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347 世界緊急放送

お待たせいたしました。風雲急を告げる世界情勢のお話で、今回聡史たちは一切登場しませんのであしからず。

 アメリカ大統領選挙まで1週間を切った11月1日、日本政府の懸命の働きかけを無視する形でついに世界中のメディアや投稿サイト、SNS等では通常の番組や閲覧サービスを一時停止して米国政府からの重要な 声明が流される。1日4回、各時間に30分ほど繰り返されるその声明の内容に世界中が釘付けとなり、国際社会がより危険な局面に突き進んでいく予感を感じさせる内容が各国の言語に翻訳されて強い非難に値する口調で述べられていく。主な内容は以下の通り。



「日本はダンジョンを通じて異なる世界から得た魔法技術を独占しており、その技術を独自に進化させて世界の覇権を握ろうと血道をあげている。その一環として武漢とバチカンに隕石を降らせて街ごと潰滅させただけでなく、四川省の山間部にある中国人民解放軍戦略ミサイル基地を未知の技術を用いて攻撃しこれを壊滅せしめた。このような日本の暴挙を国際社会として見逃せるはずもなく、米国は国家を挙げて日本政府に未知の技術の開示と全面的な引き渡しを要求する。もしこの要求を日本が認めない場合は、米国は速やかに戦時体制に移行し日本との深刻な対立も辞さない覚悟である。陰で世界征服の野望を隠そうともしない日本に対して各国は毅然とした態度で臨み、一致団結してその邪な野望を阻止しなければならない。もしこのまま日本の暴走を許し手を拱いて見ているならば、恐ろしい日本の魔の手は世界中をあっという間に支配して平和を愛する人々を恐怖のどん底に叩き落すであろう。世界中の友よ、今こそ悪辣な日本に対して共闘して支配の魔の手から逃れる時だ。時間は限られている。一刻も早い国民の決断を求める。日本と一切の関係を断ち切り孤立化させたうえで日干しになるまで追い込むべきである。仮に日本が何らかの形で攻撃を仕掛けてくるならば、我々は宗教や政治理念の枠を飛び越えてこの人類の敵たる日本に立ち向かわなければならない」


 苛烈な文言が並ぶ米国国務長官の演説内容の背景画面には、隕石の被害により壊滅した武漢やバチカンの現在の姿や被災時に生き残った人々の悲痛な叫び、救助や復旧に当たる軍隊が懸命に作業にする様子が映し出されている。これらの演説を聞き垂れ流される画像を見た人々は「なぜ日本がこんなヒドイことをするんだろうか?」という信じられないような表情を浮かべながらも、あまりに広範囲にわたる被害の跡を見るにつけ「このままでいると自分たちもいずれは攻撃されてしまうかもしれない」という不安な感情を抱かずにはいられない様子。


 ことに日本に対する感情が一気に悪化したのは、実際に被害に遭った武漢を抱える中国と2千年に渡って信者の心の拠り所となってきた総本山とも呼ぶべきバチカンを更地にされたカトリック教徒。この両者を合わせただけでも世界の人口の75億人のうち約3分の1にあたる25億人以上を占めている。


 ことに中国はただでさえ反日教育がいまだに教育課程で実施されており、一般国民が悪逆な行いをする戦前の日本兵の姿を盲目的に信じるような洗脳が横行している。さらに現状の中国は過去30年に渡って大幅な経済力の向上を成し遂げてきたとはいっても、今日に至っては肝心の成長エンジンを失って街には職を失った人々が溢れ返り、特に若者の間には50数パーセントという社会が崩壊しかねないレベルの高い失業率が横たわっている。


 この度の世界緊急放送はそんな先行きの見えない若者たちのやり場のない心に火を点けるには十分な働きをするのは言うまでもない。もちろんそこには共産党政府の情報工作や扇動が背後で蠢いているものと考えられる。その結果として全国の主要都市では燎原の火のごとくに「日本打倒」を叫ぶ反日デモが繰り広げられるに至る。日本の企業や日本人が経営する店舗に暴徒が狼藉を働いても警察当局は見て見ぬフリをするだけという世紀末さながらの危険な状況が発生するのは当然といえば当然だろう。


 群衆が暴徒化したのは何も中国に限った話ではない。同じような状況はほぼ同時に韓国でも発生している。それだけでなくてこの放送の直後には北朝鮮の総書記とロシア大統領が待ちかねたと言わんばかりの表情で日本を口汚く非難する声明がテレビを通じて大々的に流される。この4か国の動きはもちろん事前の打ち合わせ通り。国民を扇動して日本と敵対するムードを醸成し、その勢いのままに戦火の口火を切ろうという意図が隠されている。


 ではその他の国はどうかというと、ほとんどが様子見といった反応。中には日本に対する信頼からアメリカの要請を断ってマスコミによる放送を差し止めた国家もいくつか確認されている。とはいえ世界中の多くの国々は、次この放送を受けて日本がどのような反応を見せるのかという点に注視せざるを得ないのであった。








   ◇◇◇◇◇







 それでは世界緊急放送を受けた日本政府の反応はいかがかといえば、至極落ち着いたものとなっている。もちろん日本国内のマスコミは政府の強い要請でアメリカの国務長官の演説を放送するのは自粛しており、SNSを通じて約2割程度の人々が今回の件をリアルタイムで知った程度。それでも日本という国の行く末とそれに伴う自分たちの生活がどのようになっていくのかと不安感が次第に広がっていく。


 さらにこの不安に輪をかけるのがテレビで繰り広げられるワイドショー形式の情報番組。お馴染みのマスコミ御用達国際関係専門家がいかにも深刻そうな表情で今後の日本政府の外交政策の展望などを語っている。もちろんその内容は上っ面の危機感を敢えて煽るような薄っぺらい内容が並ぶ。その結果として次第に国民全体に先行きの不安が伝播して経済分野では円相場や株式市場の史上最大の暴落が発生し、また身近なところでは食料や飲料水の確保のために買いだめに走る消費者が群れをなして大型スーパーに押し掛けるなど、一時的なパニックが生じる結果となる。


 そのため日本政府は総理大臣の緊急声明という形式で「落ち着いて行動して普段通りの生活を心掛けてほしい」「イタズラな不安を煽らないで通常通りに活動していれば問題はない」等々、平静に務めるように呼び掛けを実施する。


 それだけではなくて本日の夕方の6時から政府の公式見解を記者会見方式で実施すると発表し、多くの国民はこの会見でどのような方向性が示されるのかと固唾を飲んで見守るのであった。







   ◇◇◇◇◇







 同日の夕刻、事前の発表通りに国会議事堂内の会見室には司会を務める官房長官と固い表情の総理大臣が姿を現す。その他に顔を揃えているのは、総理大臣のブレーンを務める件の座長と外務大臣。それと10名程度の関係各省庁の政務次官という面々。普段の会見に比べると政府関係者の姿が多いと言っていいだろう。それだけ今回の世界緊急放送に関しては日本政府として危機感を持った対応を行っているというサインとも見て取れる。


 定員を大幅に超えた数のマスコミ関係者で記者席は超満員の状況。入室してきた総理大臣には盛んにフラッシュの光が浴びせられている。総理大臣が国旗に一礼して所定の席に着いたのを見届けると、司会役の官房長官がアナウンスを開始する。



「本日はお集まりいただきありがとうございます。ただいまから本日アメリカ政府から公表されました声明に対する日本政府の見解並びに今後の対応策などをこの場を借りまして総理から直々に国民の皆様にお伝えいたします。それでは総理、どうぞお願いします」


 司会に促されて席を立った山本総理は真っ直ぐに会見台へと向かって、その場に集まる記者たちを一瞥すると用意された原稿に目を落とす。しばしの間を置いて、真っ直ぐ正面を向いて開口する。



「本日アメリカ政府によって日本をあたかも敵国と見做すような声明が世界中に放映されました。この声明に対して日本政府はまったく身に覚えのない事柄の列挙であると強く否定するとともに遺憾の意を表明いたします」


 ひとまずここまではいつもの日本の得意技である遺憾砲を発射。総理から発せられる一言一句を漏らすまいと固唾を飲んでいる記者たちの間には「またいつもの対応か…」という落胆の表情が広がっていく。だがここから先、これまでの日本の態度を一変させるような驚くべき発表が続く。



「差し当たって日本政府は米国に対して要求いたします。本日公表された声明を即時撤回して世界中に日本の誤ったイメージを拡散したことに対する謝罪を求めます。期限は3日以内とし、もしその期間内に訂正と謝罪がない場合は日本政府は断固たる態度をとる決意があります」


 日頃は強い意志を感じさせる発言が目立つ総理ではあるが、此度の日本という国家自体が消滅を迎えるかもしれない危機に瀕して自らの発言が国民に伝わるように決意に満ちた表情を報道陣のカメラに向けている。多くのフラッシュの嵐が一段落したところで、再び総理は口を開く。



「それでは日本政府が今後想定される危機に対する具体的な対方針を申し上げます。仮にアメリカ政府が日本に対する不当な要求を取り下げない場合、我が国は米国と関係する条約と協定の一切を破棄いたします。より具体的に申し上げるとポツダム宣言の受諾、サンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約及びこの法律に関わる全ての協定、その他にも経済や人的交流に関する協定などもすべて破棄いたします。すなわちこの状況は第2次世界大戦当時の日本と米国の関係に戻るということです。アメリカとの一切の交流を断絶しても、日本は国家としての矜持を守っていく所存です。同時に場合によっては即座に戦時体制に移行いたしますので、武力の行使に関して憲法上の一切の制約は凍結いたします」


 総理の口から語られたあまりにも意外過ぎる日本政府の態度に記者席からは期せずして驚きとも取れるどよめきが湧き上がる。予想外にも程があるとでも言いたげな記者たちの顔には「これは途方もない一大事だ」という危機感が浮かぶ。ましてや現状の国際社会において軍事的にも経済的にも一強としか言いようがないアメリカに対して真っ向からケンカを吹っ掛けるにも等しい総理の言葉に、あたかも真珠湾空襲の前夜を思わせるような破滅の道に再び日本が突っ込んでいくのではないかという恐怖にも似た感情で心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを感じる記者が続出している。


 だがそんな記者たちの心情など何ら考慮する様子もなく総理は言葉を続けていく。



「仮にアメリカとの対立が確定的となった場合、エネルギーや食糧、その他多くの資源を海外からの輸入に頼っている我が国は直ちに危機が訪れると考える国民の皆様が多数おられるとは思いますが、この点に関してはどうぞご安心いただきたい。まずはエネルギー関連ですが、現在国内にある原子力発電所はすでに新規に関発いたしましたより安全な核融合炉に置き換わっております。一部ではテスト稼働も開始されており、目標通りの出力が確保可能という明るい見通しが立っております。すべての核融合炉が稼働を開始すれば国内の電力の半分を賄えます。海水から取り出した重水素が燃料となりますので、四方を海に囲まれた我が国にとってはうってつけの発電方法ではないかと考えております。さらに茨城県沖の大規模ガス田の掘削が1か月以内に完了しますので、天然ガスの供給に関しては輸入が途絶えてもまったく問題はありません。それから島根県沖の海底油田に関しても、こちらも1か月以内に生産を開始いたします。島根県沖油田とやや遅れて稼働を開始する秋田県沖油田と合わせると国内の原油消費は十分に賄えるはずです」


 これまで日本の領海や排他的経済水域の海底には大量の地下資源が眠っているといわれてきた。問題はその採掘方法で、経済的に見合うコストで採掘できるのならばエネルギーを輸入に頼る必要がなくなるのは当然と言えば当然。もちろん地下資源開発が可能になったのは銀河連邦からの技術協力があってこそだが、現時点ではまだ日本政府はこの件を公にする気はない。


 とはいってもマスコミ各社の記者席の反応は今ひとつ。彼らには銀河連邦との協力関係に関して一切明かされてはいないので、そんな夢のような話が一朝一夕に実現可能なのかと疑う眼差しを向けている。実際のところ地球よりも何十万年も進んだ科学技術を用いれば安全かつ容易に資源の採掘が可能となるのは間違いないはず。


 さらに総理は話を続ける。



「それから国民の生活に直結する食糧問題ですが、こちらに関しましては従来とはまったく異なる栽培方法を確立いたしました。この技術に関しては魔法による植物栽培の驚異的な促進方法だとこの場では述べさせていただきます。詳しい内容につきましては食糧生産が具体化した段階で国民の皆様に広く開示できると考えております。従来の自然栽培と比較して3分の1程度の期間で作物の収穫が可能となりますので、休耕地等を有効に活用すれば国内の食料需要を十分に賄えるはずです」


 またまた首相の口から飛び出す夢のような話。この場では「魔法技術」と述べているが、実際には銀河連邦で標準的に運用されている植物生産プラントを供給してもらうだけの話。ここでも銀河連邦の存在は伏せておく必要があるため敢えて魔法技術ということにしている。


 もちろん記者席の反応はこの件にも懐疑的。まあそれは当然と言えば当然なのだが…



「それから本日の外国為替市場と株式市場におきまして円相場と株式が記録的な大暴落をいたしましたが、当然政府としましては値動きを注視しております。仮にアメリカとの交渉が決別した際には国際取引においてドルによる決済が停止します。その際に日本銀行と協力して速やかに金本位制度に移行いたします。ちなみに現在西之島と南鳥島近海の熱鉱床におきまして極めて高純度の金の鉱脈が発見されております。埋蔵量は現在の価値に換算して1800兆円~2千兆円と予想されます。こちらもすでに海底からの採掘の目途が立っておりまして、早急に掘削を開始いたします。その他に同海域には大量のレアメタルやレアアースも確認しておりますので、こちらと原油や天然ガスの価値をすべて換算すると3千兆円を下らない金額になると思われます。すべて政府が主導となって採掘して、その利益の一部は国民に交付という形で還元したいと考えております」


 どうやら採掘が上手くいった暁には赤ん坊からお年寄りまで国民に平等に200万円程度の臨時ボーナスが支給されるらしい。実に羨ましい話だが、やはり記者席の反応は薄いまま。第2次世界大戦が終わっておよそ80年ほどが経過しており、すっかり平和ボケした日本人の姿がそこにある。だが現在は急速に戦争の危機が迫っている。マスコミの人間こそがこの危機にもっと敏感に反応するべきなのだが、彼らの大半は現状のぬるま湯のような状況に慣れ親しみすぎて戦争の危機が迫っているという重大な事実から敢えて目を背けようという態度のよう。



「この場で私が口にした政策は政府が責任をもって3か月以内に実現させます。国民の皆様には心配することなく日常生活を送っていただきたい。ただしアメリカの態度が変わらない限りは、日本は今までとはまったく異なる道を歩まなくてはいけなくなることも同時に肝に銘じていただきたい。これは日本国民全体の生命と財産を預かる政府の責任者として皆さんへのお願いです。心配せずに生活できるようにあらゆる手段を講じますので、どうか冷静に行動してください。流言飛語に惑わされることなく政府の発表を信じて日常生活を送られますようにご協力いただきたい」


 ここまでが日本政府が用意した世界緊急放送に対する対応策。いくつか提示された策のすべてにおいて銀河連邦の技術頼みという側面はあるにしても、もしこれが本当に実行されたら日本の未来は明るいと言わざるを得ない。アメリカとの外交関係や経済関係が断絶したとしても、なおお釣りがきて有り余る内容となっている。


 総理からの公式な見解が示されると、続き手は各マスコミからの質疑応答の時間となる。



「それではご質問のある方は挙手をお願いいたします」


「○○新聞の高橋です。先程『アメリカ政府がこの度の声明を撤回して謝罪がなければすべての条約と協定を破棄する』とのお話がありましたが、現状日本国内に複数所在している在日米軍基地の取り扱いはどうなるのでしょうか?」


「日米安保条約が破棄されれば国内に米軍が駐留する根拠が失われます。その際は1週間を目途に速やかなる在日米軍の全面撤退を求めます。仮に在日米軍が日本政府並びに国民に対して何らかの敵対的な動きをするようでしたら、日本政府としては防衛出動も辞さない考えです。その際の責任はすべて米国側にあると強く主張いたします」


 実はこの点が日本政府にとって最も悩みのタネといえよう。日本の安全保障に協力するための米軍の駐留と表立って説明されているが、裏を返せば日本がアメリカに牙を剥いた際にはいち早く攻撃を加えるという目的が隠されている。それこそがアメリカにとっては真の在日米軍の存在意義となっている。


 だがこの政府の悩みに対して一発で回答を出したのは岡山室長。曰く。


「地方の人口がまばらな地域の米軍基地に対しては天の浮舟で壊滅させます。横田基地等の人口密集地に素材する基地については数人の特殊作戦部隊を投入すれば2時間程度で壊滅させて御覧にいれます」


 室長の口から飛び出た「特殊作戦部隊」というのは学院長並びにデビル&エンジェルを指すものと思われる。もし「米軍基地を壊滅させろ」などという物騒な指令が出たら、桜などは飛び上がって大喜びするはず。もしも手が足りない場合は、要請があり次第ホクホク顔でボランティア参加してくれそうな桜の祖父まで控えている。こんな錚々たる顔ぶれが乗り込んだら、いくら世界最強を誇る米軍基地であってもやはり2時間持ち堪えることすら困難ではないだろうか。


 続いての質問が投げかけられる。



「もし米軍が撤退するような事態になると、我が国の防衛が大きく弱体化するのではないでしょうか?」


「確かにこれまでは自衛隊が盾の役目を担い、米軍が鉾を務めるという役割分担で安全保障上の協力関係を築いてまいりました。その鉾の役割を担う米軍が撤退したら、当然その分安全保障上の穴は生じてしまうかもしれません。ですが現状の自衛隊の能力は世界有数です。仮に他国から数百発ものミサイルが一斉に国土に飛来しても一発も着弾は許しません。国土防衛に関しては盤石の体制を築いております」


 もちろんこの総理の強気な発言の裏付けには天の浮舟の存在がある。現在すでに自衛隊に引き渡されて正式に運用が開始されているのは25機。このうち8機を日本全体の防空任務につかせて、8機を敵地攻撃に回す予定。残りの9機については交代要員並びに予備戦力として待機するというローテーションまで既に決まっている。もちろんどの空域の哨戒並びに迎撃を担当するか等の振り分けも量子コンピューターでシミレーションが完了しており、いつ何時実戦に投入されても問題ないレベルまで運用能力が向上している。


 とまあこのような具合で記者の質問は続いていくが、総理の口からは「万事において問題はない」というような強気な発言が繰り返されていく。あまりにもその内容が強気すぎて、記者の中には「机上の空論だろう」といった空気が流れてしまうのもやむを得ないかもしれない。







   ◇◇◇◇◇







 一方こちらはホワイトハウス。現アメリカ大統領とその取り巻きたちは今回の世界緊急放送に対して日本政府は全面的に屈服してくるだろうという甘い見通しを立てていた。そして日本の首に縄を付けた功績によって、現在非常に不利な状況下に置かれている大統領選挙の趨勢を一気にひっくり返そうという目論見があったのも当然。


 ところが弱い相手だと完全に見くびっていた当の日本政府が「断交も辞さない」どころか「一戦交えてもいいんだぞ」と言わんばかりの強硬な態度に出てきたものだから、ホワイトハウスの内部は午前中から上へ下への大騒ぎとなっている。



「なぜだ? なぜ日本は我々米国を相手にしてここまで強気で出られるんだ?」


「我々の目論見は完全に裏目だぞ。大統領選挙に悪影響しかないではないか」


「このままでは非常に不味い立場に追い込まれるぞ」


 老齢ですでに認知症を発症しているのではないかと囁かれているバーディー現大統領に代わって彼のブレーンたちが大騒ぎをしている。だがひとりだけ冷静な表情の男がいる。彼こそがDSが送り込んできたレプティリアンの意向を代弁する存在。



「まあいいではありませんか。このまま放置しておけば日本の周辺国が勝手に日本に攻めかかりますよ。双方でバチバチに遣り合ってもらって互いが疲弊した頃合いを見計らって、我が国が日本の再支配に乗り出せばいいだけです」


「だがこのままでは大統領選挙で負けるのは目に見えているぞ」


「いいじゃありませんか。どうせ現大統領は能力上も健康上もすでに限界です。これ以上影武者を使ってやりくりするのは面倒ですから、この際ご退場いただきましょう。また4年後に政権を取り戻せばいいだけですよ」


「しかし、共和との候補はルドルフ・ジョーカー前大統領だぞ。彼が大統領に就任した暁には徹底的にDSを叩き潰すに違いない」


「その時はその時です。しばらくの間は死んだフリをしておけばいいんですよ。4年間の我慢です。ちょっとした我慢で日本を再支配できるのだったら、そこからもたらされる利益は途方もないものになりますよ」


 薄気味悪い笑みを浮かべて答える首席補佐官。この場の誰も気づいてはいないが、彼の瞳があたかも爬虫類のごとくに縦に細められているのだった。







   ◇◇◇◇◇







 こちらは中華人民共和国の北京。その中心部に所在する共産党の幹部の居住区が立ち並び中南海のとある建物。こちらはチャイナセブンと呼ばれる党中央委員が秘密の会合を食事をしながら行っている。それぞれの表情を見るといかにも嬉しい出来事があったようで、気分良さげにグラスに満たされて高級酒を何杯も空けている。



「李主席、思いもよらない朗報ですな。まさか日本がアメリカとの断交も辞さないなどという強硬な態度を表明するとは」


「ふむ、おまけに在日米軍に速やかな撤退を突き付けるとは、まるで自殺行為に等しいであろう。我が国はこの好機を逃すべきではない。予定通りに準備は進んでいるか?」


「はっ、すでに海軍と空軍には演習名目で最大規模の動員を通達済みです。陸軍にも上陸戦に備えるよう物資の集積を大急ぎで進めるように発破をかけてあります」


「そうか、それならば作戦の決行は予定通りに可能だな」


「先程ロシア、韓国、北朝鮮とも連絡を取りました。3か国とも徐々に出撃準備が整いつつあります。ただしロシアはウクライナにおいて大量の弾薬やミサイルを消費した関係で補充が間に合わない可能性があります。その分北部戦線が手薄になるやもしれません」


「よいではないか。ロシアにむざむざ北海道を取られるよりは、自衛隊との消耗戦で疲弊してくれた方がこちらの利益にかなう。最後に我が国がロシアさえも駆逐して日本全土を掌握し、その富をひと欠片も残さずに手に入れるのだ」


 すでに日本に対して圧倒的な勝利を挙げる未来しか李主席の瞳には映っていないよう。確かに数字上の戦力だけを比較したら自衛隊単独で中国、ロシア、韓国、北朝鮮の4か国連合を相手取って勝利を収める可能性は限りなく低いように思えるのは当然かもしれない。その大きな要因として誰しもが思い至るのは、日本には敵地攻撃能力がないという歴然たる事実。ここ最近は米国製のトマホークミサイルを導入しようという動きが始まってはいるが、これも現状では端緒についたばかり。むしろこの度の米国との関係悪化によってこの計画はとん挫するのは目に見えている。4か国連合からしてみればこちらは圧倒的な火力で日本を攻撃可能だが、対して日本の反撃手段は無視してもよいという非常にリスクの低い賭けにベッドできるという美味い話に映るのは無理もない。


 だが彼らはまだ日本がこれだけ強気に出られる真の理由を知らない。万が一本格的に4か国連合と日本が戦闘状態に入ったら、銀河連邦から供与された天の浮舟のレーザー砲によって手も足も出ないままにご自慢の軍隊が壊滅するという悪夢のような未来が待ち受けていることを…


 そしてその悪夢の魔手に捕らえられてしまうその時は刻一刻と近づいているのであった。

ついにアメリカ政府によって世界緊急放送が実施に移されました。そのあまりにも恐ろしい内容に不安を抱きパニックになる日本国民ですが、山本総理の会見によって今後の見通しが明かされたことによって一応の平静を取り戻していきます。しかしその間にも中国を中心とした4か国連合が在日米軍の戦力をまったくアテに出来なくなった日本に対して虎視眈々と爪を研ぐ展開。さらにアメリカに至っては4か国連合をわざと日本に差し向けて双方が戦いによって疲弊したところを一気に打ち負かそうという二段構えの戦略を企てている模様。混沌の度合いを深める国際情勢の中で、岡山室長の描いたプランが実を結ぶのか…

この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞ


そういえばこのところ急激に閲覧数が伸びていると思ったら、ランキングを見てビックリしました。なんとこの小説がランキングのかなり上位に掲載されております。過去に何度かローファンタジーランキングのベストテンに入ったことはありますが、作者としては「今さらなんで?」という当惑のほうが大きいです。とはいえとっても嬉しい出来事に変わりはありません。これも読書の皆様の応援のおかげと深く感謝いたします。


最後の皆様にいつものお願いです。


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