349 日本の本気
今回も聡史たちは一切登場しません。
4か国連合による軍事演習は2日目を迎える。ちなみに一般的なケースでは複数の国が参加する合同軍事演習というのはあらかじめ定められた海域なり空域を設定した上でその範囲内に参加国が集まって訓練を実施するのが通常のやり方なのだが、今回はやや様相を異にしている。
というのは合同演習はあくまでも日本の目を欺くための偽装であって、本来の目的は実際に日本に対して攻撃を加えること。となると悠長に同じ場所に集まってせーので攻撃を仕掛けるのは甚だ効率が悪いし、一か所に集まっていると狙い撃ちの危険性が高まる。となるとあらかじめ割り当てられた作戦区域の近くで欺瞞演習を開始するのがベスト。
そこで4か国連合は合同演習と銘打ちながらも黄海の出口付近の済州島沖合で人民解放海軍の黄海艦隊と韓国海軍艦隊が合流してそのまま対馬海峡を目指して東へ進む航路をとり、ロシアのオホ-ツク艦隊はウラジオストク沖の日本海で北朝鮮の艦隊と呼ぶにはお粗末な旧式の小型戦闘艇と合流して日本海を南下するルートをとっている。さらに中国は福建省を本拠地とする東海艦隊と海南島を拠点とする南海艦隊まで同時に出撃させており、海軍戦力のすべてを同時に投入する構え。同様にロシアもユジノサハリンスクから極東艦隊を出撃させており、こちらも緒戦から日本に深刻なダメージを与えるべく表面上は全力出撃を敢行している。
4か国連合の合同参謀本部は、日本列島の西側においては黄海艦隊に後押しされた韓国海軍が近畿地方や中国地方の自衛隊拠点を目標にしてミサイル攻撃を実施している間に東海艦隊と南洋艦隊が合同で沖縄を中心とする先島諸島の自衛隊基地を殲滅しつつ、同時に九州にもミサイルの雨を降らそうという戦略を立てている。
同様に列島の東側においてはオホ-ツク艦隊と北朝鮮海軍が東北、関東、中部の自衛隊基地を攻撃しつつ、極東艦隊が北海道を攻めるという戦術的な区域割りを想定している。とはいえこのような分担となるとどう見積もってもロシアと北朝鮮の負担割合が大きすぎるように受け取れるし、現実にはその通りといえる。そもそもロシアは対ウクライナ戦争によって大量の弾薬、ミサイル、航空機、戦車や装甲車といった戦闘車両を消耗しており、北朝鮮を味方につけているといえども弾薬やミサイルが圧倒的に足りていない。今回の作戦に際してウクライナ戦域から大慌てで物資を搔き集めて極東に運んだとはいえ、それでも兵器の質と量において目を覆いたくなるような不足が生じている。ではなぜロシアが今回一見無謀とも思える二正面作戦に踏み切ったかといえば、それは日本国内にある富に目がくらんだという極々単純な理由に他ならない。ことに山本首相が公表した3000兆円に上る金や他の資源は、財政難にあえぐロシアとしては喉から手が出るほど欲しいであろう。ただし身もふたもない言い方をすると中国や韓国も現在経済的ににっちもさっちもいかない困難な状況に追い込まれているので、日本が近い将来に保有可能な地下資源は極上の美酒のごとく映っていることだろう。当然ながら長らく経済的な苦境で国民に満足な食糧を供給できない北朝鮮においては何も言わなくてもこの度の戦争に参加する目的は明らか。これが銀河連邦と日本政府の会談の折に岡山室長が呟いた「敵を引き付けるエサ」に相当する。おそらく室長は4か国がこのような動きを企てる未来を読み切っていたのだろうし、その上でより確実に日本に向けて侵攻を開始するようにわざわざ山本首相の会見の折に海洋に眠る地下資源の開発について言及するように進言していた。岡山室長からすれば「バカな4か国がまんまと食い付いてくれた」と手を叩いて喜びたくなる心境だろう。
話を4か国連合の大まかな戦略に戻そう。こうして日本列島の周辺海域に出撃した海上戦力に加えて、人民解放空軍や韓国空軍の航空機がいつでも発進可能な態勢で滑走路に並んでいる。ロシアもウクライナ戦争で生き残った虎の子の航空戦力を可能な限り極東に配備しているが、ほとんどの戦闘機や爆撃機は一世代前の型落ちの機種となっており、自衛隊が保有する航空機と比較すると戦力として有効かどうかという点においてははなはだ心許ない状況。ちなみに北朝鮮の航空戦力など完全に蚊帳の外に置かれている。
だがこんなポンコツな北朝鮮軍においても希望の光は存在する。それはかねてより無理を重ねて開発を推し進めてきた弾道ミサイル。ここ最近度々Jアラートで日本国内に警報が鳴り響くケースが発生しているが、これはほとんどが北朝鮮による弾道ミサイルと思しき飛翔体が日本列島の近海への着弾を警告するモノ。いまだ弾道ミサイルに搭載する核弾頭の開発に成功しているかどうかは定かではないが、仮に通常弾頭であったとしても日本にとっては十分脅威になるはず。
同様にロシアも地上発射型と潜水艦発射型の弾道ミサイルを多数保有しており、こちらはウクライナ戦争でほとんど消費されていない影響もあってロシアにとっては最後の頼みの綱となる戦力。
もちろん中国も弾道ミサイルを保有しているが、先日ルシファーさんの命令によって四川省の山岳地帯の地下に秘匿されていた戦略ミサイル基地が壊滅に追い込まれたのはかなりの痛手となっているかもしれない。とはいえ西方のウイグル自治区にあるミサイル基地には相当数の弾道ミサイルのストックが残されているので、こちらにも十分な注意を払う必要がある。ちなみに韓国は他国の協力を得てどうにかこうにかロケットを衛星軌道まで到達できるかどうかという段階。弾道ミサイルの保有など遠い夢物語という状況。とはいえ韓国地上軍に対してまったく無警戒という訳にもいかない。なぜなら西日本が十分射程に収まる巡航ミサイルを保有しているというのがその理由。
現在4か国連合の動きはこのような状況であるが、それでは迎え撃つ形の日本側の対応はどうなっているかというと、自衛隊は一部の地域を除いて通常の監視体制を一段階引き上げた程度。列島の上空に随時飛ばしているAWACS(早期警戒管制機)は通常2機体制のところを1機加えた体制で上空から監視の目を光らせている。同時に陸海空の自衛隊全駐屯地並びに飛行場や港湾については高度警戒態勢が敷かれており、隊員の休暇などは一時的に取り消しという状況。
そして先島諸島や九州北部、さらに日本海側の山陰地方や北陸、東北、北海道の沿岸部の駐屯地はもう一段高度な警戒態勢を維持している。これらの地域は海上からミサイルが飛んでくる可能性が高いので、このような予防措置は当然ながら必要になってくるのは言うまでもない。
こうして一応の警戒態勢は整えてはいるものの、数時間後には4か国連合の攻撃が開始されるという危険が迫っている割には意外に感じる程の落ち着いた様子。もしかして自衛隊や日本政府は4か国連合の動きをまったく掴んでいないのかといえば、もちろんそうではない。むしろ量子コンピューターオペレーションルームからもたらされる情報によって4か国の動きなど手に取るように解析しているし、どこからミサイルが発射されるかといった正確な予測もとうに完了している。
ではなぜ自衛隊の動きがさほど目立たないかというと、実はすでに4か国連合の攻撃を見越して日本列島の周辺空域に合計で16機の天の浮舟が展開しているというのがその理由となっている。この天の浮舟は大半が伊勢原で組み立てられた機体ではあるが、大元の製造技術は銀河連邦の標準仕様。つまり現状の地球上の兵器よりも数十万年~数百万年進んだ科学技術を元に設計及び製造されている代物。実際に小笠原沖の海域で巡航ミサイル迎撃訓練を実施した際、ミサイル搭載艦艇が一斉に発射した模擬弾20発を上空から破壊するのに要した時間は1.5秒。レーダーがミサイルの発射を感知して量子コンピューターが軌道及び着弾地点を解析、事前に用意されたプログラム通りに一機につき10門搭載されているレーザー砲が各2回ずつビームを照射しただけであっという間にミサイルはバラバラに破壊されて波しぶきをあげながら海上に墜落していくという文字通りの圧倒的な性能を披露してくれている。この破格の迎撃能力をもってすれば、4か国連合のミサイル攻撃に対して十分に対応が可能なはず。
さらにこの海上哨戒役の8機に加えて、高度4万メートルの上空にも同様に8機の天の浮舟が展開している。こちらは弾道ミサイルを撃ち落とすのが目的だが、その他にもまた別のミッションも与えられている。それは弾道ミサイル発射基地の殲滅という重要なミッション。自衛隊には敵地攻撃能力がないと油断している4か国連合を大いに慌てふためかせることになるであろうと思われる。
◇◇◇◇◇
こちらは2時間後に4か国連合のミサイル攻撃を控えた量子コンピューターオペレーションルーム。緊張した面持ちで端末の画面を見つめるオペレーターに混ざって弥生の姿がある。彼女は世界緊急放送の情報を入手して以来この方ずっとオペレーションルームに缶詰め状態で任務に就いている。そして他のオペレーターが気付くよりもいち早くオンライン上の異変を感知したよう。
「世界中のあらゆる方面から大量のサイバー攻撃を感知しました」
「了解、楢崎特士は適宜対処してくれ。他のオペレーターはしっかりフォローするんだぞ」
「「「「「「了解しました」」」」」」
ここ2週間に及ぶ間、弥生はサイバー空間に魔法スキルを用いて大量の彼女のゴーストをバラ撒いてきた。その数およそ5千にも達し、ネットワークの要所要所を網羅できるように配置を終えている。そのおかげで誰よりも早いタイミングで4か国連合のサイバー攻撃を感知したというわけ。
「敵のサイバー部隊は通信用サーバーや中継ポイント、発電所、鉄道や航空機の管制施設、道路信号管制網等に集中的に攻撃を仕掛けている模様」
「よし、アリの子一匹侵入できないように厳重な監視を頼んだぞ。それから楢崎特士、カウンター攻撃開始だ」
4か国連合のサイバー攻撃の様子をグラフィック化した端末を見つめるオペレーターが状況を報告すると、オペレーションルームの室長が反撃のゴーサインを出す。
「ゴースト反撃開始」
弥生の静かな声を端末に接続されたマイクが拾うと、たちどころにネットワーク上に配置されているゴーストが活動を始める。常に何千万通もの情報のやり取りが行われているネットワーク上から通常の通信に巧妙に偽装された不正侵入プログラムを割り出して一時的に日本国内へのアクセスを凍結。同時に不正侵入の大元を瞬時に辿ってサーバーに何千億桁もの無意味な数字の羅列を大量に送りつける。当然弥生のゴーストは量子コンピューターと直結しているので、このような手間のかかる作業を1秒間に兆の桁まで対応可能。4か国連合が日本のネットワークを攻撃するとその何万倍もの大量のごみデータが各国のサーバーに送り付けられて、その結果としてあっという間にサイバー攻撃を企てた側のサーバーがものの見事にダウンしていく。弥生が反撃を開始してから30分以内に中国人民解放軍、ロシアサイバー軍、韓国ネットワーク部隊、北朝鮮労働党電算軍のサーバーがすべて稼働停止の状況に陥る。
「敵の攻撃が終息しました」
「楢崎特士、ご苦労だった。だが敵も諦めが悪いはず。軍のサーバーがダウンしたとなったら民間サーバーを使用して攻撃を仕掛けてくるかもしれない。引き続き監視を頼む」
「了解しました」
自信に満ちた声で返答する弥生の顔は、ちょっと前までの内気な引き籠もりがちな少女の面影はいつの間にか払しょくされて、今はすっかり戦う人間の表情になっている。これほどまでに頼もしい姿を見せる弥生がいる限り、日本国内のネットワークの安全はまったく揺るぎ無いであろう。
その後室長の予想通りに民間のサーバーを経由してサイバー攻撃が実行されたものの、すべて弥生のゴーストによって阻止された挙句に次々とサーバーごと破壊されていく。おかげで政府による国民の監視網が一時的に崩壊するほか、一般庶民のほとんどが普段の買い物をスマホ決済に依存している中国では人々の生活に多大な影響が出る始末。
以降日本に向けたサイバー攻撃は断続的に繰り返されるものの、すべて弥生のゴーストに撥ね返されて逆に攻撃してきた中国や韓国側の被害を拡大させるだけであった。
◇◇◇◇◇
4か国連合のサイバー攻撃は空振りに終わったが、そうとも知らずに4か国連合の各艦隊はいよいよ日本に向けてミサイル発射のカウントダウンに入っている。合同参謀本部の当初の予定では初撃として各艦隊から200発ずつ、さらに中国の5カ所、ロシアの3カ所、韓国の2カ所、北朝鮮からは弾道ミサイルというラインナップで陸上ミサイル基地からも100~200発の巡航ミサイルが発射される手筈となっている。だが実はロシアは地上発射用のミサイルは定数を揃えることが出来ず仕舞いで、予定数の3分の1程度のミサイルしか発射準備がなされていない。しかも数少ないミサイルを温存して他国に先に手を出させようという姑息な考えをもって此度の戦闘に臨んでいるという有様。初手から足並みが乱れているというのは、いかにも寄せ集めの連合体という感が否めない。
そして各艦隊の背後にピッタリと影のように付き従うのは天の浮舟。本来は白銀に輝く機体ではあるが現在はそのステルス性能をフルに発揮しており、一切のレーダーにも映らないし、ましてや目視での確認など不可能。こんな超科学技術によって建造された飛翔体が気配を消したまま忍者のようにへばりついているとは知らずに、迎えた正午ちょうどに4か国連合の艦船は一斉にミサイルを発射。
この様子を中韓合同艦隊の背後から観測している天の浮舟1号機の船内では…
「中韓連合艦隊、ミサイルの発射を確認」
「着弾地点予測は?」
「岩国、舞鶴、米子など西日本の海上自衛隊基地及び航空自衛隊基地です」
「よし、撃ち落とすぞ。レーザー砲起動開始。戦術コンピュ-ターは適正な割り振りを計算して照準を合わせてくれ」
「了解しました」
機長の指示でレーザー砲の砲門が機体から飛び出して、仮に視認出来たら洋上に煌めく太陽の光に照らされてメタリックシルバーの美しい輝きを発しているかもしれない。
「敵ミサイル総数200、飛行軌道計算終了」
「よし、撃て」
機長の指令の元にオペレーターがタッチパネルに触れると、全10門の砲口から一瞬だけ赤い光が飛び出していく。それも一度だけではなくて立て続けに各砲門が20回のレーザー光を放っていく。そのレーザー光は天の浮舟号機の前方に展開する中韓連合艦隊の頭上を光速で飛び越えたかと思ったら正確無比な精度ですでに20キロ近く海上を飛び退るミサイル群に光の速度で迫る。そして着弾。岡山室長が断言したように光の速さは音の早さを撃ち漏らすようなことなどない。ものの見事に発射されたミサイル全弾が飛翔しながら爆発して破片を海上にバラ撒いている。
突然目の前で起きた不可解な事象に慌てたのは連合艦隊各艦のレーダー担当者。表情を引きつらせながら今起きた奇妙な現象を上官に報告する。
「レーダーから発射した全ミサイルが消失しました」
「レーダーの故障ということはないのか?」
「レーダー自体は正常に作動しております」
「では一体どんな原因があるというのだ? 一瞬で200発ものミサイルが突如消え失せるなどといった事態を上層部にどのように報告すればよいのだ」
人民解放海軍黄海艦隊旗艦空母遼寧に乗り込んでいる艦隊司令官は頭を抱えている。今回の第一次攻撃は何としても成功に終わらせなければならない。仮に失敗などしようものならば自らの命だけではなくて家族までもが粛清の対象になりかねない。ここで参謀を務める大佐の階級の男が発言。
「司令官、動揺している場合ではありません。陸上基地から発射されたミサイルの進路を確認するべきです」
「おお、そうであった。通信士、陸上基地の状況はどうなっている?」
司令官が投げかけた言葉に明らかな狼狽を見せつつ、真っ青な表情の通信士官が返答を寄越す。
「司令官、陸上基地でもキツネに摘ままれたような訳の分からない通信が飛び交っております。どうやら基地から発射されたミサイルは20キロも飛ばないうちに全弾爆発して消え去ったようです」
このあり得ない報告を耳にした司令官は大混乱に陥っている。元々大した実績や経験などなく上官へのゴマすりや賄賂でここまで出世してきた人物だけに、このような予想外の危機に瀕した際にまともな対応など望むべくもない。一時的に機能停止した司令官に代わって参謀が命令を下す。
「艦長、遼寧から爆装した航空機を発進させましょう。それから通信士、強襲揚陸艦遠州に通達。攻撃ドローンを自衛隊基地に向けて全機発進させよ」
「了解しました」
こうして空母遼寧の甲板上では攻撃機を発進させようと隊員たちが一斉に作業に取り掛かる。同様に命令が下った強襲揚陸艦の甲板でも大量の攻撃型ドローンが並べられており、発進の合図を待っている。その間にミサイルを撃ち出し終えた各艦は発射ポッドに次のミサイルを装填する作業に追われていく。こうして慌ただしく動きを開始する中韓連合艦隊だが、その様子を黙って見過ごすほど昨今の自衛隊は甘くはない。
「敵艦隊、航空機の発進並びにドローンによる攻撃準備に取り掛かりました」
「そうか、初撃で諦めてくれたら見逃してやるつもりだったが、さらに攻撃を企てるのであれば容赦する必要もないな。艦隊に向けて攻撃開始。敵の全艦を海の藻屑にしてやれ。2号機との協調攻撃で速やかに殲滅する」
自衛隊航空宇宙艦隊所属第一飛行団1号機三笠艦長の命令で中韓艦隊に対する殲滅戦が敢行される。1号機の援護役で後方に控えていた2号機が中韓連合艦隊の左舷方向に音も姿もないままに接近して、同様に1号機は右舷方向に陣取る。
「レーザー砲斉射」
極限まで収束された赤い光が砲口から飛び出していく。先程ミサイルを撃ち落とした際は0.1秒にも満たない照射時間だったが、今回は大型艦船が相手なのでたっぷり5秒間照射していく。1万度にも及ぶ高熱を発する光が甲板に届いた瞬間、甲板の耐熱性などまったく度外視する勢いで金属が融解していく。それだけではなくて高熱に晒された甲板上の構造物は瞬時に誘爆して巨大な火柱を挙げる阿鼻叫喚の地獄絵図。
こうして中韓連合艦隊は抵抗らしい抵抗もないままに次々と巨大な火柱を挙げながら大型船はその船体を中央から二つ折りにして、中小型船は断末魔ともいうべき地獄の炎を噴き上げつつ一艘、また一艘と海中に姿を消していく。
すべての艦が海上から姿を消した様子を確認した三笠艦長は…
「すまないな。こちらも国を守らないといけないからな。一同、敵艦隊に向かって黙禱」
操縦オペレーション室の全クルーが敵兵の冥福を祈って祈りを捧げる。
「黙祷ヤメ。我々は当初の予定通り転身して済州島の沖合80キロの地点で中国軍の航空機を迎え撃つぞ」
「了解」
こうして天の浮舟1号機は黄海上空へ、同2号機は韓国空軍の来襲に備えて対馬と五島列島の中間地点に向かって機体を移動していくのであった。
◇◇◇◇◇
こちらは高度4万メートルに待機している自衛隊航空宇宙艦隊所属第二飛行隊天の浮舟9号機。海上に展開する第1飛行隊とは違ってこちらは成層圏ギリギリの高高度から弾道ミサイルに対する警戒にあたっている。
この9号機が監視しているのはロシアの極東地区にあたるハバロフスクから北西に300キロ、シベリアの原生林に囲まれた地図に載っていない街。一体この街が何かというと、軍事機密という分厚いベールに隠されたロシアの弾道ミサイル発射基地のひとつ。ちなみにロシアには同様の地図に記載されていない街が10カ所程度存在すると言われており、そのうちの4カ所が弾道ミサイル発射基地となっている。
「どうやら地下施設から大型車両が引き出されてきたようです」
モニターを見つめるのはレーダー技師の川内兵曹。ちなみに天の浮舟は地上に向かって微弱な電波と磁波を放射してその反射を観測した結果を量子コンピューターが細密なグラフィックでモニターに再現している。したがってどれだけ地上付近に雲が垂れこめていようとも、山岳地帯に地下施設を造って隠蔽しようとも、電波や磁波が届きさえすれば地上や地中の様子が手に取るように判明するという超技術の賜物。こんな怪物に高高度から監視されているとも知らずに、モニターの中では作業にあたるロシア軍の隊員が弾道ミサイルを搭載した大型車両を地面に固定している。
固定作業が完了すると、徐々にミサイルを載せた発射台が角度を上げていき直立させたのちに燃料の供給やセンサー類の点検を開始。同様にやや距離を置いた地点に合計3台のミサイル搭載車両が置かれており、こちらも発射準備に追われる様子が映し出される。
「発射弾数が少ないな。ひょっとすると核弾頭搭載型か?」
「その可能性は十分あります。仮に人家がまばらな山間部を狙ったとしても、実際に核兵器が撃ち込まれたとなると国民に与える心理的な影響は大きいと思われます」
川内兵曹の報告を受けて艦長の山井少佐と副艦長の三輪大尉が額を寄せ合って話し合い。その結果はすぐに艦橋全体に伝達される。
「ロシア軍ミサイルの発射が確認されたら上昇の初期段階で撃ち落とすぞ。然る後に秘密基地ごと消し去る」
「了解しました」
艦長の非情ともとれる命令… 基地をまるごと消し去るということは、その場にいるロシア兵が取りも直さず全滅するということ。クルーは神妙な面持ちで拝命する。
そして12時ちょうどに発射台に立てかけられた弾道ミサイルが点火。中型ロケットに匹敵する機体が徐々に地面から浮き上がって光の帯を後方にたなびかせながら上昇を開始。
だがそこに突如上空から謎の赤い光が襲い掛かり、上昇中のミサイルに1ミリの狂いもなく着弾。弾道ミサイルは1万度の熱光線をその胴体にまともに受けて巨大な閃光と轟音と共に空中でバラバラになって周辺に飛び散っていく。おそらくかなりの広範囲にわたってプルトニウムの汚染が拡散したと思われるが、それはロシアが責任もって処理すべき事態。もちろん要請があれば銀河連邦の技術で放射能除去に協力も吝かではないが、現状の日ロの国同士の関係を鑑みると簡単に協力を乞える状況にはないであろう。
モニターに映し出される地上の様子は、突然爆発した弾道ミサイルに慌てふためいているよう。だが現場で作業する兵士たちの狼狽はそうそう長くは続かない。今度は地上施設に向かってシャワーのように赤い光が舞い降りてくる。一筋の光が構造物に着弾するたびに引き起こされる大爆発と熱風に煽られて木の葉のように舞い飛ぶ人影。
地上にある構造物があらかた姿を消すと、今度は地下施設に向けてレーザー光がたっぷり1分間照射されていく。地面に照射された瞬間から土壌やアスファルトが融解して溶岩状となっていく。仮に地下施設が分厚いコンクリートと鉛によって覆われているとしても、そのコンクリートと鉛自体が溶解して溶岩状になって施設の内部に流れ込んでくるため、もうどうにも手の施しようがない状態。それどころか熱せられた水分があちこちで水蒸気爆発を引き起こしてこちらでも地獄の様相が展開されている。
最後には地下施設のミサイル燃料タンクに灼熱の溶岩が到達して、街全体を完全に吹き飛ばす規模の大爆発が発生する。その結果としてこの地図に記載されていない街は文字通り地図上から消え去っていくのであった。
◇◇◇◇◇
結局この日の天の浮舟の戦果は当初の予想以上に華々しいものとなる。海上に配備された第1飛行隊の8機のうち1号機の活躍をすでに述べたが、その後も黄海上空で飛来した人民解放空軍の戦闘機や爆撃機をすべて撃ち落としてからそのまま黄海の奥深くまで突撃を敢行して、沿岸部にある軍港と航空基地を破壊。さらに付近の陸軍基地を蹂躙して北京付近までその攻撃を手を伸ばして、中国共産党指導部の肝を寒からしめることに成功する。
同様に2号機は飛来した韓国空軍機を全機撃墜した後にプサンに向かって進軍。1号機と同様に鎮海軍港と郊外の空軍基地を全滅させている。
人民解放軍東海艦隊を監視していた3号機は、こちらも九州各地に向けて発射されたミサイルを確認後に全弾撃ち落としてから東海艦隊を全滅させて、その余勢をかって福建省の陸上ミサイル基地に襲い掛かってこちも更地にする勢いで基地自体を跡形もなく消し去る。
さらに南海艦隊をマークしていた4号機は沖縄や先島諸島に向けられたミサイルを撃破した後に南進して海南島にある人民解放海軍の大規模軍港を爆撃。潜水艦隊基地を含むこれらを完膚なきまでに破壊している。
この攻撃をもって中国並びに韓国の海上戦力と航空戦力は半日で壊滅という4か国連合からすると絶望的な結果となる。
さらに東日本及び北海道方面でも同様に天の浮舟による殲滅攻撃が実行された結果、北朝鮮軍のすべての基地は潰滅。原子力関連も地下に隠匿した重要施設を含めて灰燼に帰す結果となる。
同様にロシア軍も回復不能なまでに叩き伏せられており、オホ-ツク艦隊と極東艦隊は全艦海上から消え去り、同様に樺太や沿海州にあった基地は陸海空を問わずすべて天の浮舟による強襲を受けて全滅という状況。
対して自衛隊の被害はというとまったくナシ。精々休暇を取り消された独身隊員の一部が、デートの約束を反故にされて交際している女性から苦情を言われる程度にとどまっている。
こうして当初は圧倒的優位に日本へ攻撃を仕掛けられると楽観的な空気に包まれていた4か国連合は、手痛いという言葉では足りない未曽有の大被害を被るのであった。
やはり地球の技術は銀河連邦の足元にも及ばないようです。緒戦を圧倒的勝利で終えた日本政府は果たして次ぐにどのような手に出るのか。そして窮地に追い込まれた4か国連合の出方は? 何よりも気になるのは日本に正面切って敵対の意思を最初に見せたアメリカの反応ですが、この先一体どうなることやら…
この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
そういえばこのところ急激に閲覧数が伸びていると思ったら、ランキングを見てビックリしました。なんとこの小説がランキングのかなり上位に掲載されております。過去に何度かローファンタジーランキングのベストテンに入ったことはありますが、作者としては「今さらなんで?」というビックリ感のほうが大きいです。とはいえとっても嬉しい出来事に変わりはありません。これも読書の皆様の応援のおかげと深く感謝いたします。
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