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436 銀河連邦の協力と周辺国の密約

岡山室長の提案の元に銀河連邦との協議の舞台が整って…

 岡山室長との話し合いを終えると、時間はちょうど放課後を迎えている。聡史たちは教室には立ち寄らずにそのまま特待生寮へ戻っていく。聡史の部屋のリビングで三人がソファーに腰を下ろしてカレンが淹れた紅茶を飲みつつ、聡史がおもむろに切り出す。



「美鈴、岡山室長の発言をどう受け取った?」


「そうね… 室長がまさかムーの歴史を連綿と受け継ぐ氏族集団のメンバーだったのにはちょっと驚いたわね。でも、何て言うか… 私は割と素直に受け入れられたわ。室長の考えが日本国民の総意だとは言えない点があるにせよ、それでも私の中に存在するルシファーと目的が一致しているのは動かしがたい事実なの」


「ルシファーもやはり日本が銀河連邦に所属する方向を目指しているのか?」


「というよりも太古の時代は地球全体が銀河連邦の一員だったのよ。ムーの滅亡で地球ごと一時的に銀河全体と切り離されてしまったけど、本来地球が歩むべき道に立ち返らせることこそルシファーの目指すところね」


「ああ、同じようなことを岡山室長も言ってたな。本来の姿に立ち返る… それが地球の正しい歩みというわけか」


「そうね。多くの人々は人類に文明をもたらしたのは何者かという本質を忘れているわ。だから不必要なまでに国同士や民族ごとの対立が引き起こされて何世代にも渡る根深い憎しみ合いという構造が出来上がっていると思うの。地球上の人々がひとつになって平和な世の中を享受できるようになるには、やはり銀河連邦の協力なしには不可能な気がするわ」


「そのためには日本が先駆けとなるというんだな」


「ええ、その通りよ。有史以来人間は多くの血を流しすぎてしまった。これ以上の犠牲を払うのは今の世代で終わりにするべきなのよ」


 美鈴の意見に耳を貸していた聡史はどうやら納得がいった表情。岡山室長のあまりに突飛な意見に「やや飛躍しすぎではないだろうか」という危惧を抱いたいたのだが、ようやく胸につかえていた澱が消え去ったような心地のらしい。すでに日本と銀河連邦の交流は再開している。今更この流れを押し留めるのは不可能だろう。それならば人類の未来のために銀河連邦との協力関係を一層強固にする方向で動かざるを得ないのは明白。


 とここでカレンが口を開く。



「美鈴さんの意見はもっともだと思います。ですがひとつだけ懸念があります」


「カレンの懸念を教えてもらおうかしら」


「美鈴さんの指摘通り日本を先頭にして銀河連邦との交流を強化していく流れは止められないと思います。ですが旧来の社会体制で利益を得てきた人たち、さらにはその背後で糸を引くレプティリアンが黙っているとは思えません」


「そうね、18世紀にヨーロッパで起こった王政打倒の革命以上の社会的な混乱が引き起こされるかもしれないわね。何事にも声高に反対を叫ぶ人たちというのは必ず出てくるわ」


「それだけならいいですけど、大きな戦争に巻き込まれる可能性があるのではないかというのが私の最大の懸念です」


「それは戦争のひとつくらいは起きるでしょう。もしかしたら今回は日本がその中心かもしれないわ。でももう後戻りはできないのよ。もしかしたらこれこそが神々によって仕組まれた最後のプログラム。歴史はいよいよハルマゲドンの時代に突入するかもしれないわね」


「なるべく犠牲になる人が少なくなるように私も手を尽くします」


 カレンは何か大きな決心をした表情。彼女に流れる神の血は異世界のモノだが、こうして地球に生を受けた以上人類のためにその身を投げ出す覚悟をしているようにも受け取られる。


 そうこうするうちに桜が部屋に戻ってくる。会議をサボった件などどこ吹く風で、まったく普段と変わらない様子で夕食の時間になるまで四人で過ごす。ちなみに明日香ちゃんは自分の部屋に戻っており、桜が自主練に顔を出さないのをいいことにグースカ昼寝に費やしているのは言うまでもない。







   ◇◇◇◇◇







 岡山室長とルシファーの間で話し合いが行われた3日後、伊勢原にあるダンジョン緩衝地帯に停泊する銀河連邦の輸送型宇宙船内で日本政府と銀河連邦外交執政官との間で極めて重要な会談が極秘裏に開催される。日本側の出席者は現職の総理大臣を筆頭に新たに就任したばかりの官房長官と外務大臣、さらには総理大臣の政策ブレーンが5名と岡山室長という顔触れ。


 その他のメンバーとして美鈴、聡史、カレンの姿もある。この会議における三人の立ち位置は、美鈴に関しては万一銀河連邦の執政官が判断に困るような話になった際にルシファーの意見を求める必要上の出席となっており、聡史とカレンに関しては美鈴の付き添い扱い。あまりにも場違いな魔法学院生が制服姿でこの場にいるのを詳しい事情を明かされていない政府の関係者は訝しげな表情で見つめるが、銀河連邦側の出席者がこれ以上ないほどの恭しさで美鈴に接しているのを見るにつけ、敢えて何も口を挟もうとはしない態度。もちろん岡山室長から何らかの事前の説明があったのは言うまでもないと予想される。


 ということで官房長官が司会役となって、改めて銀河連邦と日本政府の代表者による自己紹介から会談がスタート。初めて地球外の知的生命体と遭遇するという緊張感から強張った顔色の日本の代表だったが、外交執政官の「我々も1万2千年前までは地球の住人でした」という言葉にやや安堵する表情を浮かべる。紹介が済んでムードが和んだところで総理から銀河連邦に向けての感謝の弁。



「こうして日本に月面コロニーからわざわざ飛来していただけただけではなくて、数々の先進技術を提供していただいて感謝に堪えません。我が国の行政府の長として銀河連邦の厚意に深く感謝いたします。今後とも互いの友好関係を深めつつ、更なる交流を維持発展できますように日本国を代表してお願い申し上げます」


「これはこれは、ありがたいお言葉に感謝が絶えません。我々は日本国民を長い期間離れ離れとなった同胞と認識しております。短期間のうちにムー大陸が海中に没するという悲劇に見舞われて月面や火星に移住することを余儀なくされましたが、在りし日の地球において華々しい文明を誇った時代を忘れたことはありません。宇宙空間を隔てて長年美しい地球の姿を見るにつけ『あそここそが我らの故郷だ』という望郷の念を抱いてまいりましたが、こうして皆様方に好意的に迎えられて深く喜んでおりますことを付け加えさせていただきます」


 首相の感謝の弁については、どうやら岡山室長から完璧なレクチャーがあった模様。でないと日常の政務に多忙を極める総理が銀河連邦の何たるかを理解するのは不可能だろう。対する銀河連邦外交執政官も非の打ち所のない返答を寄越してくる。もっともこの言葉は半ば以上本音が含まれている。地球を離れて1万2千年、彼らは夜空に浮かぶ青い地球を眺めながら長らくその地に戻ることを心から切望していた。


 とまあ外交儀礼はこの辺にして、いよいよ会談の具体的な中身に入っていく。今回日本政府がアメリカから突き付けられようとしている無理難題について、外務大臣が具体的な説明を開始する。



「現在日本政府は、非常に困った状況に置かれております。第2次世界大戦後から現在に至るまで安全保障上の同盟国だと信じていたアメリカがここへきて態度を急変するという青天の霹靂とも呼べる事態に見舞われております」


「はい、我々も量子コンピューターオペレーションルームから世界緊急放送の件は報告を受けております。どうやらアメリカ国内の影の政府やその背後に蠢くレプティリアンたちも外面を飾るのはヤメたようですね。何というか… 日本語の表現では『なりふり構わず』とか『死に物狂い』とか言うんでしたか。そのような態度が見受けられます」


「現状の日本が置かれている極めて難しい立場をご理解していただいて幸いです。具体的に申し上げれば、現状の日本政府の意見は真っ二つに分かれております。アメリカと敵対も辞さないという意見と全面的に軍門に下って現在日本が保有している技術をすべて引き渡すべきという意見です。双方の意見があまりにも正反対でいかように収集すればよいのか調整が難航しております。ですがそこに岡山ダンジョン対策室長からまったく別角度の意見が提示されました。今回の会談は岡山室長の第3の解決策が具体的に実現可能かという点に関して銀河連邦の見解を聞きたいと考えております」


「わかりました。その第3の解決策というのをお聞きいたしましょう」


 外務大臣が岡山室長に視線を向けて発言を促すと、外交執政官も興味深げにそちらに視線を向ける。当の岡山室長はというと、すでにルシファーとの間で大筋で話がまとまっているということもあって落ち着き払ったもの。現役自衛官らしいキリリとした態度で外交執政官に一礼すると、すぐに穏やかな表情に打って変わって口を開く。



「発言の機会をいただけて光栄です。最初に私の先祖のことをお話しますと、その歴史はムーの時代まで遡ります。私たちの一族は代々口伝によってムーの時代から今日まで長い歴史を伝承してきた家系です。したがってこうして銀河連邦の関係者… いいえ、違いますね。1万2千年前に別れ別れになった同胞と再び相まみえることが出来て感無量の心地です」


「なんと! 祖先から連綿と続く長い時代においてムーの伝承をこの地に残してくれたのですか!」


 執政官は室長の言葉を聞いて驚きに堪えない表情へと変わっている。と同時にどこか嬉しそうでもある。地球を離れざるを得なかった自分たちが完全に忘れ去られた存在ではなかったと知るだけでこの上ない喜びに包まれているよう。



「このような歴史的な背景を持った一族を代表して執政官殿に申し上げたい。我ら伝承の民は日本に再びムーの栄光を再現する道を強く支持する。これは古来より今日まで続いてきたムーの民としての盟約です。日本は地球という枠組みを離れて単独で銀河連邦に加盟する道を模索したい。ついてはこの困難な道のりに銀河連邦がどこまで協力していただけるのか、この場でその是非を問いたいと考えております」


 執政官の目が大きく見開かれている。銀河連邦としては中長期的な時間の流れに沿って徐々に地球全体を銀河連邦に取り込んでいこうという考えが根底にある。だが室長の提案はそんなまどろっこしい遣り取りは省いて一気に日本というひとつの国家単位で可及的速やかに銀河連邦に加盟しようというもの。逆に執政官としては自分たちの思惑にあまりにも都合がいい室長の提案に、ある意味「本当にそれでいいの?」的な表情を向けている。そしてゴホンと咳払いをしてから神妙な顔で口を開く。



「岡山殿からのご提案は我らにとっては願ってもないモノ。こちらとしてもある程度時間を掛けて友好関係を築いていければと考えておりましたが、速やかなる日本国の銀河連邦への加盟を歓迎いたします。ついては我々がいかような分野で協力すればよいのかを具体的にお聞かせください」


 外交執政官のイザヤ=レンの胸には熱いモノが込み上げている。それは1万2千年前に地球を捨てて月面コロニーに移り住んだ自らの種族に伝わる確かな伝承。荒涼とした生命の痕跡ひとつない月面の地下施設には快適に暮らしていける人工的な環境こそあるものの、仰ぎ見る夜空に浮かぶ青い地球を見るたびにムーの末裔たちは郷愁の念に駆られていた。38万キロを隔てたあの水の豊かな星こそが自分たちの祖先の故郷… それはムーの末裔たちにとって子供が物心ついて最初に親が教える自らの出自と歩んできた歴史と言える。そして親からこの話を聞いた子供たちは誰しもが「いつかあの青く輝く地球に行ってみたい」という望郷の念を代々抱いてきたのは想像に難くない。


 このような話の流れで、あっという間に日本が銀河連邦に加盟する方向が決まる。まあこれは岡山室長がルシファーと会談した時点で銀河連邦としてはある意味既定路線。すでに連邦内の関係各所にはルシファーから話は通っているのだが、それとは別にこの執政官自身が地球に再びムーの文明を再興できるということに感極まっている。すでにこうして秘密裏に宇宙船で地球に飛来しているだけではなくて、今後はもっと大手を振って日本国内で活動できる可能性を考えると、自然に歓喜の感情が溢れてくるのを止められないよう。


 そしてここから先はより具体的な技術支援の話し合いとなる。まず口を開いたのは総理大臣のブレーンの座長を務める人物。



「仮に日本が地球上の国際社会と断絶したと仮定すると、国内だけで賄えないエネルギー資源や食糧の輸入が途絶える可能性があります。この点の解決策を何らかの形で銀河連邦として援助いただけないでしょうか?」


「その点に関してはすでに動き出しております。現在日本に各地に点在する原子力発電所は安全な核融合炉に置き換える作業が進んでおります。あと3か月もすれば本格的な稼働を開始して、日本中に必要な電力をすべて供給してなお余りある発電が可能と思われます。それから食料の問題ですが、すでに月面コロニーには大型食糧プラントを積み込んだ銀河連邦の輸送船団が集結しております。一基のプラントで三十万人が必要とする食料を生産可能ですので、200基ほど据え付ければ必要な作物の生産は可能となるでしょう。我々の調査では小麦や家畜の飼料となるトウモロコシや大豆などを優先的に栽培すればよろしいかと考えます。生産に必要なエネルギーは太陽光と核融合炉による発電で十分賄えるはずです」


 ここ最近の日本の農地は人手不足や担い手の高齢化という事情で耕作放棄されている土地がかなり多い。そんな空いている土地に食糧生産プラントを設置して今まで輸入に頼っていた作物を生産すればアメリカの顔色を窺う必要はなくなる。それだけではなくて過疎化が進む地方に新たな産業を根付かせることも可能とあれば一石二鳥。しかも半自動化されたプラントの内部は環境を丸ごと管理されているので無農薬で栽培できるというメリットもある。


「それは素晴らしい。是非とも早い時期に導入いただければ我が国の食糧事情は大幅に好転するでしょう。その他にも石油資源やレアアースといった希少金属などはいかように調達すればよろしいでしょうか?」


「我々の空からの電磁エコー調査で茨城県沖の海底に巨大なガス田を発見しております。採掘ユニットさえ運び込めば2か月以内に良質な天然ガスの生産が可能となるでしょう。それから日本海側の大陸棚には埋蔵量の多い海底油田も数か所ありますので石油の心配はありません。レアアースに関しては西ノ島や南鳥島沖の熱鉱床からあらゆる希少金属が取り放題です。海底資源掘削船を供与しますので、今すぐにでも大量のレアアースが手に入りますよ。ああ、それから熱鉱床の付近には金の鉱脈が存在します。シメて日本円で1800兆円くらいの埋蔵量がありますので、日本は一気に金持ち国家ですよ」


「そんな量の金鉱脈ですか…」


 あまりに非現実的な金額の埋蔵量に座長は言葉を失っている。もちろん驚愕の表情を浮かべるのは彼だけではない。首相を筆頭にして政府の関係者全員が口ポカで言葉も出ない様子。岡山室長ひとりがなんだか悪い顔をしているのが印象的。



「これは釣り餌に使えそうだな」


 ポソッと呟く言葉の意味をこの場で理解する人間はひとりもいない。一体この稀代の戦略家はどのようなエサに用いようというのだろうか? 


 さらに首相のブレーンの座長から質問が飛ぶ。



「我が国に先鋭的な飛行物体である天の浮舟が供与されている事実は知らされておりますが、現実的な話米軍の協力なしでの我が国の防衛は甚だ心許ない状況と言えます。今後万が一周辺諸国との紛争が引き起こされた場合、銀河連邦は我々の立場に立っていただけるのでしょうか?」


 戦後80年近く日米安保に頼ってきたせいで首相のブレーンという高い見識を持つ人物でも日本の防衛に関して不安が隠せない態度が見て取れる。同時にその表情からは、ひょっとしたら何らかの新しい武器や技術の援助をしてもらえるのではないかという思惑も見て取れる。



「日本の防衛に関して私が発言するよりもそこにおられる岡山殿のほうが的確に把握しているのではないでしょうか。岡山殿、いかがですか?」


「ハハハ、文民である皆さんには想像がつかないかもしれませんが、天の浮舟1機で米国の空母打撃艦隊全部合わせても太刀打ちできない攻撃力とマッハ10という移動速度を持っています。それが現在は25機が実戦配備されているという現実を早く頭に叩き込んでください。それから地上戦においては核兵器の攻撃にも耐えうるパワードスーツ部隊が全国8か所の駐屯地で中隊規模で設立されています。ひとりで戦車部隊一個師団を壊滅させる能力があれば十分でしょう」


「た、確かに岡山室長の意見はもっともなんだが、やはり何百機もの戦闘機や爆撃機、それから無数のミサイルがもし一斉に押し寄せてきたらと考えると不安を覚えずにはいられないんだよ」


「たとえ一度に1万発のミサイルが飛んできてとしても、天の浮舟のレーザー砲が全部撃ち落とします。高々音速で飛来するミサイルに対して、こちらは光速で飛翔して1万度の高熱で目標を破壊するレーザービームです。しかも銀河連邦製のAI知能で制御されている以上照準は正確無比。現代の地球の武器とは比較になりませんよ。しかもすでに25機が実戦配備されている点が非常に大きい。3交代で常に8機を日本の周辺の成層圏に配置しておけますから、空域並びに海域の防衛網は鉄壁と申し上げて間違いありません」


「なるほど… 室長の話を聞いて一安心できるよ」


「唯一の懸念はすでに日本に紛れ込んでいる工作員による破壊活動ですが、こちらに関しては先程申し上げたパワードスーツ部隊と秘匿された特別な戦力によって対応が可能でしょう」


 岡山室長の言葉にあった秘匿された特別な戦力というのはデビル&エンジェルを指しているのは言うまでもなさそう。場合によっては学院長も含まれているのかもしれない。


 ここで岡山室長に喋る機会を譲っていた外交執政官が口を挟んでくる。



「軍事的にはさほど心配しなくても大丈夫というのが我々の量子コンピューターを用いた分析結果です。それから海外との貿易が一時的に遮断される場合、輸出に依存する国内企業が不利益を被るケースが考えられますが、こちらも1か月、長くても2か月もすると海外から『貿易を再開してくれ』という声が続出してくるはずです。日本の製品はそれだけ世界各国に浸透しております上に、国内企業が製造する部品が手に入らないと世界中の工場が立ちいかなくなりますからね」


「確かにその通りかもしれません。ということはあまり悲観的にならなくてもいいということでしょうか?」


「悲観的な見方はよくないですが、楽観的過ぎるのも考え物です。要はそのタイミングで判断を間違えないことでしょう」


 どうやら執政官のこの見解で座長の懸念はかなりの部分で解消したよう。その後はさらに細かい詰めの話をして、国民生活にほぼ支障がなくなる方向で対処していくという話でまとまるのだった。


 首相をはじめ政府の関係者が退席すると、外交執政官が美鈴の元へとやってくる。



「ルシファー様、事前のご指示通りに協力を約束いたしましたが、これでよろしいでしょうか?」


「うむ、まずはこれで良い。追加で日本政府から何らかの要請があったらそなたの裁量で判断せよ。Dーベータランクまでの技術水準ならば問題なく公開してもよい」


「はい、ただし技術の漏洩がなきようしっかりと釘は差します」


 ルシファーさんが言及した「Dーベータランク」というのは、銀河連邦標準技術という分類に即したそれぞれの惑星の文明の発展度合いに見合った情報公開区分のこと。最新技術や銀河連邦中枢部が絶対に握っておかなくてはならないコア技術をSランクとして、その技術が開発された時代を千年ごとに区切ってA~Zまで振り分けている。そして区分されたランクの中を更に百年ごとに区分けしてアルファ、ベータ… と割り振っている。つまりD-ベータというのは4200年前までに開発された技術に相当する。銀河連邦の中枢部からすれば使い古されて現代では誰も見向きもしない技術ではあるが、地球の人類からすれば数百年、あるいは数千年未来の技術。それを惜しげもなくポンと供与してくれるということは、この先に待っている日本の文明水準が飛躍的に向上することを指し示している。これだけでも銀河連邦に加盟するメリットは果てしなく大きいと言えよう。


 ということで、この会談を経て日本政府の腹もようやく決まる。本腰を入れて銀河連邦と手を組んで日本の国力を高めていくだけではなくて、アメリカ一辺倒だったこれまでの外交姿勢胃を抜本的に見直してあらたに世界のリーダーとして立つ意思を明確に示していく方針が秘かに決定されていくのであった。







   ◇◇◇◇◇







 話の舞台は日本を離れてこちらは北京。


 現在中国共産党は建国以来初といっても差し支えない困難な状況に直面している。1980年代の開放改革路線によって10年ごとに倍々ゲームで発展してきた経済が折からの不動産バブルの崩壊で失業者が街に溢れ、資産の目減りでこれまで不動産投資していた国民からの怨嗟の声がこれ以上抑え切れない状態。一歩対応を間違うと何百万人単位の暴動がいつ何時発生してもおかしくない。もちろんそれだけではなくて、これまで野放図に土地の使用権を販売して放漫財政を好きなようにやってきた地方政府は、肝心な財源を失って職員の給料の支払いにも四苦八苦する有様。さらに悪いことは連鎖していくもので、米中貿易摩擦によって利益を出せなくなったリ中国を見限った外国企業が続々撤退するせいでさらに失業者が発生するという負のスパイラスにドハマりしている。


 もはや四面楚歌という状況の共産党執行部にアメリカからもたらされたのは世界緊急放送の協力要請。日本を悪者にして世界から叩き出そうという呼びかけに独裁的な権限を有する李総書記が飛び付くのは言うまでもない。それだけではなくて現在北京の某ホテルの最上階にはロシア大統領、韓国大統領、北朝鮮総書記が一堂に顔を合わせて対日本への態度を協議中と相成っている。もちろんこの4者会談は部外者や報道機関には一切知らせれてはおらず、どの国の外交日程にも載っていない。それでもロシア、韓国、北朝鮮の首脳は李主席の呼び掛けに一も二もなくこの場にやってきている。



「さて、この度のアメリカが企てている世界緊急放送だが、それぞれ国家としてどのような対応を考えているか腹を割って話がしたい」


 4者会談の進行を務めるのは、この会議を呼び掛けた中国共産党の李主席。円卓を囲んで左側に座っているロシア大統領に視線を送る。



「アメリカに協力するのは個人的に気分のいいものではないが、ロシアの国益を考えれば日本を国際社会から爪弾きにするのは歓迎したい」


 ロシアは現在ウクライナ侵攻に伴って世界中から一身に非難を集める立場。それが新たに日本が悪者になってくれれば、相対的に自分たちへの非難や制裁が和らぐだろうと期待している。それどころか日本を悪者に仕立て上げることが出来れば、国際社会における地位と名誉の回復も図れるのではないかという算段を立てているのは明白。


 続いて韓国の大統領が意見を述べる。この大統領は先頃実施された選挙で新たに選出されたばかりの人物。前大統領は保守政党の支持を受けていたが、経済政策の失敗や物価の高騰などが相まって急進的な左派政党の代表が新たに大統領の地位についている。この新大統領は急伸左派の名に相応しい親北朝鮮にして過激な反日派という評判通りの政策を推し進めている。



「日本は常に東アジアの秩序と安定を脅かす存在であり、過去には朝鮮半島を植民地化して我々の先祖に筆舌に尽くしがたい困難を味合わせた不倶戴天の敵である。我らは此度の米国の日本への敵対行動を好機と見做して、最大限この機会を利用しようして日本の国際社会からの完全なる排絶を強く求めたいと考えている」


 まあ、日本人からしたらいつもの調子でノラ犬がキャンキャン吠えている程度にしか聞こえないデタラメな韓国ファンタジーを声高に叫んでいる程度の感覚だろう。だがこの席上では、韓国大統領の意見がこれ以上ないほどの好意的に捉えられている。日本人からしたら「勝手にやってろ!」と言いたくなる態度と言わざるを得ない。


 そして最後のに凝ったのが北朝鮮を代表する黒電話ヘアー… もとい、朝鮮労働党総書記にして通称〔将軍様〕と呼ばれる例の人物。



「日帝は残虐非道にて…」(聞くに堪えない罵詈雑言なので以下略)


 ということで4か国は日本と敵対する道を歩もうとする米国に乗じる方針に異を唱えない方向で意見の一致を見ている。


 ひとまず首脳全員の意見が出揃ったところで李主席が改めて提案を行う。



「親愛なる同志たちの意見は十分に理解した。だがどうだろう。本当に日本を国際社会から排除するだけでいいのだろうか? よく考えてもらいたい。東アジアにおいてこれまで散々口を出してきた米国は日本に対して政治的にも軍事的にも手を貸さないと宣言するのだ。仮にここに集まる4か国が手を携えて日本に対して宣戦布告すれば、結果は我らの思うがままではないだろうか」


「うむ、それは私も考えていた。この4か国が一斉に日本に攻めかかればあっという間に占領も可能だ。もちろん我が国は核兵器を用いることも躊躇わない。本気で核を使用すると恫喝すれば、それだけで日本は膝を屈するだろう」


「日本を叩きのめすために米国にバレないように巡航ミサイルの射程を延ばしてきた甲斐がありますな」


「今ここで日帝を地図上から消してくれる」


 鼻息も荒く口々に勇ましい言葉が飛び出していく。もちろんここにいる4か国の指導者たちは、日本が銀河連邦と手を組んですでに様々な準備に入っていることなど髪の毛の先ほども知らされてはいない。宇宙からもたらされた未来技術によって日本が万全の態勢で守られているなど知る由もないまま、破滅の待ち受ける運命に飛び込んでいこうとしている。



「それではこの4か国はこの場で秘密同盟を結ぶとしよう。日本を占領した後には九州は我が国に、北海道はロシアに、本州四国は西半分を韓国で東半分を北朝鮮が支配する方向でどうだろうか?」


「異議なし」


「おお、本州の西半分が手に入るとは、我々にとって僥倖です」


「悪くない。占領下にある日本人どもは全員強制収容所に送り込んでやる」


 さらに日本がこの4か国に敗戦した後の占領区域までこの場で決定する。だがちょっと待ってもらいたい。この区域割りだと南北朝鮮があまりに優遇されすぎではないだろうか? 中国が九州、ロシアが北海道に対して韓国が本州四国の西半分で北朝鮮が東半分… どう見ても本州を手に入れる2か国の分け前が多すぎるように感じる。


 実はこれには裏があって、中国とロシアの間ですでに合意がなされている。人口の多い本州に地上軍を派遣するのはいかに中国やロシアといえども中々骨の折れる戦略。予想される人的被害や戦術物資の消耗がいかほどになるか予想もつかない。そこで韓国と北朝鮮の目の前にいかにも美味しそうなニンジンをぶら下げて地上軍を先に送り込ませておいて自衛隊と戦わせて、双方が疲弊した頃合いを見計らって西から人民解放軍の陸上部隊、北からロシア陸軍が押し寄せるという裏約束が出来上がっている。中国とロシアからすれば韓国と北朝鮮など所詮は使い捨ての駒に過ぎない。そうとも知らずに本州を手に入れたらどのように支配を進めようかなどと浮かれ切ったお花畑思考に浸る韓国大統領と黒電話頭。すべてが破滅を迎えるその時までしばらく幸せ気分に浸っていてもらいたい。


 ということで12月の半ばに中国と韓国、ロシアと北朝鮮それぞれ合同の軍事演習が組まれる運びとなる。表向きこそ軍事演習と銘打ってはいるが、その中身がいつでも日本に対する攻撃を加えられる実戦配備仕様となるはず。もちろん世界緊急放送が実際に行われて、その結果として日本を含めて世界中の反応を確認してから具体的に日本に対する攻撃の口火を切る予定。その前にもう一度4か国の首脳が北京で会合して、改めて日本侵攻の成否の可能性と国際社会の反応等を確認する手筈となる。


 こうして日本は本格的な国際情勢の荒波に否応なく巻き込まれていくのであった。

日本にとって大きな決断がなされて、速やかに銀河連邦の仲間入りが決定しました。その裏では何も知らない日本の周辺国が戦争を仕掛けてくる動きが具体化しつつあります。世界緊急放送こそ準備するアメリカは未だそれ以外の動きを見せぬままで沈黙を保った不気味な態度。このような状況ですが、次回は一気に世界中が激動の波に包まれる予定です。この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


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