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30 カレン

パーティーメンバーが増えて……

 カレンが新メンバーに加わって、リビングではこれまでのパーティーの活動に関する話題で、盛り上がっている。


 そこに聡史が一石を投じる。



「美鈴がカレンさんと顔見知りなのはわかるけど、桜と明日香ちゃんはいつの間に知り合ったんだ?」


「ああ、それはねぇ、今日私が危ない目に遭ったのを、カレンの機転で助けてもらったのよ」


 聡史の目がギラリと物騒な光を放つ。



「美鈴が危ない目に遭った? どういう事なんだ?」


「聡史君には、まだ何も話していなかったわね。実は、同じクラスの…」


 美鈴の話が進むたびごとに、聡史の表情が一段一段険しくなっていく。



「それで、背後から抱え込まれて、粘着テープでグルグル巻きに…」


「桜ぁぁぁ! そいつらのいる場所に案内しろぉぉ! この手で叩き斬ってやるぅぅ!」


「お兄様、どうか落ち着いてくださいませ」


 アイテムボックスから抜身の魔剣オルバースを取り出しては、立ち上がって玄関へ向かおうとする兄。妹は兄の腰の辺りに両腕で抱き着いて、必死で押し留めようとしている。



「まあ、聡史君ったら。私のためにあんなに怒ってくれて…」


「お兄さん、今の気持ちをどうか一言」


「お兄様、どうか早まらないでくださいませぇぇ!」


「えーい、妹よ。早く敵の居場所を教えろぉぉ!」


 カオス再来であった。



「ほ、本当にこのパーティーに加入したのって、正解だったのかしら?」


 カレンはカレンで、早まってしまったかと後悔の念を滲ませている。 



 桜の懸命な説得が功を奏して、聡史は魔剣をアイテムボックスに仕舞って席に戻る。脳内で『怒っちゃダメだ!』『怒っちゃダメだ!』と、300回くらい繰り返したおかげで、ようやく多少の冷静さを取り戻したようだ。


 席に着くなり、おもむろに聡史が美鈴に聞く。



「それで、美鈴は怪我はなかったのか?」


「ええ、ブラウスを引っ張られたせいで、ボタンが二つ飛んでちょっと肌蹴てしまったけど…」


「桜ぁぁ! 今度は絶対に止めるなぁぁ! 早く居所を教えろぉぉ!」


 魔剣オルバース再び。聡史が立ち上がって玄関へと向かう。



「聡史君が、あんなに怒ってくれるなんて…」


 悲劇のヒロインモード全開の美鈴。



「お兄さん、やはり怒っていますか? コメントをお願いします」


 レポーターモード全開の明日香ちゃん。



「お兄様、敵はこの私がボコりましたから、どうか早まらずに」


 体力全開で聡史を止めに掛かる桜。



「やっぱり加入の件は、白紙に戻した方が…」


 後悔全開のカレン。


 リビングをカオスの熱い空気が包み込み、騒乱の時間がしばし続く。


 だが、この騒乱からいち早く立ち直り、我に返ったのは、実に意外な人物であった。



「そうでした! お兄さん、たった今、いい方法を思いつきましたよ~」


 全員の注目が一気に明日香ちゃんへと集まる。殊に聡史の怒りに任せた圧力に押し負けて、玄関の手前まで追い込まれていた桜にとっては、どんなアイデアであっても飛びつきたい心境であった。



「皆さん、一旦テーブルに集まってください」


 明日香ちゃんのめったにない真剣な呼び掛けに、聡史も何事かと魔剣を仕舞ってテーブルに戻ってくる。



「お兄さん、よく聞いてください。ここに主犯の東十条雅美のとっても恥ずかしい画像があります」


「どれどれ… うわっ! これは相当恥ずかしいな」


「それから、こんな画像もありますよ~」


「これもヒドいな」


「これが一番のベストショットですよ~」


「あちゃー! 全部写っているじゃないか」


「それでですね、これをこうして… ゴニョゴニョゴニョ…」


 明日香ちゃんのアイデアに関する説明が約5分続く。



「そうか… 叩き斬れないのは遺憾だが、明日香ちゃんのアイデアで手を打とうか。そろそろ時間だから、夕食を食べてから仕込みに入ろう」


「お兄様、そうですよ、そうしましょう!」


 こうしてカオスから脱却した5人は、揃って食堂へと向かう。


 食事を終えると、全員で色々と準備をして、そろそろいい時間となる。



「それじゃあ、私は寮に戻るわ」


「本当は今日もあの部屋に泊まりたいですけど、我慢して帰りますよ~」


 美鈴と明日香ちゃんが女子寮へと戻ろうとする。当然カレンも…



「それでは私も… しまったぁぁ! お部屋にスマホを置いてきてしまったようです。一度戻らせてもらえますか?」


「ええ、どうぞいらしてください」


 こうしてカレンだけが兄妹と連れ立って、今一度特待生寮へと戻ってくる。



「カレンさん、スマホはリビングですか?」


「いいえ、私のポケットの中にあります。実はお二人に折り入ってお話したい件があったんです」


 聡史と桜は、どんな用件だろうと首を捻りながらも。カレンをもう一度部屋に招き入れる。



 テーブルの上には人数分の麦茶が、お馴染みの紙コップで提供される。3人が一口飲んでから、カレンが口火を切る。



「実はもっと早くに、お二人とはこうしてお話しする機会を持ちたかったんです」


「というと?」


「私の姓は神崎です。聞き覚えはありませんか?」


「あまり記憶にないですわね」


「うーん、最近どこかで聞いたような気がするんだが、思い出せなんだよなぁ」


 聡史にはおぼろげながら聞き覚えがあるようだが、桜にはまったく記憶にない姓だった。



「それでは、異世界と聞いて、何か思い出しませんか?」


 聡史と桜の表情が変わる。カレンは一体何を知っているんだと、彼女の考えを窺うような表情になっている。



「神崎、異世界、この二つのキーワードを持つ人物と、最近会っていないですか?」


 ここまでカレンがヒントを出したおかげで、聡史の脳裏にようやく彼女が言わんとする人物像が浮かび上がる。



「ま、まさか… 学院長か?」


「その通りです。私、神崎カレンは学院長の娘です。そして、異世界の血を受け継ぐ者です!」


「なんだってぇぇぇぇ!」


「なんですってぇぇぇぇ!」


 兄妹の声が微妙にズレる。桜にカレンの姓に関する記憶がなかったのは、学院長が自己紹介した時点ではまだニート宣言中で部屋に籠っていたためだった。



「と、取り敢えず、カレンが学院長の娘だというのは理解した。それで、異世界の血というのは?」


「はい、私の母は異世界に渡って冒険をしている時期に、たまたま巡り合った男性と恋に落ちたそうです。そして、母のお腹の中に私が宿って… ですが、私が生まれる前に母は日本に戻されてしまったんです。そして、日本で私は生まれました」


 何という不思議な縁の巡り合わせか、聡史たちの前にもうひとり、異世界に関係する人物が現れたのであった。



「それじゃあ、回復魔法も…」


「おそらく、異世界にいる父親の影響ではないでしょうか。最初からステータス画面にあったんです」


 こうして、カレンという謎の女子生徒の正体が判明した。だが異世界人とのハーフだなんていう事実は、さすがの聡史兄妹でも寝耳に水の出来事と言えよう。



「実は美鈴さんを助けたのも理事長側の生徒… 殊にその娘である東十条雅美の動向を探っている時に偶然知りました。今回の件で当分理事長は動きを封じられると思いますから、母も結果については喜んでいます」


「なるほどねぇ… 理事長が娘を使って生徒の支配を企む裏側では、学院長の娘がその動向を探っていたというわけか」


「端的に言えば、そうなります」


「でも結果として美鈴が助かったんだから、俺たちに取ってはありがたい話だ。本当に助かった」


「そうですわ。カレンさんがいなかったらと思うと、ゾッとしたしますの。美鈴ちゃんを救ってくれてありがとうございました」


「そんな改まってお礼を言われても私が困ります。スパイのようなことをしている最中にたまたま行き当っただけですから、あまり胸を張って威張れないです」


 カレンは、あくまでも謙虚に手柄を認めようとはしない。それが却って、聡史たちにとっては好感が持てる要素でもある。



「いずれにしても、これからは同じパーティーだから、どうかよろしく頼む」


「こちらこそ、お願いします」


 こうしてこの夜の話を終えると、カレンは女子寮へと戻っていった。





     ◇◇◇◇◇





 翌日、寮の自室で雅美は最悪の目覚めを迎えていた。昨夜は、恐怖、後悔、苦悩、懊悩、不満、憤怒、憤り等々、やり場のない負の感情が次々と湧き上がって殆ど寝れなかった。目の下にはどす黒い隈が出来上がっており、寝不足で青白い顔色と相まって鏡を見るのも嫌になってくる。


 昨日は、呆然自失となって木の幹にもたれ掛っていたら、真っ先に意識を取り戻したひとりの陰陽師に肩を揺すられて意識が現実に戻ってきたような気がする。


 その後はどこをどうやって帰ってきたのか記憶は全くないが、気が付いたら寮の自室にいた。


 事件が表沙汰となって、学院からの事情聴取や警察からの取り調べが行われるのではないかという不安を覚えたが、もう今の自分にはどうでもいいことのように感じてしまう。


 最悪の気分を抱えながら、仕方なしに身支度を整えて寮を出て教室へと向かう。食欲は全くなくて朝食はパスしたままで、始業の10分前にAクラスの自分の席へ座る。


 ふと下を見ると、机の物入れに何か封筒のような物の端が顔を覗かせている。何だろうと手に取ってみると、それはピンク色の封筒であった。


 シールで留めてあるだけの封を開いて中身を確認すると、3枚の写真が出てくる。その写真の裏側には、このように書かれていた。



〔東十条雅美のお漏らし写真〕


 何だこれは? 写真を持つ手が震えてくる。


 ふと顔を見上げると、そこにはひとりの女子生徒が立っていた。その姿は美鈴に他ならない。ニヤリとした悪魔的な表情を浮かべながら、美鈴は至極ゆっくりした口調で語りかける。



「その写真は気に入ったかしら? データは保管してあるから、あなたのお望みのままに何枚でも印刷できるわよ」


「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 雅美はそのまま教室を飛び出して、何処かへ姿を消したままこの日以降教室に姿を見せなかった。しばらくするといつの間にか休学の手続きがなされて、一か月後には除籍処分となったという噂が広がるが、真偽のほどは定かではない。


 飛び出していく雅美の後ろ姿を視線の端でチラリと見遣りながら、美鈴はザマアという表情で机に残された3枚の写真をそっと回収するのであった。 

 

ローファンタジーランクの20位です!! 皆様の応援のおかげだと、心から感謝しております。ベストテンまであと一息! せっかくだから、ランクインを目指したいなぁ。日間ランキングにも載りたいなぁ。(チラチラッ)


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