310 アライン砦、自衛隊の奮闘
舞台は異世界からスタートして……
ギガント・ファイアーアントの生き残った群れはジジイの攻撃が届かない地点に固まったまま動こうとはしない。停止したままの約3万の残存する敵勢力に対して、自衛隊は攻撃ヘリを使用して空からの攻撃に踏み切った。ミサイルと弾薬を満載した5機のヘリが高度を保ったまま接近すると、まずは群れの外縁に相当する部分にナパーム弾を発射。着弾と同時に内部のナパーム油が撒き散らされたのちに着火して、大きな火の手が上がる。
群れから1体も逃がさぬとでも言うが如くに全てのナパームミサイルが撃ち込まれると、ギガント・ファイアーアントの群れは燃え盛る炎に完全に取り囲まれる形となって逃げ場を失なう。そこに攻撃ヘリのガトリング砲が腹の底に響くような機械音と共に有りっ丈の銃弾を撃ち込んでいく。逃げ場のないギガント・ファイアーアントの群れは上空からバラ撒かれる銃弾と周囲から迫りくる粘性を帯びた炎と、更にはその炎が大量の酸素を奪った結果による酸欠でバタバタと倒れていく。
やや薄暗くなりかけた草原を煌々と照らす炎… それは山々を食い尽くしながら蹂躙してついには草原にまで進出したギガント・ファイアーアントが為す術なく滅亡していく運命に対する野辺の送りの代わりか。そのような感慨を抱きながら、ヘリの乗組員は上空からいまだ燃え盛る炎の様子を観察する。
だがその見通しはわずかに甘かった。ナパーム弾の着弾によって引き起こされた炎を掻い潜ってごく少数の個体がこの場から脱出しており、その一団は一目散に山に逃げ込んでいった。本能的な危険を感じて引き返した… このアリはそのような甘い性質の魔物ではない。
ご存じのようにアリはかなり高度な社会性を有しており、群れの中で様々な役割を分担してつつ生活している。中でも外敵に遭遇した際には自らを犠牲にしてでも群れや巣を守ろうと立ち塞がったり、率先して自らの何倍もある敵に襲い掛かったりもする。したがって集団で外敵の脅威に対する警戒を怠らない習性がある上に、敵に対する脅威を認識するためのネットワークが確立されていると言ってもよい。実はアリのこのような習性を、魔物化したとはいってもギガント・ファイアーアントは受け継いでいた。驚くことに山に逃げ帰った少数の一団は、いまだ山間部に留まっている最後尾の群れに警告を発しに戻っていたのだ。
その結果最後に残った約2万ほどのアリたちは平原を進むのを諦めて山間を縫って砦に向かい始める。しかも都合よく日が暮れかかっており、木々に覆われて見通しの悪い山の中を進んでいけば敵に見つかる可能性はほとんど考慮に値しなくて構わない。だがなぜこのアリたちはこれ程の危険を冒してでも砦を目指そうとしているのか?
それはもうひとつのギガント・ファイアーアントの性質によるところが大きい。この巨大アリは動く物すべてをエサとして認識してなりふり構わず襲い掛かるという習性がある。そして先遣隊がすでに砦に多くの人間が動き回る姿を確認している。しかも周辺の山々にあったエサを食い尽くしているため相当な飢餓状態に追い込まれているという背景も重なって、遮二無二エサを求めて砦に向かおうとしていた。このような理由で山間に潜んでいた最後尾の群れは進路を変更して山肌を縫いながら砦の方向へ不気味な静けさを保ちつつ進んでいく。
そうとは知らないアライン駐屯部隊は、ギガント・ファイアーアントの最後の一団の殲滅を確認して一息ついているところであった。長時間戦闘態勢を維持するのは隊員の精神的な負担に繋がるので、適宜休憩を取らせないと思わぬミスに繋がる。ということで交代で食事を摂ったりしながら、一応の警戒レベルを維持して待機している状態であった。そこに一休みを終えたジジイが戻ってくる。
「なんじゃ、そなたたちも休憩しておるのか」
「ご隠居、おかげさまでアリたちは全滅したようなので、警戒を維持しつつ一休みさせてもらっています」
「うむ、休める時は休むのも戦いのうちよ。今のうちにしっかり腹ごしらえをしておくとよいぞ」
「言われなくても交代でメシにアリ付いていますよ」
しばし談笑などを交わしている。なんだかジジイがすっかり自衛隊に溶け込んでいる感があるが、これはおそらく戦場に立った人間にしかわからないシンパシーが双方の間で生まれているのであろう。
だがその時、ジジイの耳がピクリと動く。
「おい、あちらの山側には何らかの敵に対する備えはあるのか?」
「いいえ、特に何も置いてありません」
「不味いな… どうやらアリ共の生き残りが山間を伝ってこちらに向かっておるわい。おそらくあの崖から直接砦の内部に侵入するつもりであろう」
「ご隠居、それは本当ですか?」
「ワシの耳には何万のもアリが山道を歩いておる足音が聞こえてくるわ。何も備えがない以上は砦の内部への侵入は食い止められぬであろうから、最も見通しの良い場所に誘導して群れごと仕留めるしかなかろうな」
「す、すぐに隊長に伝達いたします」
ビシッと敬礼を決めると、その隊員はジジイの元を離れて前線司令部へと走り去っていく。その直後に砦全体にスピーカーの音声が響く。
「アリの群れは山中を縫ってこちらに向かっている。砦内の広場に引き込んで迎え撃つぞ。土嚢と車両で脇道を塞いで、真っ直ぐ広場に入り込むように誘導する。広場の周囲には土嚢で陣地を設営しろ。有りっ丈の弾薬を陣地に運び込めぇ~」
スピーカーの音声が終わると、その場に居合わせた隊員が一斉に立ち上がって作業に入る。大型投光器が何台も運び込まれて砦の内部を照らす中で、隊員たちは小隊長の指示に従って黙々と作業を続ける。
「急げぇ~。グズグズしていると用意が整わないうちにアリ共の侵入を許すぞ~」
「土嚢をもう一段高くしてくれ」
「戦車でこの区画を封鎖するぞ。横幅が足りないから土嚢で塞ぐんだ」
こうして至る箇所で土嚢による陣地が構築されていく。ひと口に土嚢を積むとはいってもかなりの肉体労働。ところがここにも自衛隊の伝統芸とでもいうべき匠の技が生かされている。ネット上に各国の土嚢での陣地構築の画像が転がっているので一度ご覧いただくとよいだろう。自衛隊の練度の高さが一目でお分かりいただけると思う。キッチリと隙間なく積み上げるのと適当に積むのとでは、陣地の強度に大幅な違いが出るのは当然。自衛隊の場合は携帯ミサイルの直撃を受けても崩れない高レベルな陣地の構築を日夜訓練している。
隊員たちの奮闘もあって夜中近くに無事に陣地の構築が終わると、兵站部隊が弾薬を満載にしたトラックで乗り付けてくる。駐屯地の在庫を総ざらいする勢いで運ばれてきた弾薬が陣地の背後にうず高く積まれていく。それだけではなくて建物の屋上や隙間を埋めている車両の屋根にも隊員たちが昇って小銃を構えつつ、山から侵入を図ろうとするアリたちを根絶やしにせんとばかりに気勢を上げる。この状況を眺めているジジイは…
「ふむ、これだけの用意が出来ているのであればワシが手伝うこともなかろうて」
「ご隠居、どちらへ?」
「なに、せっかくこうして迎え撃つ準備をしたのだから、この場はそなたらに任せるだけよ。そもそもワシが暴れるには砦の敷地は少々狭いゆえにな。ガハハハハ」
こんな具合に豪快な笑い声をあげながら駐屯地の宿舎に戻っていく。
「相変わらず気ままな人だな」
ジジイの後ろ姿を見送たひとりの隊員の呟きが漏れるが、その間も砦の内部には様々な機器が持ち込まれて一分の隙も無いような準備が着々と進められていく。こうして舞台を整えつつ待ち構えていると、投光器に照らされた崖の上から1体また1体と褐色の巨大なアリが砦の内部に降りてくる。次第にその数は増していき、列をなすが如くに勢いを増して続々と侵入を果たす。
「まだだぞ、もっと集まってから一気に畳み掛けろ」
建物の間を通るアリたちは自衛隊員の思惑通りに広場に集まってくる。陣地の内部で息を殺して待ち受ける隊員たちだが、時折接近してくるアリを小銃で仕留めるだけに止めて大掛かりな攻撃は加えずに待機状態のまま。やがて投光器に照らされた広場は褐色の巨アリたちで埋め尽くされて、崖を伝って降りてくる個体の数は見る見る減少してくる。頃合いは良し、ここから自衛隊の反撃開始のお時間だ。
「フレンドリーファイアは避けろよ。射撃開始」
レシーバーから音声が伝わると、各陣地や屋根の上から無数の銃弾が広場に向かって放たれる。1発必中の思いを込めた弾丸がギガント・ファイアーアントの体に吸い込まれるようにヒットしていく。もちろん隊員たちの小銃だけではなくてクレーンで屋上に釣り上げられた機関砲が容赦のない銃弾の雨を降らせていく。
「マガジンの装填を急げよ。弾幕を切らせるんじゃないぞ」
「了解」
各陣地では小隊長の指揮の下で隊員たちが懸命に小銃から銃弾を発射し続ける。連続する発射音に包まれた広場は血と鉄と火薬に臭いでむせ返りそうになるほど。火薬が燃焼した煙で視界が霞んでいるのは、それだけ濃密な量の射撃が行われた証拠ともいえる。こんな状態が30分以上継続されていく。さすがに広場内には動いているアリの姿はなくなった模様。
「打ち方ヤメ。警戒態勢を維持しつつ状況を確認せよ。小隊ごとに点呼を行い隊員の無事を確認せよ」
「存命の標的見当たらず」
「こちらも存命の標的ナシ」
「崖から降りてくる個体ナシ」
「第1~第17小隊まで全員無事。負傷者ナシ」
「ご苦労、掃討完了。夜明けまでこの態勢を維持する。見張り以外は持ち場で小休止」
あちらこちらから「ふ~」という安堵のため息が漏れる。緊迫した30分だっただけに「これで終わったか」と誰もが一息ついている。だが安心している場合ではない深刻な状況が同時に発生していた。実は今回の掃討作戦で駐屯地に備蓄してある弾薬総数の8割を消費している。再びあのようなアリの大群が押し寄せてきたら、どう考えても迎え撃つ弾薬が足りなくなるのは目に見えている。この事態に司令部は頭を抱えてた。
「どうにもこうにもないな。これほど一度に大量の弾薬を使用する事態など想定外だ」
「万が一再度アリ共が大群で押し寄せる事態になったらどうしますか?」
「その場合は仕方がない。ご隠居に砦ごと吹っ飛ばしてもらうしか手はない。この砦より南方には1匹たりとも通すわけにはいかないんだ」
「承知しました。ご隠居の手を煩わせるのは申し訳ありませんが、この際贅沢は言えません。お力を借りることにしましょう」
どうやら司令部もジジイを全面的に信頼している模様。ただし砦が消えてなくなる前提というのは、ジジイの力を相当あさっての方向に信じてしまっている気がする。確かに限度を知らないジジイならあっさりやりかねないという危惧はわからないでもないが…
◇◇◇◇◇
こうして警戒態勢のまま夜明けまで待機した隊員たちは、交代要員に持ち場を任せて一旦休息を取りに宿舎に戻っていく。その間にも工兵隊がブルドーザーやパワーショベルを用いてアリの死骸を搔き集めてはダンプに載せて砦の外に運び出す。何しろ死骸の数が2万を超えているので、事後処理だけでも大変な作業量。午前中いっぱいかけてもいまだ半数以上の死骸が砦の内部に残っている状況が続く。そんな時であった。アリが降りてくる崖を監視している隊員からの警告が砦全体に伝わる。
「多数のアリの姿を確認。砦に向かって降りてきます」
「迎撃態勢を取れ~。各自素早く持ち場につけ」
隊員たちに一気に緊張が走り、全員が所定の持ち場で息を呑みながら待つ。神経が擦り切れるようなジリジリとした時間が続いて、しばらくすると広場には800体ほどのギガント・ファイアーアントの群れが姿を現す。昨夜の大群に比べれば可愛いものだが、それでも全員油断せずに発砲の合図を待つ。
「弾薬が限られている。各自単発で仕留めてくれ。掃討開始」
小銃の切り替えレバーを「タ」に合わせると、陣地に構えた隊員たちは一斉に発砲開始。訓練通りの十字砲火に晒されたアリの群れはバタバタと倒れていってあっという間に全滅した。
「数が少なくて助かったな」
「クソッ、弾薬さえあればここまで苦労しないだけどな」
改めて隊員たちは補給ルートがダンジョン経由しかない異世界の困難さを噛み締めているよう。
こんな具合であの大群が合押し寄せた日から毎日2~3回数百体の小規模な群れが砦の侵入する日々が続く。だが掃討を担当する隊員たちは、アリの群れのおかしな変化に気が付いていた。
「おい、なんだか日を追うごとにやつらの体が小さくなってきていないか?」
「確かにそんな気がする。最初の頃はもっとデカかったよな」
「おい、この個体を見ろよ。どう見ても幼虫じゃないか?」
ひとりの隊員が発見した死骸は薄茶色をしており、どう見ても茶褐色の成体とはパッと見からして違っている。しかも大きさが成体の半分ほどしかなくて生後からいくばくかの日数も経過していない幼虫に間違いなさそう。もちろんこの情報は司令部に伝えられる。
「司令、砦からの連絡で、日を追うごとにアリの体が小型化しているらしいです。しかも本日、明らかな幼体と思しき個体が発見されました」
「アリの群れで何が起きていると考えられるかね?」
「おそらくは成体のほとんどを失った結果、まだ未成熟な個体をこちらに送り出していると考えるのが妥当です。同時に…」
「同時に? 続きを述べたまえ」
「はっ、おそらくアリの巣があって、その中に卵を生み出す存在がいるはずです。女王アリだと考えられますが、その個体を討伐しない限りは毎日この状態が継続すると考えて間違いないでしょう」
「うむ、私もその意見に賛成だ。だが山の中に分け入ってアリの巣を探すのは相応のリスクがある。現在弾薬も残り少なくなっている状況からしてその手段に踏み出したいのは山々だが…」
参謀の意見を聞いた司令官は、相当に迷った表情を浮かべている。弾薬が足りなくなってきているのは間違いないが、かといって道があるかどうかもわからない山中に隊員を送り込むリスクを考えると、一概に決行にも踏み切れないでいる。
「王都の連絡部隊への応援要請はどうなった?」
「はい、すでにあちらで備蓄している弾薬の半分と増援部隊が到着しておりますが、大元の量が少ないので1日分にしかなりません」
「そうか… となると、やはりアリの巣を探しにこちらから打って出なくてはならないか…」
司令官がそう言いかけたちょうどその時、通信隊長が慌てた表情で司令官室に駆け込んでくる。
「司令、朗報です。日本から補給物資を携えてやってきた楢崎中尉たちが王都に到着したそうであります。すぐにヘリでこちらに駆けつけてくれるそうなので、あと2時間もすれば到着すると思われます」
「なんというタイミング。次の補給物資を受け取るのは確か3週間後だったはずだが、なぜこんな時期に来てくれたんだろうか?」
「やはりご隠居を身柄を回収しに来たのではないでしょうか。そのついでに補給も実施しようというダンジョン管理室の思惑だと考えられます」
「まあ、そうだな。いずれにしても我々にとっては天の助けだ。大急ぎで補給物資を受け取る用意をしてもらえるか」
「了解しました。どうやら交代要員も一緒に来ているらしいので、隊員たちに伝えましょう。士気の高揚は大切ですから」
「うむ、そうしてくれると助かるな。帰国という最大のご褒美が目の前にぶら下がったら、隊員たちは喜ぶだろう」
こうして報告を終えた参謀が部屋を出ていくと、その直後駐屯地と砦の内部にスピーカーで聡史たちの到着が告げられる。新たに補給を受けられると聞いた隊員たちは肩を抱き合って大喜び。
「助かった~。これで残りの弾数を気にしないで思いっきりアリ共を叩き潰せる」
「一時はどうなることかと思ったけど、これで安心だな」
「交代要員が来るってことは、俺たちも近いうちに日本に帰れるんだな」
「しばらく見ないうちに子供が大きくなっているだろうな~」
「おい、子供がパパの顔をすっかり忘れて『この人誰?』なんて言ったら絶対に立ち直れないぞ」
「ハハハ、間違いない」
あの大群が押し寄せてきた日から毎日のようにアリたちの襲撃を撃退するという緊張感に包まれていた隊員たちにとっては、久方ぶりの明るい話題。そこらじゅうで腹の底から出る笑い声が響いて、砦の内部は一気に雰囲気が変化している。
しばらくすると、南の空に音を立てるヘリの姿が隊員たちの目に映る。
「来たぞ」
「待ってたぜ」
「お~い、こっちだぞ~」
「ありがとう」
砦や駐屯地にいる隊員全員が大きく手を振って、地上に降りてくるヘリを出迎えるのであった。
◇◇◇◇◇
ヘリポートに降り立った聡史たちは大急ぎで司令部に向かって、まずは今回の危機に関する事情の聞き取りを開始。司令官と参謀に直々に出迎えられて、そのまま司令官室に入っていく。
「王都で聞いたところによると緊急事態が発生したという話でしたが、現状はどのようになっているのでしょうか」
「うむ、楢崎中尉のご祖父のおかげで最大の危機は脱したのだが、現在も絶え間なくアリ共の侵入を受けて対応に追われている」
「アリですか?」
「そうだ、ギガント・ファイアーアントがおよそ10万体の群れを作ってアライン砦に襲い掛かってきたのだ。本橋殿のおかげでその大半を退けたはいいが、以降毎日のように2~3回小規模な襲撃を受けており、弾薬が尽き掛けていたというのが現状だ」
「なるほど、アリの魔物ですか。10万もの群れとくれば、下手をするとこの世界の国が滅んでしまう規模ですね」
「ああ、その通りだよ。だがこうして君たちが来てくれたから、日々の戦闘にうんざりしていた隊員たちの士気が大いに向上している。ということ到着して早々で申し訳ないが、まずは弾薬だけでも先に引き渡してもらえるだろうか」
「了解しました。すぐに取り掛かります。至急必要な物資を先に降ろしたら、ひとまず砦の状況を確認させてもらってよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん構わないよ」
「それでは作業に取り掛かりますので、これで失礼します」
「うむ、どうかよろしく頼む」
ということで、聡史兄妹は協力してまずは武器弾薬保管庫に向かって弾薬類を先に引き渡す。ピカピカに輝く新品の梱包を受け取る補給部隊の隊員たちはキラッキラに目を輝かせている。これで残弾数を毎日数えながら過ごす日々から解放される… そう言わんばかりの表情。
最低限すぐに必要な物品の引き渡しを終えると、三人はアライン砦へ足を運ぶ。砦の入り口を固めている隊員に挨拶をすると…
「ただいま取り込み中ですが、大丈夫でしょうか?」
変な話をするなと思いながらも、聡史が「大丈夫です」と答えると通用扉をそっと開いてくれる。城壁の内部に入り込んで広場方面に向かうと、なんだか変な物音が聞こえ始める。様子を窺うと何かが激しくぶつかり合う物音。さらに進んで広場が見渡せる場所まで進んでみると、そこには驚きべき光景が展開されていた。
「ガハハハハ、まるっきり手応えを感じさせんぞ。もっと気合いを入れてかかってこんか~」
聡史たちの視線の先では袴姿の老人が無数に寄り集まるアリの魔物を相手にして大暴れの最中。近付いてくるアリたちを事も無げに蹴散らして、殴って、頭部を鷲掴みにしつつ地面に叩き付けている。その荒れ狂う戦いぶりは、あの桜でさえ霞んで見える勢い。
「ほれほれ、もっと腰を入れてかかってこんか~」
アリに向かって「腰を入れろ」とは相当ご無体なモノの言い方ではないだろうか… そんなどうでもいいツッコミが聡史の頭に浮かんでいるが、この場は敢えて言葉には出さないでいる。
広場の周囲には陣地で小銃を構える隊員たちが、ジジイの荒れ狂わんばかりの戦いを茫然とした表情で見ているだけ。どうやら彼ら隊員たちをジジイが制して「この場はワシに任せろ」とケンカを買って出たらしい。どうせ食後の運動替わりとか何とか言いながら、バトルジャンキーの血を抑えきれなかっただけであろう。
だがジジイの凄まじい戦いは、聡史をしても戦慄を覚えてくるレベル。なんというか戦いの根本が違うというか… 効率を最優先する聡史と、戦闘そのものを楽しみながら敵を捻り潰すジジイのスタイルの違いとでもいうのだろう。学がダンジョンでジジイに同行した際に「身を守るのが精一杯」と証言していたのも頷ける話。もちろん聡史同様に、美鈴と桜も口をポッカリ開いて言葉が出てこない様子。
ここでようやく聡史が再起動する。
「お~い、ジイさん、そろそろいいだろうから、下がってくれないか」
「なんじゃ、誰かと思ったら聡史ではないか。隣には桜もおるのぅ。どうじゃ、ワシの戦いは? ひと目見ただけでホレボレするであろう」
「誰がジイさんの戦いにホレるんだよ!」
「何を言う。若い頃の婆さんはワシがこうして敵を投げ飛ばす姿にホレ込んだものじゃて」
「婆さんも色々間違ったようだな。とにかく手早く片付けるから、こっちに来てくれ。食後の運動ならもう十分だろう」
「仕方がないのぅ。この場は孫の言い分に従ってやるわい」
最後に一撃をくれてアリを数十体まとめて吹き飛ばしたジジイは悠然と聡史たちの元に戻ってくる。それを見た聡史はすかさず美鈴に促す。
「美鈴、魔法で一気に片付けてくれ」
「えっ… ああ、わかったわ」
さすがの美鈴もあまりに気を呑まれていたせいで一瞬反応が遅れるが、気を取り直してたった一言。
「グラビティー・インパクト」
ズーンという地響きと共に、アリの群れがいる場所に100Gの強大な重力が圧し掛かる。無論アリごときがこのような超高重力下に耐えられるはずもなく、グシャリと音を立てて潰れていった。
「ほほう、そこの嬢ちゃん、実に見事な技じゃが、今のは何じゃ?」
「お爺様、ただいまのは重力魔法です」
「なるほど、そなたも学と同様に魔法の使い手であったか。見事見事」
ジジイが美鈴を褒めている。ここまで手放しで人を褒めることなど滅多にないジジイを知っているだけに、桜の目がこれでもかといわんばかりに大きく見開かれるのは言うまでもなかった。
ここでジジイが聡史に向き直る。
「ところで聡史よ、なにゆえそなたたちがやってきたのじゃ?」
「決まっているだろう。ダンジョンを攻略して異世界に消えたジイさんを迎えに来たんだよ」
「左様か… ワシはこの世界をそこそこ気に入っているゆえ、もう少々逗留していたいんじゃが」
「ワガママ言わずに俺たちと一緒に日本に戻ってもらうからな。どのみちあと1週間は俺たちもここにいるから、帰るのはそれからだ」
「そうかそうか、ならば精々その間は思いっ切り羽を伸ばすとしよう」
「ジイさんが羽を伸ばすと必ず事件が起きるから、ともかく自重してくれよ」
「ガハハハハ、何を言うか。ワシは自衛隊に力を貸して役に立っておるわい。誰が事件など引き起こすか」
確かにこのジジイの言う通り、この地においてまだ事件は起こしていない。というよりも、その力が大いに役立っているのは事実。そう、これは現時点まではの話だが…
こうして久方ぶりに実の祖父に再会した聡史たちは、ひとまずこの暴れん坊将軍が何か仕出かさないように宿舎にその身柄を何とか押し込めるのであった。
ようやくジジイを捕まえた聡史たち、このまま真っ直ぐ日本に戻るのかと思いきや、異世界にやってきたらそれなりに処理しなければならない仕事が山積みの模様。そんな忙しく立ち振る舞う聡史たちを尻目に我が道を行くジジイは…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
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