティリアンが豪奢な衣装をまとって腰掛けている。他のレプティリアンと比較しても明らかに大柄な体躯の上に乗っているのは竜の頭部。これこそが美鈴の話にあったレプティリアン・ロイヤルで間違いなさそう。



「やっとラスボスのお出ましか。ずいぶんと手間を掛けさせてくれたな」


「愚かな人間風情が我が玉座の前までやってこれたとは褒めてつかわそう。だが我を前にしてそなたらは敗れ去るのみ」


 一段高い玉座から見下ろすレプティリアンが、これまた上から目線で言い募る。



「トカゲの分際で人間の言葉を口にするとは生意気ですわね~。よく回る舌を引っこ抜いて差し上げましょうか?」


「ふん、小童の分際で我を生意気とは。まあよい、これから死にゆく者たちの戯言として聞き流してくれよう」


 小童と呼ばれて瞬間的に沸騰しかけた桜だが、その首根っこを引っ掴んで後ろから制する人物がいる。



「おジイ様、どうして止めるのですか?」


「あの者とは少々語り合いたい件があるゆえな。桜、そなたはしばらく下がっておるがよい」


「仕方ありませんわねぇ~」


 ジジイに言われると渋々ながらも従わざるを得ない桜。代わってジジイが玉座の正面に進み出る。



「さて、ワシのちょっとした昔話に付き合ってもらおうか。今を遡ること1万2千年、当時のワシはムーの一介の戦士であった。ワシはラ・ムーの命によって選ばれし戦士総勢2百名と共に都市国家ユノスに君臨するレプティリアンの副王アドラメクの討伐に臨んだ。だが果せるかな戦いに敗れ去り、ワシは手傷を負って戦士としての道は閉ざされた。それだけではなくて、ムーが海中に沈みゆくのをみすみす指をくわえて見ているしかできなかった。それから別の場所に移り住んだ当時のワシは自らの魂に誓った。『今後幾世の転生輪廻をしようとも、必ずやこの手で副王アドラメクを討ち果たしてみせる』とな。そなたは間違いなくアドラメクよな」


「ふん、虫ケラごときとの戦いなどいちいち覚えてはおらぬが、我は当代のアドラメクにして、歴代の副王の記憶を受け継ぐ者」


 何代目かのアドラメクなのかが定かではないが、その額にある宝玉がキラメキを放つ。美鈴の話ではこの宝玉によって王族同士が直接交信を行い、先代から記憶を受け継いでいくという話だったと聡史たちは聞いている。


「左様か、それを聞いて心置きなくそなたを倒せるわ。1万2千年の長きにわたって輪廻を繰り返し、ひたすらそなたを倒すためだけに技を磨いた名もなき戦士の意地を今こそこの場で受け止めるがよい」


「笑止なこと。再び返り討ちに遭うだけだというのに… これだから愚かな人間は度し難い」


 心から憐憫の情がこもった目を向けてくるアドラメク。だがその情の根底には、これから踏み潰すアリに人間が向けるのと同様の冷酷な意志が宿っている。



「聡史よ、これはワシの長き輪廻の宿縁を終わらせる戦い。何人たりとも手を出すでないぞ」


「ジイさん、本当にひとりで大丈夫なのかよ?」


「おジイ様、私も助太刀いたしますわ」


「ならぬ! ワシがひとりで立ち合ってこそ本懐を遂げる意味がある。けっして手を出すではないぞ」


「わかったよ」


「わかりましたわ」


 聡史たちはジジイの気迫に気を呑まれたかのように後方に下がっていく。


 それにしてもかつて月面コロニーから銀河連邦の使者が地球に降り立った際に岡山室長が「我が一族はムーから続く伝承を代々受け継いできた」と発言していたが、今度はたったひとりの人間が輪廻を重ねて、その間もずっと太古の記憶を保持し続けたというのは驚くべき話。それが聡史たち兄妹の祖父だったというのは、偶然にしてはいかにも出来過ぎのようにも思われる。



「さてアドラメク、今からそなたを地獄に落とそうと挑んでくる戦士を前にしてかような場所に座ったままで良いのか?」


「バカを抜かすでない。人間ごときを相手にするのにわざわざ我が腰を上げる必要もなかろう」


「後悔するでないぞ。人間の生涯はそなたらに比べれば瞬きの時間やもしれぬが、ひたすらに5百世も重ねるとそれなりに大きな力をもつぞい」


「よいよい、そなたの力を見て進ぜるゆえに、早う討ちかかってくるがよい」


 人間をすっかり馬鹿にして態度のアドラメク。



「ふむ、よい覚悟よな。それでは参るぞい。迷わず成仏波ぁぁぁぁ!」


 ジジイのいきなりの必殺技が炸裂する。ド派手な爆発音と眩い閃光が収まると、そこには上半身の着衣がボロボロになって角が一本折れているアドラメクの姿がある。



「人間の力を甘く見たばかりに痛い目に遭ったようじゃな」


「キサマァァァァァ! 絶対に許さぬぞ!」


 竜眼に真っ赤に燃え盛る炎を宿してアドラメクは玉座から立ち上がる。その手には傍らに立てかけてあった宝玉が埋め込まれた剣を握っている。



「剣の錆にしてくれるわぁぁぁ!」


 怒りを露にして斬りかかってくるが、ジジイは剣が振り下ろされる軌道の外側にヒョイと避けると、アドラメクの後頭部に闘気を目いっぱい込めた手刀を当てる。



「グワッ!」


「なんじゃ? この程度で降参するつもりか?」


 後頭部を左手で抑えるアドラメクだが、ジジイの挑発にそのプライドが甚く傷つけられたようで、今度は剣に強烈な波動を纏わせて斬りかかってくる。



「その手は食わぬぞい」


 対するジジイは両手に嵌めるアダマンタイトの籠手に闘気を纏わせて剣を受け止める。波動と闘気がぶつかり合って、それだけで小爆発が生じるとんでもないレベルの戦いが始まる。


 波動は闘気で打ち消し合って爆発音を轟かせながら互いに消滅するので、両者の間に差が出るとすればそれは互いの体術。レプティリアンの王族として代々の強者の技を受け継いできたアドラメクも相当な猛者ではあるが、5百世の年月をひたすら技を磨くために費やして生きてきたジジイに分があるのは明らか。


 ズボッ!


「グフッ!」


 ジジイの渾身の中段突きが鳩尾に食い込むと同時に、床に膝をついて体中に広がる苦痛に耐えるアドラメク。



「これが人間の一念がもたらす力よ。さて、最後にするぞい。我が5百世に及ぶ転生で蓄えた魂の力に刮目するのじゃ。我が最終奥義、輪廻大往生波ぁぁぁぁ!」


 ジジイの右手から闘気とはまた別の力が塊となってアドラメクに向かって飛んでいく。1万2千年間、何度も転生輪廻を繰り返してその間に自らの肉体と魂を鍛え上げ、その磨き上げた魂の力そのものをぶつけるジジイの究極の技がついに炸裂する。



「ギャァァァァァァ!」


 アドラメクを倒すためだけに転生を繰り返したジジイの宿願がついに成就する時を迎える。魂そのもののエネルギーに焼かれるようにアドラメクをは白い灰になっていく。



「長かったのぅ… これでワシの魂を懸けた願いがついに叶ったのじゃな…」


 戦いを終えて立ち尽くすジジイの瞳から一筋の涙がこぼれていく。それは自らのここまで長きにわたる転生を振り返っての涙なのか、はたまた最初の戦いで死んでいった仲間の戦士に対するモノなのかは定かではない。


 その直後、まるで燃え尽きたかのようにジジイは力なく床に倒れ込んでいく。聡史と桜が大慌てで駆け寄ってその体を抱きかかえる。



「ジイさん、急にどうしたんだよ! 長年の宿敵に勝ったんだから、いつものようにドヤ顔してみろよ」


「おジイ様、これしきの願いが成就してくらいで満足してはいけませんわ! まだ世界中にレプティリアンの拠点があるはずです。すべて叩き潰してから安心しましょう!」


 聡史と桜が必死に声をかけるが、ジジイからの応えはない。というよりも徐々に呼吸が乱れ始めて、心音も次第に弱くなっていく。



「このクソジジイ! こんなところで死んでいいのか?! もうすぐ新しい孫が生まれるんだぞ!」


「そうですわ! 私たちの弟と妹の顔を見ないで死ぬなんて、おジイ様らしくありませんわ」


 聡史の「新しい孫」というフレーズに少しだけ反応したようで、ジジイの心拍が弱いながらも多少の安定を見せる。



「今のうちだ。ジイさんを外に運んで一刻も早くカレンに手当てしてもらおう」


「それがいいですわ」


 聡史がジジイの体を抱え上げて歩き出す。その間に桜はここまで来る途中にあった医療施設に押し入ってストレッチャーを運び込んでくる。


 レプティリアンの王族を倒したものの、その結果ジジイが力尽きて倒れるという緊急事態が生じる。容体に関してはいまだ予断を許さないジジイを運びながら、大急ぎで地下施設からの脱出を試みる聡史たちであった。

あの怪物ジジイが倒れた… 緊急事態を迎えた聡史たちは一刻も早くカレンたちと合流を試みます。果たしてジジイの命は…


 この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


最後に皆様にいつものお願いです。


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