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350 7日間戦争

天の浮舟とは別の戦いが…

 4か国連合が日本に対して戦端を開いたこの日、結果として彼らの目論見は無残とか無様という言葉ではとても言い表せないレベルで打ち砕かれた。その被害規模はまさに国家がたった1日で転覆してもおかしくない文字通り悲惨な状況… いや大惨事といっても過言ではない。


 4か国連合の主な主な被害規模を列挙すると以下の通り。


〈中国〉出撃した黄海艦隊、東海艦隊、南海艦隊の全艦艇沈没。生存者の報告        なし。出撃した航空機全機行方不明。沿岸部の5カ所の陸上ミサイル基地全滅の被害。機能停止となった海軍基地及び軍港8カ所。沿岸部の空軍基地並びに飛行場は全壊で復旧のめどは立たず。新疆ウイグル自治区の戦略ミサイル基地全壊並びに周辺地域への大規模な放射能拡散の恐れ。同自治区内の陸軍基地並びに武装警察基地全壊。天津から北京郊外に至る陸軍基地全壊。軍関係及び民間の通信用サーバー大規模損壊で復旧のめどは立たず。


〈ロシア〉オホ-ツク艦隊並びに極東艦隊の艦艇全艦沈没。出撃した航空機全機行方不明。極東区域並びに沿海州のミサイル基地全滅。ウラジオストク並びにユジノサハリンスクの軍港機能停止。同地区の空軍基地並びに飛行場は全壊で復旧のめどは立たず。東シベリアの戦略ミサイル基地潰滅並びに周辺地域への大規模な放射能拡散の恐れ。千島列島及び樺太の全軍事基地潰滅。生存者はごく少数との報告あり。


〈韓国〉出撃した海軍艦艇全艦沈没。鎮海軍港に残ったわずかな小型艦艇は同港への天の浮舟の攻撃時に大破。出撃した全航空機行方不明。空軍基地にて待機していた戦闘機は同基地への天の浮舟による攻撃時に全損。ただし在韓米軍のみは無傷のままで健在。


〈北朝鮮〉出撃した小型艦艇全艦沈没。生存者の報告なし。戦略ミサイル基地並びに核兵器製造施設全壊。周辺区域に大規模な放射能拡散の恐れ。平壌周辺並びに38度線付近の陸軍基地全滅。


 以上が11月16日の正午から18時までの間に自衛隊上層部並びにダンジョン対策室にもたらされた報告をまとめたもの。ちなみに18時以降の攻撃は一時停止されており、現在天の浮舟のクルーは交代で休息をとりながら少人数で監視を続ける態勢となっている。


 このような形で日本に対して攻撃を仕掛けてきた4か国連合に甚大なる被害をもたらした天の浮舟ではあるが、実はこの超科学兵器でも手出しが出来ない場所がある。それは海の中。4か国連合は性能に差はあるがどの国も潜水艦を保有しており、韓国を除いた3か国が海中からSLBM(海中発射型弾道ミサイル)を運用できる能力がある。


 ということでこの厄介な敵潜水艦を片付けるために自衛隊の潜水艦隊はただいま全艦出撃中。その抜群の静粛性をもって秘かに各国の潜水艦が身をひそめる海域にて虎視眈々と索敵中もしくは攻撃命令を待っている状態。


 ちなみに自衛隊の最新式潜水艦は〔たいげい型〕と呼称されており、ひと世代前の〔そうりゅう型〕と併せて高性能なリチウムイオンバッテリーを搭載して長時間潜水しながらの外洋航海が可能。4か国連合のソナーシステムでは姿を捉えるのはまずをもって不可能で、合同演習時には米国空母打撃艦隊を相手にしても魚雷の必中距離まで接近しながら発見されなかったという逸話を残す世界最高水準の性能を誇っている。


 これだけでも相当なチート性能なのだが、実は海上自衛隊は銀河連邦におねだりしてとある超科学技術を手に入れている。それは水の抵抗を75パーセント軽減させるという摩訶不思議な塗料。潜水艦に限らず海上艦艇というのは速度を上げれば上げる程ほど海水の抵抗が大きくなっていく。ところがこの塗料を潜水艦の表面全体にコーティングするとあ~らビックリ! 実にスムーズに海中を航行できる。コーティングの前後で比較すると、以前は巡航速度が20ノット強であったものが、この塗料のおかげで同出力でも30ノットまで速度を引き上げることに成功するといった具合。銀河連邦の超技術バンザイといいたくなるレベルで艦の性能アップに貢献している。ちなみに30ノットというのは艦内で電池の残量を気にせず常に発電し続ける原子力潜水艦の速度に匹敵し、通常動力のディーゼル潜水艦としてはまさに破格。


 これだけでも潜水艦として相当にヤバい代物なのだが、搭載する12式魚雷もその塗料で表面コーティングしてしまったものだから、公称40ノット(実際には50ノット強)の最高速度が驚くことに80ノット(時速に換算すると約130km)まで上昇している。


 しかも銀河連邦の技術を流用してより進化させたセンサーとAI知能を搭載。おかげで敵の潜水艦本体と囮のデコイを正確に見分けることが可能。こんな怪物に狙われてしまったら敵潜水艦はひとたまりもない。自らの所在位置を突き止められた時点で80ノットの超高速度で破壊をもたらす地獄の使者が襲い掛かってくる。


 ということで現在そうりゅう型3番艦〔おうりゅう〕は南シナ海の海中で人民解放軍所属商級原子力潜水艦の位置を探知したところ。



「1時の方向距離200キロの位置に商級潜水艦を停止状態で捕捉」


「ソナー、でかしたぞ! 距離50まで接近してから雷撃を開始する」


「了解」


「敵潜水艦の音紋、魚雷に入力しました。停止しているのにこれだけ騒音を撒き散らしているならピンガーの必要はありません」


 ということで極力音を出さないように海流に乗って微速で敵潜に接近していくおうりゅう。



「距離50に到達しました」


「敵には気付かれていないな?」


「商級原子力潜水艦、動きはありません」


「それでは仕掛けるとするか。1番発射管魚雷装填」


 通常は2門同時発射が魚雷攻撃の際のセオリーだが、新型12式魚雷なら1発で間違いなく敵潜水艦を仕留められるはず。どうやら艦長は新型12式に万端の信頼を寄せているよう。



「魚雷発射管、注水完了」


「よし、魚雷発射。発射後にこの海域を離脱」


 前方から取り込んだ海水を内部で加速して最後尾から噴出させるポンプジェット方式で加速された12式魚雷は、あっという間に最高速度まで達して敵潜水艦に迫っていく。


 一方その頃、おうりゅうに捕捉された中国側の商級原子力潜水艦では…



「魚雷発射管への注水音を確認。敵潜の魚雷攻撃です。距離50」


「何だと! いつの間にそんな近距離まで接近を許していたのだ。こうしてはいられない。急速潜航、ダウントリム30」


 商級原子力潜水艦はバラストタンクに大量の海水を注入しながらより深い深度に潜航して何とか魚雷から逃れようと回避行動に出る。



「デコイ発射! 立て続けに4発バラ撒くんだ」


「了解しました。デコイ発射」


 囮役のデコイがおうりゅうが放った魚雷に向けて射出されたタイミングでソナー手から報告がもたらされる。



「敵魚雷急速接近中。距離40、速度… バ、バカな80ノットだと!」


「おい、デタラメを言うんじゃない。80ノットで航行できる魚雷などあるはずないだろう」


「ま、間違いありません。20分後には直撃します」


「ジグザグに航行しろ! なんとしてでも振り切るんだ!」


 商級原子力潜水艦は舵を操舵しながら左右に航路を変更して何とか魚雷の追尾を躱そうと必死。だが…



「ダメです。敵魚雷正確に追尾してきます」


「急速上昇! アップトリム30」


 一旦潜航すると見せかけて急激に深度を上げるのも魚雷から逃げ切る際のセオリーのひとつ。商級原子力潜水艦はセオリー通りに何とか追尾から逃れようとするが、銀河連邦の技術を流用した超科学の前には無駄な足掻きでしかない。



「敵魚雷迫ってきます。距離15」


「あとはデコイだけが頼みの綱だな。何とか囮に引っ掛かってくれ」


 祈るような気持ちでデコイに魚雷が食い付くのを待つが、おうりゅうが放った魚雷は潜水艦本体を目掛けて高速で突っ込んでくる。



「敵魚雷至近距離に接近。デコイすべて躱されました」


「総員何かに掴まれ! 衝撃に備えるんだ!」


 その3分後、船尾に12式魚雷が直撃する。猛烈な振動と共に館内には轟音が鳴り響き、さらに魚雷の爆発の衝撃で開いた船体後部の穴からは大量の海水が流入してくる。



「バラストタンクを空にしろ! 排水ポンプを作動して全速で上昇!」


「艦長、スクリューも舵も反応がありません」


「クソっ、これまでか…」


 船内に流れ込む海水の重量によって海中で微妙なバランを保っていた潜水艦の姿勢が崩れて船首を上にした直立状態に陥る。そのまま急速度で沈降を開始すると、やがて海水の圧力に鋼板の強度が耐え切れなくなって船体が押し潰される。


 その頃魚雷を発射後に悠々と戦闘海域を離脱したおうりゅうの船内では…



「艦長、魚雷の爆発音と直後に海中の深部で大きな圧搾音を感知しました」


「どうやら雷撃は成功したようだな。それにしても恐るべき性能だ。敵潜水艦が気の毒になってくる」


「さすがに80ノットで進む魚雷に追われたら覚悟を決めるしかないでしょうね」


「まあ、そういうことだ。おっと、忘れていた。全乗組員に告ぐ。敵潜水艦に哀悼の意を示して黙祷」


 こうして南シナ海での海中の戦闘が終わりを告げる。もちろんこの海域だけではなくて日本海や東シナ海、オホーツク海においても同様の海中での戦闘が発生し、4か国連合の潜水艦は次々に海底に沈んでいくのであった。







   ◇◇◇◇◇







 この日の19時に各放送局は通常の番組を変更して臨時ニュースを一斉に流し始める。



「この時間は番組内容を変更して緊急の防衛大臣の会見をお届けいたします」


 アナウンサーの言葉と共に画面が切り替わって首相官邸の会見室の映像が流れ、そこにはやや緊張の面持ちの防衛大臣の姿が映し出される。会見の椅子にすでに着席している防衛大臣は手持ちの資料に記載された文章を淡々と読み上げ始める。



「本日正午に、中国、ロシア、韓国、北朝鮮の4か国の艦隊及び陸上基地から複数の巡航ミサイル並びに弾道ミサイルが日本の国土を目掛けて発射されましたが、いずれも発射直後に我が国の自衛隊によって撃ち落とされまして国土に届いた飛翔体は1発もありませんでした。なおその後中国、ロシア、韓国から複数の軍用航空機が発進するのをレーダーが捉えましたが、いずれも日本の領空に侵入する前に姿を消しました。おそらく発進元の空港に引き返したものと思われます。なおミサイルを発射いたしました艦艇も同様に領海のはるか手前で引き返しており、こちらもそれぞれの海軍基地に戻ったものと考えております」


 ここで一旦言葉を区切った防衛大臣。あくまでもミサイルが発射されたこと以外の詳しい状況を掴めていないという態度で記者に向けて説明をしている。確かに「天の浮舟の能力をもちましてすべての敵の攻撃を未然に防いだうえに、艦隊と航空機はあっという間に全滅させました」などという本当の話はこの場では絶対に出来ないであろう。ましてや多数の敵基地まで壊滅に追い込んでいるなどという本来の状況は、様々な理由から現段階では国民に秘匿せねばならない。


 普通は戦果を誇張して発表するのが戦争を行っている国のごくごく普通の戦意高揚の手法なのだが、これが日本においては華々しい戦果を一切認めず沈黙に徹するというヘンテコな状況が出来上がっている。


 さらに防衛大臣は続きを読み上げる。



「此度の4か国の攻撃はごく小規模に終わりましたが、日本政府は引き続き国民の皆様の生命と財産を守るために全力を尽くします。なお何の前触れもなく日本に対して攻撃を仕掛けてきた4か国に対しては強く抗議するとともに東アジアの平和を脅かす行為は断じて許さないという強固な意志で政府の意見は一致しております。今後いかような攻撃があるにしても日本の平和を絶対に維持していく所存ですので、国民の皆様におきましては安心して日常の生活をお送りいただくようにお願い申し上げます」


 このような内容で防衛大臣による発表が終了する。この会見から受けるイメージは「ちょっとした小競り合いですから心配しなくて大丈夫です」という印象を与えるように配慮された形跡が窺える。


 続いては会見に詰めかけている記者たちからの質疑応答が始まる。



「××新聞の大木です。発射されたミサイルが本当に我が国を狙ったものであるという確証があったのでしょうか?」


「はい、ミサイルの軌道と航続距離を瞬時に計算したところ、間違いなく我が国の自衛隊基地や発電所などの重要施設を標的にしていると判明いたしました。よって国民の安全を守るために我が国としても非常に不本意ではありますが防衛出動を発動いたしました」


「具体的にどのような方法でミサイルを撃ち落としたのでしょうか?」


「それにつきましては今後の国土防衛に大きく関係してくる重要事項ですので、具体的な内容に関しましてはお伝え出来ません」


「今後も4か国ないしは他の国も含めて日本に対して攻撃を仕掛けてくる可能性はありますか?」


「可能性は存在すると考えております。ですが此度の攻撃が失敗に終わった点を鑑みれば、まともな国家であったら再度攻撃を仕掛けても無駄撃ちに終わると理解するのではないでしょうか」


 言外にチラリと「攻撃を仕掛けてもいいけど、また同じ目に遭わせるよ」というニュアンスを絶妙に混ぜ込む防衛大臣。確かにこれだけ木っ端みじんに叩きのめしておけば再度日本に手を出そうなどと考えるほうがおかしいであろう。というよりも4か国共に攻撃手段のほぼすべてを失っている状況なので、日本に第2波の攻撃を仕掛けようという余裕などどこにもないというのが本当のところ。


 その他にもいくつかの質問があったが、会見はおよそこのような内容で終了していくのであった。







   ◇◇◇◇◇







 この日の夜、北京の中南海にある共産党主席執務室には表情を引きつらせた李主席の姿がある。彼が向かい合っているモニターには、同様に顔をひきつらせたロシア大統領と真っ青な顔色で俯く韓国大統領、さらにはすでにどこかに雲隠れしてしまったのか行方がわからない北の3代目将軍様が座るはずの無人の椅子が映し出されている。


 一番先に口火を切ったのは李主席。



「非常に不味い事態になったぞ。何か打開策はあるか?」


「打開策だと! バカも休み休み言え! こっちはウクライナに投入していた戦力の大半を引き抜いて日本に差し向たんだ。それが相手に何もダメージを与えないうちに全滅なんて今でも信じられない。我々はもうお仕舞いだよ。あとはどこか適当な亡命先を探すか、大人しく断頭台に立つ覚悟を決めるしかない」


「そ、そんな… 我が国の国民がこの事態を知ったらとんでもない怒りを示して青瓦台に詰めかける。歴代の大統領のように逮捕されるのはゴメンだ」


「軍事基地がいくつも全滅しているんだぞ。いまさら国民にこのような事態を隠しおおせるはずがない。私は今すぐにでもモスクワを脱出して南米のベネズエラにでも亡命するよ。君たちも身の振り方を考えたほうがいいだろう。それでは元気でいてくれ」


 すでに悟りの境地まで達していたのか、ロシア大統領はさっさと退席する。ウクライナが泥沼の戦況に陥っているところにもってきて、今回の日本の反撃で受けたダメージは国家として修復可能な限界点を超えているのは誰の目にも明らか。この点でいえばこのロシア大統領は他の2名よりもまだ現実が見えているように映る。


 そんなロシア大統領の逃亡を目撃した李主席と韓国大統領はますます意気消沈といった様子。彼がいなくなった画面を見つめながら、残された二人の間に気マズい無言の時間が流れる。しばらくしてようやく口を開いたのは李主席。



「ともかく今回の日本攻撃を失敗だ。あとはこれ以上傷口を広げないように何とかするしかない。私は国家の統制に専念するから、君とはしばらくの間顔を合わせる時間はない」


「そ、そんな… どうか見捨てないでくだ…」


「うるさい! もうこれで話は終わりだ」


 画面の向こうで絶望的な表情をしている韓国大統領を置き去りにして無理やり会談を終わらせる李主席。本日の午前中までのあの意気揚々とした姿はどこにもない。こうして4か国連合は国家としての落日の第一歩を迎えるのであった。







   ◇◇◇◇◇







 明けて翌日、日が昇る時間帯から天の浮舟は行動を開始して各国の軍事基地に対する殲滅攻撃を再開。向こう百年間4か国が絶対に日本に逆らえないように今回は徹底的に空からの鉄槌を下すつもり。日本政府にしてはずいぶんと思い切った行動のように思われるが、実はこの作戦はルシファーさんからの指示で行われている。


 その肝心のルシファーさんだが、一体どのような目的で中国やロシアの軍事基地を虱潰しに全滅させるのか、その意図については何も語らずに不明なまま。おそらくは今後に予想されるレプティリアンとの最終決戦に備えたものだろうと想像できるが、それすらも実は定かではない。要するに神に等しい存在が考えることなど所詮人間ごときには理解しえないというある意味宗教的な命題に突き当たって、それ以降は常人では思考停止にならざるを得ない。


 さて天の浮舟の行動に話を戻すと、今回の攻撃対象は正確には軍事基地だけにとどまっていない。その対象になっているのは秘密警察や武装警察の拠点、航空機や兵器を製造する工場、造船所、細かいところでは漁船を含む船舶全般等々が含まれている。要は国民を不当に取り締まる権力機構を排除することと徹底的な武装解除が主たる目的で、漁船については中国や南北朝鮮の国民が日本へ不法侵入しようとする企てを根本から阻むといった理由となっている。


 現状は第2飛行隊の1番機が中国の沿岸部の掃討にあたり、2番機と3番機が内陸部の軍事拠点や兵器工場の破壊に従事している。朝鮮半島では4番機が韓国の船舶と残った軍事基地(在韓米軍を除く)を担当して、5番機が北朝鮮の掃討作戦を行う。


 実はこの日から韓国国内では日本に向けて出撃した韓国海軍と空軍が全滅したらしいとの情報がSNS上で飛び交っており、早くも人々の間に不穏な空気が流れ始めている。中には一部暴徒化した民衆が壊滅した陸軍基地に押し入ってまだ無事な武器庫から小銃やロケット砲を持ち出して暴徒化しているとの噂も流れている。


 同様に北朝鮮でも武器を手に取った民衆による体制打破の動きが開始されているようで、朝鮮半島は南北共に日を追うごとに徐々に混乱が広がっていく状況。いくら情報を隠しても、実際に目の前に焼け焦げた瓦礫になった陸軍基地があれば、いやがおうにも国民の目に触れてしまう。さらには例の黒電話の3代目将軍様が国外に逃げ出したという噂が流れると、一気に激しい暴動が広がって北朝鮮国内は手の付けようがない勢いで内戦状態に陥っていく。


 同様にロシアにおいても広大な国土に広がる無数の軍事基地が次々と天の浮舟の攻撃に晒されて廃墟と化していく。こちらでも同様に陸軍基地から銃を奪った民衆の蜂起が相次いで収拾がつかない状況が広がっているらしい。


 そして4か国に対する軍事拠点ならびに付随する施設の完全破壊という無慈悲な作戦はその後1週間にわたって繰り広げられる。短期間で終結したことで後世の人間はこの日本と4か国連合の戦いを「7日間戦争」と呼ぶことになるが、これはまだまだ先のお話。


 ともあれここまで徹底的に叩いておけば4か国が改めて軍備を整えようとしてもすべてが一からのやり直しとなって、陸海空の現状と同様の戦力を配備するまでには20~30年といった時間が必要となるだろう。仮に無理やり徴兵で人間を集めたとしても船や航空機どころか銃にも事欠く有様ではそれはもはや軍隊とは呼べない。さらに言えばみすみす未知の力で攻撃されるとわかっているのに徴兵に素直に応じる人間はいないであろう。ここまで考慮した上で、東アジアの最終的な平和を実現するために日本政府は敢えてルシファーさんの指示に従ったのかもしれない。








   ◇◇◇◇◇






 こちらは量子コンピューターオペレーションルーム。現在弥生はとあるミッションに取り組んでいる。とはいっても難易度はさほど高くはない。要は中国国内限定のSNSに潜り込んで此度の4か国連合の無残な敗戦と、破壊された陸軍基地から武器を奪って人民の蜂起を促す内容の短い文章の拡散というのが任務。


 弥生のモニターには中国語に翻訳された文章が映し出されている。



「ゴーストによる拡散開始」


 彼女の指がエンターキーを押すと、無数のゴーストが中国が誇るグレートファイアーウオールの内部に侵入して大々的に情報の拡散開始。いくら中国政府の監視網に引っ掛かって削除されても、ゴーストは繰り返し同様の文章をSNS上に大量にアップしていく。もちろんこの文章の発進元を調査したところで弥生まではどうあがいても辿り着けないというまさに反則のような魔法スキル。よくもまあこのような貴重な能力の持ち主が聡史や桜の親戚としてこの世に生を受けたものだ。そこにどのような神々の意図が隠されているのかは、現状では謎のまま。


 こうして何とか日本に対する絶望的な敗戦を覆い隠そうとしていた中国政府も、度重なる弥生のゴーストによる暴露文書のアップに削除の手が追い付かなくなってくる。そうこうするうちに現状の中国のヤバい状況が国民の間に爆発的に広がっていき、弥生の扇動によって武器を手に入れようと大勢の群衆が破壊された陸軍基地や武装警察の拠点に押し掛けて、早くも各地で警察当局との間に銃撃戦が開始されてという噂がネット内を駆け巡る状態。ここまでくれば現在の共産党政権の崩壊は秒読みだろう。







   ◇◇◇◇◇







 4か国連合が日本に攻撃を加えた時点から1週間が経過した魔法学院。この頃までには天の浮舟による4か国の軍事基地の掃討が完了している。同時にウクライナの戦争とシリア内戦が終結に向かっているとのニュースも流れてくる昨今。これはロシアによる軍事的な作戦継続能力が消失したという誰が考えても当たり前の理由で思わぬ停戦が実現している。


 まあ、それはともかくとして、学生食堂では何やら不満が溜まっている桜が聡史に向かって文句を並び立てているよう。



「お兄様、私が何もしないうちに各地で戦争が終わってしまったではないですか」


「おいおい、ウチのジイさんみたいなセリフを口にするんじゃない。それに俺に文句を言われても仕方がないだろう」


 いかにも脳筋にして戦闘狂の例のジジイの血を色濃く受け継いだ桜らしい発言だが、いくら妹に苦情を言われても聡史には何も出来るはずもない。


 だがここで美鈴が横から口を挟んでくる。



「あら、桜ちゃんったら、いつにもまして焦っているみたいね」


「美鈴さん、茶化さないでくださいませ。戦争が始まると聞いて今か今かと出動の命令を待っていたら、何もしないうちに戦争が終わってしまうなんて… 私の熱い魂が行き場のないやるせなさでどうにかなりそうですわ」


「桜ちゃんにしては珍しい長ゼリフね。でも安心していいわよ。まだラスボスが残っているじゃないの」


「ラスボスですか? それは一体何の話でしょう?」


「よく考えてね。今回の戦争の根本的な原因を作ったのは一体どこの国かしら?」


「むむ、妙に気になる言い回しですわね。はて、根本的な原因と問われれば、一体何でしたっけ?」


 さすがは桜、喉元過ぎれば熱さなどすっかり忘れている。これには横でこの遣り取りを眺めているカレンも呆れ顔。



「あれだけの大騒ぎになったのにもう忘れちゃったの? まあいかにも桜ちゃんらしいけど」


「美鈴さん、私はそんな以って回った言い方は性に合いませんの。単刀直入に仰ってくださいませ」


「本当に忘れているなんて、これはある意味桜ちゃんの才能かもしれないわね。しょうがないから教えてあげるわ。根本的な原因というか、今回の4か国連合との戦争の引き金を引いたのはアメリカの世界同時放送だったでしょう。つまり今回に限ればラスボスというのはアメリカね」


「ああ、そういえばそんな騒ぎもあったような遠い記憶がありますわ。ということは今度はアメリカを相手してに一戦交えるわけですの?」


「さすがに今回のような戦いとは違うと思うわ。おそらくは少人数でアメリカ国内に潜入してそこで派手に遣り合う形になるんじゃないかしら」


「まあ、それこそ私が求めている血沸き肉躍る戦いですの。早く実現してくれませんか? なんだったら美鈴ちゃんの力で政府を説き伏せてくださいませ」


「すでにルシファーから色々伝達済みだから、近いうちに出動があるはずよ」


「これは期待できそうですわ。明日香ちゃん、そんなところでノンビリ朝ご飯を食べている場合じゃありませんの。出動に備えて今日もみっちりダイエットに取り組みますわよ」


「えぇぇぇぇぇぇ! 桜ちゃん、急にどうしたんですかぁぁぁ! 私は今から豆大福を巡ってタマさんと一戦交えるんですから、そんな時間の余裕はありません!」


「ダイエット作戦よりもそちらの方がよりハードモードな気がしますわ」


「なんでもいいんです。私は豆大福のためなら命を懸けてもいいんですから」


「安っすい命ですわね~。それでは明日香ちゃんとタマは精々頑張ってくださいまし。私はクルトワさんと一緒に体を動かしますわ」


「えぇぇぇぇぇぇ! なんで私なんですかぁぁぁぁ!」


 まったく予想もしていなかったところに急に桜からダイエット作戦を振られて高速で首を左右にしてイヤイヤの意思表示をするクルトワであった。 

ウカウカと罠に乗って日本に攻撃を仕掛けた4か国連合はどこも大変な目に遭っているようです。政情が安定するまではしばらく時間がかかりそうですが、もうちょっとまともな国に生まれ変わってもらえたら日本としては助かるんですが… それよりも気になるのは美鈴の「アメリカがラスボス」という発言。確かに戦争の引き金を引いたのはアメリカというのは間違いないですが、本当に日米の戦争が開始されるのでしょうか? この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


最後に皆様にいつものお願いです。


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