324 ジジイとの交渉
ついに学院長とジジイの対面が……
熱戦が続いた模擬戦週間が終わって、迎えたこの日は土曜日。もちろん学院は休みで、生徒たちは久方ぶりにダンジョンに入ろうと朝から準備に余念がない。
だがそんな校内の雰囲気とは裏腹に、正門脇に駐車された黒塗りのワゴン車の前にデビル&エンジェルと桜のペットたちが立っている。
「主殿、無事なお帰りをお待ちしておりまする」
「ほんにその通りなのじゃ。主殿がお出掛けとなると、我らは寂しく待つしかないのじゃ」
見送りに来ているポチタマだが、殊に玉藻の前は今にもヨヨヨと泣き出さんばかりの表情。「短い時間であっても離れるのが辛い」と飼い主へのアピールに余念がない。こうして忠犬ぶりを見せておけば、桜が帰ってきた時に甘~い物がドッサリ詰まった土産をもらえるといつの間にか学習している。模擬戦週間が終わりに近付くにつれて祠へのお供え物が減ってきたので、その補填の意味もあるのかもしれない。
「ポチとタマは留守番をよろしくお願いしますよ。夜までに戻らなかったら、祠に戻っていてください。食事の時は明日香ちゃんの言うことをちゃんと聞いてくださいね」
「承知いたしました」
「主殿、お任せあれなのじゃ」
すっかり躾が行き届いているようで、ポチタマは桜がいない時には自分で祠に戻って翌朝には食堂に顔を出す。今回明日香ちゃんひとりが居残りなので、2体の大妖怪の食事の面倒は明日香ちゃん担当らしい。ただし当番と言っても天狐がカウンターに姿を現すとオバちゃんはスッとキツネうどんを差し出すし、グルメな玉藻の前はしっかりとメニューを把握しているので主食の注文は問題はない。あとは追加で売店に立ち寄って稲荷寿司や塩大福を購入する時にお釣りの間違いがないかチェックする程度の簡単なお仕事だ。
「桜ちゃん、ポチさんとタマさんのお世話は私がしっかりと務めますよ~」
「なんだか裏があるような気がしてきますわ」
普段の3倍増しくらいの笑顔で桜に向かって胸を張る明日香ちゃん。もちろん桜は明日香ちゃんの企みなどすっかりお見通しらしい。
「タマ、明日香ちゃんがデザートを食べ過ぎないようにしっかりと見張っていてください」
「わかったのじゃ」
「タマさん、どうせ桜ちゃんはいなくなるんですから、その間は無礼講ですよ~。昨日の祝勝会の続きをしましょう」
「どうせそんなことだろうと思っていましたわ」
明日香ちゃんの水たまりよりも底の浅い企みなど所詮はこの程度。桜の目を盗んで羽を伸ばそうという浅はかな考えがあっという間に露呈している。こういうウソがつけない正直な性格が明日香ちゃんの長所なんだが… ただ同じ露見するにしても、もうちょっと後からにしてもいいんじゃないかと思われる。せめて見送りが終わってから周囲に明かすのだったら、桜も余計な後顧の憂いなく出掛けられるのに。
そうこうしているうちに学院長も姿を現して、明日香ちゃんの満面の笑みと手を振る2体の大妖怪に見送られつつ、一行はワゴン車に乗り込んで学院を出発していく。
「お兄様、さすがの私も段々緊張してきましたわ」
「あの戦闘狂のジイさんが大人しくしていてくれるといいんだがな~」
「それは明日香ちゃんの大好物並みに甘~い考えですわ。あのおジイ様が目の前に現れた学院長に対して指を咥えて見ているだけとはとても思えませんの」
「ああ、確かにその通りだな。何が起きても驚かないように、今のうちから覚悟を決めておこう」
兄妹の今後の見通しに対して同乗する美鈴とカレンも首をコクコクしてしきりに同意する態度。人類の範疇を超えた両者の対面で何も起きずに済むとは誰も考えていないよう。緊張感に包まれる聡史たちとは対照的に一番後ろの座席に腕を組んで座ったまま微動だにしない学院長だけが、不気味な沈黙を保っている。
得も言えぬ緊張感が車内に漂う中、ワゴン車は外環道に入って順調に目的地へと進んでいく。それはまるでこれから起きるであろうただならぬ出来事のカウントダウンのようでもあった。
◇◇◇◇◇
学院を出発してから2時間もしないうちにワゴン車は本橋家の本家、すなわちジジイの家に到着。
「お、お兄様… 着いてしまいましたわ」
「やっぱり降りないといけないんだよな~」
「出来ればこのまま車内に残りたい心境ですわ」
「そうしたいのは山々だが、学院長の急かす視線が突き刺さってくるんだ」
ワゴン車が停車しても中々動き出そうとしない兄妹に対して、最後部の座席から「さっさと降りろ」という意味合いの強烈な視線が送られているのは聡史が言う通り。それだけで十分に命の危機を感じるような強烈な視線のビームを身に浴びつつ、聡史は已む無くワゴン車を降りる意思を固める。彼に続いて車内の全員が駐車場に降り立った。
兄妹が先導して立派な構えの門を潜り抜けると、左手に別棟の道場を見ながら母屋へと向かう。呼び鈴も鳴らさずに玄関の開き戸を空けると、聡史が大声で奥に呼び掛ける。
「お~い、バアさん、お客さんを連れてきたぞ~」
「はいはい」
声に続いてパタパタという足音が聞こえると兄妹の祖母が玄関までお出迎え。いつもニコニコしているその穏やかな表情は「よくぞあの怪物ジジイと長年連れ添ってこられた」と不思議に思う程、どこから見ても年相応の愛想のいい初老のご婦人でしかない。
「婆さん、こちらは俺たちが通っている魔法学院の学院長だ」
「まあまあ学院長先生、日頃からうちの孫たちがお世話になっております」
「突然の来訪で申し訳ない。魔法学院の学院長を務める神崎と申します」
「遠い所まで足を運んでいただいてありがとうございました。どうぞお上がりください。桜、おジイさんはまだ道場にいるから呼んできてもらえるかい」
「お婆様、わかりましたわ」
ワゴン車を降り立った時点で覚悟を決めたのか、桜はさしたる抵抗を見せずに道場にジジイを呼びに向かう。その間に他の面々は、聡史の祖母に案内されるまま客間に通される。
客間は母屋の一番東側にある部屋で、設えてある床の間にはジジイが趣味で収集した掛け軸がちょうど正面に座っている聡史の目に入る。だがそれよりも彼の目を釘付けにしたのは、床の間に何げなく置かれている別の品。見間違いようがない。そこにはダンジョンの最下層の戦利品であるムラサメ&脇差の大小が存在感を示している。仮に海外のオークションに出品すれば数億の値が付きかねない貴重なドロップアイテムを床の間に飾る… 普通の人間だったらこのような豪胆なマネはせずに、人目につかない場所に厳重に保管するであろう。まああの怪物ジジイの考えることなど常人には理解しかねるのだが、ムラサメを手にするジジイの姿を思い出した聡史はちょっと頭が痛くなってくる気がしてくる。
美鈴とカレンは刀に詳しいはずもなく大して興味を惹かれてはいないようだが、学院長は二振りの業物の尋常ならざる気配に気が付いているよう。
「ただいま冷たいものをお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
一行を客間に案内した聡史の祖母はいそいそと台所に向かう。お盆に乗った人数分の麦茶やらオシボリやらを祖母が運んでくると、すかさず美鈴とカレンが…
「「私たちがやりますので」」
「まあまあそうですか。よく気が付く娘さんたちですね~。親御さんがさぞかしご立派な方なんでしょう。桜や茜に爪の垢でも飲ませたいくらいね~」
祖母としては料理やもてなしの心遣いが壊滅的に出来ない女孫の実情を気に病んでいるよう。今のうちに有効な手立てを打っておかないと嫁の貰い手がないと気が気ではないらしい。桜の場合はまだ年齢的に多少の猶予が残されてはいるが、茜はこの秋で満22歳を迎える。いまだに料理が何も出来ないのは、もしかしたら桜よりも重症かもしれない。茜についてひとつだけ言い訳をしておけば、掃除と洗濯だけは人並みにこなせるのでその点に関しては桜よりも多少マシかも。
だがそんな祖母の何の気なしの言葉に微妙なダメージを食らっているカレンの頬がやや赤くなっている。そのセリフにあった「立派な親御さん」が実際に今目の前にいるんだから、気恥ずかしさに赤くなるのも仕方なし。常に厳しいしかめっ面の学院長と女神の慈愛を秘めたハーフ顔のカレンでは似ても似つかないのだから、祖母にとってはこの二人が実の母娘であるなど考えもつかないだろう。
「孫の学校の先生がわざわざお越しいただいてありがとうございます。二人とも無事に生活しておりますでしょうか?」
どうやら祖母殿は一般的な家庭訪問かなにかと勘違いしている模様。仮に家庭訪問ならば通常はクラス担任が訪問するはずだが、今回わざわざやってきたのは学院長。祖母殿はその辺の事情をまるッと無視して二人の学院生活の様子をなどを訪ねている。
「元気が有り余っているようだが、取り立てて問題も起こさずに生活していますね」
「そうですか。何しろヤンチャでひと時もジッとしていない孫娘なので、先生からそう言っていただいて安心でございます」
どうやら聡史に関してはさしたる心配をしていなかったらしい。もっぱらその関心は桜に向かっている。学院長からお墨付きを得たとあって安心したのか、今度は畳に額を擦り付けんばかりに頭を下げている。
「躾のできていない孫娘ですが、どうかこれからもよろしくお願いいたします」
「あっ、ああ、どうかお顔を上げてください」
「婆さん、今日は俺たちの件で学院長が来たんじゃないから。ジイさんに用事があってこうして顔を出したんだ」
「まあまあ、そうでしたか」
家庭訪問だと信じて疑わなかった祖母殿が顔を上げるが、その表情にはまた別の不安を隠しきれない様子。孫たちではなくてジジイに用事があるという聡史の言葉に戸惑いを隠せない。
そうこうしている間に玄関の引き戸が開く音が聞こえて、廊下をこちらに向かって歩く足音が聞こえてくる。障子が開いて桜が顔を出すと…
「おジイ様を連れてきましたわ」
「稽古に熱中していたせいで客人方のおいでに気付かずに、大変申し訳なかった。当家の主で闘武館師範を務める本橋権蔵と申す。以後お見知りおきを願いたい」
桜と共に客間に入ってきたジジイは畳に座ると、学院長に向かって挨拶の口上を述べている。確かにバトルジャンキーではあるが、そこは武術の師範を務めるだけあって人並み以上の礼儀を弁えているよう。
「ご丁寧な挨拶痛み入ります。当方は魔法学院の学院長を務める神崎真奈美と申します。以後お見知りおきを願います」
学院長が顔を上げると、正面に座るジジイとバッチリと目が合う。その瞬間、客間の温度が一気に氷点下まで下がったような錯覚を全員が覚えた。何しろ神殺しと怪物ジジイの初対面とあれば、その視線だけでも見えない何かがバチバチぶつかり合うのは至極当然の流れ。
「左様か。わざわざのお越し歓迎いたす。ことに欧州を股にかけて暴れ回った神殺し殿の来訪とあらば尚更。噂はかねがね耳にしていただけに、こうして相まみえたのは僥倖じゃのぅ」
ジジイの発言に学院長はおや? という表情を聡史に向ける。それは自分の二つ名を祖父に明かしていないかという確認の意味が込められている。もちろん聡史は首を横に振って否定。
「国内でその名を知っているのはごくわずかな人間だけのはず。本橋殿はどのようにして私が神殺しと知るようになったか、後学のためにご教授いただきたい」
「ガハハハッ、こう見えてもワシは海外に知人が多くてのぅ。古い友人のゲリラの指導者やテロリストの元締めたちじゃが、今ではそれなりに各地で出世しておるわい。そのきゃつらが時折情報を寄越してきおって、その中に日本人と思しき猛者がヨーロッパで暴れ回ったという話はあってな。そもそも玄関を入った時点で大きな気配を感じてはいたが、その目を見た瞬間、神殺し御当人だとピンときた次第」
「これは恐れ入りました。これでも気配を消したつもりでしたが、本橋殿には先刻よりお見通しでしたか。それよりも私のほうといたしましてもただいまのご発言で本橋殿の正体が確信出来ました。ネオ=カミカゼ殿で間違いありませんね」
「これはまた懐かしい呼ばれ方じゃのぅ。確かに一時期海外ではそのような名で呼ばれていたこともあるわい」
このジジイのセリフに一番苦い顔をしているのはご祖母様。フラッとどこかへ行って何か月も留守にしていた当時の苦労を思い出しているようだが、客や孫の手前口を結んで開こうとはしない。
「して、天下に名高い神殺し殿がワシにいかような用件かな?」
「単刀直入に申し上げます。本橋殿によるダンジョン完全攻略並びにアライン砦でのご活躍に関しては事細かに聞き及んでおります。どうかそのお力を自衛隊にお貸し願えませんでしょうか?」
「自衛隊とな? そもそもワシはゲリラ側に着いた人間ゆえ、政府組織には不慣れでしてな。果たしてそのような場違いな立場に馴染めるとも思えぬが」
「ここにおります楢崎兄妹のお身内ですから真実を明かしますと、両名とも魔法学院生でありながら自衛隊の予備役に任官しております。それゆえに、本橋殿をお迎えにこの場におります生徒たちがアラインまで出向いた次第」
「なるほど… まあ駐屯地での隊員と孫たちの遣り取りを見ていれば大方そのような事情だろうとは察しておったわい。かといってかような老体が今さら自衛隊に入っても何が出来るのかサッパリわからぬ。目の前に戦場を用意してくれるのであれば、何を置いても喜んではせ参じるがのぅ」
またまたこの発言にお祖母様が横眼でキッと睨んでいる。普段あれだけ優しい表情を見せる祖母の意外な面を目の当たりにして、聡史兄妹は動揺しまくり。あの怪物ジジイにこんな態度を取れるのは、世界広しと言えどもこの祖母ただひとりに違いない。
「本橋殿に自衛隊と直接関わっていただきたいとは申しません。その代わりに秩父に開校したばかりの第11魔法学院の学院長に就任していただきたい。これが私からの申し入れです」
「これはまた驚いたぞい。このワシに若者を導くなどといった難しい仕事が務まるとも思えぬが」
「いいえ、本橋殿には道場においてこれまで多くの門弟を指導されてきた実績があります。楢崎妹や中本学を見ればその指導法に偽りないのは明らか。是非とも魔法学院においてこれまで本橋殿が実践してきた指導を広めていただきたい。外野の余計な意見は口を挟ませません。すべて本橋殿がやりたいように進めていただきたい」
学院長の目力が熱いほどに強い。何としてでもジジイの首を縦に振らせる勢いで熱心に説得する態度。これだけ学院長に色々言われると大抵の人間は勢いに押されて承諾してしまうのだが、このジジイは言を左右にして中々応じる意思を見せない。さすがの学院長もやや手詰まりかと思われたその時、思わぬ方向から応援者が現れる。
「おジイさん、せっかくのお話ですから受けなされ」
全員がこの声の主に注目する。あまりに意外な意見を述べたのは、麦茶を手に澄ました表情のご祖母様であった。
「婆さん、ワシには道場もあるし、今更この歳で大勢の若者に何かを教えようなど、とてもそんな気にはなれぬぞい」
「何を言っているんですか。今まで散々世間様にご迷惑をかけてきたんですから、せめてもの罪滅ぼしです。若い方々の役に立ってください」
「いや『罪滅ぼし』と言われても… 現に道場で後進を育成しておるではないか」
「高々二十人程度の門弟を育てたくらいでは釣り合いが取れません。戦争で人様の命を奪った分、自分の足で立てなくなる日まで若者に力を貸す… ここまでしてやっとおジイさんのこれまでの罪とトントンでしょうに」
つい今しがたまで威風堂々としていたジジイの背中が、ご祖母様の言によって次第に小さく丸まって今にも消え入りそう。どうやら楢崎家で父親が母親の尻に完全に敷かれている理由が、聡史にはわかった気がしてくる。レベル3600オーバーのジジイにここまではっきりとモノ申せるのは、小柄でさしたる力を持たないご祖母様ただひとり。
「いや、バアさん、その…」
「その… ではありません。男ならこの場ではっきり承諾してくださいませ」
あのジジイがロープ際まで追い込まれてダウン寸前。しきりに宙に目を泳がせて、なんとかご祖母様を宥める方策を探しているよう。だがここでもう見ていられないとばかりに、セコンドの桜がタオルを投げ入れる。
「おジイ様、もう諦めたほうがいいですわ。もし今回のお話をお断りになったら今後お婆様は二度と口をきいてくれませんが、それでもよろしいんですか?」
桜の発言はジジイの痛い部分を的確に突いたようで、ひとしきり目を閉じてから改めて口を開く。
「わかったわい。学院長でもなんでも受けて立つ」
ついにジジイ陥落。すべては偉大なるご祖母様のおかげか。もっともこのご祖母様にしてみれば、ジジイに責任ある地位という重しをつけておけばフラフラ外国に出掛けたりしないであろうという、ある種の腹黒い企みが隠されている。ともあれこれもご祖母様の年の功というものだろう。真の理由など表には出さずに、上手いことジジイの首を縦に振らせた。
「ご承諾いただいて感謝いたします。実際に学院長に就任いただくのは、学院の後期の開始時にあたる10月1日となります。それまでに何度か秩父に出向いていただく用件がありますので、どうかご承知おきください」
「うむ、わかったぞい。一度承諾してしまったものについては二言はない」
ご祖母様のかなり強引な口添えもあって、想像以上にスムーズに話がまとまった。ということで腰を上げようとする学院長だが、そこにジジイから「待った」が掛かる。
「まあまあ神殺し殿、そうそう急ぐこともない。せっかくゆえに、今少しゆっくりしていけばよかろう」
「それでは学院長の仕事の説明でも致しましょうか?」
「いや、それはおいおい覚えるゆえ今は不要じゃな。さて神殺し殿、せっかくこうして顔を合わせたのだし一手交えてみるのはいかがかのぅ?」
来てしまった… 聡史、桜、美鈴、カレンの4名が思わず顔を見合わせる。ジジイが「一手交える」というからには、まさか将棋や囲碁ではないだろう。戦闘狂の血が騒いでいるのは間違いなさそう。
「ネオ=カミカゼ殿からお誘いいただくとは光栄な限り。とはいえ普通の場所では思いっきり力を発揮できぬのも事実ゆえに、いましばらく時間をいただきたい」
「うむ、構わぬぞい」
「それでは西川、すまないが適当な場所があったら異空間を設置してもらえるか」
「はい、わかりました。聡史君、適した場所の選定に付き合ってもらえるかしら」
「ああ、案内する」
こうして美鈴が聡史を連れ立って客間から出ていく。ジジイと学院長が麦茶を飲みながら世間話を始めているが、居合わせる桜とカレンは「これからどのような恐ろしい戦いが始まるのか…」と気が気でないよう。戦いなど素人のご祖母様は「精々道場で何かの組み手でも行うのだろう」と呑気に構えている。
美鈴と聡史が出ていってからかれこれ1時間近くが経過する。そろそろジジイがシビレを切らし始める頃合いになって、ようやく玄関が開く音が聞こえる。客間に姿を見せたのは聡史ひとり。
「美鈴が念入りに異空間を創設したから時間がかかった。やっと用意が出来たから」
「そうか、ご苦労だったな」
「待ちかねたぞい。では参ろうか」
ご祖母様はこの場に残して、一同は聡史の案内の元に屋敷の西側へと向かう。そこは盆や正月に親戚が集まる際の駐車場として使用されるだだっ広い空き地で、ちょっとした学校のグランド並みの広さ。その空き地いっぱいにモノリスを横倒しにしたような真っ黒な異空間がデンと広がっている。
「聡史よ、これは一体何かのぅ?」
「ジイさんと学院長がどれだけ暴れても周囲に被害が及ばないように創り上げた異空間だよ。内部はもっと広くなっているから、制限なしに力を発揮できるんだ」
「ほほう、それは面白い仕組みよのぅ。これが〔はいてく〕というやつじゃな」
「ハイテクじゃなくて魔法の力だよ」
「左様か、何でも構わぬわい。思いっきり力が発揮できるとは嬉しい限りよのぅ」
聡史から話を訊くたびに、ジジイの目が爛々と輝いてくる。日本国内ではなかなか思いっ切り暴れる場所と機会がないので、こうした施設を見て実に上機嫌な様子。対する学院長はというと…
「学院長、考えうる限りの強固な異空間を設置しました」
「西川、ご苦労だった。すぐに内部に入れるのか?」
「学院長とおジイ様には個体を認識するパスを付与しましたから、出入りは自由に可能です」
「そうか、では行ってくる」
そう言い残して横倒しのモノリスに入っていく学院長。ちなみに本橋家訪問時はスーツ姿であったが、部屋を借りて着替えたおかげで今は戦闘服を身にまとう。ジジイとの手合わせを前にしてすっかり用意万端な様子。
「ワシも参るぞ」
「ジイさん、ヤリ過ぎないように気を付けてくれよ」
聡史に見送られてモノリスに姿を消すジジイ。果たしてこの先異空間の内部でいかような戦いが繰り広げられるかは、現時点ではまったく予想がつかないのであった。
仕事の忙しさも徐々に落ち着いてまいりました。お盆に差し掛かる頃にはいつものペースで投稿できそうな見通しです。皆様にがあと少しの間ご迷惑をおかけしますが、もう少々お待ちください。
話の内容に関しては、聡史兄妹の祖母の力で学院長就任を認めたジジイ。ところが大方の予想通りに学院長との対戦が始まることになって異空間に姿を消していく。果たしてその空間内でいかような対決が行われるのか。そしてそのあり得ない程の意外な結末とは…… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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