355 地下施設での敵襲
まずは伊勢原から話がスタートです。
こちらは伊勢原にある量子コンピューターオペレーションルーム。つい今しがたカレンからロスアンゼルスにおけるイベントの映像が届いたところで、受け取ったオペレーターが上官に報告を上げている。
「室長、これは言い逃れ出来ないレベルでバッチリ映っていますね」
「どれどれ、私にも見せてくれないか… なるほど、人の形をした外殻がバラバラに砕けて中からレプティリアンが這い出てくる場面が実に良く撮れているな。よし、この映像をネット中にバラ撒くぞ」
「了解しました。イベントの最初から最後まで収められているロングバージョンと肝心なシーンだけ切り抜いたショートバージョンをアップしていきます」
「うむ、世界中がどのような反応を見せるか楽しみだ」
ということで、オペレーターがいい感じに編集を終わらせて映像データが弥生の端末に送信される。
「それではゴーストを使ってあらゆる媒体にこの映像を大量にアップします。タイトルは〔レプティリアン・イン・ホワイトハウス〕でいいでしょうか?」
「うん、ピッタリなタイトルだ。それでいこう!」
室長からタイトルセンスを褒められた弥生は気を良くしてゴーストによる映像アップロードの大盤振る舞いを開始。世界中のネットワークのあらゆる場所に潜ませてあるゴーストが猛烈な速度で数万にものぼ映像データをSNSや動画投稿サイトに無理やり捻じ込んでいく。もちろん同様の手口で閲覧数や評価を大量に稼いで誰の目にも触れやすいように細工してあるので、この動画はたちまち世界中でとんでもない反響を巻き起こし始める。
>おい、この動画って本物なのか?
>つい2時間前の出来事をアップしているみたいだから、加工する暇はないだろうな。
>それにしても人間の中からこんな得体のしれない変な生き物が出てくるなんて気味が悪いな。
>いやいや、そんな気楽な話じゃないだろう。ホワイトハウスの高官が人間じゃなかったなんてことになったら、世界中の政府の人間たちはどうなっちまうんだ? 全員疑いの目で見られても仕方がないぞ。
>結構怖い話だな。俺たちは何も知らないうちに人間じゃない生命体に支配されていたことになるぞ。
>確かにそうだな。でもまだこの映像が本物とは決まったわけじゃないし、もうちょっと情報が集まってから真偽のほどを見極めたほうが良さそうだ。
>それはそうだろうが、なんだか今までは都市伝説だと決めつけて鼻で笑っていた話がどんどん真実だと明かされているような気がしてならないな。
>う~む… アメリカ政府が公式にUFOの存在を認めたばかりだというのに、今度は下手をすると地球外生命体が世界中にのさばっているという突拍子もない話になってくるのか…
このような冷静な判断を下す人々もいれば、また違った形の反応を見せる例も見受けられる。
>やはりアメリカは悪魔が支配する国だ! 今こそ世界中の同胞たちと力を合わせてアメリカを地図上から消し去ろう。
>なんてことだ! いよいよ終末の世が実現してしまうのか…
>あまりに不吉な予兆が多すぎる。人類はラグナロクの時代に突入するかもしれない。
>すべての災厄の元凶は今まで権力を独占して罪もない人々を苦しめてきた支配者階級だ。我々は立ち上がって豪華な椅子の上でふんぞり返っている連中を根絶やしにしなければならない。
>今こそ我らが信じる神に縋るのです。神は信じる人々を必ず救います。つきましては○○銀行の口座に寄付を!
>こいつは何を言っているんだ? こういうのを真正のバカと呼ぶんだろうな。地球外生命体の存在が明らかになったら神なんかあっという間に否定されるとわかっていないのか?
>確かに… 人類を創造したのは神ではなくて地球外生命体だという説が濃厚になってくる。
>別の言い方をすると神はモーゼやキリストではなくて宇宙人だったとなるかもしれないな。
などという衝撃を受ける人々の反応やパニックになりかけて見境なく終末を訴える人、中にはその流れに乗っかってちゃっかり信者を集めようとする新興宗教の動き、そこから話が発展していき神の存在そのものについての論争が繰り広げられる等々、SNSの内部では様々な意見が飛び交って収拾がつかない有様。
ネット上で騒ぎが大きくなるにつれてアメリカ政府もこの動向を無視することはできずに何とか事態の収拾を図ろうと声明を出すに至る。
「現在ネットに出回っている首席補佐官に関する動画は完全なるフェイクであって、アメリカ政府並びに個人の名誉を著しく毀損するものである。このような誤った風聞を流布してアメリカを貶めようとする勢力は断固取り締まる」
このような非常に強硬な姿勢で否定する声明を出すだけでなくて、SNSや動画投稿サイトを運営する企業に圧力を加えて問題の動画を削除させようと動き始める。このような動きが始まったのを見て弥生は…
「おや、動画がまとめて50件削除されましたね。でしたらここは景気よく200件アップしちゃいましょう」
もはややりたい放題。アップする勢いが削除する速度を圧倒しているだけではなくて、アカウントを停止しようにも個人を特定できずに運営元も手を拱くばかり。時折IT企業に所属するホワイトハッカーがゴーストの存在を奇跡的に突き止めたとしても、今度は証拠となるはずのゴースト自体が中国や北朝鮮のコンピューターから発生したという痕跡だけ残してきれいさっぱり消え去っていく。弥生としてはひとつのゴーストが消え去った際には、新たに生み出したゴーストをまったく別の場所に潜ませて活動を再開させるだけで、大した手間もかからない。
かつて美鈴をして「戦力兵器級の魔法スキル」と言わしめた弥生の能力がここにきて遺憾なく発揮されている。仮に今の弥生を止めようとすれば彼女の能力に匹敵するハッカーを連れてきてネットワーク上で戦わせるしかないが、銀河連邦謹製の量子コンピューターがバックについている以上どう足掻いても勝ち目はないであろう。そもそも弥生と同じ能力を持つハッカーなどどこにも存在するはずもないだろうし。
となると敵としては別の手段を用いるしかなくなる。すなわち弥生の正体を明らかにして物理的に排除すること… あけすけに言ってしまえば拉致なり殺害なりといった手荒な方法で弥生を強制的にネットワークから遠ざけるという手段しかなくなる。だが日本政府やダンジョン対策室も黙っているはずはない。彼女の周囲を固める警護は万全というだけでなく、弥生自身がレベル100に到達した魔法使い。当然魔法だけではなくて格闘訓練も受けているので、他国からの物理的な干渉に屈する可能性は限りなく低いであろう。聡史たちの手によって強制的に弥生のレベルを引き上げた理由が誰の目にも明らかであろう。
話を元に戻す。このような流れで時間が経過する程にネット上での騒ぎは大きくなっていく一方。ところが不思議なことにこのような大騒ぎに関して日米欧のマスコミはまったくこれっぽっちも触れようとはしない。
とはいっても日本と欧米のマスコミではやや状況が異なっている。日本では政府がこの件を大々的に報道しろと促しているにも拘らず、マスコミ側が何者かに忖度しているのか固く口を閉ざしたまま。反対に欧米では政府とマスコミの利害が一致している関係でテレビや新聞にこの件を取り上げないという一種の情報統制が出来上がっている。これもマスコミ自体が何を報道して何を報道すべきでないかを決定する権限が大資本家に握られているという証明であろう。
数時間ほど経過した量子コンピューターオペレーションルーム。削除とアップロードのいたちごっこに飽きた弥生が動き始める。大胆にもゴーストを使って世界を代表するテック企業の中枢部のAI知能に侵入してアカウントの削除権限を次々に停止していく。ここまでされてはあらゆるIT企業も白旗を揚げざるを得ない。もちろんアメリカ政府の制止を振り切って堂々と問題の動画を視聴者に提供している企業には弥生はまったく手を出さない。つまりこの時点で世界中のSNSや動画投稿サイトは弥生の意のままになったといっても過言ではない。驚くことにひとりの人間にすべてのSNS運営における権限を掌握されるという前代未聞の事態が発生するのであった。
◇◇◇◇◇
弥生がネット上に流した映像で世界中に騒ぎが広がっている頃、ソルトレークシティー郊外の地下に広がるレプティリアンの拠点攻略を進める聡史たちは瓦礫の山を踏み越えて施設の奥に向かっている最中。
「それにしても美鈴ちゃんはずいぶんと派手にやらかしましたわね」
「まあ、確かに桜ちゃんの言う通りだわ。相手がレプティリアンだとついつい見境なしに殲滅しようとしてしまうのよ。たぶん私の無意識にルシファーがコッソリ働きかけているに違いないわ」
「またまた、美鈴ちゃんったらひとのせいにして。本当は戦闘狂の血が騒いでいるんじゃないですか?」
「自分と一緒にするなぁぁぁぁぁぁ!」
桜が素で美鈴を戦闘狂認定しようというあまりにも自分をわかろうとしない行為に対して美鈴が盛大にキレている。横で聞いている聡史としても、さすがにこれは美鈴を擁護したくなるよう。
「桜、いつも言っているだろう。自分と他人の区別はしっかりとつけるんだ」
「おや、お兄様だって自分から進んで相当な人数を真っ二つに切断したくせに、私にすべての責任をおっ被せようとは中々いい根性ですわね。学院に戻ったら時間をかけてオハナシ合いをいたしましょう」
相変わらず自分を戦闘狂とは認めたくない桜が兄に対して苦情を言い募っている。だがそんなことはどうでもいい人物が二人に間に割って入る。
「桜ちゃん、そんなことはどうでもいいですから、そろそろどこかで休憩しましょうよ~。パワードスーツを着込んでからかれこれ3時間近く経過しているし、そろそろ甘いものが食べたいですよ~」
現状は撮影係に徹して大して体を動かしてもいない明日香ちゃんが真っ先に音を上げている。とはいえその主張はそれほど的を外したモノではない。パワードスーツに供給される電力的な意味では活動限界には程遠いのだが、搭乗員の疲労を考慮するとそろそろどこかで休憩を挟むのが望ましい。ということで聡史は全員に無線通信を入れる。
「この瓦礫の山を越えたら安全そうな建物に入って小休止をとろう。もう一息頑張ってくれ」
「「「「「「了解」」」」」」
美鈴の重力魔法で瓦礫の山と化したビル群は約3キロに渡って続いている。よくもまあ、これだけのド派手な破壊を実行したものだと変に感心しながら進む一行。やがて破壊の跡を通り過ぎてまともな建物が並ぶ一角に辿り着く。
「どうやら敵の防衛ラインは後退したようだな」
「お兄様、一刻も早く休憩にしましょう。さっきから明日香ちゃんがうるさくてかないません」
どうやら桜は明日香ちゃんからの猛烈な休憩コールに辟易しているよう。敵の本拠地の真っ只中にありながら休憩第一とは、明日香ちゃんの神経はどうなっているのだろうかと疑いたくなってくる。
ともあれひとまずは手近な建物に入って小休止となる。聡史と美鈴は全員を先に建物に入らせてから周辺と入り口付近に結界を展開。これは敵の侵入を完全に防ぎ止めるのではなくて、結界を突破してくる相手への時間稼ぎ並びに警戒アラームの用途で構築したもの。
「誰かが侵入を図ったらすぐに警報で知らせてくれるはずだ」
「セコ〇があったら安心ね」
ということで見張りは立てずに警備は結界に任せて二人も仲間たちの元へ。どうやら市民ホールのような趣の建物で、内部には大勢の人間が集会を開くスペースとそれに付随する控室や二回りほど小さな小ホールなどが建物の内部には所在している。
一行は安全確認を済ませると一旦戦闘状態を解除。頼朝たちとブルーホライズンはパワードスーツを脱却して久しぶりに外気に触れてホッとした表情を浮かべている。もちろん明日香ちゃんに至っては安全確認が済む前からパワードスーツを脱ぎ捨ててすっかりくつろいだ状態。
「桜ちゃん、早く食事とデザートをくださいよ~」
「こんな敵陣の真っ只中でデザートまで食べるつもりなんですか?」
「もちろんですよ~。デザートがなかったら私は一歩も動きませんからね」
明日香ちゃんのあまりの平常運転ぶりに桜もドン引き。しかも携帯糧秣ではなくてしっかりとした料理を要求してくる始末。こんなわがまま放題の明日香ちゃんだが、食べ物とデザートに関する要求を叶えないとテコでも動かなくなってしまう。渋々桜は焼肉定食が乗っかったトレーとフルーツパフェを差し出している。
「ムフフフフ、やっとお待ちかねの品が出てきましたよ~」
大喜びで料理にかぶりつく明日香ちゃん。ペロリと焼肉定食を食べ切ったと思ったら、今度はキラッキラに目を輝かせながらフルーツパフェに挑み出す。
もうその頃には他のメンバーたちは携帯糧秣で栄養補給を終えており、頼朝たちとブルーホライズンはパワードスーツに搭乗を開始しているが、明日香ちゃんは一向にかまうことなくフルーツパフェに夢中になっている。
その時、ジジイの口から警告が…
「足音が聞こえてくるぞい。50以上はいそうな気配じゃな」
「総員、戦闘体制に移行! 壁際に集結して侵入してくる敵を迎撃するんだ!」
「「「「「「了解」」」」」」
聡史自身、建物の入り口に展開した結界もあって完全に虚を突かれた形。実はレプティリアンたちは周辺に張り巡らしてある監視カメラで聡史たちの動きをずっと捉えており、この建物に入り込んだところを確認済み。聡史たちは一時的な滞在なので内部をサッと調べた程度、地面の下に張り巡らした通路でこの辺一帯のビル群が繋がっているという点を見落としていたよう。
レプティリアンたちはその地下道を通って聡史たちに気付かれることなく侵入に成功して、いってみれば特殊部隊による強襲を掛けた形となっている。
「敵の姿を確認。パワードスーツをを着用していないレプティリアンです」
「全員がマシンガンを携帯している模様。レーザーガンは確認できません」
ホールの扉の外に偵察に出た頼朝と美晴から報告が上がってくる。レプティリアン側としても装備が無限に用意してあるわけではない。ことに今回聡史たちによる奇襲に受けて守備網が壊滅してという状況もあって、手持ちの装備が心許なくなるのも仕方がない。とはいっても正真正銘のレプティリアンであるとしたらパワードスーツを纏っていなくともそれなりに手強いのも事実。
「頼朝のパーティー4名で通路に出てレーザーガンで対応してくれるか」
「聡史、任せてくれ」
短く応答すると、頼朝は元原たちを率いて通路に躍り出る。その場でレーザーガンを構えて一斉照射開始。だが…
「聡史、レーザーガンが効果ない。何らかの力が働いて中和されているぞ」
「わかった、戻ってきてくれ。全員白兵戦の準備をするんだ」
「お兄様、私にお任せくださいませ。トカゲ人間が何体いようとひと捻りですわ」
「ふむ、ようやくひと暴れ出来そうじゃな」
桜とジジイが腕捲りして張り切っている。レーザー光が飛び交う状況下ではさすがに一歩引いて支援に回っていただけに、戦闘狂の血が騒ぎだしているのだろう。
一方その頃、明日香ちゃんは未だに幸せいっぱいの表情でフルーツパフェを堪能中。敵が目前に迫っているというのに普段と何も変わらない様子で黙々とパフェを味わっている。
「明日香ちゃん、敵がこのホールに入ってきますよ。早く戦闘準備をしてください」
「桜ちゃんは何を言っているんですか? この世にパフェを味わう以上に大事なことなんか存在しませんよ~」
「何を言っているんですか! 流れ弾にでも当たったらどうするんですか!」
「もう、うるさいですね~。桜ちゃんにお任せしますから、ちゃっちゃと片付けてください」
桜の忠告に一切耳を貸すこともなくパフェを口にする明日香ちゃん。そして最後の一口をスプーンですくおうとしたその瞬間…
ガシャン
流れ弾がパフェの入ったガラス製の器を粉々に砕いて、明日香ちゃんが何よりも楽しみにしていた最後の一口を無残にも周辺に飛び散らせる。
つと明日香ちゃんの顔が能面のような無表情に変わり、銃弾が飛んできた方向を見遣るとそこにはマシンガンを構えるレプティリアンが数名。
「パ~フェ~の~仇ぃ~、絶~対~に~許す~ま~じ~」
地獄の底から響くような声が発せられたかと思ったら、明日香ちゃんの体からどす黒いオーラが吹き出している。久方ぶりの闇の明日香ちゃんが顕現した模様。髪留めに手をやると右手にはトライデント。その場でひと振りして感触を確かめると、レプティリアンの群れに向かって一気呵成に駆け出していく。あまりの勢いに桜を突き飛ばしたことにも注意を向ける余裕もないよう。
「皆さん、明日香ちゃんから離れてください! 死にたくなかったら離れて!」
明日香ちゃんに突き飛ばされた桜が床に尻餅をついたまま大声で警告を出している。いくら真後ろから突き飛ばされたとはいえ、桜は後方の気配察知も並み外れているはず。そんな桜に尻餅をつかせるとは、闇の明日香ちゃん恐るべし。
桜が警告を発したものの、この時点でレプティリアンは相当数ホールに雪崩れ込んでおり、レーザーガンをホルダーに仕舞って得物を手にする頼朝たちと乱戦状態に陥っている状況。そこに聡史とジジイが駆け寄って加勢に加わろうと進み出たところで、後方から途轍もない邪気を孕んだ何かが迫ってくる。
振り返ってそちらに目を遣ると、ドス黒いオーラを全身から吹き出しながら明日香ちゃんがものすごいスピードでこちら側にやってくる構図。
「なんてこった」
「ほほう、これは面白そうなものが見れそうよな」
聡史は闇の明日香ちゃんの恐ろしさを桜から聞いているのもあって天を仰ぐ仕草。ジジイはひと目でトライデントを手に猛ダッシュする姿に興味を惹かれたようで、その場で見を決め込む。
その間にも闇の明日香ちゃんの猛ダッシュは止まらない。あっという間に二人の間を駆け抜けたかと思ったらホールの入り口から入り込もうとするレプティリアンとそれを押し留めようと武器を手にして果敢に挑むパワードスーツ軍団に向けてトライデントを横薙ぎに振り切って高圧電流の帯を放つ。もちろん味方丸ごと明日香ちゃんの高圧電流の帯に巻き込まれている。
頼朝たちは先程から桜の退避勧告をパワードスーツ内臓のレシーバーで聞いてはいたものの、ホールに入り込んでくるレプティリアンとの白兵戦に陥って退避が叶わずの状況。そこに容赦ない高圧電流が襲い掛かったものだから、さあ大変。
「ウワァァァ! 二宮、急に何をするんだぁぁぁ!」
「味方を丸ごと感電死させるつもりかぁぁぁ!」
「ヤバいぞ! 最初の一撃は何とかパワードスーツが耐えてくれたけど、あんな攻撃を何発も食らっていたら外部センサーが持たなくなる」
男子たちが一時的な混乱に陥っているのと同様に、ブルーホライズンにも明日香ちゃんの高圧電流が襲い掛かっている。
「明日香、ヤメてくれよ~」
「なんだか明日香ちゃんの様子がおかしいわよ」
「なんで味方までまとめて攻撃してくるのよ?」
こちらも絶賛混乱中な模様。とはいえパワードスーツが明日香ちゃんの高圧電流に対して持ち堪えてくれたのは僥倖。ホールに入り込んでいたレプティリアンたちが感電して床に倒れているのをこれ幸いとばかりに桜の勧告に応じて退避を開始。
パワードスーツ軍団が命からがら最前線から撤退を開始するのと入れ替わるようにして明日香ちゃんが床に倒れているレプティリアンたちの元にやってくる。本来であればレプティリアンは特定の周波数を体表のウロコに流すことで電流を地面に流して無害化することが可能なはずなのだが、特殊部隊として突入に臨んだ彼らは見誤っていたよう。要はパワードスーツ軍団が所持するレーザーガンこそが最大の強敵と踏んで光を拡散する周波数を身にまとっていたのだが、そこに突然の高圧電流の襲来。元来から持つ生命力の強さで何とか一命は取り留めてはいるが、体表を駆け巡った電流に感電しているせいで全身がマヒして動けない状態。
床に倒れている1体の前にどす黒いオーラを全身から吹き出している闇の明日香ちゃんが立つ。指の一本すら動かせないレプティリアンは恐怖に引き攣った表情を浮かべて命乞いの言葉を出そうとするが、肝心の声帯がマヒしている状況では「うー」とか「あー」といった呻きしか出てこない。
そんな哀れな存在になり果てたレプティリアンに対して明日香ちゃんはトライデントを突き刺す構えをとる。そしてその口から…
「最後の一口は~、命よりも重い~」
どうやら明日香ちゃんにとってパフェのひと口分は命を以って償うに値するらしい。今更彼女に常識を説いても無駄だとは思うが、出来ればもうちょっとマシな倫理観を持っていただけないだろうか…
そのまま一辺の慈悲もなく闇の明日香ちゃんはレプティリアンに対してトライデントを垂直に突き刺していく。さすがは神槍と謳われているだけあってレプティリアンの体表を覆う丈夫なウロコなど一顧だにせずに貫いたかと思ったら穂先から体内に高圧電流を流し込んでいる。これにはレプティリアンの生命力も抗うことはできずに体を痙攣させながら息を引き取っていく。さらに…
「パフェの代償は~、命で償うしかない~」
「我が恨みを晴らすには~、殺戮あるのみ~」
「おのれの罪を~、心の底から悔いるがいい~」
とまあこのような具合でレプティリアンに対して恨み辛みを晴らすような言葉を投げかけつつトライデントを突き刺していく。
完全に死刑執行人と化した闇の明日香ちゃんが次々にレプティリアンの虐殺を開始すると同時に、特殊部隊の残存兵力がホールに入り込んでくる。その姿を認めた明日香ちゃんは再び高圧電流の帯を一閃。わずか一撃でレプティリアンたちはその場で戦闘不能に。闇の明日香ちゃん恐るべし。
この様子を初めて目撃した頼朝たちとブルーホライズンは…
「おい、二宮ってあんなヤバい性格だったのか?」
「なんだかブツブツ言いながら槍を突き刺す姿が途轍もなく恐ろしいんだが…」
「まったく別の人間のようだな」
「ヤバいなんてものじゃないぞ。ボスさえそうそう手出しが出来ないようだし」
「ねえねえ、明日香ちゃんっていつからあんなバーサーカーモードを搭載していたのよ」
「知らないわよ。師匠や美鈴さんだったら何か知っているかもしれないけど」
「ともかくこの場は障らぬ神に祟りなしってことでいいわね」
といった感じでパワードスーツの内部で挙って表情を青くしている。
そして総勢50名に及ぶレプティリアンの兵力に闇の明日香ちゃんがトドメを刺したのを見極めた桜が近づいて後ろから声をかける。
「明日香ちゃん、ミニプリンアラモードがありますけど食べますか?」
「はい、いただきます!」
つい今の今まで全身から吹き出していたどす黒いオーラがきれいさっぱり引っ込んで、キラッキラの笑顔で振り返る明日香ちゃん。ひとりでこれだけの大虐殺を繰り広げた跡などその表情のどこからも窺えない。
桜がプリンアラモードを手渡すと、なんだかとってもいい表情で受け取る明日香ちゃん。
「桜ちゃん、デザートだけあっても困りますよ~。ちゃんとスプーンも出してください」
などと厚かましいお願いまでしてくる始末。これには頼朝たちとブルーホライズンも口をアングリしている。手の平返しどころか、ここまでくるともはや二重人格ではないかと疑ってかかるレベル。
そんな明日香ちゃんは放置して、聡史と美鈴は死体となって転がっているレプティリアンの検分を開始。
「まさか休憩中に奇襲を受けるとは、さすがに油断しすぎたな」
「建物の正面入り口を通らずに内部に入り込む通路があったんでしょうね。さすがに建物全体の内部構造なんかわからないから仕方がないわよ」
などとやや反省の弁を交わしながら床に倒れて事切れているレプティリアンを見て回っている。そして最後のほうにホールに入ってきたであろう1体の亡骸の前で二人の足が止まる。
「なんだかこの個体だけちょっと変わっていないか?」
「そうね、見た目からして他の個体とは違っているわね」
二人が顔を見合わせて言葉を交わしている最中、やや離れた場所にいるジジイから声が飛ぶ。
「聡史よ、努々油断するではないぞい。そやつはまだ生きておるわい」
その言葉にハッとしたようにして聡史は剣を構え、美鈴は魔法を発動する体制に移行。二人がやや距離をとったのを見定めたのか、床に倒れていたレプティリアンはむくっと起き上がる。電流を浴びただけでなくてトライデントに心臓部を刺し貫かれてもまだ生きているその生命力には呆れるばかり。実はレプティリアンには体の4カ所に心臓があって、ひとつがダメになっても命を保っていられる。
「クソッ、死んだフリをして仕留めてやろうと思っていたが見破られては仕方がない」
右手に持つ剣を振り上げて聡史に向かってくるレプティリアン。だがその剣の腕前は聡史から見てお世辞にも強いとは言い難い。何と言うか、人間よりも優れた身体能力に胡坐をかいて鍛錬を怠っているように映る。
そして聡史の見立て通り、レプティリアンが振りかざした剣はあっさりと聡史によって躱されて、逆に聡史のフラガラッハが首元に迫る。
「何ぃぃぃ!」
聡史のあまりに鮮やかな剣の技量に驚いた表情を向けるレプティリアンだが、もうその時にはすべてが後の祭り。固いウロコなどまったく苦にもせずにフラガラッハは滑るように頸部に刃先が入り込んだと思ったら、次の瞬間には首を刎ねている。
「さすがに首を切り落とされてもまだ生きているなんてことはないよな」
「どうかしらねぇ~、ヘビは首を落とされても胴体だけがうねうね動いているし、同じ爬虫類だから万が一のことがあるかもしれないわよ」
もちろんこれは美鈴の冗談にすぎない。いくら生命力が強いレプティリアンといえども首を斬り落とされてしまえばさすがに命を長らえるのは不可能。
「それよりもこの個体はどうなっているんだ?」
聡史は切り落とされて床に転がっている首を見ながら美鈴に問いかける。
「ちょっと待ってね、ルシファーに訊いてみるから」
ということで、美鈴の中で短い時間の脳内会議が開かれる。そして…
「大体のところはわかったわ。この個体はいわばレプティリアンの上位種ね。銀河連邦では便宜上〔レプティリアン・ナイト〕と呼ばれる存在らしいわ」
「なるほど、上位種か」
美鈴の説明に納得した表情を向ける聡史。その視線の先には側頭部から延びる2本の角が映っている。どうやらこの角が上位種の証のよう。
「おそらくこれまで迎撃に出てきたのはレプティリアンの中でも最も地位が低いクローン体で、この場に倒れているのは間違いなくオリジナルの個体よ。いってみればレプティリアンの一般兵といったところかしら。そしてこの上位種がこの部隊の指揮官を務めていたんでしょうね」
「上位種がいたなんてちょっと驚いたな。今まで地表で姿を見たのは角のないレプティリアンばかりだったし」
「どうやら地上に出るのはレプティリアンからすれば身分の低い個体だけのようね。比叡ダンジョンで最初に出会ったアスクレーと名乗ったレプティリアンも所詮は下っ端だったというわけ」
「なんで上位種は地上に出ないんだ?」
「確か異世界のレプティリアンが明かしていたじゃないの。地上に出ると太陽から降り注ぐ紫外線や放射線の影響でどうしても細胞の代謝を活性させいないといけなくなるわ。その分寿命が短くなるのよ。こうして地下で生活している限りレプティリアンの寿命は千年ほど。それが地上では百年も生きられないとなったら、そんな損な役回りは下っ端やクローン体にやらせるでしょう」
「そういう事情があったのか。ところで上位種っていうのはコイツらだけなのか?」
聡史の脳裏にはゴブリンやオークの生態が浮かび上がっている。例えばゴブリンだったら普通の個体の上位にゴブリンソルジャーやゴブリンメイジがいて、さらにジェネラルやキングといったより上位個体によってピラミッド状の階層が出来上がっている。果たしてそれがレプティリアンにも当て嵌まるのかを知りたいよう。
「聡史君の想像通りよ。さらに上位には王族に類するレプティリアン・ロイヤルとたったひとりのレプティリアン・キングがいるわね。彼らの特徴としては竜人の姿をしている点かしら」
「竜人だって! もしかしてレプティリアンというのはドラゴンから生まれたのか?」
「まあまあ、落ち着いてよ。銀河におけるドラゴンといっても幾通りも存在するのよ。創造神の補佐だったりや銀河全体のバランスを保つ役目を担うドラゴンがほとんどといっていいわ。でも中にはドス黒い澱みから生まれた暗黒を生み出すドラゴンもいるのよ。そんなドラゴンを発見次第駆除するのは銀河の闇と暗黒の支配者を務めるルシファーの役割のひとつでもあるわ」
「なんだかイメージ的には害虫駆除業者のような」
「失礼ね、ルシファーにそっくりそのまま伝えておくわ」
「いや、それはヤメてもらいたい。あの御仁の機嫌を損ねると色々とマズいから」
「はいはい、聞かなかったことにしておくわよ。ということでそんな暗黒龍から生まれたのがレプティリアンというわけ。そのせいで連中は暗黒龍を創造神として崇めて、自分たちが住み着いた世界に自らが崇める神を復活させようとしているのよ」
「それがレプティリアンの目的なのか」
「ええ、レプティリアンという害虫が蔓延るとその惑星は確実に破滅に向かうわ。だからこそこの地球をヤツらの思い通りにしてはいけないの」
「そのためには滅ぼすしかないんだな」
「1体残らず駆除する必要があるわね」
美鈴の説明でこれまで地球に存在する理由が少々不明確であったレプティリアンという種族についてある程度詳しい話が聞けた聡史。やはり人類とは絶対に理解し得ない存在だという思いを新たにしている。そこに…
「お兄様、明日香ちゃんもようやく落ち着いてくれましたわ」
「ああ、なんといっていいのか… 怪我の功名なのか棚からボタ餅なのかはわからないけど、今回の敵の奇襲は明日香ちゃんのおかげでウマいこと切り抜けられたな」
「シッ! お兄様ったら、そんなことが明日香ちゃんの耳に入ったら調子に乗りますわ。ここは何もなかったという体で外に向かいましょう」
「そうだな。色々とややこしくなるから、ここは黙って先を急ごう」
ということでさして満足に休憩も取れないままに建物の外に出ていく聡史たちであった。
敵の急襲を受けた聡史たちですが、結果的に明日香ちゃんの大暴れのおかげでピンチを乗り切りました。とはいえレプティリアンの上位種の存在が明らかになって、ここから先相当な困難が待ち受けている予感が… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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