167 美鈴の歴史講座
予定よりも早く書き上がったので、本日投稿させていただきます。かなり長い内容ですが、飽きずにお付き合いください。それからこの話に出てくる内容は、様々な言い伝えを集めたフィクションです。
比叡ダンジョンを攻略した聡史たちは、宇宙空間に延びる光の回廊を通って空間の渦に飛び込んでいく。そして渦を抜けた先は、別のダンジョンの最下層であった。もちろんラスボスがこちらを睨んで待っている。
「またクイーンメデューサですねぇ~」
桜がガッカリした表情を浮かべている。もう何度も倒しているラスボスだけに、つい先ほど久しぶりに新たな敵とまみえたばかりの桜には食傷気味の相手であった。
「どうやらランドフルムのダンジョンのようだ。ボス部屋の造りが同じだし、俺たちが倒した相手と一緒だぞ」
かつてマリウスたちは自分たちの国にあるダンジョンに入り込んで、自力で最下層のラスボスを倒していた。この点に関しては、さすが勇者パーティーというべきであろう。だが彼らは光の回廊で繋がる筑波ダンジョンにやってきて苦戦している場面を聡史たちに救われた過去がある。
そしてマリウスの目には、この場が自国の王都に近い場所にあるダンジョンなのだと映っている。ようやく戻ってきたという感慨を抱きながら、マリウスたちは逸る気持ちを抑えているようだ。
「手早く片付けて外に出るぞ」
聡史がオルバースを手にクイーンメデューサに近付くと、抵抗の暇も与えずに一振りで倒し去る。先を急ぐ一行は宝箱を回収してから、転移魔法陣で一気に地上へと向かい出口に急ぐ。そこでは……
「ま、まさか… いや、見間違いではないぞ。本当にディーナ殿下がお戻りになられたのだ」
「勇者様も一緒だぞ」
「半年近くも行方知らずだったのに、これは神の奇跡なのか」
「奇跡でも何でもいい。一刻も早く城に知らせろ。早馬を用意するんだ」
ダンジョンの入り口を警護していた兵士たちは、上を下への大騒ぎであった。周辺にいた冒険者や露店を出している商人たちも次々に話を聞きつけて、ひと目ディーナ王女の無事な姿を見ようとそこら中で喧騒が始まっている。
「ディーナ殿下とマリウスたちは、住民たちからずいぶん支持を得ているんだな」
「聡史さん、からかわないでください。それよりもまずは、この場を何とか収拾しないと私たちが身動きが取れません」
「確かに殿下の言う通りだ。その役は俺が務めよう」
マリウスはたまたま近くに置いてある荷馬車の上に飛び乗ると、大声で集まっている人々に呼び掛ける。
「みんな、よく聞いてくれ。俺たちはこのダンジョンを攻略して、ついに魔族に打ち勝つための切り札を手に入れて戻ってきた。いいか、もう魔族を恐れることはないんだ。切り札が俺たちのこの手にある限り、必ず魔族を撃退してこの国に平和を取り戻すぞ」
マリウスの演説を聞いた人々の間に、次第にざわめきが広がっていく。
「魔族を倒せるって本当か?」
「勇者様がそう言っているんだから、きっと間違いないだろう」
「この国に平和が戻ってくるのか?」
「そうだ! 勇者様と殿下ならば、必ずやってくれるはずだ」
魔族との長い戦乱に疲れ果てた住民を勇気付けるには、マリウスの演説は絶大な効果があった。彼らはコブシを振り上げたり互いの肩を叩きながら待ち焦がれた平和の到来を喜び合っている。
ひとしきり歓喜に浸る住民の様子を荷馬車の上から眺めていたマリウスは、両手を下に向けて静まるように合図すると住民たちは次の言葉を待ち侘びる態度を見せる。
「よく聞いてくれ。俺たちが手に入れた切り札っていうのは、最強の剣でも魔法でもないんだ。実はダンジョンの最下層は別の世界と繋がっていた。そして俺たちはその世界の日本という国に行ってきた。その国は想像もつかないくらい物凄い国だった。馬が引かない馬車や空を飛ぶ鉄の竜がいるんだ」
馬が引かない馬車や空飛ぶ鉄の竜と言われても、現物を見たことがない住民は頭にイメージが浮かばない様子でポカンとしている。それはそうだろう。仮に戦前の日本人にスマホを見せても、どうやって使用するのか見当もつかないだろう。それと同様の戸惑いが、この場に集まっている人々の間に広がっている。
「そして俺たちは、日本に協力を求めた。日本は俺たちの要請に応えてこの国に勇敢な戦士を送ってくれたんだ。それも魔族などものともしない最強の戦士だぞ。いいか、信じられないだろうがここにいる聡史はついさっき最下層のクイーンメデューサを剣の一振りで切り捨てたんだ。日本の協力があれば、俺たちには怖いものはない。神に感謝しよう。この戦いの勝利は我らの手に!」
「ウオォォォォォ!」
「勝利は我らの手に」
「魔族を追い出せぇぇ」
マリウスの扇動によって熱に浮かされたような熱狂が広がっていく。人々の興奮は止まる所を知らない様子だ。さすがにこのままでは不味いので、マリウスが火消しを始める。
「いいか、もう心配するな。この国の平和は俺たちが取り戻す。みんなは普段通りの生活に戻ってくれ。近いうちに必ずや朗報を届ける。さあ、これで話はお仕舞だ。みんなは仕事に戻るんだ」
勇者に追い立てらるようにして、住民たちは名残惜しそうな表情を浮かべながら仕事へと戻っていく。だが彼ら一人一人の表情には確実に希望の光が見て取れる。昨日までの鬱屈した日々はもう終わった。今日からは夢にまで見た平和を実現するために生きていけるのだ。心に希望の火が灯っただけでも、彼らはまるで別人のような表情になっている。
「やれやれ、ようやく道が通れるようになったな」
マリウスが演説台代わりに使っていた荷馬車から降りてくると、ちょうどそこに警備兵がやってくる。
「勇者様、ディーナ殿下、あちらに馬車が用意してありますので、ひとまずは冒険者ギルドへお越し願えるでしょうか」
「はい、わかりました。一通り事情を説明したらすぐに王都に向かいたいのですが、構わないですか?」
「ギルドに別の馬車を用意しておりますから、どうぞそちらでお乗り換えください」
ということで警備兵の案内に従ってその場所へと向かうと、どこからどう見ても小型の馬車が1台ポツンと置いてあるだけであった。
「これでは全員乗り切れませんが、他に馬車はないのですか?」
「殿下、大変申し訳ありません。ここはダンジョンの警備所なので、この1台しか準備がございません」
「そうですか… それではわざわざ日本から来ていただいた皆さんに馬車に乗ってもらって、私たちは歩きましょう」
ディーナ王女がそのように伝えると、警備兵は何とも困った顔をしている。王族を歩かせるなんて、下手をすると彼の首が飛ぶかもしれない大問題に相当するのだ。そこへ聡史が…
「ディーナ王女たちはどうか馬車に乗ってくれ。ダンジョンを制覇して凱旋してきた英雄を歩かせるわけにはいかないからな」
「聡史さん、本当に申し訳ございません」
何とか話がまとまってディーナたちが馬車に向かおうとすると、馬車のドアに頭を突っ込んで桜が何かやっている。よくよくその様子を見ていると…
「明日香ちゃん、すぐに降りるんですよ。勝手に馬車に乗り込んで、何をやっているんですか」
「桜ちゃん、疲れたから馬車に乗りたいんですよ~」
「明日香ちゃんは疲れるくらいでちょうどいいんです。いつも怠けてデブデブしているんですから瘦せるいい機会です。さあ、早く降りてください」
「嫌です! 私は馬車に乗ります」
「ムム、こうなったら力尽くで降ろしますよ。おや、重たくて全然動かないじゃないですか」
「誰が大仏のように重たいですかぁぁぁ」
いつもの茶番であった。渋々明日香ちゃんが馬車から降りてくると、代わってディーナ王女たちが乗り込んでいく。パーティーメンバー五人が乗り込んで、なぜか詰めて座席に座っている。男性陣はとっても窮屈そうにしているようだが…
「明日香ちゃん、よかったら一緒に乗りませんか? 詰めて座れば何とかもう一人乗れますから」
「ディーナさん、すいませんねぇ~」
図々しくも明日香ちゃんはディーナ王女の招きに応じようとするが、その襟首を桜がガッシリと掴まえる。
「ディーナさん、明日香ちゃんは甘やかすとどこまでも付け上がりますから、どうか構わないでください」
「桜ちゃん、その手を放してください。せっかく馬車に乗れるんですから」
「明日香ちゃんがあの狭い隙間に入れるはずないでしょうがぁぁ」
ディーナ王女の心遣いで始まった茶番第2ラウンド、美鈴とカレンも加わって何とか明日香ちゃんを宥めると、馬車は冒険者ギルドに向かって出発するのだった。
◇◇◇◇◇
「ようこそ、ランドフルムの冒険者ギルドへ! ディーナ殿下、勇者様、この度はダンジョンを無事に征服しての無事のご帰還を心からお喜び申し上げます。それから異なる世界からいらした方々、歓迎いたしますぞ」
壮年のギルドマスターが、手放しで一行を歓迎する態度をオーバーアクションで示しながら出迎える。ともあれギルドではダンジョンに関する大まかな話をしてから、その日のうちに王都に向かう手筈を整えてもらう。この時間に出発すれば、夕暮れまでにはギリギリ王都に到着可能だ。
総勢20人以上が5台の馬車に分乗して、石畳の街道を王都へ向かう。3時間ほどで到着する予定だ。
「桜ちゃん、馬車は乗り心地が悪いですよ~。ガタガタ揺れるせいで、お尻が痛くなってきました」
「明日香ちゃん、さっきはあんなに馬車の乗りたがったくせに、今度は乗り心地に文句をつけるんですか? そんなに嫌だったら、ここで降りて王都まで走ってもらってもいいんですよ」
「お尻が痛いのは我慢します」
即答だった。これほど清々しい怠け者は存在しないのではないかと、桜もホトホト呆れた表情を向けている。こんなどうでもいい会話をしている桜たちとは打って変わって、向かい側の座席では聡史と美鈴にカレンまでが加わって、真剣な表情で議論しているのであった。
「美鈴は比叡ダンジョンで遭遇したアスクレーとの話の内容をどこまで覚えているんだ?」
「全部記憶しているわ。以前よりもアレとの意識の共有がスムーズになったから、ある程度の知識も理解しているし」
「ということは、あのレプティリアンという存在が何万年も前に地球に飛来してきたというのは真実なのか?」
「ええ、どうやらそうらしいわね。あのトカゲ種の生命体だけではなくて、他にも5~6か所の高度な宇宙文明圏から知的生命体が飛来したのは事実みたいね。私の内部に潜んでいるのもその内の一つよ」
美鈴は記憶の糸を丹念に解きほぐすようにして、ルシファーの意識の残滓を思い出している。それにしても、ルシファーさんはエイリアンだったようだ。
「ルシファーさんはアスクレーを忌み嫌っていたようだが、同じ闇の存在のはずなのにどう違うんだ?」
「私の中にいるアレは、前にも話した通り光が届かない闇とか夜の世界の星々の運行を司る存在で、れっきとした役割を持った神の一柱よ。でもレプティリアンは他人の憎しみとか苦しみを生きる糧とする知的生命体… 簡単に言うと、あれこそが悪魔ね」
「そのレプティリアンが悪魔の汚名をルシファーさんに着せたんだな」
「ええ、その通り。考えてみれば明白じゃないのかしら。例えばお経はお釈迦様が創ったものではなくて、その弟子たちが教えを広めるために便宜上こしらえた経典よね。同じように聖書もキリストが自ら書き上げたものではなくて、その弟子たちや後世の人間が内容に手を加えて編纂したものでしょう。その過程で事実を捻じ曲げて書こうとも、大抵の人間はその内容の通りに受け取ってしまうはずよ。仮にそこに悪魔からの介入があったとしたら、キリストの教えと称して結果的にはレプティリアンに都合のいい教義を世間に広めることになるわ」
美鈴は可能性としてこの問題を語っているが、実際に歴史を紐解いていくとローマカトリック教会の東西分裂後にギリシャ正教会が発足したり、その後もロシア正教会、イギリス国教会、プロテスタントといった諸宗派に分裂して互いに正統を争った。その過程では多くの戦乱が発生しており、想像を絶する数の人々が宗派間の争いが原因で命を失っている。これは後世の人間が様々な思惑の下で行った行為であって、キリスト自身がこのような争いを望んだとはとても考えられない。そこにはレプティリアンの介入が存在していると、美鈴は暗に仄めかしているのだった。
「なるほど… ちょっとだけわかってきた気がする」
「まだまだこの程度は序の口よ。例えば十字軍は聖地エルサレムの奪回を目的に実行されたけど、実際に行った行為自体は単なる侵略戦争だったわ。イスラムの側からすれば、勝手に押しかけてきて戦争を始められたら迷惑この上ないでしょう」
もしかしたら十字軍すら、その背後にはレプティリアンの影響があるという可能性を指摘する美鈴だった。ここまで説明されると、聡史も教科書に書かれている通り一遍の歴史というものに潜んでいる闇の勢力の暗躍を信じざるを得ない。
「レプティリアンについては理解した。ところでカレンから聞いたんだが、人間というのはサルから進化したんではなくて、宇宙人から遺伝子改良されて生み出されたというのは本当なのか?」
聡史がこの件に関して美鈴に問うているが、当事者のカレンは口を噤んでいる。美鈴はヤレヤレという表情だ。
「聞いてしまった以上は仕方がないわね」
美鈴はチラリと桜と明日香ちゃんに視線を向けるが、二人はいつの間にか互いにもたれ掛かってグースカ眠っている。
「一般的には現代人類の発祥はアフリカと言われているけど、半分正解といったところね」
「半分はあっているのか?」
「ええ、確かにアフリカにいた原人の女性数百人が現代人の始祖と呼べる存在よ。彼女たちは、遺伝子操作を施した受精卵で人工的に妊娠したわ。そこから生み出されたのが、宇宙生命体の遺伝子を一部引き継いだ現代の人類ね」
「だから半分は正解なんだな」
聡史はカレンをチラリと見るが、相変わらずこの件に関して口を挟む気はないようだ。
「新たな人類を創造する試みは、当時まだ存在していたアトランティスとムーで実行されたわ。太平洋にあるムーは、その最大の拠点だったの。アトランティスはサブの拠点に過ぎないわ」
「おいおい、ムー大陸って本当に存在したのか?」
「ええ、現代でもその痕跡は探せば海底に残っているはずよ。何しろ日本はムーの一部だったんですから。現在の与那国島近海の海底遺跡が当時のムーの首都ね。氷河期が終る頃の海面上昇によってムーの大半は水没したけど、その文明を受け継いだのは日本列島に生き残った人たちよ」
「なんだってぇぇぇ!」
このあまりに突飛な話に、ついつい聡史は大声をあげてしまった。驚いているのは彼だけで、美鈴とカレンは表情に何ら変化がない。この程度は神や天使にとっては一般常識なのだろうか?
「現代の人類が生み出されたのがムー歴のスタートで紀元0年に相当するわ。遺伝子操作で創造された人間は、宇宙の知的生命体から科学や物理学の基本知識や高度な技術を受け継いだわ。天の浮舟と呼ばれる円盤型の航空機が飛び交い、失われた金属ヒヒイロカネを用いた建築物などが林立する、当時としては本当に見事な近代都市を造り上げたの」
「凄いんだな… 現代の文明を上回っているんじゃないのか?」
「そうね… まだ追いつけない部分もあるわね。でもムーが素晴らしいのは物質文明ではないわ。一番大事だったのはその精神性ね。日本人にもある程度引き継がれているけど、当時の人々はもっと高度な精神文明を築き上げていたわ。波動による宇宙との交信とか、魔法による生活の豊かさとかね」
「魔法もあったのか?」
「当然でしょう。現代に魔法が蘇ったのは、言ってみればムーの遺産よ。ダンジョンという危機に対抗するために、日本人の中に眠っていた能力が目覚めたのよ」
これは聡史にとっても意外な話であった。確かにダンジョンが発生してから魔法が使える人間が誕生しているが、まさかこれ自体がムーの遺産とは… 目から鱗が落ちるとはこんな状態かもしれない。
「ところが、その後色々と問題が発生したのよ」
「どんな問題が起きたんだ? それだけ高度な文明があれば、大抵の問題は簡単に解決できそうだけど」
「それがねぇ… 中々そうもいかなかったの。宇宙の知的生命体は全力を挙げてムーを支援したんだけど、その分アトランティスが放置されてしまったのよ。そこに密かに侵入してきたのが、例のレプティリアンなの」
「ヤツらが手を出してきたのか」
「ええ、私たちの監視が緩いのをいいことに、レプティリアンはアトランティスの人々の中に紛れ込んでいったわ。上手く変装するから、パッと見は人間と区別がつかないでしょう。そして瞬く間に人間たちを支配し始めたの」
「手口があくどいな」
「ムーで重んじられたのは高潔な精神と互いに協力する助け合いの気持ちよ。でもアトランティスでは、物質的な豊かさと現世の快楽が最優先されたわ。人々は争うように富を求めて、宇宙生命体の理想とは懸け離れて堕落していった。双方で戦争が始まって、ムーはアトランティスに対して何度も鉄槌を下さざるを得なかったわ。旧約聖書に出てくるソドムとゴモラの滅亡の件などは、その教訓を記したものね」
「ということは、ノアの箱舟も宇宙人から下された罰なのか?」
「いいえ、あれは氷河期が終わって海面上昇によって大地が海に没した話ね。ムーもアトランティスも、そのほとんどの大地が没してしまったわ。こうして双方とも力を失って結果的には平和が訪れたけど、その影響が大きすぎてもう高度な文明を再建する力は残っていなかった。人々は全てを失ってしまったのよ。もうその頃には宇宙生命体は直接関与するのを停止していたし」
「文明のレベルが一気に下がってしまったんだな」
聡史は残念そうな感情を隠せない。もしもムーとアトランティスがもっと協力し合えたら、現在の地球はもっと別な姿をしていたのではないかと、心の中で考えている。
「この海面上昇が大体今から1万年前の話ね。その後何千年もかけて、日本列島に残ったムーの生き残りの人々は少しずつ新たな文明を創り出していったわ。これが縄文時代にあたるかしら。でも日本列島には立て続けに大きな火山噴火が発生して、その度にまた一からやり直しが続いたわ。せっかく築いたのもが無に帰するんだから、当時の人は絶望したでしょうね」
「そうだな… 日本は色々と恵まれていた半面、俺たちの祖先の苦労は並大抵ではなかったんだな。そういえばムーの人たちは魔法が使えたんだろう。その頃の日本にいた人たちも、同じように魔法が使えたんじゃないのか?」
「無理ね。精々火を起こす程度しか出来なかったはずよ。宇宙から魔力を送信するシステムのメンテナンスができなくなったせいで、まともな魔法は使用不可能になったわ。魔力が届かないんだから、魔法の使用は無理でしょう」
「そうなんだ。ムーにはそんなシステムがあったのか」
「今でも残骸ならあるわよ。有名な所だとエジプトとか」
「もしかしてピラミッドか?」
「そう、今は機能を停止しているけど、しっかり直せれば元通りに魔力を受け取れるようになるかもしれないわね」
「ということは、今はどうやって俺たちは魔力を得ているんだ?」
「ダンジョンがピラミッドの代役になっているわ。宇宙から届く魔力を受信する地下アンテナのような働きをしているようね。もっとも地上アンテナのピラミッドよりも、だいぶ受信能力は落ちるけど」
「色々と驚く話ばかりだな。ところでその後は、レプティリアンとの関わりはどうなったんだ?」
地球における一つの文明の勃興とその滅亡という壮大なスケールの話に、聡史は心の底から驚かされっ放しであった。まだ馬車の道中は時間がかかるので、せっかくだからこの際もっと聞いておこうと目論んでいる。意外かもしれないが、聡史は歴史好きな面があるのだ。
「そうねぇ~… 今から5千年くらい前になると、エジプトとかメソポタミアに文明が発生するのは知っているわね」
「もちろん知っている」
「でも、その文明はレプティリアンによって作られた文明だったのよ。その証拠に、出土品の中からトカゲの姿をした神の像が発見されるわ」
「さすがにそこまでは知らなかった」
「当時の日本は、まだ現在の皇室が統治する時代ではなくて、古王朝の時代ね。ようやく一つの国としてまとまって、ムーの文明を再現しようという機運が高まっていたわ。でもそんな矢先に、はるかエジプトやメソポタミアでレプティリアンが活動を再開したのを耳にしたの。人間の力でレプティリアンには対抗できないから、人々を目覚めさせる使者を送ったのよ。それがユダヤ教に残る預言者ね。モーゼだけでなくて、イザヤやエレミヤなど大勢の日本人が送り込まれたわ」
「俺が聞いた都市伝説では日ユ同祖論とかいって、ユダヤ人の失われた支族が日本を築いたとあったけど」
「逆よ。全ては日本から始まっているのよ。変な都市伝説に惑わされないでね。それこそレプティリアンが流す偽情報かもしれないんだから」
「わかった、気を付ける」
さすがに歴史を直接目撃してきたルシファーさんの知識に対して、聡史は反論できない。素直に美鈴の意見を受け入れている。カレンはその横で、何やら満足そうに頷く。
「多くの使者を送って人々を精神的に目覚めさせようという日本側の試みだったんだけど、中々上手くいかなかったようね。預言者の教えを信じた人々はバビロンの虜囚となったり、エジプトで奴隷とされてしまったわ。レプティリアンの妨害にあった結果ね。それでもモーゼの導きによって出エジプトを果たした人々は、苦心の末にシナイ山まで辿り着くわ。その後は今のイスラエルの辺りに住み着くのだけど、結局エジプトを脱出してきた人々の子孫は堕落して、最後の使者としてキリストが派遣されてわ。でも力及ばなく十字架にかけられた… というのが表向きのストーリー」
「表向き? 裏があるのか?」
「ええ、キリストは日本に戻ってきているの。大変な苦労の果てにエルサレムまで出向いたはいいけど、目に見える成果を果たせなかったと悔やんで生涯を終えたわ。青森にお墓があるわね」
「あれって本物なのか?」
「信じるも信じないもあなた次第よ。さてその後のお話だけど、モーセの教えに従ったユダヤ教徒はローマによって惨殺されて、ユダヤ教を信仰する民族がアジア人からヨーロッパ人にいつの間にか入れ替わったわ。彼らはもちろんレプティリアンの息がかかった連中ね。時には金の力でキリスト教徒を支配して、時には逆に弾圧されながら現代に至っているわ。騒乱を起こす源としてレプティリアンに利用され続けたんじゃないかしら。一方のキリスト教もローマ帝国に公認されたまではいいけど、最終的にはレプティリアンの意思に従って堕落していく一方となったわね」
「ずいぶん評価が厳しいんだな」
「現状のバチカンを見ていると、こんな評価しかできないでしょう。悪魔崇拝の総本山よ。ユダヤ教徒のほうも黙示録の実現に取り付かれた原理主義者が幅を利かせているし、せっかく使者を送った大昔の日本の目論見は裏目に出たわね。むしろレプティリアンにいいように利用された形ね」
「辛辣な意見ありがとう。歴史というのは表向きではわからないことがたくさんあると実感したよ」
「今回は大サービスよ。カレンが『そこまで明かして大丈夫ですか?』みたいな顔をしているじゃない」
「美鈴さん、ノーコメントでお願いします」
相変わらずカレンは禁則事項を忠実に守るようだ。美鈴はカレンよりも人に話せる許容範囲がより広いのかもしれない。それとも別に聡史に色々と明かしてよいという何らかの事情があるのかは、今のところは不明である。
そしてちょうどその時……
「ふわあぁ~… よく寝ましたわ。お兄様、まだ王都に到着しないんですか? そろそろお腹が空いてくる時刻ですわ」
「桜、夕暮れまでまだもう一息だぞ。もうちょっと我慢するんだ」
「はあぁ~… 早く着かないですかねぇ~。なんだったら馬車を降りて走っていきましょうか。10分ぐらいで到着します」
「お前が一人で王都に出向いても、誰一人顔を知らないんだぞ。どうやって城に入るつもりなんだ?」
「そこまでは考えていませんでした。適当に屋台でも巡ろうかと」
「頼むからジッとしていてくれ」
「仕方ありませんねぇ~」
聡史が何とか桜を宥めていると、その横では……
「桜ちゃん、今夜のデザートは何ですか~? 早く出してくださいよ~」
「明日香ちゃんは寝言でもデザートの話ですか…」
さすがの桜も呆れ返っている。ともあれこうしてのんびりとした時間が過ぎて、夕暮れとほぼ同時刻には馬車は王都の門を潜っていくのであった。
長々と美鈴さんが歴史を語りましたが、これは本作品の歴史的な背景だとご理解ください。次回、聡史たちはマハティール王国の王宮に入って…… 続きは明日投稿の予定です。どうぞお楽しみに!
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