322 チーム戦開幕
再び投稿間隔が開きまして申し訳ありませんでした。
桜によって景気よくブッ飛ばされた元原と横田は、カレンの手当てで体を元通りにされてから療養棟に運び込まれる。最初のうちは体を大きく痙攣させたりうわ言とも呻き声ともつかない異音を発していたが、精神を安定させるための薬物投与によってそれも治り翌朝までグッスリと眠っていた。そして夜が明けて…
「ふわぁ~… よく寝たな~」
「元原も目が覚めたか。俺も普段よりもなんだか気持ちよく眠れた気がするぞ」
一晩経ったらなんだか元通りになっている両名。これは嫌な予感しかしない。
「なんだか腹が減ってしょうがないな~」
「そうだな、朝メシでも食いに行こうか」
こやつらは学生寮でも同室なので、てっきり自室で目を覚ましたと勘違いしている模様。だが周囲を見渡すと、そこはなんだか違う部屋のようだと彼らにも理解が及んでくる。
「どう見ても病室みたいだけど、俺たちに何が起きたんだ?」
「いや、まったく覚えていない」
Eクラスを代表するアホ二人は、俗に言われる「三歩歩けばすべてを忘れる」というニワトリ並みに立派な記憶力を所持している。すっかり体の怪我が癒えてグッスリ眠ったら、もう昨日の出来事など頭から消え失せているらしい。しかもコイツら、日々桜に鍛えられたおかげで精神耐性のスキルはマックス。そのおかげで尋常でないくらいに立ち直りが早い。どうやら桜は、知らず知らずのうちにとんでもないエロエロ怪獣を育て上げてしまったらしい。
「まあいいか、さっさと寮に戻ってメシを食いに行こうぜ」
「そうだな、きっとまたチーム戦の訓練だろうから、カレンさんのプルンプルンのオッパイを堪能できそうだし」
「脳内コレクションの画像が増えていくな~」
さすがと言えよう。あれだけの目に遭った昨日の悪夢などすっかり忘れ去って、今日も自らの欲求を満たすエロの道に邁進する所存を隠そうともしない。欲望のためなら命すらも厭わない… いや、むしろ「我が生涯に一片の悔いなし」(キリッ)とばかりに欲望さえ満たされるのであれば命を失っても笑いながら逝くはず。
そんなアホの両者は、療養棟の関係者に何も告げることなく病室から姿をくらまして、食事を摂ってからシレっとした表情でEクラスの訓練に混ざるのであった。
◇◇◇◇◇
日曜日の訓練は翌日に疲れを残さないように午前中で終了して、午後は各自が自由に過ごすこととなる。
昼食を終えると、桜は学たちに請われてブービートラップの戦術の仕上がりに付き合い、カレンは歩美の回復魔法の手解きのため姿を消した。明日香ちゃんは冷房が効いた自室で昼寝をするといって戻っていき、食堂に残るは聡史と美鈴だけ。ここで美鈴が聡史に何やらお願いを始める。
「聡史君、仮に私がチーム戦で前衛を務めるとなった際にちょっと試したい術式があるの。その構築のために聡史君からアドバイスをもらいたいんだけど」
「俺から術式のアドバイス? 今更美鈴の参考になるものがあるとも思えないが」
パーティーを組んだ当初は聡史が美鈴に色々と魔法に関して教える場面が多かったが、ルシファーさんが目覚めてからは美鈴の魔法に関する知識は聡史を軽く凌駕しており、今さら何を教えるのかと疑問に思うのも当然。だが美鈴は当惑する聡史などお構いなしのよう。
「いいからこの場で意見を聞かせてよ。聡史君に解説してもらいたいのはこの件なの」
美鈴はスマホで何かを検索して表示された画面を聡史に見せる。スマホを手渡された聡史だが、そこに表示されている内容があまりに意外で少々驚いた表情を向けている。
「美鈴、いきなりイージスシステムの概要なんてページを見せてきてどうするつもりだ?」
驚いた表情を向ける聡史に美鈴は手放しで喜ぶ態度。どうやら聡史ですら思いつきもしない魔法が完成しそうだと、シメシメといった顔に変わっている。
ちなみにイージスシステムとは、主に対艦並びに対地ミサイル迎撃システムの総称。近頃は弾道ミサイルの迎撃に関する研究が進み、大気圏外から超音速で落下してくる核ミサイルを宇宙空間で撃ち落とそうという困難な課題に関する開発が様々な方向から推し進められている。
「まあいいから、ここに書いてある以外で聡史君が何か知っていることがあったら教えてもらいたいのよ」
「そうは言っても大体このサイトに書いておる通りだと思うぞ。俺もそこまで詳しくはないからな」
「それじゃあこのイージスシステムを構築する際に最も必要とされるのは何かしら?」
「そうだなぁ~… 人工衛星や早期警戒機、地上レーダー、作戦中の船舶や航空機すべての情報を光速でリンクしつつ統合して… ともかく作戦群から後方の参謀本部まで一体化して情報共有を図る点かな。あとは攻撃目標の振り分けを迅速に実行する点とか」
「なるほどね~、情報収集にあたる箇所が多ければ多い程、より精度が高い情報が収集可能よね。さらに攻撃目標の振り分けね。フムフム」
「だがデメリットもあるぞ。膨大な情報を収集して統合するとなると処理しなければならない項目が多岐に渡るから、システム自体はどんどん複雑化してくる」
「そうか、情報処理の速度も考えていく必要があるのね。わかったわ」
「美鈴は何を創り上げようとしているんだ?」
「それは出来てからのお楽しみ。もしかしたらチーム戦でお披露目するかもしれないわ」
「そうなのか、まあ出来上がりを楽しみにしているよ」
「任せておいてね。それじゃあ私はちょっと部屋に籠るから」
どうやら美鈴は早速術式の構築を始めるらしい。席に座っている聡史に向かって右手をヒラヒラさせて食堂を出ていくのであった。
◇◇◇◇◇
この日の夕食後デビル&エンジェルは特待生寮に集結しているが、何やら様子がおかしい。テーブルに置かれた一枚の紙を全員が見つめて複雑な表情。そしてその沈黙を破るかのように聡史が切り出す。
「本当にこのフォーメーションでいいのか?」
「お兄さん、私はいいですよ~。暇そうなポジションですから大歓迎です」
自分が楽をできれば何でもいい明日香ちゃんはまったくの無責任な態度を表明。こと模擬戦に関しては本当にヤル気がないように見受けられる。
「明日香ちゃん、少しくらいはヤル気を見せでください」
「桜ちゃん、私は誰が何と言おうとも模擬戦はイヤなんです。去年の出来事にまだ納得がいかないんですよ~」
一所懸命に負けようと頑張った昨年の模擬戦… その結果学年優勝を果たした挙句にふて寝して表彰式をボイコットした記憶がいまだに明日香ちゃんの胸の奥にわだかまっているらしい。まあどうでもいいんだけど。
「カレンはどう思うんだ?」
「私はアミダクジの言い出しっぺですから、敢えて何も言いません。それよりも美鈴さんはいかがですか?」
「まあこうなったら仕方がないわ。試合で試したい術式がまだ未完成だから、私は部屋に戻るわね」
と言いつつ、さっさと聡史兄妹の部屋を出ていく美鈴。明日香ちゃん以外の面々はその態度に顔を見合わせる。
「美鈴ちゃんはなんだか燃えていますわね~」
「昼間に新しい術式のヒントを俺に相談してきたからな~」
「美鈴さんが聡史さんにですか。一体どのような術式を考えているのか、ちょっと興味が湧いてきますね」
「桜ちゃん、なんだかデザートのお代わりが欲しくなってきましたよ~」
明日香ちゃんだけ明らかに温度が違う。三人は呆れ顔で明日香ちゃんを見つめるが、当の本人はまったくお構いなしの様子。こうしてこの日は解散となって、明日に迫ったチーム戦に備えるのであった。
◇◇◇◇◇
週が明けて、模擬戦週間も後半に差し掛かる。この日がチーム戦の開幕とあって、第1試合に登場するデビル&エンジェルは控室に入って試合の準備を始めている。だが聡史の表情はなんだか冴えない。
「本当にこのフォーメーションでいいんだな?」
「お兄様、私としても大変不本意ではありますが、決まってしまったのもは仕方がないですわ」
「聡史君、それはもしかして私に不安があるとでも言いたいのかしら? 何とか初歩的な術式は完成したし、初運用を楽しみにしているんですけど」
桜は無念を滲ませながら、そして美鈴は憤懣やるかたないという表情で聡史に返事をしている。美鈴はともかくとして模擬戦を前に最も張り切るはずの桜がこんな表情を浮かべるなんて、一体どのようなフォーメーションに決まったのだろう。その横ではカレンが黙々と防具を整え、明日香ちゃんはいかにもヤル気なさげにため息をついている。
「もう試合は目の前ですわ。つべこべ言わずに勝つことだけを考えましょう」
「まあこの試合に関しては桜が相手を怪我させる心配がないから、その点だけは気が楽だな」
「お兄様、私を何だと思っていらっしゃるのですか? 時と場合に応じてしっかりと力を使い分けていますわ」
「その割には一昨日、元原と横田をとんでもない目に遭わせていたようだが」
「あれはセクハラのペナルティですから、まったくの別勘定ですの」
横田は三途の川の一歩手前、元原は完全に川向うまで逝ってしまった桜の過激な処罰ではあったが、カレンのおかげで両名とも無傷で復活している。この両名に関しては「さすがは数々の狂気に満ちた試練を乗り越えてきただけのことはある」と周囲も感心しきりの様子。何事もなかったような表情でチーム戦に参加しているその姿は、あの頼朝すら驚きを隠せないらしい。
周囲はエロコンビが表面上は大人しい様子にすっかり油断している。あれだけの目に遭えば心を入れ替えるだろう… そんな安心感がEクラスを支配している。だが記憶力の悪さと強靭な打たれ強さのおかげで完全復活を遂げている横田と元原のコンビは、今後とも性懲りもなく己の煩悩のままに新たなセクハラ道を歩み始めるのは間違いないだろう。
さてチーム戦のトーナメントには32組のパーティーがエントリーしている。その内訳はA~Eクラスから平等に6チームずつ選出し、残りの2枠は個人戦で上位入賞者が多いクラスに配分される。よってAクラスとEクラスからは合計7チームがエントリーするという形になる。だがAクラスは人数の都合でプラス1を辞退しており、その分はBクラスから補充される。ちなみにデビル&エンジェルはAクラスとEクラスの混合パーティーだが、人数の上ではEクラスに在籍する生徒が過半数を占めているのでEクラスから選出という扱い。当然ながらチーム戦では最有力候補という評価で、シード枠が適用されるのは言うまでもない。おかげでこうしてオープニングマッチに登場と相成っている。
そうこうしているうちに準備も整い、試合開始の定刻を迎えて歓声が渦巻く第2訓練場に第1試合で対戦する両チームが入場してくる。同時刻に1年生と3年生のオープニングマッチも始まるのだが、学院全体がこの場に集まっているのではないかという程のギャラリーが詰め掛けている模様。やはり注目度ナンバーワンチームの試合ともなれば、全校の耳目を集めるのは当然だろう。
整列して挨拶を終えると、双方のチームメンバーがフィールドに散って配置に就く。だがデビル&エンジェルの配置を見た途端に、スタンド中がざわめきに包まれていく。
「おい、いくらなんでもあれは正気なのか?」
「西川元副会長って専門は魔法系だろう。それが何で最前線に立っているんだ?」
「いくらなんでも相手チームをバカにしすぎているんじゃないだろうか」
スタンドからのざわめきでもお分かりの通り、オープニングマッチでのデビル&エンジェルのフォーメーションは物議を醸すレベルで生徒たちの意表をついている。その配置は最前線に立つ美鈴を頂点とするダイアモンド型で、両翼には聡史とカレン、リーダーをガードする底の頂点には明日香ちゃん、そしてリーダーを務めるのは桜という今までとはガラリと変わった配置。もちろん誰にもアミダクジの結果などとは教えていないので、この新たなフォーメーションにギャラリーたちは何らかの目的が隠されているのかと興味津々な表情。
ただこの内幕を知っている人間がいたとすれば、聡史が「本当にこのフォーメーションでいくのか?」と繰り返し確認した意味や、桜がいつもに比べてノリノリでない理由が頷けてくるかもしれない。戦術が何らかの形で破綻しないか心配する聡史と、どうせ出番などやってこないとふてくされ気味の桜という対照的な兄妹… その原因は、どうやらこのフォーメーションにあったよう。
対してようやく出番が回ってきた美鈴はと言えば、本日の夜明け前に何とか暫定的な形で完成した新たな術式の披露を楽しみにしている。もちろんデビル&エンジェルの他のメンバーでさえも誰ひとりその正体を知らないだけに、どのような術式を創り上げたのか俄然興味が湧いてくる。
ところでデビル&エンジェルのフォーメーションを見て一番気が気ではないのは相手チーム。これまでのように最前線を桜が務めるものと想定して対戦表が発表された段階から何とか桜を押し留めようと策を練ってきただけに、完全に肩透かしを食らった格好。
「おい、予想フォーメーションとは全然違うじゃないか」
「それよりもリーダーの位置に立っている楢崎妹なんてどうやって倒すんだよ」
「とんでもないムリゲーにぶち当たったな」
デビル&エンジェルの布陣を見ただけで、なんだかもう諦めムードが漂っている。それはそうかもしれない。万が一相当な奇跡が起こってリーダーの位置まで自分たちが辿り着けたとしても、そこに立ちはだかるのは学院最強の桜。これをどうやって倒すのか… 彼らが口にする通りとんでもないムリゲーに間違いない。RPGでボス戦が連続してやっとこれで終わりかと思ったら、今までとは比較にならない攻略不可能な最終ボスが登場してくる。そんな絶望的な対戦は、誰でも始まる前から白旗を掲げたくなるだろう。
「それでどうするんだ?」
「仕方がない、玉砕覚悟で前衛の元副会長に攻撃を集中するしかないだろう」
「せめて一矢報いたいから、それしかないな」
「やってやるぜ」
ちなみに第1試合の相手はDクラスのパーティー〔トールハンマー〕。そもそもの実力差が圧倒的なだけに、せめて力を合わせてひとりくらいは戦闘不能に追い込みたいというのが最初からの目論見。勝てる相手ではないのは百も承知、ならば自分たちの意地を見せたい… そんな心境で臨んでいる。そして…
「試合開始ぃぃ」
合図と共にトールハンマーの前衛3名が一斉に美鈴に襲い掛かろうと前進を開始。だがここは美鈴の対応が上回る。
「万能シールド」
たった一声で創り上げたシールドは高さ5メートル、横幅はフィールドいっぱいに及ぶまさに壁のような規模。もしもデビル&エンジェルの陣地に侵入を果たしたいのであれば、力尽くでこのシールドを破壊するしか手がない。自陣で足止めされたトールハンマーの前衛たちは、シールドを突き崩そうと懸命におのれの得物を打ち付ける。こうして時間を稼いでいる間に美鈴は、この日のために開発した術式の構築に移る。
「魔力センサー」
まずは自身の目を代行してくれる魔力を感知する大型魔法陣をフィールドの四隅の頭上から見渡せる位置に配置。これが相手の動きを察知するレーダーの役割を果たす。さらにこの魔法陣に相手選手の魔力の特性を読み込ませて、自動的に位置情報を美鈴の脳内に送り込むように設定を終える。ちなみに自分の頭で相手の未来位置まで計算するのは面倒なので、その辺の演算はすべて銀河連邦が宇宙空間に設置した量子コンピューターにお任せしてある。女神と銀河連邦に認定されたカレン同様に、美鈴自身にもアクセス権限が公式に付与されているのは言うまでもない。
美鈴としてはこの程度の相手に対して普通に魔法で対処するのはもちろん可能。それではなぜここまで回りくどい方法を用いるのかといえば、それは魔法と銀河連邦の科学技術が融合可能かという実証実験の色合いが濃い。この術式において有効性が確認できれば、わざわざルシファーさんの力を借りなくても美鈴自身が世界各地に隕石を自在に落としたり、敵対国家の諸都市に極小のブラックホールをバラ撒いたりといった戦略的規模に該当する攻撃魔法の可能性が見えてくる。言ってみれば大魔王としての完成形を自らの手で創り上げようという、これはこれで中々恐ろしげな目論見だった。
美鈴がこのような大逸れた術式を思い立った背景には、先日学院長から直々に話があったように、ロシアのウクライナ侵攻等によって現在の世界情勢がますます混迷を極めている点が挙げられる。もしも日本が侵略の魔の手に晒されるようなことがあってその時に慌てるよりも、こうして事前に色々と準備しておくに越したことはないという美鈴自身の判断が働いているのは言うまでもない。仮に限られた狭い戦場であったら、桜や学院長、更にはジジイといった強大な戦力を送り込むことで制圧が可能かもしれない。だが現代において戦争の形態はそれだけでは済まない。宇宙空間から飛来する戦略ミサイルへの対応まで考慮に入れた上で、美鈴はこのような魔法術式の構築に踏み切ったものと考えてよいだろう。その第一歩として今回の模擬戦にあくまでもプロトタイプの魔法術式とはいえ、こうして実際に投入するのは彼女にとって大きな意義がある。
「量子コンピューターとの接続完了。敵位置の詳細を完全に把握」
フィールドの四隅に設置された魔力センサーが、敵チームの6名の位置座標を捉えてそれを美鈴に送信開始。美鈴の脳と直結している衛星軌道上の量子コンピューターが即座に相手の未来位置を計算して攻撃座標を算出。後は自動的に高精度の攻撃が行われるというのが、今回美鈴が構築したイージス術式の大雑把な概要。「そもそも量子コンピューターを高々学院の模擬戦に投入するなんて反則だ」という声が上がるかもしれないが、ごく少数の関係者しかその存在自体知り得ないので、おそらくどこからも文句は出ないであろう。
「クソッ、何て固いシールドなんだ」
「刃を潰した剣じゃ傷ひとつつかないぞ」
「これじゃあ前に進めない」
トールハンマーの前衛は懸命に剣を振るうが、いまだ美鈴のシールドを突破する気配すらなし。その間に美鈴は着々と攻撃準備を進める。
「アイスボール」
美鈴の手から一気に20個のソフトボール大の氷の塊が生み出されては、こっそり発動した重力魔法によって上空20メートルの位置まで浮き上がっていく。アイスボールをその場でホールド状態にすると、美鈴はニヤリと笑みを漏らす。
「シールド解除」
驚くことに敵の前衛を押し留めていたシールドを解除するという手に出た美鈴。もちろん動きを邪魔していた壁が無くなったので、トールハンマーの前衛は一斉に彼女目掛けて動き出す。
「せっかくだから静止している相手よりも動き出した標的を狙ったほうが実証実験には役立つわね」
大魔王様らしい悪魔的な意図をもってのシールド解除だったらしい。スピードを上げて美鈴に向かってくる三人、だが美鈴との相対距離が15メートルを切った時点で、上空にホールドされているアイスボールが標的に向かって落下を開始。それもひとりに付き3発がわずかな時間差を置いて自分の未来位置に落下してくるものだから、回避するのは相当な困難を伴うのは言うまでもない。
「うわぁぁぁぁ」
「上から来るぞ~」
「避けろ~」
前衛の三人は初弾こそ回避に成功するが、続けて落下してくる2発目と3発目をまともに食らってその場で昏倒する。まだ上空には10発以上アイスボールの残弾があるが、美鈴は余裕の表情で魔力を送り込んで消し去った。そのまま役目は終わったという態度で聡史とカレンの位置まで下がる。
「前衛は片付けたわ。後は任せるわね」
「美鈴、一体何がどうなっているんだ?」
「タネ明かしは後でね。今は試合が先よ」
「はいはい、それじゃあカレンはリーダーのガード役を抑えてくれ。俺は魔法使いを足止めする」
「はい、わかりました」
今度は美鈴に代わって聡史とカレンが前進開始。トールハンマーの魔法使いがその足を阻もうと懸命に魔法を撃ち出すが、聡史とカレンは剣とメイスで飛んでくる氷の礫を打ち払いながらあっという間に接近する。そのまま相手を釘付けにすると、聡史が自陣に向かってサッと手で合図。
「明日香ちゃん、今ですわ。相手のリーダーを討ち取ってください」
「面倒だから桜ちゃんに任せますよ~」
「本当にヤル気ゼロですわね。この分だと今年の魔法学院対抗戦もサボるつもりですか?」
「ああ、そっちは頑張りますよ~。何しろ夕食時にデザート食べ放題ですから」
ここで桜の口から出た「魔法学院対抗戦」というのは、昨年まで実施されていた八校戦が参加校が増えたおかげで名称変更となったもの。今年度新たに開校した4校を含めた12校で争う大会に模様替えとなっている。
それよりも明日香ちゃん、校内の模擬戦は嫌いだが去年の八校戦に関してはすっかり味をシメているご様子。甘~いデザートというご褒美がぶら下がらないと動こうとしないワガママ娘ここにあり。
「本当に呆れてモノが言えませんわね~。仕方がありませんからちょっとそこを退いてくださいまし」
「はい、言われなくても退きましたよ~」
明日香ちゃんが退避したのを見届けると、桜は拳を引いて構えて高速で前方に撃ち出していく。その拳圧が生み出した衝撃波はバリバリと耳障りな音を轟かせてトールハンマーのリーダーに向かって一直線。音速を超える衝撃波を躱せるはずもなく、リーダーの体は吹き飛ばされて台から転げ落ちる。
「そこまで、勝者、デビル&エンジェル」
こうしてオープニングマッチはデビル&エンジェルの圧勝に終わった。勝敗自体は順当な結果とはいえ、デビル&エンジェルの奇策ともいうべきフォーメーションが想像以上の効果を発揮している。
「優秀な魔法使いというのは最前線に立っても強いんだな」
「バカ言え、優秀な魔法使いが強いんじゃなくて、元副会長が凄いだけだ」
「そうだ、そうだ。そもそも誰があんな規模の頑丈なシールドを創れるんだよ」
「普通の魔法使いだったら、シールドを構築しただけで魔力切れだぞ」
スタンドで観戦している生徒の中でも戦闘タイプよりも魔法スキルを持つ生徒のほうが美鈴に対する評価が高いのが当たり前。だが彼らにも美鈴がいかにして上空から正確に相手を狙ってアイスボールを落としたかについては、その理論すらわかってはいない。これは全銀河に関わる機密事情なだけに、彼らに真実が明かされるのはずっと先になるであろう。
そして翌日、デビル&エンジェルは2回戦の試合を迎える。この試合で最前線に立つのは何と明日香ちゃん。もちろんアミダクジで決まった結果だ。
だが今日の明日香ちゃんの様子がおかしい。なんだかいつにもない気合いを見せている。その理由は試合前…
「明日香ちゃん、敵の前衛の生徒三人倒したら、夕食の時に私がデザートをご馳走しますわ」
「桜ちゃん、本当ですかぁぁぁ!」
ここまで死んだ魚のような眼をしていたはずの明日香ちゃんは、お目々キラッキラ。ガシッと桜の手を握り締めて急にヤル気を漲らせている。そして試合を迎えると…
「試合開始ぃぃ」
合図とともに槍を携えて自分から積極的に前進開始。相手はAクラスパーティーと言えども、今の明日香ちゃんに怖いものなし。一斉に押し寄せる前衛三人を相手に縦横無尽の槍捌きを見せてひとりで圧倒していく。ヤレばデキル子なのに本当にもったいなさすぎ。
そして三人をあっという間に倒すと、スタスタと自陣に戻ってくる。
「お兄さん、私のノルマを達成しましたから、あとはお願いしますよ~」
「あっ、ああ… わかった」
聡史も苦笑しながら明日香ちゃんに返事している。昨日同様にカレンと共に相手のガード役と魔法使いを抑え込みにかかって、最後のトドメは美鈴のアイスボールの乱れ撃ちで決した。
こうして極めて順当にデビル&エンジェルはベスト4にコマを進めていくのであった。
今回は体調悪化ではなくて仕事の忙しさで投稿が遅れに遅れてしまいました。読者の皆様には大変申し訳ありません。さてお話のほうは模擬戦週間が順調に消化されております。次回はいよいよ決勝戦を迎える予定で、その相手は果たして…… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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