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182 Eクラスレベルアップ作戦

ようやく魔法学院に戻ると、意外な事実が浮かび上がって……

 学院に戻ってきたブルーホライズンは、自分の部屋に戻って荷物を降ろし着替えを終えてから教室に向かう。3週間近く異世界に行っていたので、久しぶりのEクラスだ。ちょうど4時間目の授業が終わって、クラスの生徒たちは教科書を仕舞ってこれから食堂に向かおうとしている時間であった。



 ガラガラガラ


 出入り口の扉を開けて渚を先頭に真美とほのかの三人が久しぶりに教室に姿を現す。だが生徒の反応は…



「ヤンキーだ」


「魔法学院をシメに来たのか?」


「気を付けろよ。刺激すると暴れそうだぞ」


「ヘッドと手下が二人か。警戒を怠るな」


 クラスの男子たちは警戒心を露にして、女子たちは遠巻きになって様子を見ている。そして彼らの『ヤンキーだ』という声は、確実に渚の耳に届いているのあった。



「オラァァァ、誰がヤンキーだってぇぇ」


「渚、顔は傷が目立つから、ボディーにしておきなさい」


 クラスメートからヤンキー扱いされた渚の目は吊り上がり、ますます人相が悪くなっている。彼女の後ろにいる真美も手下扱いされて相当ご立腹の様子だ。リーダーとして渚に悪い顔で指示を送っている。彼女たちが誤解されているのは、例のメイドに扮した際の金髪のせいだ。まだ染めた髪の毛を元に戻していなかった。


 さすがにこの流れは不味いと気が付いたほのかが、渚を背後から羽交い絞めにして彼女を止めに掛かる。



「ほのか、放せ。人をヤンキー扱いした連中をブッ飛ばすんだ」


「渚ちゃん、教室で暴れたら師匠に怒られますから」


「ほのかちゃん、傷が目立たなければいいのよ。ボディーなら大丈夫だから」


「真美さんまで何を言っているんですかぁぁ。ちゃんと止めてください」


 こうして教室の入り口で三人のコントが始まる。この様子を見ているクラスの生徒たちも、さすがに三人の正体がわかってきた。



「なんだ、誰かと思ったら渚たちか」


「髪の毛の色が違っていたから、一瞬誰だか分らなかったじゃないのよ」


「急に髪の毛を染めるなんて、高校デビューしたくなったのか?」


「もしかして失恋したの?」


 様々な憶測の声が飛ぶが、三人にとっては大きなお世話だ。何が失恋だ、何が高校デビューだと、止め役のほのかでさえ憮然としている。とはいえ異世界での出来事は口外しないように聡史から言われているので、彼女たちは言い訳もできなかった。



「はぁ~… 誤解のないように言っておくけど、これには深い事情があったのよ。ともかく遠征から無事に帰ってきたから、またよろしくね」


「ヨロシク」


 真美が素の自分を取り戻している。もうこれ以上遠征については何も言わないつもりだ。だが渚の短い挨拶は再びクラスメートたちに誤解を生んでいる。



「やっぱりヤンキーになって戻ってきたぞ」


「あの顔は間違いなくヤンキーだよな」


「ヨロシクっていう挨拶が、妙に板についているよな」


「ああ、誰がヤンキーだって」


 再び渚がキレている。ヤンキー顔と呼ばれるのが、よほど腹に据えかねるようだ。ちょうどそこに、絵美と千里が教室に入ってくる。教室内では、新たに登場した二人に注目が集まる。



「おいおい、今度は髪の毛を染めて背伸びした小学生だぞ」


「ここは魔法学院だから、小学生は入ってきちゃダメだよ」


「誰が小学生ですかぁぁ」


「魔法でこんがり焼いてあげましょうか」


 小学生扱いされた絵美と千里は大変ご立腹の様子だ。頬を膨らませて抗議の意思を示している。そして最後に美晴が登場する。



「オッス! みんな、久しぶりだな」


 教室に流れる何とも言えない空気など全く読もうとせずに、いつも通りに右手を挙げて挨拶をする美晴だが…



「ガニ股だ」


「金髪のガニ股が現れたぞ」


「うん、あのガニ股には見覚えがあるな」


「たぶん美晴だろう」


 クラスの全員にガニ股を指摘された美晴の表情がみるみる変わっていく。



「みんな、なんでだよ~。せめて顔で見分けてくれよ~」


 クラスでも指折りの威勢のいい脳筋ではあるが、美晴は意外と腹を立てない性格だ。同時に精神的に弱い子でもある。口を揃えて『ガニ股』と言われて、思いっきりヘコんでいるのであった。目には薄っすらと涙を浮かべている。



「な、なんだか美晴の扱いよりもマシな気がしてきた」


「ガニ股よりもヤンキーのほうがまだいいわね」


「お子様呼ばわりも大概だけど、ガニ股よりはいいかも」


 美晴以外の他のメンバーは、すっかり機嫌を直している。美晴一人が涙目のままだ。



「うう… こうなったら師匠に慰めてもらうんだ~」


「ああ! 美晴ちゃんだけズルい~。私たちも慰めてもらう」


「そうよ、師匠は私たちみんなのものよ」


「師匠なら、きっと優しく受け止めてくれるもんね」


 いつの間にか聡史に慰めてもらうことが、ブルーホライズンの既定路線になっているようだ。当然男子たちのヘイトが、思いっきり聡史に向けられるのは言うまでもなかった。











   ◇◇◇◇◇

 











 魔法学院に戻ってきた聡史たちは、即行で学院長に呼び出されている。



「なるほど、カレンを護衛につけたのは西川少尉の見事な機転だ。レプティリアンと奴らに支配された金融界や政財界は、個人の命などなんとも思っていない。邪魔者は排除するのがやつらのやり方といえる」


「学院長はレプティリアンをご存じだったんですか?」


 聡史たちが何も言わないうちに、いきなり学院長の口から『レプティリアン』という単語が飛び出してきた。すでにダンジョン対策室から何らかの連絡を受けているのであろうか? レプティリアンを最もよく知っている美鈴は、学院長のその態度に疑問を感じている。



「西川少尉、私はカレンが生まれる以前に些かの関りがあった。以来、地球上でやつらがどのような活動をしているか注視している」


「そうだったんですか。それでは改めて説明するまでもないですね」


 この学院長は、本当に底が見えない。おそらく彼女が渡った異世界で何らか関係があったのだろう。敵として対峙したのか、それとも味方として協力関係にあったのか…… どちらかというと前者の可能性が高いようだ。



「ダンジョンにレプティリアンが関係していたのは、私の想像通りだ。人類に対してここまで悪事を働くとなると、根こそぎ一掃する必要があるな」


「学院長、岡山室長も同じような話をしていましたが、レプティリアンの影響はどの程度まで社会に広がっているんでしょうか?」


「楢崎中尉、いい質問だ。おそらくは貴官が想像する百倍規模で、政財界やマスコミが汚染されているはずだ」


 学院長の答えに、聡史は表情を曇らせる。自分の能力キャパシティーをはるかに超える規模の敵に対して、どのように戦っていけばよいのか考えがまとまらないようだ。だがこの娘は違う。腕捲りをしてヤル気に満ち溢れている。



「トカゲ人間はこの私が片っ端から討伐いたしますわ。今から腕が鳴ります」


「中々頼もしいな。その意気で頼むぞ」


 こういう時に脳筋は強い。後先考えなしに突っ走れるので、いうなれば怖いものなしだ。しかもレベル600オーバーという実力の裏付けがあるだけに、こんな娘を敵に回したらあらゆる組織ごと簡単に破壊しそうだ。


 話がレプティリアンに集中してしまったので、学院長は話題を転換する。



「異世界に派遣される予定の自衛隊の旅団は3週間後に準備が整う予定だ。それまでの期間は、各自は学院で過ごしてもらいたい。お前たちが留守の間に学院でも動きがあったから、中々面白いことになっているぞ。自分の目で確かめて、なんだったら手を貸してやってくれ」


「了解しました。それからカレンから何か連絡があったら教えてください。いつでも応援に駆け付けます」


「ああ、その時は声を掛けるから安心しろ。それでは午後の授業に戻るんだ」


 この声をもって、この度の学院長への報告は終了となる。聡史たちは一旦自分の部屋に戻っていく。桜と明日香ちゃんが食堂に寄りたいとゴネたので、大急ぎで昼食を済ませてから教室へと向かうのであった。










   ◇◇◇◇◇








 聡史、桜、明日香ちゃんの三人はEクラスへ、美鈴一人がAクラスへと向かう。午後の学科の授業が終わると、頼朝が聡史の元にやってくる。



「聡史、昼休みにクラスの連中から聞いたんだけど、どうやら俺たちが遠征に行っている間に他の生徒たちが相当レベルアップしているらしいぞ」


「ほう、それは面白い話だな。何か理由はあるのか?」


「なんでも学院長から新たな魔法の術式が公表されたらしい。日本語で書いてあって、すごく簡略化されているそうだ。おかげで魔法のレベルが急激に上昇して、それに引っ張られるように各パーティーが続々と下層に挑んでいるらしい」


「ああ、なるほど… そういうわけか」


 もちろん聡史には心当たりがある。原因は美鈴であった。異世界に出発する前、彼女は学院長に術式に関するレポートを渡していた。呪文が極限まで簡略化された上に、威力は数倍という強力な魔法を身に着けた魔法使いの出現は、パーティーに大きな影響をもたらす。ほとんどの魔法使いが聡史がもたらした強力なファイアーボールが使える上に、他の属性の初級魔法をバンバン放つようになっているのだ。


 仮に一人の剣士がゴブリンを相手にする際、今の1年生だと頑張っても1体か2体が精々であろう。剣士が3人いれば一度に3体~5体ののゴブリンを相手にできる計算だ。ところが優れた魔法使いとなると、一人で一度に4体も5体も相手にして魔法を放てる。なにも致命傷を与える必要はないのだ。ダメージを与えて魔物の動きを封じれば、あとは剣士や槍士にお任せで討伐は事足りる。


 つまり魔法使いが所属するパーティーは、大幅な火力アップという効果を得ていた。これは何も1年生だけとは限らない。上級生たちも続々と6階層や7階層に降りて、更なるレベルアップを目指してしているそうだ。この事象は他の魔法学院にも広がっており、日本各地のダンジョンで学院生が続々と今まで踏み込むのを躊躇していた階層に足を運んでいると聞いている。


 聡史は頼朝からこのような話を聞いて、いい方向に向かっていると考えている。将来的には、自分たちだけではなくて他のパーティーが最下層を目指す… そんな日が来る可能性を考えている。だが頼朝はやや困った表情だ。



「ところが話はそう簡単じゃないんだ」


「何か困ったことがあるのか?」


「ほら、クラスによって魔法使いの人数に偏りがあるだろう」


「ああ、そういうわけか」


 頼朝の意見に聡史は納得した表情を浮かべる。


 例えばAクラスには、魔法使いが二十六人在籍している。Bクラスには二十二人、Cクラスには十五人、Dクラスに八人、そしてEクラスは千里の他にもう一人在籍するだけだ。現状パーティーはクラスの仲間で組んでいることもあって、魔法使いの数に大きな格差が生まれている。Aクラスでは1つのパーティーに三人も魔法使いがいるかと思えば、Eクラスは限りなくゼロなのだ。



「俺たちやブルーホライズンはいいとしても、クラスの他の連中は完全に置き去りになってしまうんだ。何とか手を貸す方法はないかな?」


「そうだな… いくつか方法は考えられる。一番簡単なのは他のクラスから魔法使いを引っ張ってくる方法だ」


「今のところはちょっと難しいんじゃないか。他のクラスがEクラスに手を貸すとは思えない」


「まあ、そうだな。次に考えられるのは、魔法使いを養成する方法だ。千里も最初は剣士だったのが、今では立派な魔法使いだからな」


「誰か候補はいそうか?」


「今の段階では目に付く生徒はいない。もうちょっとレベルが上がれば、もしかしたら魔法に適性がある生徒がはっきりとわかるかもしれない」


「魔法使いの出現を待ってても、時間だけが無駄になるな」


 頼朝は腕組みしながら考えている。基本的に脳筋なので、考えてもいいアイデアなど出るはずもないが…



「最後の手として、現状のままクラス全員のレベルアップを図る方法だな」


「現状のままでどうするんだ?」


「頼朝たちのレベルアップの時、ブルーホライズンをバラバラにして即席のパーティーを作っただろう」


「ああ、そうだった。思い出したぞ」


「今度はクラス全体に広げていけば、上手い具合にレベルアップできるんじゃないのかな」


「そうか! 俺たちがクラスの全員のレベルアップに協力すればいいんだな」


「その通りだ。頼朝から呼び掛けてもらえるか」


「おう、任せておけ。明日のホームルームで全員に説明してみるぜ」


 こうして頼朝によってプランが実行に移される。












  ◇◇◇◇◇











 翌朝、担任の東先生が来る前に頼朝が黒板の前に立つ。



「全員に聞いてもらいたい話がある。ちょっとの時間耳を貸してもらいたい」


 一体何だという表情で、クラスの生徒が頼朝を見ている。彼は脳筋ながらも、これまで伊豆の旅行やクリスマス会の中心となっただけに、クラスの生徒からは一目置かれている。中身は巨乳好きなエロい人間とも知らずに… いや、訂正しよう。クラスメート思いの熱い男だ。おとこといってもいい。



「他のクラスのパーティーは続々と2階層や3階層に足を踏み入れてレベルアップしている中、このEクラスは大幅に取り残されている」


「そうだよなぁ~。俺たちもレベルを上げたいよな」


「でも魔法使いがいないから、なかなか難しいよね」


 生徒の反応は上々だ。ほとんどの生徒が頼朝の話に食い付いている。明日香ちゃんだけが、今日のデザートは何にしようかなどと考えて、ニヘラ~… と気持ちの悪い笑い顔を浮かべている。せっかく異世界を見てきたにも拘らず、一向に成長の跡が見られないのは悲しい限りだ。



「そこでクラスの全員がレベルアップするために、聡史がアイデアを考えてくれた」


「なんだ? 面白そうだな」


「聡史君のアイデアだったら信頼できそう」


 頼朝はわざと聡史の名前を出している。このクラスで最も信頼度の高い人間は、間違いなく聡史なのだ。



「いいか、ここから大事な話だからよく聞いてくれ。俺たちとブルーホライズンは、今回の遠征でかなり下の階層まで活動範囲を広げてきた。レベルもそこそこ上昇している。だからこの十四人がバラバラになって各パーティーに応援で入るんだ。魔法使いがいなくても、最低でも5階層までは進めるはずだ。もちろん聡史たちのパーティーも協力してくれるから、場合によってはもっと下まで進めるぞ」


「ええ、そんなに上手くいくのかな?」


「聡史君のパーティーはまだしも、頼朝たちはどうなんだろう?」


 いきなりの頼朝からの申し出に対して、クラスメートからは懐疑的な声が上がる。彼らは頼朝やブルーホライズンが下の階層まで進んでいるとおぼろげに知ってはいたが、精々3~4階層止まりだと考えていた。この反応に頼朝は困った表情になる。もっと簡単にクラスの生徒が納得してくれると、彼自身安易に考えていた。そこに聡史が助け舟を出す。



「頼朝、お前の正確なレベルを明かしてやるんだ。みんな納得するぞ」


「おっ、いいのか。それじゃあいくぞ。俺の現在のレベルは62だ」


「「「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」」」」」


 事情を知らないクラスの生徒が、驚愕の声を上げている。普通のEクラスの生徒の現状がようやくレベル10に届いたかどうかという段階で、この数字は信じられないにも程があった。だがここで、あの人物が立ち上がる。



「フッフッフ、クラスの皆様。信長たちはこの桜様が直々に鍛えましたの。この程度のレベルで驚かれたら困りますわ。2年生になるまでにはレベル100を達成させます。ああ、この数字に本人の意向は含まれておりません」


 一番後ろの席で立ちあがった桜の発言に、クラスの全員が納得した表情を浮かべる。桜の力は、あの模擬戦の舞台だけでも痛いほど全員が理解しているのであった。ただしクラス全員の前で『信長』と名指しされた当人だけは、黒板を背にして涙目になっている。だが、男頼朝はここで気を取り直して続きを喋り出す。



「ボス、フォローをありがとうございました。ということで、俺たち遠征に出た人間は、相当なレベルアップをしているんだ。俺たちが協力すれば、ダンジョン下層の攻略はさほど困難じゃない。早速始めたいと思うが、希望者は手を挙げてくれ」


 クラスの生徒全員の手が一斉に上がる。


 こうしてEクラスのレベルアップ作戦が本格的に始動するのであった。


全体のレベルアップに乗り出したEクラス。果たしてその効果は…… この続きは2、3日後に投稿いたします。どうぞお楽しみに!


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