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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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29 新メンバー

ようやく事件が解決して……

 ピンポーン


 特待生寮のドアホンが鳴る。



「は~い、お待ちくださ~い」


 桜が席を立っていそいそと玄関を開けると、そこに立っているのは予想通りカレンであった。



「おじゃまします。なるほど~… 聞いてはいましたけど豪華なお部屋ですね~」


 桜に案内されてリビングに入ってきたカレンの第一声がこれ。美鈴や明日香ちゃんがこの部屋に初めてやってきた時と同様に、カレンは部屋の造りをしげしげと眺めている。



「やっぱりカレンさんもそう思いますよねぇ。私なんか、いつか絶対この部屋に住みついてやろうと狙っていますよ~」


 本気マジな顔で明日香ちゃんは主張している。この女子は、本当にやらかしかねないから、油断も隙もあったもんじゃない!



「それよりもカレンさん、今日は本当に危ない所を助けてもらって、ありがとうございました」


「そんなに改まらないでください。当然のことをしたまでですから」


 美鈴は再びカレンに頭を下げている。もう何回目か本人すら覚えていないが、カレンのおかげで貞操の危機を回避できたのだから、何度礼を言っても足りないぐらいだと本心で思っている。



「それよりも西川さんの精神的なショックが心配なんですが、大丈夫でしょうか?」


「ええ、大丈夫です。私ってステータス上の精神値が高いので、割と動じないタイプなんです。危険を回避できたのであれば、もうその出来事はあまり考えないというか…」


「それならよかったです」


 カレンは同性としてあのような目に遭った美鈴を心から心配してくれていた。もちろん彼女なりの別の事情はあるにせよ、美鈴の心情を慮っていたのは事実。



「それよりも今回の事件の扱いですが、皆さんはどうされるおつもりですか?」


 カレンはこの点に関しても気になっていた。学院側、もしくは警察に事情を伝えて、何らかの処置を講じてもらう必要があるのかを聞こうとしている。



「私はこの拳で怒りを晴らしましたから、美鈴ちゃんに一任いたしますわ」


「私も桜ちゃんと一緒ですよ~。スマホの画像という弱みを握っている以上、この先手出ししてこないでしょうし」


 桜と明日香ちゃんの意向は美鈴次第ということらしい。暴力行為の主犯と今後の恐喝担当が揃って同意見なので、話の流れは自ずと美鈴に向かう。



「そうねぇ~… 私自身もあまり表沙汰にはしたくないし、今回の件は学院には報告しないで済ませたいと思っているわ」


 美鈴もひとりの女子として騒ぎにしたくはないのであろう。変に勘ぐられて根も葉もない噂が立つケースだって起こりうるし、周囲から好奇の目に晒されるのはできれば御免蒙りたい立場も理解できる。



「やはりそのような結論に達しますよね。揉み消し工作を済ませておいてよかったです!」


「はて、揉み消し工作ですか?」


 カレンの意見に桜が不思議そうな表情を向ける。カレンの意図を図りかねているよう。



「怪我人はある程度治癒しておきました。今頃は目を覚ましている頃だと思います」


「ええぇぇ! なんだかすごい重傷みたいでしたが、大丈夫なんですか?」


 明日香ちゃんも桜と同様に、カレンが何を言っているのかサッパリわからない模様。だが美鈴は、ようやく気が付いた。カレンが実技試験で披露して見せた、あの光景を思い出したのだ。



「カレンさん、もしかして回複魔法を使ったんですか?」


「ええ、大事にならないように、最低限の治癒をしておきました」


 美鈴は、カレンの先々を読んだ心遣いに再び深く頭を下げている。いくら自分を助け出すためとはいえ、桜の暴れっぷりは過剰防衛に問われかねない。


 当の桜は、もっぱらその関心事は美鈴の口から飛び出た『回復魔法』というフレーズに集まっている。



「カレンさんは、回復魔法が使えるんでしょうか?」


「はい、使えます」


「もしよろしかったら、私たちのパーティーに入りませんか?」


 いきなりの勧誘であった。思い付いたら即行動が桜の人生哲学なので、現在カレンに向かってそれを忠実に実行している。


 実はカレンは貴重な回復魔法の使い手ということもあって、Aクラス内の各パーティーから引っ張りだこの立場。時には自由課題の前に争奪戦が繰り広げられるほどのと表現しても大袈裟ではない。クラスのカースト的には美鈴や明日香ちゃんの対極にある恵まれた立場といえよう。


 だが、カレン自身にも悩みがあった。あまりにカレンの争奪戦が激化して、いつの間にかクラス内で協定が結ばれていた。それは、日替わりでカレンは違うパーティーに所属するという内容で、本人の希望などまるっきり無視された状況。クラスに掲示されているカレンダーにはその日カレンが所属するパ-ティー名が記載されており、なんとも都合よい存在として使い回しにされていた。


 このことはカレンがクラスの生徒たちから距離を置いている一因にもなっている。求められているのはカレン自身ではなくて、回復魔法という特殊アイテムのような扱われ方をされているのだから、さもありなん。


 したがってカレン自身は、いきなりの桜からの勧誘にどのような意図があるのかやや斜に構えてしまう。だが桜は、そのようなカレンの内面での葛藤などお構いなしにグイグイ突っ込んでくる。



「カレンさんなら話も合うし、誰かを助けるために一生懸命になってくれますわ。信頼の置ける人物だと私の勘が告げています」


「カレンさん、あま~いデザートは好きですか? 良かったら私と桜ちゃんと一緒に放課後の食堂でデザート同好会に参加してもらいたいですよ~」


 明日香ちゃんも桜に負けないくらいにグイグイ押し込んでくる。デザート仲間が増えるのは、大歓迎らしい。

 

 多少強引ではあるが、このような心のこもった勧誘を受けた経験はカレンにとって初めてであった。桜と明日香ちゃんは、カレンを一個の人間として見てくれているということが自然に伝わってくる。


 当然カレンの心が大きく動く。



「皆さんが良かったら、加入させてください」


 カレンがこのように返事をするのはさも当然の成り行きであろう。そこに美鈴が口を挟む。



「私もカレンなら大歓迎よ。何よりも私の恩人だし。それはそうとして、聡史君の意見はどうするのかしら?」


「美鈴ちゃん、お兄様でしたら、きっと大丈夫ですわ。カレンさんのような美人は、お兄様は大好き… おっと! 誰か来たようです」


 桜が言い掛けた微妙な言い回しに、美鈴の目がギラリと物騒な光を放ち、明日香ちゃんの好奇心レーダーがピクリと反応する。その時…



 ピンポーン


 ドアホンが鳴って桜が玄関に迎えに行くと、そこには予想通り自主練を終えた聡史が立っている。



「お兄様、お帰りなさいませ」


「ああ、桜、ただいま」


 兄妹が連れ立ってリビングへとやってくると、聡史の目には金髪碧眼の見慣れない人物が飛び込んでくる。



「ああ、お客さんだったのか。きれいな人だな。誰かの友達か?」


「聡史君、ちょっとお話ししましょうか。私は再会してから一度も聡史君に『きれいだ』なんて言われたことが無いんですけど、その辺に関してじっくり意見を聞きたいわね」


 美鈴の背後からは、身長を越える長さの刃渡りを誇示する大鎌を持ち、表情のないドクロのような顔をした不気味なスタンドが浮かび上がっている。どうやら死神的な属性のようだ。


 

「お兄さん、お兄さん、やっぱりカレンさんのような金髪美人が好きなんですか? 胸は大きい方がいいですか? 一言! 一言コメントをお願いしますよ~」


 明日香ちゃんの背後には、スキャンダルに群がってはマイクを突き付けて根掘り葉掘り探ろうとする、芸能レポーターのようなスタンドが浮かび上がっている。こちらは最後の最後までしぶとく食い下がるハイエナ的な属性の模様。


 聡史が何気なく放った一言は、美鈴のジェラシー地雷と明日香ちゃんの好奇心地雷を見事なまでに的確に踏み抜いていた。



「ちょ、ちょっと待ってくれぇぇ。何が何だか全然わからないから、ちゃんと説明してくれぇぇ」


「そうね、私も聡史君の口からちゃんと説明してもらいたいわ」


「お兄さん、全国の視聴者が納得するように説明してください。一言! 一言お願いします!」


 聡史の言い方が、火に油を注いでしまっている。手が付けられないカオスな状況だ。


 カレンは空気を読んで、嵐が過ぎるまで口を噤んでいる方針を決定している。この場で自分が何か言ったら、余計燃料を供給するだけだと察しているのだった。



「聡史君、説明早よう」


「お兄さん、どうか一言!」


 二人から同時に突っ込まれて身動きが取れない兄を見かねて、ようやく桜が動き出す。



「美鈴ちゃん、どうかご安心ください。お兄様は、小学校の頃のアルバムをアイテムボックスの中に大切に保管して、時折取り出しては眺めていますわ」


「あら、そうなの。聡史君、そうならそうだと早く言ってよ。もう、照れ屋なんだから!」


 美鈴さん、デレるのが早すぎ!



「桜ぁぁぁぁぁ! お前は何で兄のプライバシーを知っているんだぁぁぁぁ」


「お兄様! もっと際どいお話をいたしましょうか?」


「い、いや… きっと俺の気のせいだから、何でもないぞ」


 一体桜は、兄の何を知っているというのだろうか? これ以上聞き出すのが怖すぎて、聡史は追及できなかった。兄は妹の前に敗れたり…



「明日香ちゃん、冷蔵庫に杏仁豆腐が入っていますけど食べますか?」


「桜ちゃん、何という隠し玉を内緒にしていたんですか! もちろんいただきますよ~」


 こっちはこっちであっさりと食べ物の前に陥落している。桜にとってはチョロすぎる手合いだった。



 ようやく平和を取り戻したリビングで、改めてカレンの紹介が行われる。



「こちらは、私と同じAクラスの神崎カレンさんです」


「カレンです。どうぞよろしくお願いします」


「桜の兄の聡史です。こちらこそよろしくお願いします」


 美鈴の紹介によって、初対面の二人が挨拶をしている。そこに桜が…



「お兄様、こちらのカレンさんに私たちのパーティーに加入していただけるようお話をしているのですが、お兄様のご意見はいかがでしょうか?」


「美鈴と明日香ちゃんは、納得しているのか?」


「「もちろんです」」


「だったらいいんじゃないのか。三人が見初めた人物なら俺はいいと思うぞ」


 こうして、カレンのメンバー入りが決定された。



「それでは、明日から新体制でダンジョンを攻略しましょう」


「皆さんの力になれるように、頑張っていきます」


 こうして新たなメンバーが加入したパーティーは、カレンを含めた五人で改めて紙コップに入った麦茶で乾杯するのだった。


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