表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
317/360

317 魔法学院の慌ただしい1日

投稿が大幅に遅れて申し訳ありませんでした。

「ほら~、気を抜くとすぐにペースが落ちますよ~」


「さ、桜ちゃん… もうダメですよ~」


「あ、足が前に進まない」


 散々サボっているところを桜に見つかった明日香ちゃんとクルトワは、朝一番からグランドに引っ張り出されて暑い中をフルマラソンに挑戦中。このくらい追い込まないと、ここ2週間でお腹に付いた脂肪が落ちないのだから仕方がない。


 100周を目標に走っている二人だが、そろそろ半分に差し掛かった時点で桜が時計を見る。



「もっとペースを上げてもらう必要がありそうですね~」


 マラソン世界記録を大幅更新するペースなのに、桜は「もっと早く走れ」と強要するつもりらしい。こんな鬼コーチにベッタリ張り付かれていたら普通の人間なら肉体的にも精神的にも追い込まれて夜逃げをするに違いない。だがここで走っている二人には朗報が飛び込んでくる。



「ポチとタマはこのまま明日香ちゃんたちの監視をお願いしますわ。私は学君の試合を見に行ってきますから」


「主殿、承知いたしました」


「フムフム、主殿の背の君が試合とあれば、明日香など放っておかれるがよろしいのじゃ。妾たちがしっかりと目を光らせておくゆえ、任せておくのじゃ」


「それでは行ってきますわ」


 こうして桜はグランドを去っていく。この様子をヒーヒー言って走りながらもしっかりと目撃している明日香ちゃんといえば…



「クルトワさん、桜ちゃんがいなくなりましたよ~」


「これは大チャンスですね」


 ということであからさまに走りのペースが落ちてくる。ちなみに明日香ちゃんは一応特待生なので、今回の個人戦トーナメントから除外されている。同時にクルトワもディーナ王女たちと同様に留学生の立場なので、明日香ちゃんと同じく個人戦からは除外となる。チーム戦の参加は自由なのだが、クルトワが普段行動を共にしているのは生徒会パーティー。こちらは学年をまたいで編成されており、トーナメントには参加できない。かくしてクルトワは今回の模擬戦週間はスケジュールががら空きとなっていた。元々の性格が箱入り娘なのでそこまで厳しく自分を追い込もうという意思がない上に、明日香ちゃんが傍にいれば楽な方向に流されていくのは必定。ということで明日香ちゃん同様に甘~いデザートを食べすぎて桜からダイエットを申し付けられている。



「これ、明日香とクルトワ。目に見えてペースが落ちておるではないか。このような態度では主殿に言いつけなければならないのじゃ」


「タマさ~ん、大目に見てくださいよ~」


「ならぬのじゃ。主殿がお帰りになったからには、そうそう甘い顔は出来ぬのじゃ」


「明日香よ、諦めるがよいぞ。我らも主殿から叱られるのは怖いゆえに、お留守の際のような甘い対応は出来ぬ」


 天狐の玉藻の前の話を総合すると、桜が異世界に行っている間二人共大分お目こぼしに預かっていたらしい。それもあってか明日香ちゃんとクルトワはぬるま湯に浸りきった生活に慣れ親しみすぎ。だが桜が戻ってきた以上はもうそのような甘い環境が許されるはずもなく、二人は2体の大妖怪にせっつかれながら周回を繰り返すほかなかった。






   ◇◇◇◇◇





 桜は1年生のトーナメントが行われる第3訓練場の控室へとやってきている。部屋の中に入ると、学が仲間の手を借りてプロテクターの装着を行っている最中。



「学君、調子はどうですか?」


「ああ、桜ちゃん、来てくれたんだ。もうちょっとで装着が終わるから、ちょっと待っていて」


「ええ、念入りにやってもらって構いませんわ」

 

 パーティーメンバーの手を借りて学はプロテクターを全て装着し終える。最後にアダマンタイトの籠手を両手に嵌めれば試合の準備は出来上がり。



「桜ちゃん、お待たせしました。今の調子なんだけど、なんとも言えない感じかな」


「まだ力の制御が出来ないんですか?」


「桜ちゃんがいない間も頼朝先輩たちから色々と指導してもらったんだけど、100パーセントの自信はないんだよ」


「1回戦はどうだったんですか?」


「Aクラスの人が相手だったんだけど、あっという間に終わっちゃって何も得られなかったんだ」


「瞬殺でしたか」


「まあそんな感じ。それよりも気になったことがあって… 先輩たちとの訓練の時にも感じたんだけど、自分の感覚よりも体の動きが遅いような。なんていうか、感覚の後から体が動き出すような変な感じがしてくるんだ」


「ああ、それはよくわかりますわ。私にもそういう時期がありましたから」


「桜ちゃんもあったの?」


「ええ、レベルが上昇するにつれて五感も鋭くなります。それだけではなくて体を動かす命令を下す脳や神経の判断も早くなるんです。ですがその早くなった脳の命令に体がまだ慣れていなくて、若干のタイムラグを感じることがありますわ」


「そうだったんだ。頭もレベルアップしているんだね。なんだか妙に腑に落ちたよ」


 学が自信なさげに訴えていたのは、ジジイによってダンジョンの最下層まで連れていかれた際に大量の経験値を得て、その結果レベルが100に到達した出来事であった。普通なら短期間でこれだけレベルが上昇するのは喜ばしいことではあるが、世の中そうそう上手くはいかない。レベル100ともなればウッカリ加減を間違うととんでもない破壊力を発揮するので、その制御をしっかりと身に着けなければ日常生活においても支障が出てきてしまう。桜が不在の間は、頼朝やブルーホライズンのメンバーたちに師事して制御を身に着けようと懸命の努力をしていたが、いまだに道半ばといったところ。さらに神経系統と体の動きのアンバランスに関しては、学自身が徐々に慣れていくしかない。



「学君でしたらそこまで心配はしていませんわ。自分の動きを見定めつつ、ひとつずつ課題をクリアしていけばいいんですわ」


「簡単に言ってくれるけど、それが一番難しいんだよ」


「今回の模擬戦はいい経験ですから、自分の力をしっかり制御下に置くのを最大の課題にしてください。もちろん感覚神経と実際の動きがシンクロするように頑張ってもらいたいですわ」


「ますます課題のレベルが上がっている気がしてくる。それにこんな不完全な状態だと、相手を怪我させないか心配で仕方がないよ~」


「多少の怪我でしたらカレンさんが何とかしますから大丈夫ですわ。戦術的にはいつものようにフットワークで相手を惑わせて死角から攻撃を加えれば問題ありません」


 素早い動きで相手の死角を取って見えない位置から攻撃を加えるのは桜の戦闘スタイル。とはいえこの動きの源流はジジイの道場で身に着けた古武術にある。ジジイや門弟が常に袴を穿いて組み手を行うのは、可能な限り足捌きを相手に悟らせないようにするために他ならない。武器を持つ敵に無手で挑むには、足の運びこそが重要というジジイの教えに由来している。



「どんな結果が出るか自信ないけど、まずは普段の訓練の成果を出せるように集中するよ」


「それでいいですわ。では私はスタンドから観戦しますから、どうか頑張ってください」


「桜ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして」


 こうして桜は控室から姿を消してスタンドに向かう。残された学は試合開始のコールをベンチに座ったまま待つのであった。





   ◇◇◇◇◇





「これより格闘部門トーナメント2回戦第5試合を開始します」


 訓練場にアナウンスの声が響くとともに、赤の門から学が登場してくる。相手は同様に1回戦を勝ち抜いたBクラスの生徒。



「両者準備はよろしいか? それでは試合開始ぃぃ」


 審判の合図によって学の2回戦が幕を開ける。相手のBクラスの生徒はオーソドックスな両手剣を構えて学の出方を窺う。とはいっても彼の目に映る学からは圧し掛かってくるようなプレッシャーが押し寄せてくる。


(一体何なんだ、こいつは? 1学期早々にAクラスの生徒五人を相手にして勝ったのはマグレでもなんでもないぞ。それに立っているだけで圧迫してくるような力を感じるのはどうなっているんだ?)


 対戦相手が戸惑うのも無理からぬ話。実はこの時点で学の体内から溢れた闘気が彼を押し包んでいる。学自身まだ自覚してははいないが、あれだけ目の前でジジイから見せつけられておかげで無意識に体内から闘気を発するようになっていた。言ってみれば学にとってはそれだけ強烈な体験だったという証拠であろう。


(クソっ、怖気づいていても埒が明かない。相手は武器を持っていないし、こっちが圧倒的に有利だ。一か八か斬りかかっていくしかない)


 徐々に強まっていく学の闘気に気圧されながらも、相手は剣を中段に構えたまま突進開始。最も避けにくい胴体への突きで機先を制しようという意図は選択として的確。だが学は剣の切っ先を避けようともせずにジッと佇んでいる。


(よし、当たった)


 もう切っ先が学の体を捉える寸前。相手は先制攻撃を成功したと確信する。一の太刀が当たればこちらが圧倒的に優位に立てるという思いを脳裏に過らせながら一際強く剣を突き込んでいく。だが剣先には何の手応えもないままに虚しく空を切るばかり。


(えっ、当たらなかったのか? どこにいる?)


 目の前にいたはずの学の姿はどこにも見当たらず。ややあって訝しげに後ろを振り返ると、そこには何の構えも取らない学が立っている。


(一体いつの間に移動したんだ?)


 対戦者が疑問に感じるのも無理はない。学は桜と同じような動きで剣先が届く直前に身を翻して死角の位置に瞬間的に移動していた。


 その様子をスタンドで観戦している桜は…



「おやおや、今の後方に回り込む動きは中々見事でしたわ。どうやら徐々に現状のレベルに慣れつつありますわね~」


 桜の周囲には1年Eクラスの生徒がまとまって座っているが、たった今行われた最初の攻防で学の動きを目で捉えた生徒はひとりもいない。頼朝程度のレベルでないと、学の身のこなしは視覚では捉え切れてはいなかった。1年生の間では、さぞかし瞬間移動が行われたかに映っているだろう。


 スタンドからのんびりと批評する桜とは違って対戦者は、学が急に消えて別の場所に現れたごとくの事態にそれどころではなくて泡を食っている。 


(完全に捉えたと思ったのにいつの間にかあんなに離れた場所まで移動している。一体どうなっているんだ?)


 学の動きに対して相当な戸惑いを抱いてはいるも、疑問に思っているだけでは勝利など覚束ないと考えを切り替えて再び学目掛けて突進を繰り返す。だがその剣の軌道上から学の姿は掻き消えて、いつの間にか背後に立つ。こんな立ち合いを何度も繰り返していると、相手は疑心暗鬼になってくるのも当然かと。


(なぜ一向に攻撃してくる素振りがないんだ? あれだけの動きが出来ればいつでも攻撃が可能なはず。敢えて手を出してこないのはどういうわけなんだ?)


 素早い動きで身を躱すだけの学に対してすっかり疑念を抱いているよう。自分の攻撃が完全に見切られているはずなのに何も攻撃を仕掛けない学の姿勢が理解できていない。逆に学は力の制御と感覚の同調をこの試合の課題としているので、そんなに早く決着をつけるつもりはない。


 試合時間が10分を経過すると、相手は幾度となく繰り返した無謀な突進の影響もあって肩で息をし始める。だが学はいつの間にか目の前から姿を消して背後に立つだけで、自分から一向に手を出す様子がない。


(そろそろ限界が近い。次の攻撃で最後にするぞ)


 対戦者の剣を持つ手がわずかに震え出して、足運びにも乱れが生じている。無駄に終わった突進によって相当にスタミナを奪われたのは明白。これ以上同じ攻撃を繰り返しても得るものは何もないと悟ってはいるものの、他に方法が見つからないもどかしさを感じている。これが最後と覚悟を決めると、剣を握る両手を励ましながら今一度力を込める。



「いくぞ」


 芝生を蹴って突進開始。中段に構えた剣の切っ先は真っ直ぐ学に向けられている。そして渾身の力で突き込んだ。だが手応えはない。次の瞬間…



(な、なんだと…)


 右の脇腹に強い衝撃が走ると同時に、徐々に体に痛みが駆け巡っていく。両手が大きく震え始めて力が入らず、強く握っていたはずの剣はカランと音を立てて芝生の上に転がっていく。そのまま彼は膝から崩れ落ちるように芝生にヘタリ込んで、それから脇腹を抑えて苦しみ出した。学がすれ違い様にボディーブローを1発お見舞いしていたが、そのたった1発で戦闘不能に追い込まれている。



「勝者、赤、中本学」


 湧き上がる歓声と共に学が勝ち名乗りを受けている。土気色の顔に脂汗を浮かべて蹲っている相手は自力では立ち上がれずに、担架に載せられて療養棟に直行となった。



「大丈夫かな? やっぱりもうちょっと威力弱めで打たないとダメだったね。反省して次の対戦に備えよう」


 担架で運ばれる相手を心配そうな表情で見送りながら呟く学の声だけがフィールドに残されるのであった。





   ◇◇◇◇◇





 この日の午後5時、予定されていた模擬戦はすっかり終了している。生徒たちは本日の試合を振り返ったり明日の試合の予想を始める中、美鈴とカレンは学院長室へ呼び出されていた。



「失礼します」


 二人で部屋に入っていくと、学院長は書類から顔を上げる。



「来てくれたか。先程伊勢原駐屯地から連絡があって、二人には検挙した容疑者の事情聴取を委託したいそうだ。今から向かってもらえるか?」


「はい、わかりました」


 どのような容疑で誰が捕まったのか… そのような詳しい内容を学院長が明かす様子はない。「駐屯地の係官から聞いてくれ」といった態度で最低限の用件しか伝えるつもりはないよう。


 二人はそのまま校門に向かうとすでに黒塗りのワゴン車が到着しており、そのまま伊勢原駐屯地へと運ばれていく。憲兵部の建物の中で簡単な状況説明を受けてから、容疑者がいる取調室へと通される。


 取調室の椅子に腰掛けているのはYシャツ姿でメガネを掛けたごく普通の男性。身だしなみ等は整っているが、憲兵部に連行されたせいで相当にやつれた様子を見せている。今朝方出勤しようと家を出る前に、訪れた憲兵隊員によって身柄を拘束されてこの場所に連れてこられたらしい。



「それでは私たちだけで尋問を行いますので、内容はモニターで確認してください」


「了解しました」


 案内してきた憲兵隊員と今までこの部屋で取り調べを担当していた係官が外に出ていくと、美鈴は体内に眠っているルシファーに呼び掛ける。



「ルシファー、容疑者の事情聴取に協力してちょうだい」


「今詩織ちゃんルートのエンディングを迎えておる。これが終わるまでは一切外部とは関わりを断つ」


「まだギャルゲー三昧なの? それじゃあ終わったら教えてよね」


「ああ、待っておれ」


 しばらく時間が経過すると、ルシファーさんから反応アリ。



「もう大丈夫なのかしら?」


「うむ、感動のフィナーレを迎えて一区切りついた。事細かに教えようか?」


「ギャルゲーのネタバレを聞いてもしょうがないでしょう。お仕事に取り掛かるから協力してちょうだい」


「仕方がないゆえに力を貸すとしようか」


 途端に美鈴の目が銀色の光を帯びてルシファーさんの眼光に変化した。この様子を間近で目撃した容疑者の体は小鹿のようにプルプル震えている。ここからようやく本人の意思とは関係なく心の中を洗いざらい吐き出す尋問がスタートする。



「名前と職業を申せ」


「外務省北米局第3課課長代理、細川康之」


「そなたの所持品の中に魔法術式が収められてディスクがあったが、どこから手に入れた?」


「魔法学院」


「何処の魔法学院か?」


「第11魔法学院」


「誰を介して手に入れた?」


「学院長の大崎司」


「そなたと大崎はどのような関係か?」


「大学の同期」


 どうやらこの人物は、例の学院長の話にあった魔法術式を国外に持ち出そうとしていた外務省のキャリア官僚のよう。とはいえそれは今朝までの話で、現在は憲兵部に拘束されたただの容疑者に過ぎない。



「では今回の件をそなたに依頼してきたのは誰か?」


「アメリカのスミソニアン国際戦略研究所副所長のアレックス・ダニエル」


「そなたとの関係は?」


「留学時代からの知り合い」


 外務省のキャリア官僚、ことに外交官を志す人材は語学研修という名目で国外の大学院に数年に渡って在籍するケースがある。実はこの語学留学先は30か国以上に及んでおり、行く先々の国で現地の人脈を形成しながら外交官としての業務を円滑に進める目的で現在も大勢の外交官の卵が国費で留学をしている。


 近頃耳にする「チャイナスクール」というフレーズは中国の大学に留学した外務省の幹部派閥の総称で、政府内部に在って親中派の代名詞のように言われている。留学中に言葉巧みに中国側に取り込まれて、日本政府の内部で中国に有利な政策が実行されるように働きかける勢力… このような噂がまことしやかに流れている。


 さてこの細川という外務省のキャリア官僚はアメリカでも屈指の名門大学に3年間留学しており、その間に現地で知り合ったアメリカ人から言葉巧みに唆されてある意味で洗脳されていた。「我々エスタブリッシュメントが世界を支配する。君もその一員だ」などという甘言を囁かれてすっかりのぼせ上ってしまった弱い人間ともいえるであろう。もちろんアメリカの遣ることだから事前に外務省から派遣されてくる人間のプロファイリングなどすっかり終えてのことであろう。最も簡単に堕ちそうな人間を言葉巧みに自分たちの陣営に組み込んでいくなどお手の物に違いない。


 ルシファーさんの尋問は続く。



「そのスミソニアン戦略研究所のバックにある組織は?」


「CIA」


 はい、出てまいりました。ご存じ世界最大の諜報機関が今回の一件で裏から手を引いていたということ。アメリカ政府の立場としては、日本の最新の魔法術式が喉から手が出るほど欲しいというのは間違いなさそう。筑波に留学しているマギーのような生徒がいるし、彼女たちを通じて正規のルートで手に入れる方法があるにも拘らず、こうして裏から手を回してくるのは何か理由がある。言ってみればマギーは〔Q〕に所属する立場の人間なので、彼女とは別の立場に所属する誰かが欲しがっていると考えるのが妥当。となるとその相手は現在アメリカを裏から操るレプティリアンに与する勢力と考えて良さそう。


 ここで今まで黙って尋問の様子を観察していたカレンが初めて口を開く。



「ルシファー様、短絡的にCIA本部に隕石を落とそうなどとは考えないでいただきたく存じます」


「女神よ、それはいかなる理由か?」


 ルシファーさん、どうやらすでに隕石で更地にする算段を始めていたようで、カレンから止められて如何にも納得がいってないご様子。



「まだ証拠が少なすぎます。さすがに暴挙のそしりは逃れません」


「左様か… 致し方なし、今少し様子を窺うか」


 心から不本意な表情を浮かべるルシファーさん。そうそうポンポン隕石を落とされても人類的には色々と困るだろうに。ということでもう少し証拠を固めねばならないと判断して、尋問が続けられる。



「そなたが入手したディスクの複製をどこに送った?」


「アレックス・ダニエル副所長」


「なるほど、その人物がカギを握っておるのだな。そやつが直接CIAと繋がっておるのか?」


「わからない」


「提示された報酬は?」


「2百万ドル」


「大崎とそなた込みの金額か?」


「いや、それぞれに2百万ドルだ」


「如何なるタイミングで振り込まれる予定であったか?」


「ディスクの内容が本物と判断されてから」


「それは残念であったな。そなたが入手したディスクのデータは偽物だ。それらしき文言が並べられてはいるが、旧式の魔法式にわずかに威力を持たせたもの。今頃受け取った側もさぞかし落胆しているであろう。しかも英訳困難な単語があちこちにちりばめられているゆえに、翻訳者は四苦八苦するであろうな」


 ダミーデータは旧来の魔法式に厨2言語をたっぷりと盛り込んだ実際には大して役には立たない内容でとなっている模様。今頃CIA側も解析作業を行っているだろうが、そのあまりに厨2ぶりに翻訳担当者が匙を投げているかもしれない。



「まあよい、そなたの証言によって第11魔法学院の学院長も逮捕されるであろう。魔法式データの国外持ち出しなど一国の安全保障に関わる重大犯罪ゆえに、そなたらの人生は終わったも同然。精々刑務所の中で時間を費やす楽しみを見つけるがよい」


「反省している」


「さて、我は戻るぞ。ようやく詩織ちゃんは完全攻略したゆえに、次は理沙ちゃんルートに挑まねばならぬ」


「はぁ~、わかりました」


 カレンの気の抜けた返事に見送られながらルシファーさんは美鈴の中に戻っていく。ギャルゲーの続きに気を取られてくれたおかげで隕石の件はすっかり忘れたよう。この点に関してはカレンもひと安心。


 こうして尋問は終了する。細川容疑者の証言を元にすでに逮捕状は発行されており、明朝に憲兵部の部隊が大崎学院長を逮捕する予定。もちろんこの件に関するすべての動きは水面下で実行されているので、マスコミ等には一切漏れてはいない。



「ご協力ありがとうございました」


「こちらにとっても魔法式が外部に漏れるのは由々しき問題ですから、捜査には喜んで協力いたします」


 憲兵部の係官に見送られて美鈴とカレンは魔法学院に戻っていく。時刻はとうに夜の9時を回っている。



「模擬戦週間の真っ最中だというのに慌ただしいわね~」


「学院内でどんな行事があろうと、外部には関係ないですから。これでひとまずは魔法式の漏洩を防止できましたが、この先何らかの対策が必要ですね」


「そうね~。実際に魔法式を操る生徒もたくさんいることだし、その辺は学院長やダンジョン対策室に丸投げするしかないでしょうね」


「確かにそうでしょうね。私たちのような一介の生徒が関与する問題ではなさそうですし」


 遅い食事を摂りながらこの件に関する話題が続けられていく。やがてその話も終わり、食事を終えた二人は特待生寮に戻って明日に備えて早めに休むのであった。

毎年梅雨の走りのこの時期に決まって体調を崩してしまいます。今年は何とかなるかなと思っていたら、やはり微熱が続いて3日間寝込んでしまいました。読者の皆様にはお待たせしてしまって大変申し訳ないです。


さて外務省の役人が洗いざらい自供して次は第11魔法学院の学院長が逮捕。となると新たな学院長選びが始まるのは必定。いよいよジジイの出番なのか…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


それから、読者の皆様にはどうか以下の点にご協力いただければ幸いです。


「面白かった」

「続きが気になる」

「もっと早く投稿して」


と、思っていただけましたら、ブックマークや評価を、是非お願いします。

評価はページの下側にある【☆☆☆☆☆】をクリックすると、簡単にできます。


〔いいね〕ボタンもポチッとしていただく幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ