354 もうひとつのミッション
地下通路を進む聡史たちは…
レプティリアンの地下施設を外界から隔てる最終関門とでもいうべき分厚い金属製の隔壁を難なく突き破った聡史たちは、一気に前進して施設内部に侵入を図ろうとする。だが先頭に立って突破を図る頼朝たち男子8名に向けて膨大な数の光の帯が集中的に降り注いでくる。
「ウワッ! さすがに不味いぞ。一旦引くんだ」
レプティリアンの本拠地に殴り込みをかけようと勇躍して突っ込んでいったのはいいものの、頼朝たちは這う這うの体で半分だけ残っている隔壁の陰に戻ってくる。
「聡史、さすがにちょっと不味いようだ。ざっと見た限り5千体以上の敵方のパワードスーツ部隊が集結している。さすがにこれだけ大量のレーザー光を集中的に浴びてしまうと、こっちの装甲が危なくなりそうだ」
「そうか、敵もここを突破されまいと必死のようだな。さて、どうしたものか」
いくらパワードスーツの性能で上回っていようとも、さすがにこの戦力差はそうそう簡単に覆せそうもない。とはいえこのままでは隔壁の向こう側に一歩も進めないどころか、下手をすると数にモノを言わせた敵兵団によって押し返されかねない。何かうまい対策がないかと思案する聡史に対して、ここで美鈴が声をあげる。
「聡史君、私に考えがあるんだけど」
「何かいい案を思いついたのか?」
「まあね。それでね、桜ちゃんとおジイ様に協力してもらいたいのよ」
「おや、美鈴ちゃんから協力の依頼なんて珍しいですわね」
「何やら楽しげであるな。ワシはいつでも最前線に立つぞい」
美鈴からご指名を受けた桜とジジイが何やらヤル気になっている。こんな危険人物2名に美鈴は何をやらせるつもりだろうか?
「私が隔壁の空いた場所に特殊なシールドを展開するから、二人で内部の敵を減らしてもらいたいのよ。ある程度数が減って敵の抵抗が弱まったら最後の仕上げは私がやるわ」
「お任せくださいませ」
「ふむ、よかろう」
ということで桜とジジイから快く了解を得た美鈴は隔壁が吹っ飛ばされて通り抜けが可能となった箇所にシールドの準備を開始。
「今から展開するシールドの表面にはパワードスーツと同様の特殊な周波数を帯びた電流を流してあるから、敵のレーザー攻撃をある程度は防げるはず。ただし精々7~8秒が限界だから、それまでに攻撃を終わらせて安全なこちら側に戻ってきて」
「それだけ時間の余裕があれば問題ありませんわ」
「なるほど、しからば飛び切りのヤツをお見舞いして進ぜようかのぅ」
美鈴の意図を汲んだ桜とジジイの表情がこれでもかという具合に光輝いている。さすがにレーザー光線には歯向かえないのでパワードスーツ軍団の後塵を拝していたが、ようやく巡ってきた活躍のチャンスに思いっきり喜びを露にしている。その表情は「敵を殲滅することこそが戦闘狂の本分」だと言わんばかり。
「それじゃあいいかしら? 始めるわよ」
「いつでも来いですわ」
「ガハハハハ、キッチリと型に嵌めてやるわい」
「シールド展開!」
美鈴の体から大量の魔力が放出されると、隔壁の開いた部分をピッタリと埋めるようにシールドが出現する。その状況を確認した桜とジジイはすぐさま物陰から飛び出して攻撃準備。そして…
「メガ盛り太極波ぁぁぁぁ!」
「迷わず成仏波ぁぁぁぁ!」
桜の右手からはあらゆる物体を吹き飛ばす威力マシマシの太極波。ジジイの両手からはパワードスーツを貫通して内部の乗員を確実に仕留める必殺の一撃が放たれる。両者が大技を放ち終えて戻ってくると、直後に聡史たちが身を隠している隔壁を強烈に振動させる爆発音が轟く。
「師匠、私が様子を見てくるぜ」
美晴がシールドの陰から勢いよく飛び出していくと、煙の晴れた敵陣の様子が克明に見渡せる。桜とジジイの攻撃が直撃した個所は文字通りパワードスーツが瓦礫と共に死屍累々の惨状。とはいえ先程よりも相当数を減らしてはいるようだが、いまだ残存する敵兵たちからかなりの反撃が返ってくる。美晴は大慌てで引っ込んで聡史に報告。
「師匠、正面に展開していた敵の兵力はほぼ壊滅しているけど、左右両翼と建物の内部とか後方に隠れていた戦力はまだ健在みたいだぜ」
「そうか… だったら次は俺がいく。美鈴、もう一度同じようにシールドを展開してくれるか」
「ええ、いいわ」
先程と同様にシールドを展開する美鈴。聡史はフラガラッハを手にして敵前に躍り出ていく。彼の姿を発見した守備隊からはなおも相当な数のレーザー光が襲い掛かるが、美鈴のシールドがどうにか聡史の体を守っている。
聡史は敵のレーザーがどこから飛んでくるのかを冷静に観察しつつ魔剣に魔力を流し込む。約3秒間で魔力の充填を終わらせると、右側に剣を引いてから思いっ切りフラガラッハを横薙ぎに振り回す。
「断振波ぁぁぁ!」
剣から放たれたのは空間ごと切り裂く無音の衝撃。空間を音もたてずに飛翔した後に建物に着弾すると低層部分を一文字に切り裂いていく。しばらく時間が経過するとガラガラと音を立てて敵兵が潜んでいる建物が倒壊するという地獄絵図が始まる。しかもほぼ180度の範囲に断振波を飛ばしたおかげで、両翼に残存していた敵方のパワードスーツ部隊は空間ごと体を切断されている。
つい先程までは数千名のパワードスーツ部隊が聡史たちを押し留めようと待ち受けていたはずが、現在は見る影もない惨憺たる有様。もしかしたら建物の倒壊に巻き込まれた敵兵はパワードスーツのおかげでいまだ命を保っているかもしれないが、生き埋めとなってしまってはとてもではないが戦力としては勘定できるはずもない。
こうしてかなり後方に潜んでいるごく一握りの部隊がわずかに抵抗を続けるだけという状況に至ったのをみて、満を持して大魔王様が出陣。
「それじゃあ最後の仕上げは私が務めるわね」
これまで波動を操るのが巧みなレプティリアンに対して前面に出てくる機会が少なかった美鈴。それは最も得意とする重力魔法が効果を発揮しないという理由から。だが今回は自ら最前線に姿を現している。果たして彼女にどのような勝算があるというのか…
すでにほとんど敵の抵抗を受けなくなったおかげで、美鈴は余裕の表情で術式の構築に臨む。薄っすらと笑みさえ浮かべるその顔は、ルシファーに影響されたレプティリアンに対する嫌悪の感情の裏返しかもしれない。
「範囲設定、地面から100メートル以内。威力は通常通り」
地下空間ということもあって魔法が及ぶ範囲を事細かく定めてから厳かな声で死の宣告を口にする。
「グラビティー・バースト!」
地下空間内部の敵兵がいる位置を丸ごと取り囲むように100Gの重力が襲い掛かる。聡史の断振波によって倒壊した建物は、さらに巨大な重力に押し潰されて内部や周囲に潜んでいるパワードスーツに搭乗したレプティリアンをその重みで押し潰す。
桜とジジイの攻撃を受けて倒れている兵士の中にはまだ息が残っている個体もある。彼らは襲い掛かる巨大な力に抗って波動を操り何とか重力の中和を試みようとしており、その努力は部分的に成功する。だが美鈴の強力な術式が及ぼす重力に対して自らの体に直接圧し掛かる荷重を中和したのみで、パワードスーツに及ぼされる巨大な質量に手出しする余裕はない。その結果としてパワードスーツの材質や形状的に弱い部分… 要するに可動部分が重力に負けて潰れていく。せっかく桜やジジイの激烈な攻撃を生き抜いたレプティリアンは、今まで体を守ってくれたパワードスーツによって体中の関節を押し潰されて息を引き取っていく。なまじ意識を保っているだけに、身体に及ぼす苦痛は想像を絶するレベルであろう。なんともムゴイ死に様としか言いようがない。
こうして数千体もの敵兵力に手を焼きはしたが、なんとか最後の守備網を打ち破った聡史たちは、ついにレプティリアンが築き上げた地下都市に歩を進めるのであった。
◇◇◇◇◇
前日に聡史たちとは別行動でロサンゼルスに向かったカレンと学院長は、サポート役の自衛官が運転するワゴン車で丸一日を費やしてロス市内にあるホテルに深夜にチェックインする。
こちらのチームの目的は翌日の午後3時から開催されるとあるイベントで、まだしばらく時間に余裕があるためこの日はそのままホテルで休養にあてて、実際に活動を開始したのは翌日の昼前となる。
「それでは下見をしておこうか」
「はい、お母さん」
学院長とカレンが連れ立ってワゴン車に乗って、車は市庁舎前に広がるグランドパークへ向かう。この公園が今回の目的であるイベント会場で、周囲をぐるっとひと回りしつつ最も適切なポイントを探していく。
「どうやらあのビルが良さそうだな」
学院長が指さすのは市庁舎とは反対側に建っている10階程度の取り立てて目立たないビル。ワゴン車は建物の裏手に回って路肩に停車すると、学院長がひとりだけ車を降りて人目につかない場所を探して歩いていく。
そのまま付近の低階層のビルの屋上に飛び乗ったかと思ったら、また別のやや高いビルに飛び移って、最終的には目的の建物の屋上に立っている。そこから公園の野外ステージが見渡せる位置まで歩を進めて距離計で計測開始。
「480メートルか。幸い風も穏やかだから、間違っても外さないな」
ニヤリと笑みを浮かべたかと思ったら、そのままフェンスを飛び越えて地上に向かってダイブ。スタッと着地を決めると何事もなかったかのようにワゴン車に向かって歩き、ひとまず時間になるまではこの場を離れるのであった。
◇◇◇◇◇
「お母さん、ステージから結構離れているみたいですけど」
「カレン、誰にモノを言っているんだ? 自分の母親の腕前を信じられないのか?」
「今まで一度だって疑ったことはありませんよ」
「そうか。我が娘が素直に育ってくれたのは母親冥利に尽きるな」
「はい、誰よりも強くてずっと私を守ってくれたお母さんを尊敬しています」
「コラ、ヤメるんだ! そこまで大っぴらに褒められると逆に恥ずかしいだろうが」
カレンがからかい気味のセリフを口にすると、学院長は思いっ切り照れているよう。こうやって何気ない会話を交わしている限りはどこにでもいる母娘のように見えなくもないが、その実は神殺しと正真正銘の女神様。おそらく地球上を探してもこんな奇跡のような組み合わせの親子などどこにも存在しないだろう。
そのまま一行は近場のレストランに入って昼食がてら時間を潰してから、午後2時を回った時刻に行動を開始。
ワゴン車を駐車場に停めると、カレンと自衛官2名が一足先にイベント会場となるグランドパークに向かう。3名の胸には台湾のテレビ局のクルーという立場を示すⅠDカード。しかも自衛官たちはテレビカメラをはじめとする撮影機材を持ち運んでいる。
そのままイベント会場の事務局と思しきテントに足を運ぶと、カレンがIDカードを提示しながら係員に話し掛ける。
「ハロー、私たちは台湾のテレビクルーです。本日のイベントの取材と撮影許可を申し込みたいです」
「ありがとうございます。本日のイベントの良い宣伝になりますので、心置きなく取材してください。クルーの皆さんはこの腕章を腕に着けてもらえますか」
「サンキュー、それではさっそくステージを撮影しやすい場所のカメラをセッティングさせてもらいます」
このような遣り取りを英語で行っている。カレンはさほど英語が得意というわけではないのだが、ややたどたどしい発音を彼女のブロンドの髪とブルーの瞳という外見で何とかカバーしている。というかこのような街中での活動において最も違和感を与えないだろうということでカレンがこちらのチームに加わっている。
さて本日こちらの公園で開催されるイベントだが、その内容は不法移民の保護を訴えるキャンペーンとなっている。そのため公園内の各所には無料で配布されるホットドッグやハンバーガー、タコス、スープなどの屋台が大々的に並び、タダで手に入る食べ物に釣られて集まった不法移民が行列をなしている。
それだけではなくて200ドル相当のフードスタンプの配布なども行われており、会場内は想像以上に人々の熱気であふれている。ちなみにこれらの食事やクーポン配布の原資はアメリカ国民の税金となっている。
野外ステージでは地元のバンドの演奏や教会のコーラスサークルのゴスペルの歌声などが響いて、多くの聴衆が楽しんでいる様子が伝わってくる。
カレンたちは屋台に人が集まっている様子をササッとカメラに収めてから、芝生の上に組み立て式の台を設営して、前から3列目の中央付近にテレビカメラを据え付ける。
「カメラテストは大丈夫かしら?」
「はい、画角に前列の人たちの頭が映り込まないようにしっかりとセットしてあります」
「バッテリー残量は?」
「あと2時間は余裕です。予備も用意してありますから大丈夫です」
などといった具合に、いかにもテレビ局のクルーのような会話を交わしている。
「それにしてもずいぶん大勢集まっているわね。ロスアンゼルスにこんなに不法移民が多いのかしら?」
「事前教養で学んだんですけど、カリフォルニア州の南部国境から相当数の不法移民が流れ込んでいるらしいですね」
「前から疑問だったんだけど、不法移民をこんなに大々的に受け入れてアメリカという国に何らかの利益があるのかしら?」
「アメリカにとってはおそらく不利益にしかならないでしょうね。ただし連邦政府や自治体の予算に不法移民の保護を理由に巨額の支出が組まれています。この莫大な額は不法移民の保護に関わるNGO団体や財団に流れていきまして、その団体や財団が半分以上の予算をピンハネして4割程度のお金を不法移民に配っているそうです」
「それじゃあNGO団体や財団のために予算を組んでいるようなものじゃないかしら?」
「ははは、その通りかもしれませんね。よくある話ですが、儲かったNGO団体や財団からは寄付という名目で政治家の懐に金が還流していくというのがざっとした流れですね。しかも将来不法移民が市民権を得たら、彼らは間違いなく民主党の支持者になる。政治家にとっては国益よりも金と票がオイシイんですよ」
「はぁ~… とんでもない腐敗ね」
これにはカレンも呆れている。アメリカは移民の国だと聞いていたから不法移民にも寛容なのだと思い込んでいたのだが、まさかこのような裏があるとは思ってもみなかったよう。その上不法移民の住居を確保するという名目で低所得な高齢者を公立のケアホームから追い出したり、傷病軍人の療養施設を閉鎖したりといった具合に、現政権はアメリカ国民の福祉をそっちのけで不法移民に手厚い保護を加えている。
しかも何千万人という不法移民が流入すると一般的なアメリカ人が低賃金でも働く不法移民に仕事を奪われていく。このような自分たちが納めた税金が食い物にされるのを嫌ったり、失業したり、治安があまりにも悪すぎて… などということが相まってここ最近カリフォルニア州の人口が過去にないペースで他の州に流出している。
このような事情があってカリフォルニア州並びにロスアンゼルス市の当局は不法移民のイメージ改善のために今回のイベントを企画したらしい。果たしてこのようなイベントが本当にアメリカ国民の理解を得られるのかどうかは知る限りではないが…
ステージ上では今回のイベントのホスト役を務めるロスアンゼルス市市長の挨拶に続いて数多くの来賓たちのスピーチが続く。壇上に立つ誰もが不法移民を取り巻く環境の厳しさを語りつつ、それゆえに手厚い保護が必要だと聴衆たちに熱を帯びた口調で訴えかける。より手厚い保護政策を今後とも打ち出していくという公約を口にする市議会議員の演説を聞いた不法移民たちからは大きな歓声が沸き起こる。
「なんというか… 果てしない茶番劇を見せつけられているような心境ですね」
「別の言い方をするとウソ臭い三流ホームドラマとでも言いましょうか」
「聞いているこちらの知能と感性が徐々に退化していくような気分ですよ」
スマホの翻訳機能でスピーチの内容を確認しているカレンと自衛官は、そのあまりに欺瞞に満ちた内容に少々胸やけ気味の表情。よくもまあこれだけの美辞麗句を重ねながら嘘八百を並び立てられるものだと逆に感心している。
その後に不法移民の保護にあたっているNGO団体への表彰が始まる。プレゼンテーターから記念品を受け取った団体の責任者は口を揃えて「今後とも気の毒な難民の保護に尽力する」などと述べているが、このセリフの裏には「今後とも継続的に予算を回せ」という腹黒い意図が見え隠れしている。
そしてプログラムの最後にカレンたちが待ち侘びる人物の登場と相成る。その人物こそこの日の主賓として招待されている大統領首席補佐官に他ならない。
実はこの人物、伊勢原の量子コンピューターオペレーションルームがホワイトハウスの重要人物のプロファイリングを実施した際に大きくクローズアップされていた。というのもこのマーク=エドモンドという補佐官こそが今回の日本に対する世界緊急放送を企てた中心人物であり、現状では実質的なホワイトハウスの支配者と目されている。
それだけならまだしも、とあるミーティングルームの監視カメラ映るエドモンドの光彩が一瞬だけ縦方向に細められている映像が量子コンピューターによるデータのスクリーニングでピックアップされて、さらに精密に画像を解析したところ99.99パーセントの確率でレプティリアンだという結果が弾き出されている。
この結果を基にダンジョン対策室はアメリカ政府の中枢にレプティリアンが潜り込んでいる事実を白日の下に晒し上げる目的で今回のミッションを学院長とカレンに託している。
「それでは連邦政府を代表いたしまして本日のイベントにご出席いただいておりますマーク=エドモンド首席補佐官からスピーチをお願いいたします」
司会の紹介に立ち上がって聴衆に笑顔を浮かべて手を振りながらマイクの前に立つエドモンド。民主党寄りのマスコミやロサンゼルスの地方紙の記者もそこそこ参加するイベントなので、壇上の補佐官に向けて盛んにフラッシュが焚かれる。その夥しいフラッシュに紛れてカレンは…
「聖光」
やや強めの聖なる光を浴びせると、わずかな時間エドモンドの瞳が盾に細められる。もちろんカレンはこの変化を見逃すはずもなく、その場に立っているのは人に非ざる存在だと理解する。
そのまま繋ぎっ放しにしているスマホを耳にあてると…
「お母さん、ビンゴです。私の聖光に反応して光彩が縦に細められました」
「了解。それでは遠慮なく狙撃に移るぞ」
「お願いします」
「ああ、ヤツらがデカい顔をするのも今日までだ」
「イベント終了後に予定の場所で合流でいいですね」
「ああ、拾いに来てくれ」
こうして学院長との通話を終えたカレンはビデオカメラの画角とバッテリー残量を再確認してからステージの状況に注視していくのであった。
◇◇◇◇◇
こちらはグランドパークを挟んで市庁舎とは反対側に建つ10階建てビルの屋上。カレンとの通信を終えた学院長はアイテムボックスから愛用の小銃を取り出すと遠隔射撃用のスコープを取り付ける。
立ち位置を確認してからスコープを覗いておよその距離感を調整すると、一旦公園からは視認できない物陰に姿を隠す。
「さてと、普段とは勝手が違う弾丸だから少々時間が必要だな」
学院長の小銃から発射されるのはこれまで何度も話に出てきた通り魔力でできた弾丸。しかも小銃のシリンダー内部で限界まで圧縮されているのですでに魔力が暴走状態となっており、途轍もない破壊力をもたらすのが通常の姿。
だが今回はターゲットを殺傷するのが目的ではないし、付近には無関係な人々も大勢いる。ということで魔力の込め方を調整して特別製の弾丸を作成する。
日頃は桜やジジイにも共通する脳筋的な物言いが多々見受けられる学院長ではあるが、そもそもが破壊工作のスペシャリスト。少々手間が掛かろうとも作戦の成功を第一に考えるのは当然。
その結果小銃のシリンダー内には2発の特別仕様の弾丸が込められている。この2発の特徴は、威力を弱めるために通常よりも魔力量を7割程度に落としている点だろうか。その結果着弾時に引き起こされる爆発の威力は格段に減少しており、周囲に与える影響はほとんど勘案せずに済む。それだけならただの威力を落としただけの弾丸に過ぎないのだが、そこは学院長。さらにもう一工夫加えている。
それは例えていうならサバゲーで用いられているペイント弾のように、着弾した瞬間に暴走魔力が飛び散って体に浸透していきながら徐々に細胞を破壊していくという結構な鬼畜仕様。着弾した瞬間から体を破壊しつつドンドン体内の奥深くに浸透していくので、一刻も早く暴走魔力自体を取り除かないと恐ろしいことになる。
さらに念を入れて学院長が纏っているのは聡史から借りた透明になるマント。これを羽織っている限り誰の目に留まることなく狙撃が出来る。
再びビルのフェンス際までやってきた学院長は、今度は真剣な表情でスコープの視界に集中する。小さな円の中に移っているのはスピーチをしている首席補佐官の姿。
学院長はひとつ大きく息を吸ってから呼吸を止めて引き金に力を込めるタイミングに集中。そして1発目は頭部を狙って、2発目は胴体目掛けて引き金を引く。
無音で発射された魔力の弾丸は学院長が狙ったコースを飛翔して見事に2発とも補佐官に着弾。スコープの中でつい今まで意気揚々とスピーチをしていたその体がよろけて倒れ込む様子を確認すると、学院長は何事もなかったように小銃をアイテムボックスに仕舞い込んで人通りの少ない裏手の通りに向かって飛び降りていくのであった。
◇◇◇◇◇
一方イベント会場では首席補佐官が急によろけて倒れ込んだという緊急事態に大騒ぎが巻き起こっている。ステージの袖に待機していたシークレットサービスが慌てて駆け寄ると、補佐官は頭を振りながら立ち上がる。その様子を見て誰もが大した出来事ではなかったとホッと息を吐きかけて直後に異変が発生。
立ち上がって無事だと周囲に伝えたはずの補佐官だが、急に慌てた様子で頭や胸部を掻きむしり始める。あまりに突然の出来事で周囲が呆気に取られていると、補佐官の頭部から順番に首、胸部、腹部へとヒビ割れのような線が広がって、さらにそのヒビ割れに沿って体の表面がボロボロと剥離していく。
「クソッ、このままでは本体まで浸食されてしまう!」
ステージ上に補佐官の叫び声が響くが、周囲の人間は彼が何を言わんとしているのか理解が追い付かない。もちろん補佐官がこのような非常事態に襲われた理由は学院長による魔力弾の狙撃によるもの。暴走した魔力によって補佐官の身体を包み込んでいる外殻がボロボロと崩壊し始めており、このまま放置しておくとあっという間にレプティリアンとしての身体も同様に崩壊に巻き込まれてしまうという危機に瀕している。
やむを得ずに補佐官は体を覆う外殻を脱ぎ捨てることを決意。自分の命には代えられないとばかりに、直立歩行のトカゲのような忌まわしい真の姿を人前に晒すに至る。当然ながら突如として人に非ざるものがステージに登場となったせいで、イベント会場は先程補佐官が倒れた時とは比較にならないほどの蜂の巣を突いたような騒ぎとなる。
「何が起きたんだぁぁぁぁ!」
「補佐官はどこにいったんだ?」
「急に怪物が現れたぞぉぉぉ!」
「何者なんだぁぁぁ!」
「キャァァァ! 助けてぇぇぇぇ!」
とまあこのような具合に時間が経過すればするほど会場内にパニックが広がっていく。この様子を冷静に観察しているカレンたちは…
「さすがはお母さんね。完璧な仕事ぶりだわ」
「神崎大佐の腕前は称賛に値します」
「それよりもしっかりと記録は撮れているかしら?」
「バッチリです! さっきから最大ズームにしてありますから、レプティリアンの姿がいい感じに撮影できていますよ」
どうやらこれが学院長とカレンが別行動で取り組んだミッションの目的のよう。レプティリアンという存在を世の中に知らしめるだけではなくて、この補佐官のように人の姿に化けて政府の中枢部にまで潜り込んでいるという恐ろしい事実を各国の国民に突き付けることを目的としている。
ステージ上に目を戻すと、つい先程までは補佐官の姿をした異形の存在はホワイトハウスのスタッフに周囲を取り囲まれながら姿を消していく様子が目撃できる。この期に及んでもなお現在のホワイトハウスは首席補佐官を庇い立てするという格好の証拠が映像に残されると同時に、現在の民主党政権の中枢部は彼がレプティリアンだと承知の上で重要な地位に任命していたという事実を自ら白状したも同然となっている。
「さて、目的の画が撮れたから撤収しましょうか」
「了解です」
カレンと2名の自衛官は聡映機材をさっさと仕舞って撤収に取り掛かる。そのまま何気なく外に出ようとすると、出入り口を固めている大勢のイベントスタッフが呼び止めてくる。
「申し訳ありませんが、本日こちらのイベントを記録した映像は消去をお願いします」
「あら、それはどのような意味でしょうか?」
「世の中に出回ると人々を不安に陥れてしまうので録画データは没収するようにホワイトハウスからの緊急の指示が出ました」
「まあ、そうなんですか。でもせっかく面白い場面が撮影できたので没収されるのはもったいない気がします。ですからこうしましょう。皆さん眠ってください!」
カレンがちょこっと女神の力を解き放つと、出入り口を固めているスタッフたちは崩れ落ちるように眠りこけ始める。その様子に満足そうに頷きながら、カレンと2名の自衛官は悠々とイベント会場を後にするのだった。
◇◇◇◇◇
ワゴン車に戻ったカレンたちはすぐに学院長を回収してからホテルに戻る。そのままビデオカメラのメモリーをスマホに繋ぐと、データを丸ごと量子コンピューターオペレーションルームに転送。これで今回カレンたちに課せられたミッションは終了となる。
「神崎大佐、カレン少尉、お疲れさまでした」
「まあ軽い仕事だったな」
「お母さんったら、もう少し謙虚な態度はできないんですか?」
「カレンは何を言っているんだ? 私の仕事は完璧だっただろう」
「まあ、それは認めますけど… それよりも聡史さんたちのほうがどうなっているのか気になります」
「まあ、そこまで心配せずとも大丈夫だろう。引率役もいるし」
「お母さん、聡史さんの話ではその引率役のおジイ様が一番心配ということでしたよ」
「え~と… まあ、何だ… 多分どうにかなるだろう」
学院長から帰ってきた応えは何とも頼りないモノ。つとソルトレークシティーの方角を見遣って胸騒ぎを覚えるカレンであった。
ついにレプティリアンの本拠地である地下都市に突入した聡史たちと、同じ頃にロサンゼルスで別件のミッションに従事するカレンと学院長の活躍ぶりでした。次回はカレンたちが撮影した画像がネット内に流出してその結果… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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