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323 チーム戦決勝と依頼

再び投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

 実力通りというか、圧倒的な強さで他を寄せ付けないままにベスト4まで勝ち上がったデビル&エンジェル。どのようなフォーメーションを用いようが、そのあまりにも隙のない戦闘ぶりに他のパーティーは戦う前から白旗を揚げても誰からも文句は出ないだろう。


 だがこの連中は一味違う。デビル&エンジェルのあれほどの戦いぶりを見せつけられれば、当然実力の比較では天と地ほどの開きがあるのは承知の上。それでも飽くなき勝利を目指してひたすら前進しようという意志を手放してはいない。最大の敵は仲間内に在りを地でいくような大層な思惑を秘めているのは、ブルーホライズンと頼朝たちであった。それではここで両パーティーがどんな具合に勝ち上がったかをひとまずは確認しておこう。


 デビル&エンジェル同様に昨年の八校戦の覇者であるブルーホライズンはシード枠に入っており、さほど苦戦せずにベスト4まで勝ち上がっている。1、2回戦はCクラスとBクラスのパーティーを難なく退けて、迎えた準々決勝の相手はAクラスの最上位パーティー。しかもこのパーティーは専門の魔法使いに加えて剣と魔法両方を使いこなすメンバーが3名在籍という、普通に考えると相当な難敵と言って差し支えない。


 だがブルーホライズンは真美によって統率された抜群のチームワークと、盾を巧みに操って防御と攻撃を自在に使い分ける美晴の突進力で戦前の予想をはるかに上回る楽勝ぶりを見せつける。もちろん美晴ひとりでどうにかしたわけではない。彼女の活躍の裏には常にその動きをフォローする渚や、相手の魔法を妨害して無効化していく千里の鮮やかな手際が光ったのは言うまでもない。そして美晴が突破して作った敵側の陣形の穴に素早くほのかと絵美が侵入して討ち取っていく。彼女たちの強さが本物だということを今大会でも如何なく発揮している。


 対して頼朝たちは、身内同士の血で血を洗う激戦を勝ち上がってきた。彼らの1回戦はBクラスのパーティーが相手で、一方的に飛んでくる魔法を全て気合いで撥ね返しつつ、最後には力業で押し潰すという凄まじい勝ち方を披露する。六人の相手に対して頼朝たちはたった四人。しかも魔法使いがひとりも在籍していない不利にも拘らず、有り余る力で制圧するという勝利を収めた。


 ここまでは頼朝たちのレベルからしてまずまず順当と評価していい。次に迎えた2回戦は同じクラスの〔ろくでなしブルー〕に少々手を焼きながらも撃破。そして準々決勝では頼朝たちのパーティ〔赤い肉の壁〕は、なんと安田率いる〔青い肉の壁〕と激突した。その名の通り桜に鍛え上げられたEクラス男子のもうひとつのパーティーとの対戦となっており、手の内がわかっている両者たちは骨肉の争いを演じる。ちなみにパーティー名〔赤い肉の壁〕〔青い肉の壁〕は桜が適当に命名したもの。苦情は一切受け付けていない。誰が見ても酷いネーミングだと思うのだが、彼らにとってはボスからもらった大切な名前。どうやら全員が真剣に誇りに思っているよう。


 互いに気合いと気合がぶつかる激しいバトル。一歩も引かない肉弾戦を最後に勝ち抜く要因になったのは元原の捨て身の一撃。どうやら一度死を迎えた元原はその分だけ根性が据わったらしくて「死中に活あり」を体現したかのような見事な剣捌きで田川をノックアウトに追い込んだ。セクハラ騒動で思いっきり株を落とした元原だが、この試合で少しだけ汚名を返上したのは言うまでもない。


 そこから一気に均衡が崩れて、結果として頼朝たちが苦戦しながらも勝利を収める。この同門対決をスタンドで観戦した生徒たちの間には、思わずため息が漏れ出すのは当然かと。それほど息をつく暇もないハイレベルな戦いであった。


 熱戦を制して控室に戻ってきた頼朝たち。いまだその熱気が冷めやらぬ雰囲気の中肩で息をしながらも、たった今終わったばかりの試合を振り返っている。



「いや~、やりにくかったけど、なんとか勝ちを収めたな」


「俺たちってひょっとして自分で考えている以上に強いんじゃないのか」


「そうだな~… こうなったら真剣に優勝を目指してみるか」


「優勝か~… なんだかいい響きだぞ」


「そうだ、ここまで来たら優勝を目指さないでどうするんだ」


「おう、目標は優勝だな」


「絶対優勝するぞ」


「優勝だ」


「「「「優勝だ、優勝だ、優勝、優勝、優勝だ~!」」」」


「召喚士様に近づいてはならぬぞ」


「うるせえ、クソババア」


「近づいちゃいけないんです~」


「やかましい、ガキはクソして寝てろ」


 ノリノリの勢いに任せてとある名作RPGの一場面をさりげなく再現している。しかも夜の宴に出てくるモブのセリフまで加えているとは芸が細かいではないか。ただし原作にはない主人公の心の声をわざわざ口に出す必要があるのかについては、少々疑問の余地が残る。老人と子供は大切にしなければいけないから、良い子は絶対にマネしちゃだめだぞ。






   ◇◇◇◇◇





 そしていよいよ迎えた準決勝。第1試合に登場するデビル&エンジェルに対して、こちらもヤル気満々の赤い肉の壁… のはずが、昨日あれだけ盛り上がった勢いなどどこへやら。彼らの自信が崩れるのはあっという間であった。試合開始の合図を前に各々がフォーメーション通りの位置に着いた瞬間、メンバー全員の表情が真っ青になる。



「もしかしてとっても不味いことになっていないか?」


「見りゃぁ~わかるだろう」


「俺たちは優勝どころか、絶体絶命の窮地に陥っている」


「なんで急にこうなるんだよ~」


 口から洩れるのは泣き言ばかり。それも無理はないだろう。開始戦を挟んで立っているデビル&エンジェルにおいては、ここ2試合連続でリーダーポジションを引き当てて一向に活躍の場がなかった桜。だがこの試合に限っては見事に最前線をゲットしているのだから。



「よりによってなんで俺たちの試合の時だけボスが最前線に立っているんだよ」


「終わった… ここまでの努力が全て水泡に帰った」


「無理に決まっている。あんなヤル気に満ちた目をしているボスにどうやって勝つんだよ~」


 蛇に睨まれた蛙もかくのごとし。戦う前から頼朝たちは戦意喪失気味。対する桜はと言えば、両手に嵌めるオリハルコンの籠手をカツカツ打ち鳴らしては、気合十分の表情。



「フフフ、なんだか大暴れの予感がしてきますわ。念仏を唱える暇も与えませんわよ」


「ボス、なんとかそこはお手柔らかに願えませんでしょうか?」


「ムリですわね~。ちょっとした空中遊泳を楽しんでもらいますわ」


 気合い満タンの桜が試合前から腕捲りして待ち構えているのだから、さすがに頼朝たちには為す術がない。そして開始の合図とともに桜がダッシュした時点で勝敗は決したも同然。あれだけ見事な戦いを見せてきた頼朝たちだが、横田の、元原の、足立の体がポンポン宙に放り出されて討ち取られていくのはあっという間。抵抗する暇も与えずに、桜によって瞬殺される。今までの鬱憤を晴らすかのようにフィールド上を特大の暴風が荒れ狂っているおかげで、聡史以下他のメンバーが何もする必要がない。たった四人しかいない相手を、秒単位で全自動戦闘マシーンと化した桜が勝手に片付けていく。


 開始からわずか10秒で残るはリーダーポジションを務める頼朝だけ。もちろん桜にとってはオイシイ獲物にしか見えない頼朝を逃すはずもなく、呆気なく天高く打ち上げられて終わっている。



「そこまで、勝者、デビル&エンジェル」


 スタンドで見ている生徒たちのほうが呆気にとられる桜による蹂躙劇だったかもしれない。あれだけの強さを見せた頼朝たちだったが、桜にかかるとまるで赤子の手を捻るように倒されるのだから、さもありなん。



「別格過ぎる。本当に俺たちと同じ人類なのか?」


「個人戦から除外された理由が頷ける。あんな怪物とどうやって戦えばいいのか、まったく意味がわからない」


「いや、逆に上空20メートルまで打ち上げられて自力で立ち上がるだけでも凄いんじゃないか?」


「俺たちだったら間違いなく即死か、神様が味方に付いてくれればギリギリ命を取り留めて療養棟送りだろうな」


 生徒たちの心の中に浮かぶのは「見てはいけないモノを見てしまった…」という後悔の念かもしれない。確かに頼朝たちは強かった。だがそれは所詮人間レベルの尺度で測れる強さに過ぎない。その点、桜の強さは人類の範疇をあっさりと越える。人に非ざるその強さを見てしまってギャラリーが息を呑むのも無理からぬこと。


 しかしここで考えを止めてしまうのが凡人の悲しい定め。実は世の中には学院長やジジイといった神にさえ互角以上に抗える真の怪物が存在することをこの場の誰もがいまだ知らない。これはもしかしたら一生知らない方が幸せなことなのかもしれないが…



 さて、準決勝のもうひと試合はブルーホライズンが同じEクラスの〔ミサイル社中〕を下して勝ち上がる。ここまでトーナメントを勝ち上がってきたミサイル社中もバランスのとれた良いパーティーなのだが、やはりそこはブルーホライズンが一枚も二枚も上手であった。その結果決勝戦はシードされた両パーティーの対決と相成る。


 決勝進出を決めたブルーホライズンといえば…



「やっと師匠に私たちの力を見てもらえるわね」


「師匠に胸を借りるなんて、今から明日が楽しみで仕方がないぜ」


「思い切って私たちの力をぶつけましょう」


 真美を中心になんだか盛り上がっているよう。決勝という晴れの舞台で聡史に自分たちの力を見てもらえる… それだけで彼女たちの胸は高鳴る想いでいっぱいらしい。ここまで来たら勝敗は度外視して、自分たちがどこまで聡史に対して通用するのか試そうというのが、決勝に臨むブルーホライズンの一致した考えであった。






   ◇◇◇◇◇





 そして日が変わって、翌日はいよいよチーム戦トーナメントの決勝を迎える。


 第1試合で行われた1年生の決勝は、戦前の予想通りにブービートラップが圧倒的な勝ちを収めている。そもそもこのパーティーには個人戦トーナメントの優勝者とベスト4進出者、そこに加えて魔法部門の第1位が在籍するのだから、負けるほうがおかしな話。文字通りの圧倒的な勝利を挙げている。


 優勝者に対するスタンドの歓声が収まると、フィールドに登場してきたのはデビル&エンジェルとブルーホライズン。観客席はどのような対戦が始まるのかと水を打ったような静けさに包まれる。



 挨拶が終わって各自が所定の位置に散っていく。本日のデビル&エンジェルのフォーメーションは聡史が最前線で、両翼にはカレンと桜、ひし形の底の位置には美鈴が立ってリーダーは明日香ちゃんという配置。この陣形を見て取ったブルーホライズンは…



「よ~し、これで思いっきり師匠にぶつかれるぜ」


 盾を構える美晴が武者震いしている。もちろん他のメンバーもまずは最前線に構える聡史を攻略しようとアイコンタクト。



「試合開始ぃぃ」


 合図とともに美晴が突進開始。当然そうくるだろうと予測していた聡史は、怪我させないようにいい感じに手加減した剣を振り下ろしていく。カキンという金属音を響かせて一瞬の膠着状態を見せる両者。その隙を狙って横から渚が槍の穂先を聡史に向けて迫る。横目で渚の動向を追っている聡史は美晴を押し戻すと難なく渚の槍に対処して大きく打ち払う。


 押し返された美晴は再度聡史に向かってアタックを敢行するも、前進しようと踏み込む瞬間に聡史の前蹴りをまともに盾に浴びせられて後方に吹き飛ばされていく。



「美晴、いつも言っているだろう。不用意に一歩目を踏み出すと思わぬ角度から反撃を食らうぞ」


「イテテテテ… 師匠には見透かされていたか」


 再度立ち上がるも、聡史に仕掛けようとするたびに何度も弾き返される。もちろん横合いから槍を振るってくる渚も聡史に簡単にあしらわれており、どうにも手も足も出ない様子。それならばと、更に絵美とほのかまで加わって4対1で聡史に向かっていく。その上隙を見て千里が魔法まで放ってくるものだから、聡史は一度に五人を相手にする形。試合中もモテモテぶりが止まる所を知らないよう。


 対してデビル&エンジェルの他のメンバーは、聡史とブルーホライズン間に水を差すつもりはないよう。すっかりお任せ状態で一向に動こうともしない。リーダーポジションの明日香ちゃんに至っては、台の上に座り込んでボケッと成り行きを眺めているだけ。ちょっとくらいは指示を飛ばすとか、何か仕事をしてもらえないだろうか。



「それではここから、より上級のレッスンだぞ」


 宣言通りに聡史が一気にギアを引き上げると、ブルーホライズンは五人掛かりのはずなのに守勢一方の様相。いいように聡史に攻め込まれて必死でその剣を捌いてはいるが、もうこの段階で彼女たちにはまったく余裕がない。



「渚、槍を引き戻すのが遅れている」


「キャ」


 素人目にはわからない極々わずかな隙を突いて聡史が渚の懐に飛び込むと、空いている左手で鳩尾に当身を入れる。聡史としては十分に手加減したつもりだが、渚はそのまま白目を見て倒れ込んだ。



「ほのか、追い込まれると盾が下がっていく癖が全然直っていないぞ」


「キャ」


 懸命に身を守ろうと、猛烈な勢いで振るわれる剣を小楯で受けるほのかだが、その指摘通り徐々に構える盾の位置が下がってくる。そのまま聡史に回り込まれて下がった左手を掴まれて足を払われると、その体は宙で一回転して芝生に叩き付けられた。ほのか撃沈。



「絵美は追い込まれると大振りになる癖を何とかしろ」


「キャ」


 ミエミエの大振りな攻撃など聡史からしてみれば「避けてください」と言われているも同然。槍の穂先を剣で払うと、力を込めた分だけ絵美の態勢が余計に崩れる。その隙を突いて接近すると、聡史は左手で持ち手の部分を掴んで絵美から槍を取り上げている。そのまま剣を顔の前に向けると、絵美は参ったをするしかなかった。



「食らえ~」


 その時背後から気合いが乗った声が響いてくる。声の主はもちろん美晴で、聡史に向かってシールドバッシュを試みようと接近。だが聡史がその身をヒラリと躱すと、目標を失った美晴はたたらを踏みながら急停止。もちろんそんな隙を聡史が見逃すはずもない。冷静な表情のまま背中に剣を突き付ける。


「美晴、攻撃を躱された後のことも考えろよ」


「ま、参りました」


 こうして前衛四人を片付けると、今度は聡史に向かって10発まとめて氷弾が迫ってくる。



「シールド展開」


 咄嗟に聡史が左手でシールドを構築すると、すべての氷弾は勢いよくぶつかるもそのまま芝生の上に落ちていく。魔法の技能や術式の豊富さでいったら、今は千里の方が聡史よりも上であろう。だが両者のレベル差が大きすぎて、千里が放った魔法は聡史には届かない。



「アイスボール」


 聡史はたった1発だけ、千里に向けて魔法を放つ。



「シールド展開」


 もちろん千里も聡史の魔法攻撃に対応しようと最大級の魔力でシールドを構築する。だが聡史のアイスボールは、千里が展開したシールドを打ち破ってフェイスガードに直撃。千里は目を回して倒れていく。


 そして聡史はゆっくりと最後のひとりとなった真美がいる場所に。リーダーポジションで両手に2本の剣を構える真美に迫っていく。



「師匠、最後の砦は私が守り切って見せます」


「その意気だ。かかってこい」


 真美が繰り出す細剣がフル回転で襲い掛かるが、聡史は涼しい顔をしながら右手一本で捌く。



「まだ左の剣の威力が足りないぞ」


「あっ」


 カキンという音と共に真美の左手の剣が遠くに弾き飛ばされていく。残った一本の剣で懸命に聡史に抗おうとする真美だが、こうなるともうどうにもならない。残った剣も聡史に弾き飛ばされて、真美は降参した。



「そこまで、勝者、デビル&エンジェル」


 勝ち名乗りを受けると、聡史はパーティーメンバーの元に戻ってくる。代わってカレンが、芝生に転がったままの渚とほのかの元に駆けつけて手当てを開始。千里はなんとか自力で起き上がっているよう。



「お兄様、何をそんなニヤケ顔しているのですか?」


「いや、ブルーホライズンが想像よりもずっと強くなっているのが嬉しくて、ついつい指導に熱が入ってしまった」


「試合中に稽古をつけるとは、お兄様も人が良すぎですわ」


「まあ、そう言うな。俺の元に押し掛けてきた可愛い弟子たちだからな~」


 そう言いつつ聡史は起き上がった渚たちに優しげな表情を向けている。



「渚、ほのか、千里、すまなかった」


「師匠、大丈夫です」


「これくらいのダメージはいつものことですから」


「そうか、逞しくなったな」


「いえ、師匠、ありがとうございました」


「改めて師匠の強さを認識しました」


 何とか一太刀でも浴びせようと懸命に立ち向かってきた彼女たちだが、どうやら師の壁はまだまだ厚いよう。それでもこうして日に日に強くなっていくブルーホライズンが聡史にとっては嬉しいのであった。こんな師弟愛に満ち溢れた試合後のフィールドに、後方から場違いなトーンの声が響く。



「ヤレヤレ、やっと試合が終わりましたよ~。座って見ているだけなんてラクチンで良かったです」


「明日香ちゃんが今回の模擬戦週間でヤル気を見せたのは、ほんの一瞬だけでしたわね~」


「桜ちゃん、そんなことはありませんよ~。私は常にヤル気に満ちています。さあ、これから祝勝会を開始しましょう」


「まったく明日香ちゃんはそんな時だけ張り切るんですから、呆れてモノが言えませんわ」


「いいじゃないですか。桜ちゃん、早く食堂に行きましょうよ~」


「まだダメですわ。3年生の試合と表彰式がありますから」


「急にヤル気が無くなりました。もうどうでもいいです」


 試合後のおやつだけが楽しみだった明日香ちゃん。急にヤル気を失って相当ヤサグレている模様。このまま放置しておくと昨年に続いて表彰式をボイコットしそうな勢いなので監視の目を緩められない。そんな厳重監視下に置かれた明日香ちゃんを引き連れて、ひとまずデビル&エンジェルは控室に戻って装備を解いて表彰式に備えるのだった。


 なおこの後3年生の決勝戦が行われたが、谷間の世代と呼ばれて… 以下略。






   ◇◇◇◇◇






 部屋に戻って昼寝がしたいと駄々をこねる明日香ちゃんを何とか宥めつつ無事に表彰式が終わる。この娘には優勝の栄誉や表彰の際の歓呼の声など、昼寝以下の価値しか見いだせないらしい。ブーブー不満を述べる明日香ちゃんだが、一旦休息を挟んでようやく迎えた夕食のひと時。先程とは打って変わってその表情がピカピカに輝いている。



「さあ皆さん、祝勝会ですよ~。無礼講ですよ~。お腹いっぱいになるまでデザートを味わいますよ~」


「明日香ちゃん、ずいぶん羽目を外しているようですけど、色々と大丈夫なんでしょうね~」


「桜ちゃん、江戸っ子は宵越しのお金は持っていないんです。祝勝会くらいは日頃の疲れを忘れてパーッと楽しみましょう」


「誰が江戸っ子なんですか? 宵越しのお金はなくても、脂肪は毎晩溜まりっ放しじゃないですか」


 こんな感じで意味不明の供述をしつつも、食事が終わった明日香ちゃんの目の前には大好物のパフェが2つ置かれている。今日は体重を気にせずに心行くまで味わう所存らしい。


 そのまましばらく歓談していると、カレンのスマホに着信が…



「はい、わかりました」


 通話を終えると、カレンがメンバーたちに向き直る。



「母からの呼び出しです。パーティー全員で学院長室に来てもらいたいそうです」


「なんだかイヤな予感しかしないですわね~」


「桜ちゃん、私はここに残りますよ~」


 明日香ちゃんは2種類のパフェを堪能し終えるまで絶対にこの場から離れないという熱い想いを主張。まあどうせ連れていっても話などテンで聞いていないんだからこの場に放置が決定。残った四人は席を立って学院長室へ。ドアを開くと、すでにソファーに腰を下ろす学院長が意味ありげな表情でスタンバっている。



「試合後というのに急に呼び出して悪かったな。取り急ぎ伝えておきたい用件があった」


 もちろんその表情には「悪かった」などという感情は微塵も表れていない。四人は「なんの用件だろう」と不安な面持ちで身を固くしている。



「まずはこちらの件から先に片付けようか。実は魔法学院対抗戦の実行委員会から要請があった。個人戦トーナメント終了後にエキシビションマッチをやってもらえないかという依頼だ」


「エキシビションマッチですか? 一体どのような目的で試合を行うのでしょうか?」


「ほれ、昨年楢崎兄妹がど派手な戦いを繰り広げただろう。今年は特待生が個人戦に不参加だから、エキシビションマッチという形式でもう一度あの試合を見せてもらえないかという趣旨のようだ」


「なるほど、どうしようかな…」


 聡史が考えこむ風だが、その思案をぶった切るかの勢いでこの娘が口を開く。



「学院長、せっかくの申し出ですが、私とお兄様ではすでに勝負付けが済んでおりますわ。今更ヤレと言われましても、私には試合を行う意義が見出せません」


「ほほう、桜よ。ジャンケンとあっち向いてホイに勝っただけで『勝負付けが済んだ』なんていう偉そうな口をほざくんだな」


「お兄様、それだけではありませんわ。過去一度も私に勝っていないのですから、今更メリットを見出せません」


「ぐぬぬ」


 実際に桜の言う通りなのだから、聡史が言葉に詰まるのも致し方なし。



「そうか、楢崎妹が珍しくヤル気がないのなら、この話は断るとしようか」


「学院長、ちょっと待ってもらえますか」


 ここで横から割り込むように口を挟んできたのは美鈴。聡史、カレン、桜の三人が「何事か?」と驚いた表情を向けるのも無理はない。



「西川、何かあるのか?」


「もしよかったら、私と桜ちゃんでエキシビションマッチを組んでもらえますか。昨年の格闘部門の優勝者と魔法部門の優勝者の対戦でしたら、エキシビションマッチとして十分に注目を集めると思います」


「おやおや、これは面白いですわね~。美鈴ちゃんとでしたら心行くまで戦いを楽しめそうですわ」


「ほう、楢崎妹も賛成か。よし分かった。二人の対戦という形式で実行委員会には連絡しておく」


 学院長があっさりと了承する様子を見て、聡史とカレンが慌てて声を出す。



「美鈴、いくら何でも無茶が過ぎるんじゃないのか。相手は桜だぞ」


「お母さん、さすがにこの対戦はどうかと思います」


 自らを諫めるかの如くに意見をする二人に対して、美鈴は「何をそんなに慌てているんだろうか?」という不思議そうな表情を向けている。



「二人とも、そんなに心配しないでも大丈夫よ。私だってしっかりと弁えているんだから、エキシビションマッチでルシファーに変身したりはしないわ」


「美鈴ちゃん、私としては全力を出していただいても構いませんのよ」


「地球が破滅するだろうが。ダメ、絶対!」


 桜は大阪の地でラグナロクを引き起こすつもりなのか? そんな思いに駆られた聡史が大慌てで止めに入る。いくら桜と言えども、相手は銀河の最高神の一柱。さすがにルシファーさんに立ち向かおうなどという無茶を仕出かす前にしっかりと釘を刺さなければ… このような気持ちゆえの慌てぶりに相違ないだろう。


 だが聡史とカレンの心配などまるッと無視して学院長が結論を下す。



「楢崎、カレン、本人たちが了承しているんだから外野は口を挟むな。エキシビションマッチは楢崎妹と西川の対戦に決定する」


「はい、わかりました」


 学院長に凄まれては、聡史もこれ以上モノ申す気にはなれない。ということで魔法学院対抗戦の舞台で桜と美鈴のある意味異種格闘技のような対戦が組まれることが決定する。そして…



「さて、用件はひとつ片付いたな。そこで次の案件なんだが」


 学院長の表情は冷静なまま。逆にその表情が怖いと感じるのは、聡史だけではないはず。



「急で済まないが、明日本橋殿と面会する。すでにアポは取ってあるから、この場にいる4名は私と同行してくれ」


「やっぱり…」


「イヤな予感の正体はこれだったか…」


「絶対にもっと前に決まっていたはず…」


「私たちが断りにくい直前というタイミングを選んだのは間違いないわね」


 四人とも顔色が真っ青を通り越して白っぽくなっている。表情はすっかり抜け落ちてお揃いの能面のよう。ともあれこうして否応なく明日、ジジイの家への強制連行が決定するのであった。 

どうもこのところ仕事が忙しくて、まともに執筆の時間が取れずにおります。おそらくお盆のお前には一段落する者と思っておりますので、夏休み後半にはこれまでのペースでの投稿が出来るのではないかと予想しています。


話のほうはいよいよ学院長とジジイの対面が行われる模様。どう考えても無事には終わりそうもない一大イベントの先行きは…… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


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