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300 闘武館の初ダンジョン 3

ついに300話に到達しました。学君頑張って!

 ジジイが待っている飲食コーナーにやってきた学。テーブルの前に立って一礼してから…



「師範、お待たせいたしまして大変申し訳ありませんでした」


「うむ、構わぬぞ。それよりもちょっとその席に掛けるんじゃ」


「は、はい」


 一体何事と訝しみつつも、学は椅子を引いてジジイの正面の席に腰を下ろす。真正面のジジイの表情を窺うと、何とはなしに嬉しげな様子が伝わってくる。



「学少年、そなたは門下生となって何年経ったかのう?」


「はい、入門してから今年で5年目になります」


「そうじゃったか。ウチに来た頃はまだチンチクリンの小学生だったが、いつの間にか大きくなったものじゃな」


 学が入門したのは小学校の5年生の時。気弱な面を心配した父親に連れられて闘武館の門を叩いていた。以来現在に至るまで道場では最年少の弟子という立場が続いている。


 そのような背景があるにしても、なぜ今この時ジジイがこんな話をし出すのか、その考えが学にはまったく掴めていない。



「さて、先程の学少年の戦いぶりを見せてもらったが、なるほど桜に付いてよく鍛えておるな」


「ありがとうございます」


「して、先程魔物に放った氷は、どのような術なのじゃ?」


「師範、あれは魔法でございます」


「ふ~む、なるほど、あれが魔法というものか。そなたはかなり自在に使いこなしているようじゃな」


「はい、魔法学院でしっかり練習しています」


「結構な話じゃ。なにも古武術一辺倒で強くなる必要などどこにもない。使えるものは取り入れて、自らのスマイルを構築すればよろしい」


「師範、スマイルではなくてスタイルではないでしょうか?」


 相変わらずこのジジイは横文字に弱すぎる。笑顔を構築して学に何をさせるつもりだ? ハンバーガー屋のカウンターでアルバイトでもさせようというのか?



「そうじゃったか? まあ細かいことは気にするでない。してな、ワシはたった今からそなたを学と呼ぶことに決めたわい」


「えっ、どういうことでしょうか?」


「わからぬのか? もうそなたを子供扱いはせぬという意味じゃ。今日からは一人前の闘武館の門下生じゃ」


 これまでジジイや門弟たちが口を揃えて「学少年」と呼んでいたのは、まだ小僧扱いの意味が込められていた。だがジジイのこの言葉の意味は学にも伝わって、彼自身一人前として師範に認められたという喜びを噛み締めている。



「ありがとうございます。これからもより一層精進してまいります」


「うむ、その意気じゃ。自らを高めて、より良き武人になるがよいぞ」


「はい、それではこれで失礼いたします」


 学は席を立ち上がろうとする。なんとなく「いい話だ~」という方向で話がまとまって極々自然に立ち上がったつもりだった。だがいつの間にか怪物ジジイが後ろに立って彼の両肩に手を乗せている。一体いつ席を立ったのか学の目にはまったく映っていなかった。



「これ、学よ。今から先がワシとの楽しい時間であろう。ひとりで帰ろうとするとは水臭いのではないか?」


「す、すみませんでした。つい出来心で」


 ジジイが振り撒く恐怖に耐えかねてついつい帰ってしまおうという誘惑に負けてしまった学だが、〔ドサクサに紛れて帰る作戦〕は敢え無く不発に終わった。そもそもこの怪物ジジイの目を盗んで出し抜こうという考えそのものが間違いの元。こうなったら仕方がないので、学は全てを諦めた表情でジジイを再び転移魔法陣に案内する。そして再び6階層に戻ってきた。もちろん学の意思ではない。



「それではブラブラと歩いてみようぞ」


「師範、特に目的は定めないのでしょうか?」


「目的? だんじょんというのは、何か目的があるのか? ワシは思いっ切り戦えるだけで満足なんじゃが」


(師範が思いっ切り戦うというのが最大の恐怖なんですよ~)


 心の中でそう呟いた学だが、なんとかセリフが口から洩れることだけは強靭な意志で阻止している。どうせ口にしても「気合いが足ら~ん」と雷を落とされるのがオチと知っているから。



「師範、桜ちゃんから何も聞いていないのですか? ダンジョンで魔物を倒せばドロップアイテムが手に入りますよ」


「なんじゃ、そのバックドロップというのは?」


「バックドロップではなくて、ドロップアイテムです。プロレス技を手に入れてもあまり嬉しくはないです」


 淡々とツッコミを入れる学だが、ジジイにはさして響いた様子がない。そもそもこのジジイは他人の言葉に影響を受けるなどといった人としてごく当たり前の神経を持ち合せてはいない。おそらく桜や茜に傍若無人な傾向があるのは、このジジイの遺伝的な要素が強いせいであろう。



「お金になったりダンジョン攻略に役立つ武器や防具が手に入るんです。ですから師範、先程のように魔物を見えなくなるまで遠くに吹き飛ばさないようにしてください」


「そうか、わかったぞい。要は手元で倒せばよいのだな」


 もちろんジジイにとっては魔物を倒すのが当然という前提。どんな戦い方をしようが、苦戦したり、よもや負けるなどといったマイナス思考は1ミリも持ち合せてはいない。



「それからこの6階層だけではなくて、まだまだずっと下まで階層が続いていきます。下の階層に行くにつれて魔物はどんどん手強くなっていきますから」


「なるほど、それは面白い。ではなるべく下を目指して進むとしよう」


 言ったそばから学は後悔している。このジジイは絶対このような反応をすると知っていながら、つい口が滑ってしまった。一体どの階層まで進まされるのか… 学の不安は尽きない。


 ということでジジイがダンジョンについて最低限の理解を示したので、みたび通路を歩き出す。



「学よ、魔物が出てくるぞい」


 ジジイが警告を発した途端、学は先程同様に退避行動に入る。つい今しがたの立ち位置から大幅に下がって様子を窺う学の目に飛び込んだのは、ジジイがオークの頭部を鷲掴みにして大きく振り回しながら壁に叩き付けている絵面。いくら手元で倒すといっても、もっと他に遣り様があるというのに…


 ともあれ戦いという名の一方的な虐殺が終わって、見るも無残に潰れたオークの死体は消え去っていく。その場にはお馴染みのひと塊の肉が落ちている。



「学よ、この肉は一体なんじゃ?」


「師範、これがドロップアイテムですよ。オークの肉は上等な豚肉と同じ味で、学院の食堂で提供されるトンカツはすごく美味しいんです」


「なるほど、美味そうなドロップキックじゃのぅ~。これは土産に持ち帰って婆さんにも食わせてやろう」


「師範、ですからプロレス技ではありませんから」 


 ジジイは先程学に指摘されて間違いを正したつもりらしいが、どうも修正する方向を完全に見失っている。もう横文字を使うのは諦めていい頃合いではないだろうか。


 こんな横文字が全くダメダメなジジイだが、オーク討伐のほうは方法さえ除けば至極順調。バカの一つ覚えではあるまいし、相変わらずオークの頭を鷲掴みにしては壁に叩き付けるジジイ。いくらオークでも、こんな無残な死に方だけはしたくないであろうに。


 学に案内されつつ6階層は無事に通り過ぎて7階層へ。この辺からオークの上位種も登場してくるが、ジジイの前では多少の誤差に過ぎないよう。



「学よ、こちらの肉のほうが上質に見受けられるが、どうなっておるのじゃ?」


「師範、オークの上位種でしたので、その分肉も高級品になります」


「上位種? 先程と何も変わらんぞ。訳が分からぬことを言うでない」


「師範、普通の冒険者にとってはちょっとでも魔物が強くなっただけで討伐が大変になるんです」


「鍛錬が足りないせいじゃな。気合いを入れて臨めば倒せぬ敵など存在しないわ」


 事あるごとに「気合い」というセリフを葵の紋所の如くに持ち出すのは脳筋の証。そもそもこのジジイ、他の人間のレベルに合わせて思いやるなどという概念すら持ち合せていない。


 こんな調子でオークの上位種を飛んでいる蚊を潰すような勢いで倒しつつ、しばらく壁沿いの通路を歩いているとジジイが急に立ち止まる。



「学よ、こちらの壁は怪しげな気配を感じるぞい」


「師範、僕にはただの壁にしか見えませんが、何がそんなに気になるんですか?」


「イヤな、その昔敵兵を追いかけてジャングルを歩いておった際に同じような違和感を覚えたものよ」


「違和感ですか。そこには何があったんですか?」


「地面に埋めてある地雷よ。どうも何やらこの壁には仕掛けが施されているような気がしてならぬわい」


 ジャングルに仕掛けてある地雷を見抜くとは、このジジイどういう勘が働くのだろう? もちろんそんな危険な場所に長居したくない学は何とかジジイを止めようと懸命の努力をする。



「師範、罠かも知れませんから、この場は手を触れずに先に進みましょう」


「学よ、真の武人というものは罠だと知っても敵に背を向けるでないぞ」


 どうやらこのジジイ、罠と知りつつ何らかの形で突破する構え。というよりもダンジョンが面白すぎて、ちょっと我を忘れているのではなかろうか。しばらく考え込んだジジイは、やおら右手を壁に当てて瞬間的に力を込めると、得意技のひとつ〔ゼロ距離打撃〕が炸裂する。簡単に説明すると中国武術にある発勁をさらに突き詰めて、対象に触れている手の平から力を押し出して内部に衝撃を貫通させる非常に特殊な打撃技とでもいおうか。


 ジジイの掌から発せられた衝撃によって石造りの壁はガラガラと崩れていく。



「師範、何ですか? 今の技は…」


「技? この程度の児戯など技の内に入らぬ。さて、どうやらワシの勘が的中したようじゃ。ほれ、この先にいまだ知られぬ道が続いておるぞ」


 ジジイの視線の先には確かに隠し通路が壁の奥の方向へ続いている。だが学は隠し通路に秘められた危険を桜から聞いていた。



「師範、これは間違いなくトラップです。こうして人間の興味を引き付けておいて、その先には脱出困難な罠が仕掛けてあります」


「トラクターなどどこにもありゃせんわい。学もおかしなことを言うもんじゃのぅ~」


「師範、ダンジョンの中で畑を耕すつもりですか?」


 学のツッコミをシレッと聞き流して、ジジイは隠し通路に足を踏み込んでいく。その余裕綽々の姿は見ていて頼もしいが、あからさまな罠だと知っている分だけ得も言えぬ不安を掻き立てられるのも事実。だが学もこうなれば覚悟を決めるしかない。ジジイの後について隠し通路へ入っていく。


 しばらく進むとそこは突き当りで、床にはこれ見よがしに魔法陣が浮き上がっている。



「学よ、この絵模様は何じゃ?」


「師範、魔法陣ですよ。つい先程も6階層に移動する際に入ったじゃないですか」


「そうだったかのぅ~。年を取ると忘れっぽくてかなわぬな。ほれ、入るぞ」


「し、師範、ちょっと待ってください。まだ心の準備が…」


「四の五の言わずに大人しくせんか」


 いつの間にかジジイに背後に回られて両肩を掴まれた学。その態勢のまま魔法陣の中に強制的に連れ込まれる。


 一瞬の浮遊感の後に二人が立っているのは、体育館よりもやや広めのホールのような場所。まあそれはいいとして、問題なのはそこにはありとあらゆる種類の魔物がビッシリと隙間なく蠢いている点だろう。



「ほほう、こちらがわざわざ歩いて探す手間が省けるわい」


「し、師範、だから言ったのに~」


 ざっと見積もっても数百単位にも及ぶ魔物が牙を剥き出しにしてこちらを睨み付けている。何かの切っ掛けさえあればたちまち狂ったように襲い掛かってくるのは間違いない。



「学よ、心配するでないぞ。ワシがキレイに片付けてくれるゆえに、そなたは壁際で身を潜めておるのじゃ」


「もう逃げてます」


 ジジイの耳には、やや離れた場所から学の応えが届いてくる。そちらに視線を向けると、学はホールの隅に体育座りをしている。なんとも手回しが良いことだと、変な方向に感心するジジイ。


 

「良かろう、学はその場から動くでないぞ。さて、参ろうか」


 ジジイは魔物の大群に向かってゆっくりと歩を進めていく。ホールの向こう側半分の位置に折り重なるように集まっている魔物は、オークやオーガだけではなくて、オオカミ系や爬虫類系の魔物、更には20階層から先にしか登場しないミノタウロスやトロルなどの巨人たちまで勢揃い。さながら通路に出てくる魔物の見本市のような壮観な眺めが広がっている。一番奥には翼を左右に広げるレッサードレイクまでその姿を何体か見掛けるので、やはりボス以外の魔物が全てこのホールに集結しているのだろう。


 ジジイは何事もない顔をしながら魔物に向かって歩いていく。いやその口元が若干緩んでる様をみるにつけ、楽しくて仕方がないのだろう。やがてジジイの足が一定のラインを超えた途端、魔物たちがある個体は雄叫びを挙げながら、ある個体は目を真っ赤に充血させながら、またある個体は開いた口から小さな炎を吹き出しながらジジイに迫りくる。



「甘いわ~」


 ついにジジイの目の前に最初の1体が躍り出た。だがジジイはすでに完全な戦闘モード。張り手のように付き出した左手がオーガの胴体に炸裂すると、その体は砲弾を超える速度で後方に吹き飛んで何十体もの魔物を巻き込みながらなおも止まらず、ついには一番奥の壁に激突している。オーガが吹っ飛んだ跡はまるで道が出来たかのように、魔物の姿が消え去っている。


 わずか一撃で、ホールに蠢く魔物の5分の1を消滅させたジジイ。張り手一発でこの威力とは、さすがはレベル3600。


 その頃学はホールの隅に座り込んで、必死になって目の前に万能シールドを何十枚も展開している。敢えてジジイの方向は見ずに、今は自分の身を守ることだけに専念しているよう。だがジジイのコブシが猛威を振るうたびに、学の脳内にはレベルが上昇するピコーンという音が連続して鳴り響いている。



「ワハハハハハ、実に愉快じゃ」


 ホールに響き渡る笑い声をあげながら、ジジイの猛威は止まらない。たった5発の張り手で、ホールにいた魔物はすでに全滅した模様。だがその死骸が消え去るのと同時に、新たに床から生えてくるようにして次々と魔物が生み出されていく。どうやらジジイと学が転移してきたのは、以前桜も出くわしたことがある無限湧き部屋であった。あっという間にホール内は魔物の姿で溢れ返る。



「ほほう! わざわざお代わりまで用意するとは気が利いとるわい。血祭りにあげられたくなくば、死ぬ気で掛かってくるがよいぞ」


 戦闘において数は暴力… こんなセリフを耳にすることがあるだろう。現にあの桜でさえ身体強化を重ね掛けして魔物の中央を突破し、最終的には祭壇に置いてあった魔石を破壊してようやく無限湧き状態を終息させた。


 だがこのジジイにはそんな小細工など無用。津波のように寄せ狂う魔物たちの最も手近な1体を吹き飛ばすだけで、音速を超えるミサイル兵器に早変わりしてしまうのだ。稀にジジイの背後に回り込もうとする目端が利く魔物がいるが、そんな輩は頭を鷲掴みにされて壁に叩き付けられて無残な死に様を晒す。学の位置まで辿り着ける魔物など皆無の状況。


 だからといって学が安心かというと、実はそうではない。ジジイに吹き飛ばされていく魔物の速度が音速をはるかに超えているせいで、ホール内はひっきりなしに衝撃波の爆音が轟く。この衝撃波が時折万能シールドを破壊していくため、学はその補充に忙しい。だが救いはある。無限湧き部屋に登場する魔物はドロップアイテムを落とさないが、経験値はしっかり残していく。そのおかげで学は度重なるレベルアップを繰り返しているので、その度に展開するシールドが徐々に強力になっていく。


 第2波の魔物たちがすっかり消え去って、ホールには第3波の魔物たちが登場する。だがジジイはまったくの平常運転で、その破壊力を如何なく発揮している。桜の暴れっぷりを見せつけられて多少の免疫がある学だからこそ精神を何とか平常に保っていられるが、普通の人間ならば失神しているか、もしくは一時的に錯乱するかの二択かもしれない。



「ガハハハハ、この程度か。もっとワシを楽しませんか~」


 どうやらジジイは絶好調な様子。心行くまで魔物を屠って、いつの間にかニッコニコの笑顔。でもその動きは休むことなく、笑いながら魔物を殺していくからなんだかちょっと怖い。


 この勢いで第4波~第7波もペロッと平らげたジジイ。バッチこい! という表情で待っているが、いくら待っても魔物が湧き出てくる様子がない。



「なんじゃ、もうお仕舞かのぅ~。ちょうど体が温まってこれからという時に」


 どうやらまだ暴れ足りないらしい。ステータスにあった〔究極のバトルジャンキー〕というのは、やはり本当だった。というよりも、これ以上このジジイに当てはまる言葉が見つからない。



「お~い、学や。そんな隅に隠れていないでこちらに来るがよい。残念ながら魔物は打ち止めのようじゃ」


「師範~… とんでもなさすぎですよ~」


 万能シールドを解除して出てきた学は、呆れを通り越して無表情。ちなみにこの無限湧き部屋だけで彼のレベルは86まで上昇している。



「最初に言ったであろう。ワシの隣こそが最も安全じゃと」


「いいえ、違う意味で最も危険だと再認識させていただきました」


「何を言っているんじゃかようわからんぞ」


「いえ、いいんです。僕の独り言ですから」


 このジジイに何を言っても無駄と諦めた学がいる。桜たちと別れた時点で諦めていたから、現在が諦めのドン底にいるのだろう。


 今二人が立っている周辺には目ぼしいものは何も見当たらないので、そのままホールの奥に当たる場所に歩いていく。すると桜の時と同様に祭壇のような台が置いてあり、その上には魔石と宝箱が。魔石のほうはどうやらすべての魔力を放出したせいでヒビが入っている。ジジイがあまりに派手に暴れたせいで、魔石の魔力が枯渇してしまったらしい。ダンジョンの管理者からすれば、ジジイの狂乱に満ちた戦闘は想定外であったよう。



「学よ、この箱は一体なんじゃ?」


「この部屋のドロップアイテムです」


「そうか、魔物を全部倒した褒美のボディースラムじゃな」


「師範、そろそろプロレス技もネタが尽きそうですね」


 ジジイが「罠を仕掛けているような気配はない」と断言したので、学は宝箱のフタに手を掛けて開いてみる。中から出てきたのは金属製の黒塗りの籠手が2対。



「なんじゃ、これは?」


「桜ちゃんが愛用しているオリハルコンの籠手とよく似ていますね」


「なるほどのぅ~。どれ、ちょっと手に取ってみるか」


 ジジイが1対を手に取ると、そのまま両手に嵌めていく。



「ほほう、中々しっくりくる武具じゃな。手に嵌めているという感覚を忘れそうなくらい、指先まで自在に動かせるぞい」


 なんだかジジイはご満悦な表情。実はこの籠手、オリハルコンと双璧をなす希少金属のアダマンタイトで創られた籠手であった。もちろん伝説級の逸品で、金額には換算できないほどの価値があるだろう。



「学よ、何を見ているのじゃ? もう一つあるゆえに、そなたも手に取るがよかろうに」


「えっ、僕は何もしていませんよ」


「案内役としてワシと共におるのは学に他ならぬ。こちらの籠手はワシがもらうゆえ、もう一方はそなたの物じゃ」


「あ、ありがとうございます」


 素直に頭を下げて宝箱から籠手を取り出す学。今両手に嵌めているミスリルの籠手を外して改めて装着してみると、なるほどジジイの感想が頷けてくる。



「なんだかすごく自然な感触ですね。このミスリルの籠手もいいんですが、指の動きにほんのちょっと違和感がありました。こっちの籠手のほうが使いやすそうです」


「よろしい、ならばそのまま学が使うがよかろう」


「本当によろしいのですか?」


「構わぬよ」


「師範、ありがとうございます」


「よいよい、さて、ここを出るにはいかがすればよいのじゃ?」


「たぶんあそこにある魔法陣に入れば戻れると思います」


「そうか、では参ろうかな」


 こうしてジジイと学は元の隠し通路に戻ってくる。そのまま7階層をグルリと一回りして、ちょうど昼時に差し掛かってきたのもあって、二人は一旦地上へ向かうために転移魔法陣へ。こうしているとその後ろ姿は、仲良さげな祖父と孫の組み合わせに見えてくるから不思議なものだ。地上に戻ると…


 

「おジイ様、学君、こちらの席が空いていますよ」


 管理事務所の飲食コーナーに入った途端、訊き慣れた桜の声が響いてくる。その笑顔を見てようやく学は、生きて地上に戻ってきたという実感を得るのであった。

怪物ジジイに認められた学君。新たな装備も手に入って絶好調です。道場一行のダンジョン巡りは一旦中断して、次回は家で専業主婦に励む聡史に話が移る予定。もちろんあの二人が訪ねてきて…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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[良い点] 桜と明日香の2人だけで七つの大罪のうち色欲以外はすべてクリアできてるんじゃないかと思いました。 [気になる点] 兄妹だけで世界最強、世界を滅ぼせそうといわれていたのに、学院長がさらに格上で…
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