348 対日4か国連合
世界緊急放送後の各地では…
世界緊急放送で拡散されたアメリカ政府の声明に対する日本政府の公式見解が公表された翌日、お茶の間に流れるテレビの画面では通常の予定をすべてすっ飛ばして朝の情報番組の時間枠の大半をこの話題が占めている。
司会者が深刻な表情で日本の危機に対する大まかな説明を伝えると、スタジオに呼ばれているコメンテーター… 国際政治や原子物理学の専門家、海洋地質学の権威、農業大学の教授といった面々が自らの専門分野について順番に意見を述べ始める。
「山本総理はアメリカが日本に対する要求を撤回しない限りサンフランシスコ講和条約の破棄を宣言しましたが、この行動が日本を取り巻く国際社会に与える影響はどのようになると予想されるでしょうか?」
「はい、仮に講和条約の破棄となると、国際社会におきましては大変な問題となります。ポツダム宣言受諾の破棄と合わせますと、これは日本という国家が第二次世界大戦を継続している状況となりますので、世界中の国々からするとこれは由々しき事態となります。ひと口に言ってみればその場合の日本は、いつ何時諸外国から攻撃されても文句は言えない極めて危険な状況に置かれます」
「仮にその場合、本当に世界各国が日本に対して攻撃を加えてくる可能性はあるのでしょうか?」
「はい、十分に考えられます。というよりも下手をすると日本一国が世界中を敵に回すという想像したくない未来が現実となる可能性すらあります」
「そのような危険な状況に陥ることがわかっていながら、なぜ日本政府はこのような決断を下したのでしょうか?」
「私には理解できません。国民生活の安全を考えた時にこのような野心的な冒険に打って出るのはあまりにも無謀な行為だと言わざるを得ません」
一見公平な討論を装って入るが、番組は大まかな台本に沿って進められている。つまりこの場に出演しているコメンテーターは全員がテレビ局の意向に忖度した発言をしている。ではなぜテレビ局がこのようなワザと視聴者の不安を煽るような発言を是としているかというと、一口にいえば不安を煽れば煽る程視聴率を稼げるためといっても差し支えない。その他にもテレビ局の内部に中国や韓国、北朝鮮のスパイやシンパが平然と潜り込んでいるという状況も、このような番組制作に大きな影響をもたらしていることだろう。
最初のコメンテーターの発言が終わると、司会者は満足げな表情で次に出演者に話を振る。
「ありがとうございます。続いては安田先生。総理からは『国内の原子力発電所はすべて新開発の核融合炉に置き換えて、すでに試験稼働を開始している』という発言がありましたが、この核融合炉というものについて具体的にご説明いただけますか」
「はい、核融合炉というのは仕組みとしては太陽が輝いて光や熱、電磁波を発生させる現象と同じです。具体的には三重水素を…」
「ご説明ありがとうございます。それで現段階での研究で核融合炉が実用化される目途は立っているのでしょうか?」
「世界各国が小型の実験炉で核融合反応によってエネルギーを取り出そうと取り組んでおりますが、現状を有体に申し上げれば実用化には程遠いという状況です」
「では昨日の山本総理の発言を我々国民としてはどのように捉えればいいでしょうか?」
いかにも国民を代表して質問をしているような顔の司会者。だがここにもマスコミの巧妙な心理操作が働いている。彼は単なるこの番組の司会を務める人間であって、国民の意見を代表する存在ではない。それをあたかも人々の声を代表してこの場にいるというような表情や態度を見せつけることによって、視聴者にとっては〔司会者の声=国民の声〕と錯覚させるような演出をカメラの前で繰り広げている。
「日本政府にとってきわめて都合のいい希望的観測ではないでしょうか。理論的には可能と言えども、原子物理学の最先端の技術を用いてもいまだ実用的な発電に用いられるレベルではないと考えております」
物理学者の意見はかなり否定的な模様。この意見を聞いて司会者はしきりに頷いているが、それは物理学者の意見がテレビ局の思惑に対して好ましいモノであるため。もちろんこの学者はウソを述べているわけではないが、あくまでも地球の科学並びに技術レベルでモノを申している。まさか銀河連邦という進んだ科学技術を誇る銀河全体を統括する超組織が日本に全面協力しているなどとは思いもよらないだろう。そしていつの日にか銀河連邦の実態が公表された際には、おそらくこの学者は腰を抜かして言葉を失うに違いない。
さらに司会者は海洋地質学や農業の専門家に意見を求めるが、彼らはやはり否定的な見解を並び立てていく。
このようにして一旦は首相の会見で平穏を取り戻した国民の間に余計な不安のタネを撒き散らすマスコミの弊害が如実に表れた状況が日本国内に広がっていくのであった。
◇◇◇◇◇
同日の朝食時、こちら魔法学院でも生徒の間で交わされる話題はもっぱら世界緊急放送と日本政府の見解についての内容でその大半が占められている。
「おい、昨日のテレビの話って本当なのか?」
「なんだかヤバいことになってきたよな。本当に日本とアメリカが対立するのかよ」
「ひょっとして日本が戦争に巻き込まれるのか?」
「その可能性がありそうな話をテレビでやっていたけど、あまりにも突然すぎてどうしたらいいかまったく思いつかないな」
「仮に戦争になったら俺たちも兵隊として戦うのか?」
「それはさすがにイヤだな。戦車とかミサイル相手なんて、ダンジョンで戦うのとは勝手が違いすぎるだろう」
「平和に話が収まってくれるといいんだけど」
どうやら魔法学院の生徒と言えども不安は隠せないよう。というよりも実際に戦争が開始されたら自分たちは真っ先に徴兵されてしまうのではないかという心配を口にする生徒が結構な数に上っている。
こんな普段に比べて重苦しい空気に包まれている学生食堂において、ここだけは平常運転の感がある。言うまでもないが、それはデビル&エンジェルのメンバーと彼らを取り巻くEクラスの生徒が座っている周辺。
「タマさん、その美味しそうな豆大福を一個くださいよ~」
「明日香よ、それはならぬのじゃ! 妾の楽しみを奪いたくば力尽くで成し遂げてみるのじゃ」
あれだけマスコミが大騒ぎをしているというのに、デザート友の会の間ではひとつの豆大福を巡ってほのぼのとした日常の遣り取りが行われている。そもそも明日香ちゃんはニュースになど一片の興味もないから、これだけ世の中が引っ繰り返るくらいの騒ぎになっていることすら知らない。どこまでもマイペースを貫くとってもスゴイ人と言えよう。人間の枠を飛び越えた非常識な存在の集まりであるデビル&エンジェルにおいて、人の身でありながら一番ぶっ飛んでいるのは実は明日香ちゃんかもしれない。
ちなみに玉藻の前と明日香ちゃんが争っている横では、天狐が美味しそうにキツネうどんを食して幸せに満ち足りた表情を浮かべているし… 相変わらずカオスな状況でスタートするこの日の朝を迎えている。
さらにその右隣では、ペロリと3人前の食事を食べ終わった桜が聡史に向かって何か喋っている。
「お兄様、いよいよ私が愛してやまない疾風怒濤の時代がやってくる予感ですわ」
「桜、お前の個人的な趣味をどうこう言うつもりはないが、下手をすると本格的な戦争になるかもしれないんだから少しは自重しろよ」
「そんな甘ったるいセリフを言われましても返事に困りますわ。私には確とした自信がございますの。きっと大掛かりな出動命令がありますわ。今から腕が鳴って仕方がありませんの。もちろん今回ばかりはリミッター解除の大暴れをいたします所存ですわ」
「いや、お前がリミッターを外したら大都市がひとつ潰滅する可能性があるんだから絶対に自重するんだ」
苦り切った表情で返事をする聡史だが、妹の席とは反対側から彼の意見を真っ向から否定する言葉が飛び込んでくる。
「あら、聡史君はずいぶん消極的なのね。私たちは命令があればいつでも出動できるように準備をしておくべきじゃないかしら」
「美鈴まで桜のイタイ症状が感染したのか?」
「桜ちゃんを病原菌みたいに言わないであげて」
冷静に分析すると、美鈴のセリフは桜を思いっきりディスっているような気がしなくもない。だが桜はまったく気にした様子もなく、その瞳をキラキラさせながら大暴れする未来に想いを馳せているよう。
美鈴はそんな桜にチラリと目をやってから言葉を続ける。
「冷静に情勢を分析すれば日本の周辺国が千載一遇のチャンスとばかりに牙を剥くのは確実でしょう。それだけではないわ。在日米軍がどう動くかも現段階では不確定なんだから」
「まあ、それはそうかもしれないが…」
美鈴の指摘は聡史にとってはすでに何度も頭の中でシミレートしてきた最優先事項。だが果たして自分たちが今回の局面でどのようなタイミングで戦場に投入されるかという予測に関しては、あまりにも変数が多いため聡史自身考えを保留にしている。ぶちゃけひと言でいえば、まったく予想がつかない状態。
そんなところに聡史兄妹の背後にバカでかい影とガニ股の影が…
「ボス、ひょっとして今回俺たちにもお呼びがかかりますか? パワードスーツの訓練は順調でいつでも出撃可能ですぜ」
「師匠、ニュースを聞いただけでなんだか体中に血が湧き上がっているんだ。早く私たちにも出動命令が出ないかな~」
登場したのは頼朝と美晴。Eクラスを代表する脳筋2名は早くも気持ちが戦場に向いているよう。確かに頼朝たちとブルーホライズンは伊勢原駐屯地でパワードスーツの訓練を週に一度実施してきたので、地上戦では大きな戦力となるのは間違いなさそう。だからといって「戦争が待ち切れない」といわんばかりのこの態度は少々困りもの。
「信長、少しは落ち着いたらどうですの。戦いは正確に機を見極めないといけませんわ。今からそんな具合に肩に力が入っていると肝心な時にヘバッてしまいます」
「ボス、失礼したしました。今は自重いたします」
桜に指摘されて頼朝は大きな体を縮こませている。ボスの言葉は絶対という教えを骨の髄まで叩き込まれた結果がコレ。同様に美晴も聡史から軽い説教を食らって少々ヘコんだ表情。
そんな脳筋たちが醸し出す雰囲気をもろともせずに、もうひとつ人影が聡史の元に。左手を大袈裟に横に広げて右手はやや俯き気味の顔を覆うようにあてる香ばしいポーズを決めている。もちろん両手には漆黒の指抜きグローブ。(五芒星の刺繍入り)
「クックック、どうやら世界中にちりばめられた七色の龍の封印が次々に解かれているようだな。ついに世界の滅びの時を迎えるにあたって、我もこの身に眠る暗黒龍の封印をいよいよ解き放つ準備をせねばならぬようだ」
「朝からそういうのいいから!」
ペシッ
「痛いってば!」
美咲が毎朝のお約束で涙目に。そう、確かに涙目になっているのだが、聡史にこうして構ってもらって彼女の表情は何とも言えないくらいに嬉しそう。これだから厨2病はほとほと面倒くさい。
とまあこんな感じで不安に包まれながらも、魔法学院は差して変わらぬ日常を送るのであった。
◇◇◇◇◇
この日から在日米軍の動きが活発となる。それは何も日本を攻撃しようという意図ではなくて、急遽撤収を開始するというやや予想外の動き。
実はこの在日米軍の撤退の裏にはアメリカ国内の二つの勢力の利害の一致が隠されている。
DS側は米軍が日本から撤退することによって防衛網の空白を敢えて創り出して、その間隙を中国やロシアが突いて日本に攻め込みやすくしたいという考えがある。さらには無傷で在日米軍の撤退を完了して戦力を温存した上で、来るべき日本の再占領に備えたいというクソ性格の悪い思惑がある。
対してペンタゴンを掌握するQの勢力としては、ここで日本と直接戦火を交えるのは愚の骨頂という意見が大勢を占めており、この場は一旦日本から引いておくべきという考え。平和裏に撤退しておけば日本と再び友好関係を築くにあたってそれはそれで有利に働く。
このように両者の思惑が期せずして一致していることもあって、実は在日米軍は3か月前から本格的な撤収準備に入っている。ミサイルや弾薬などはすでに梱包を終えており、次々に輸送機で運び去られていく。内勤の隊員はパソコンを段ボールに詰めてしてトラックに積んだり、サーバールームの機材の一切合切を持ち運ぼうと作業員に色々と指示を出している。装甲車やミサイル搭載車両は明け方の時間帯から基地を出発して横須賀や佐世保に向かい、停泊している輸送船や空荷の強襲揚陸艦に収容されていく。
基地の要員に関しても、まずは隊員の家族と後方支援部隊から撤収が開始されており、日本政府が求める前に早々と全面撤退が完了しそうな勢い。
この行動は取りも直さずアメリカ政府は世界緊急放送で公表された声明を撤回する意思はないという意味に他ならない。すなわち日本の要求に応じることはなく、このまま全面的な対立に雪崩れ込もうという意思の表れとして受け取られても当然といえるような行動に出ている。
そしてこの日の正午にはアメリカ国防省から正式に在日米軍の全面撤退が公表されるに至り、世界中の目は日米の本格的な対立の行方に釘付けとなるのだった。
◇◇◇◇◇
緊張が続く日本とアメリカの関係ではあるが、11月5日に予定通り合衆国大統領選挙が実施されると、事前の大方の予想通りに共和党候補のジョーカー前大統領が政権の座に返り咲く。民主党側は不正な票のとりまとめや開票時の票の水増し、改竄といったあの手この手を用いたものの、あまりにも大差が付きすぎてなす術なしといった様相。現大統領は一期4年間大統領の職を務めたのみで政治の表舞台から去ることが決定する。
そして見事に第58代大統領に返り咲いたジョーカー氏の個人的なスマホに日本の総理官邸から電話が繋がる。
「ジョーカー大統領、当然おめでとうございます」
「プライムミニスター山本、こうして直接祝辞を寄越してくれるとは、私にとって大きなサプライズだよ」
日本の山本首相はジョーカー氏が以前大統領の座に就任していた当時も日本の首相を務めており、度々首脳会談やサミットなどで顔を合わせた間柄。それだけではなくて大統領の別荘に招かれたり、二人でゴルフを楽しんだりと個人的に深い信頼関係を築いている。
「ところでジョーカー大統領、現在我が国とアメリカの間では深刻な対立が横たわっております」
「もちろん私も理解しているよ。もしよかったら大統領選挙の勝利宣言の折にでも『世界緊急放送は民主党の陰謀だ』と明かして、私が大統領に正式に就任したら直ちに撤回する旨の声明を出しても構わないが、君の意向はどうなんだい?」
「その件ですが、しばらくは放置していただけますか。こちらも色々と準備しておりますので、せっかくの愉快な台本をムダにしたくありませんから」
「オーケー、君がそう言うならこの件には敢えて触れないでおこう。就任式典のスピーチで関係修復という手筈でいいのかな?」
「こちらの立場をご理解いただいて感謝いたします。可能でしたら就任式典に出席したいと考えております」
「いいだろう。とっておきのサプライズゲストとして君を招待するよ。会える日を楽しみにしている」
「こちらこそ楽しみです。それでは失礼いたします」
「日本のグッドラックを祈るよ」
こうしてわずか10分程度の電話での会談が終わる。どうやら新たに大統領に就任するジョーカー氏は先日の世界緊急放送は民主党の陰謀だと看破しているらしい。アメリカの二大政党の一角である共和党から選出されたジョーカー氏は常々Qに共感する言動が多く、当然ながら彼の前政権時には「アメリカファースト」と呼ばれる米国民の雇用の増大や日常生活の質の向上に直結する政策が次々に打ち出していた。それが現在の民主党政権の下で次々に反故にされており、その最後のトドメで日本との同盟関係を斬り捨てて国際社会におけるスケープゴートに仕立てるという卑劣な陰謀まで企てる始末。
このような様々な面で破綻しかけているいっても過言ではないアメリカ国内を立て直すために、高齢をおしてこの度の大統領選に出馬したジョーカー氏。彼が新たな大統領に就任した暁には、たちどころに日米は信頼回復の道筋を歩んでいくことだろう。
だがまだ油断はできない。大統領の就任式は年明けの1月6日。それまではレームダックとなり果てながらも現在のDSの操り人形である現職大統領が引き続き執務を行うだけに、どんな汚い手段に出てくるかわかったものではない。
その後も何度か山本総理とジョーカー氏は個人的な連絡を取り合って了解事項を確認しながら1月の大統領就任式を待つのであった。
◇◇◇◇◇
やや日付が遡って11月4日、アメリカ政府から何の応えもないと判断した日本政府は宣言通りにポツダム宣言の受諾並びにサンフランシスコ講和条約の破棄を公式に宣言する。同時に日米両国は互いの大使館を撤収するに及んで事実上の断交状態に陥る。この動向は世界中から見るともはや両国の関係は修復不能に映るのは当然。
その間に日本政府の呼び掛けによって海外に観光や留学、ビジネスなどで滞留していた邦人が続々と日本に戻ってくる光景が成田空港の映像としてテレビ画面に映し出される。実は急遽帰国した彼らは大半がアメリカ、中国、韓国から戻ってきた人々であって、欧州や東南アジアからの帰国者は事前の予想ほど多くはない。この状況が何を指し示しているかというと、上記の3か国に滞在する日本人は現実的に身辺の危険を感じたり、具体的に何らかの嫌がらせなり脅迫を受けていたことを意味する。要するに生命に危険が及びかねない切羽詰まった事情から大挙して人々が避難しに急遽帰国してきたといえよう。
反対に日本国内にいる外国人の動向はどうかというと、それはもうクモの子を散らすようにして我先に日本からの脱出を開始している。こちらは国籍は問わずという状態で、日本である程度の生活基盤を持っている在留外国人でもそのほぼすべてが帰国しようと必死になっている状況。
当然ながら日本政府は彼ら外国籍の人間がどこに行こうが一向に我関せずといった態度。ちなみにこの危機に恐れをなして出国していった外国籍の人間に関しては、今後の再入国は一切認めないという内々の取り決めが法務省内で通達されている。要は不必要な外国人はこの際一掃して真に日本を愛する人々だけ居残ってもらいたいという、いわば踏み絵を強要する形となっている。
実はこの在留外国人の大量出国は日本政府にとっては大変好都合。これから銀河連邦と手を取り合って新たな進化を目指す日本にとっては、下手をすると情報漏洩の原因になりかねない不安分子が期せずして自ら出ていってくれるという願ってもいない状況と相成っている。
中でも特に出国の動きが早いのは在留中国人と在留韓国人。(北朝鮮系を含む)
この「世界から孤立しようとしている日本にはいち早く見切りを付けよう」といわんばかりの我先に出国しようという行動は、長らくこの地に住んでいながら日本という国に対する愛着や敬意など一切持ち得ないという彼らの非常に残念な国民性や思想信条を如実に表している。
さてこのような出入国ラッシュが続く日本国内ではあるが、ちょっと目を転じて舞台は北京へと移る。
日本政府が正式にアメリカと事実上の断交を宣言した5日後の11月9日、この日北京の政治の中心である中南海にある某建物には中国共産党主席をはじめとしてロシア大統領、韓国大統領、朝鮮労働党総書記が前回同様に顔を揃えている。彼らは事前の予想通りに… いや想定よりもさらに好都合に動いている日米の断絶におかげでその表情が先程来綻びっ放し。
「親愛なる同志たちよ、小日本を巡る情勢は完全に我らに味方をしているぞ」
会合の口火を切ったのは中国共産党主席。彼がグラスを手に乾杯の音頭を取ると、一気に満たされた高級ワインを煽る。上質なワインの芳醇な香りと自分たちの戦略が半ば成功しかけているという万能感に浸っているかの思考が主席の表情を更に明るくしていく。
「李主席、あなたの仰る通りだ。アメリカに見捨てられた日本など罠にかかったネズミ同然。生殺与奪の権利が我らが握っている」
こちらもテカテカした顔をしながらワインのグラスを一息に煽っている。
「なんと喜ばしい状況だ。今こそ小日本に対する正義の鉄槌を下してやりましょう」
こちらは韓国大統領。李主席とロシア大統領に幾分媚を売るような表情で何とも言えないちょっとこちらが気持ちが悪くなる笑みを浮かべている。
「我ら偉大なる朝鮮人民軍の戦士たちは…」
最後の黒電話頭。自己陶酔の極みとでもいうべき長々とした自国の自慢話と日本に対する憎しみが語られていくが、彼の意見に耳を貸すものは誰もいない。もうちょっと空気を読んだ方がいいのでは? と耳元で忠告してやりたくなる。
このような具合で互いに腹の内に秘めているモノはあれども表には出さないというしばしの和やかな歓談が続き、いよいよこの会合の本題開始。
「それでは当初の予定通りにこの4か国が手を取り合って日本を攻め滅ぼすということでよろしいかな?」
「「「異議なし」」」
最初から決まっていた話の流れではあったが、こうして中国、ロシア、韓国、北朝鮮の4か国による秘密協定〔対日4か国連合〕が正式にこの場で結ばれるに至る。
「それでは11月15日をもって開戦の火蓋を切るということで一同よろしいな?」
「準備に多少手間取るであろうが、その日までに確実に日本攻略の手筈を整える」
ロシア大統領が胸を張って答えている。だが大統領が自信ありげに答える程ロシアという国の内情は穏やかではない。むしろ現在絶賛非常事態中というのが正確であろう。というのは2年以上も継続している対ウクライナ戦争によってここ最近国家予算の半分以上を戦費に費やしている厳しい状況。さらにムダに兵器と人員を使い潰す泥沼の消耗戦にドップリと嵌っているため余剰戦力がどこにもない。こんな状況でどうやって日本に対して戦争の口火を切るというのかというと、それはお馴染みのロシアの十八番である火事場泥棒戦略。要は他国と日本を戦わせておいて最後に美味しいところだけ奪い取ろうと考えている。
「日本に上陸する先鋒は是非とも我が国にお任せください」
まったく考えなしの鉄砲玉… ゲフンゲフン、これは韓国大統領の発言。自国の軍隊の能力は日本をはるかに上回っているという、一体どこからそんな言葉が湧き出てくるのかと小一時間問い詰めてやりたくなるような根拠のない自信を妄信する日本憎しに凝り固まった典型的な韓国人の代表例がここにいる。国民の生活を大きく左右する政治家としてその資質に甚だ問題があると言わざるを得ない。もっともか韓国の政治家の大半がこの程度のレベルの人間の集まりなので、別人が大統領になったとしてもおそらく同様の発言をするのではないかと思われる。
「我々偉大なる北朝鮮戦士は…」(以下略)
ともあれこのようにして4か国は歩調を合わせて11月15日から開始される表向きは軍事演習が実行に移されていく。もちろん作戦自体はこの4名の政治指導者が決定するわけではなくて各国の軍部の上位の指揮官が額を寄せ集めて話し合いが進められている。とはいえどうにも泥船感が否めないのは気のせいだろうか?
◇◇◇◇◇
迎えた11月の15日、この日は事前の通告通りに日本海と東シナ海の中国やロシアの排他的経済水域上で4か国合同の軍事演習が開催される。
初日は確かにその名の通りに演習形式で4か国が合同で仮想敵国である日本を念頭にした海上並びに航空演習をかつてない規模で実施していく。
もちろんこれは欺瞞作戦であって、演習だと日本に信じ込ませようという手口に過ぎない。だがここで想像の斜め上を行くハプニングが発生する。驚くことに韓国の旗艦を務める独島艦が艦隊行動から離脱していく。より正確に言えば独島艦だけではなくて韓国が保有するなんちゃってイージス艦も同様に船足を下げて艦隊から徐々に遅れ始めている。
実は韓国が誇る海上戦闘艇は一隻に様々な装備を詰め込み過ぎてトップヘビーという船体のバランスが非常に悪い構造となっている。そのため海上の波が4メートルを超えると艦隊行動に支障が出るレベルで速度が出せなくなるという欠陥を抱える。11月も半ばに入って冬が近づきつつある日本海は徐々に波が高くなる季節。この高波に抗えずに韓国軍は艦隊行動からゴッソリ離脱して、小型の艦艇のみが申し訳なさそうに4か国連合艦隊に同行するというお寒い光景が繰り広げられている。
よくぞこんなお粗末な戦闘艦でもって「我が軍が日本上陸の先鋒を務める」などという妄想を口にできるもの。ちょっと呆れて言葉を失うレベル。元々韓国軍というのは見てくれの装備だけは一人前なのだが、その運用方法や整備能力、そして兵器を製造する根本的な技術に大きな問題を抱えている。ひと言で言ってしまえば「近代兵器を扱うのは百年早い」という困った状況。近年は努力の結果少しずつマシになっているとは言うものの、お茶の間にお笑いをお届けする韓国軍は今日も健在な模様。
こうして4か国連合の合同演習初日は大きな不安を抱えながらもなんとか終了する。そして翌日からはいよいよ演習の名目をかなぐり捨てて日本に牙を剥く手筈。本格的な開戦の時間が刻一刻と近づいているのであった。
日米の対立が決定的となる中で様々に動き始める世界各国。とりわけ対日4か国連合を結成した日本の周辺国が本格的に攻撃を加えようと名目上の軍事演習が開始されました。この動きに対して自衛隊はいかように日本の国土を防衛していくのか… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
そういえばこのところ急激に閲覧数が伸びていると思ったら、ランキングを見てビックリしました。なんとこの小説がランキングのかなり上位に掲載されております。過去に何度かローファンタジーランキングのベストテンに入ったことはありますが、作者としては「今さらなんで?」というビックリ感のほうが大きいです。とはいえとっても嬉しい出来事に変わりはありません。これも読書の皆様の応援のおかげと深く感謝いたします。
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