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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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166 比叡ダンジョンのラスボス

意外な敵と出会ったルシファー様ですが……

 比叡ダンジョンの最下層では、依然としてルシファー様とアスクレーの間で繰り返される非難の応酬が続いている。なぜすぐに直接的な力によって相手を制圧しないのかというと、神レベルの力がぶつかり合うと地球という惑星自体に大きな悪影響を与えかねない懸念があるためだ。


 そこでまずは論戦が開始されるのが、神話の時代から神々の戦いのセオリーといえる。言霊というフレーズをご存じだろうか? ルシファーさんレベルの力を持った太古から地球に存在する意識体であるならば、その口から紡ぎ出された言葉が実体化するのだ。誰かに向かって『死ね』と言えば死ぬし、『消えろ』と言えば目の前から消え去る力を発揮する。対してアスクレーも長らく人々を支配してきた宇宙的な生命体の末裔。ルシファーさんと同様に言霊を操るくらいはお手の物だ。



「大銀河の澱みから生まれし汚泥に等しき者よ、我の慈悲によって最後の警告を与える。すぐにこの星を去るか、魂ごと闇の掃き溜めに強制的に戻されるか、好きな道を選べ」


「愚かなことを。銀河の覇者たる我に向かいこれほど小生意気な口を叩くとは… ふむ、そこなる痴れ者の正体がわかってきたぞ。長きに渡り実態無きままにこの惑星に漂っておった意識体の成れの果てか。現世に関与する碌な力も持たぬ割には、口だけは一人前であるな」


 両者とも一歩も引かない罵声の応酬がこうしてひたすら繰り返される。これが神レベルの戦いの必然的な姿… だがこのような遣り方を一向に理解しない者が一人いる。



「お兄様、美鈴ちゃんは何をまだるっこしい口喧嘩をしているんでしょうね。もっとパッパと魔法を放つなり殴るなりして片付ければ簡単に終わるはずですわ」


「桜、この場は美鈴に任せたんだから、もう少し成り行きを見ていろ」


 シビレを切らし掛けている桜を聡史が窘めている。だがこの兄妹の会話が、アスクレーの耳に届いた。



「何かと思わば、人なる身に余る大言を吐く愚か者がおるようだな。ましてや小童の分際で口を差し挟むとは笑止。自らの身の程を弁えて控えておれ」


 ブチッ!


 聡史の耳に確かにそのような音が聞こえた。それも目の前にいる実の妹から… 見る見る桜の表情が消えて、あたかも能面のような感情が一切読み切れない顔になる。



「不味い、桜の地雷を思いっきり踏み抜いたぞ」


 聡史は大慌てで桜から離れて、他のメンバーを部屋の入り口のドアの手前まで退避させる。その上で周囲をカレンの天使の領域で取り囲んで安全を確保した。ここまで対策を講じると、聡史はようやく一息つく。そしてその耳には、地獄から聞こえてくるような低い声が届く。



「誰~が~小童だって~…」


 桜は子供扱いされると容易にキレる。彼女に対して『ガキ』『小学生』『お子様体型』といったフレーズは、間違っても口にしてはならない最大の禁句であった。そしてお約束通りに今回はアスクレー相手に盛大にキレている。桜自身つい先日地獄の明日香ちゃんに手を焼いていたが、その何倍も恐ろしい地獄の桜様も存在するのだ。桜はなおも低い声でルシファーさんに話しかける。



「他人の喧嘩を横取りするのは好きではありませんが、たった今私が喧嘩を売られましたわ。横槍を入れますが了承してください」


「ま、まあ、よかろう」


 ルシファーさんでさえも、桜の圧力に押されてついつい認めてしまった。その瞬間、桜の姿が残像を残して消え去る。そして瞬きをし終わらないうちに、今度はアスクレーに手が届く場所に現れた。



「私に喧嘩を売った度胸だけは褒めて差し上げますわ」


 それだけ言い残すと、無造作に下から上に向かって右拳を振るう。あまりに突然の出来事で訳が分からないままのアスクレーだが、桜のアッパ-は容赦なくその顎を捉えている。



「ウギャァァァ」


 短い悲鳴を残してアスクレーは真上に打ち上って、ボス部屋の高い天井にぶつかってから今度は垂直に落ちてきた。



「この程度で許されると思ったら大間違いですわ」


 桜はドンピシャのタイミングで、落ちてきたアスクレーの体をサッカーボールのように蹴り飛ばす。今度はアスクレーの体が水平に飛んで、衝撃波を撒き散らしながら部屋の壁に一直線。そして体をめり込ませるようにして、大音響を起こしながら壁に衝突する。



「これで3コンボですわ」


 桜はなおも追撃の手を休めない。アスクレーがめり込んだ壁に向かってダッシュすると、真正面から顔面に膝蹴りを見舞う。グシャッという音を立てて、さくらの膝がアスクレーの顔を直撃している。



「これでまだ息が残っているようでしたら褒めて差し上げます」


 最初のアッパーの時点で、アスクレーの体に巻き付いていた大蛇は床に放り出されており、現在は主の姿を求めて右往左往している。大蛇がいなくなったアスクレーは、半裸のあられもない姿で壁にめり込んでいるのだった。



「これはこれは、闇の汚泥から生まれた存在に相応しき惨めな姿になったものだ」


 桜にボコられたアスクレーを見て、ルシファーさんは手を叩いて喜んでいる。ここまで鮮やかにかつ一方的に桜にやられて何ら抵抗もできない様に、愉悦の表情を浮かべているのであった。



 ガラ、ガラガラ…


 ルシファーさんの笑い声が収まる頃、ようやく壁にめり込んでいたアスクレーが再始動する。体を揺すって何とか壁の中から脱出すると、憎しみに満ちた目で桜を睨み付ける。だが顔面はパックリと割れており、そこから大量の血が流れ出して見るからに無残な姿であった。


 しかしその流れ出している血がピタリと止まる。割れた顔面には細かなヒビが入って、そのヒビ割れは全身へと広がっていく。体中に広がったヒビ割れに沿ってまるで卵の殻のようにボロボロと表面が剥げ落ちていく。そしてそこには、今まで妖艶な女の姿とは全く別の何かが立っているのであった。



「闇の汚物よ、ついに人に化ける余裕もなくなって正体を現したか。見よ、あれこそが人間を陰から操りし穢れた宇宙生命体レプティリアンだ」


 ルシファーさんのご指摘通りに、その場に立っているのはトカゲが直立歩行しているような不気味な生命体であった。宇宙生命体というのは数限りない種族が存在するが、中でも飛びっきり邪悪なのがこのレプティリアンといえよう。



「ウオォォォォォォォォ!」


 あれだけ桜に痛めつけられたにも拘らず、その新たな体には傷一つ見当たらない。それどころか両手を広げて雄叫びを上げると、その波動は猛烈なエネルギーを生み出してボス部屋の内部に広がっていく。物理的な衝撃を伴った波動は、カレンが展開する天使の領域にぶつかる。



「グッ」


 その衝撃は凄まじく、カレンの天使の領域を揺るがしてあわや破壊する寸前であった。ギリギリ持ち堪えたカレンの額には一筋の汗が流れている。



「無駄だ」


 ルシファーさんはその恐るべき波動に対して片手を振るうだけでエネルギーを打ち消す。そして桜といえば…



「心地よいそよ風ですわ」


 特に何も感じていなかった。その体を溢れんばかりの闘気が包み込んで、この程度の衝撃など何ら影響を与えていない。これがレベル600オーバーの力というべきなのだろうか? この娘、恐ろしすぎる。

 


「やっぱり桜ちゃんは非常識すぎますよ~」


 カレンの天使の領域に守られている明日香ちゃんが呆れた表情を向けている。天使であるカレンよりも、闇の支配者であるルシファー様よりも、ダントツに余裕でアスクレーの雄叫びで生じた波動を受け流しているのは、明日香ちゃんの目から見ても桜であった。ただ相手が桜だけに、この程度に驚いていても今更だけど…



 話を桜に戻すと…



「それでは第2ラウンドを開始しますか」


「よくも妾に対して好き放題してくれたな。おかげでせっかく用意した外殻が壊れてしまったぞ」


 いつの間にかこの場の戦いは、ルシファー様から桜の手に主導権が移っている。ヤル気満々でファイティングポーズを取っている桜。ルシファー様もこの様子を見てしばらく任せようと断を下したようだ。


 先に動き出したのはアスクレーだった。両手に薄く引き伸ばした闇の波動をまとわせつつ、何発も撃ち出し始める。通常の風魔法と比較すると何倍ものスピードで桜に襲い掛かる闇の刃、だが…



「もうちょっと気の利いた攻撃をしてもらいたいですわ。それっ」


 桜が拳から打ち出す衝撃波によって悉く迎撃されて撃ち落されていく。



「ならばこうしてくれる」


 桜が闇の刃を歯牙にもかけない様子を見て取ったアスクレーは、今度は刃を桜の至近距離に転移させて避けるタイミングをなくした上で、さらに四方八方から襲い掛かるように調整する。そして確実に当たるように放たれた闇の刃が一斉に桜の体に当たって…… 通り抜けていった。



「バカなんですか? いつまでも同じ場所にいるなどと考えるなんて、本当におめでたいですわね」


「なんだと」


 そう、刃が当たったと思わせたのは、高速で移動する桜がその場に残した残像であった。どおりで何の手応えもないままに体を通り抜けていくわけだ。一瞬でアスクレーの背後を取った桜は、お返しとばかりに反撃に移る。



「まずは手始めに、太極波ぁぁ」


 自らが放った闇の刃の何十倍もの威力を秘めた桜の太極波が、アスクレーに逃げる暇も与えずに直撃する。轟音と共に生じる爆発の威力で、アスクレーの体は木の葉のように吹き飛ばされる。だが、さすがは宇宙生命体だけのことはある。アスクレーは空中で体を捻ると、巧みにバランスを保って両足で着地を果たす。だがその瞳は、信じられないものを見たという感情でいっぱいであった。



「なぜだ? 高々人間の身で、何故波動を用いた攻撃が可能なのだ? 我らが奴隷として扱いやすいように、人間が波動を用いる能力は太古の時代に封じたはずだ」


「人間よりも偉いなんていい気になっているんじゃありませんよ。どうして使えるかなんて決まっているでしょう。全ては気合です」


 ドヤ顔の桜に対して、アスクレーは『き、気合ですか?』といった具合に目が点になっている。だがこの対戦を間近で見学しているギャラリーの一部は大盛り上がりだ。



「さすがは俺たちのボスだぜ。気合で全てを説明するんだからな」


「いや、むしろ気合以外は説明のしようがないだろう」


「ボスの言う通りだな。気合は全てを凌駕するんだ」


 カレンの天使の領域の内部にいる頼朝たちであった。桜の洗脳が効きすぎたせいで、全員がその発言に感心しきった表情を浮かべている。聡史はまるで気の毒な被害者を見るような視線を彼らに送っているが、敢えて声は掛けないでそっとしておいた。



 頼朝たちが口々に桜に声援を送っている間にも、桜とアスクレーバトルは続く。今度は桜が一気に攻勢に出る。再び瞬間的にアスクレーの間近に移動すると、反撃の暇も与えないパンチの連打で畳み掛けていく。



「お馴染みのサンドバッグの時間ですよ~」


 桜の軽い口調とは裏腹に、左右の連打は熾烈を極める。アスクレーはもちろんガードをする余裕などないままに、思う存分その体にパンチの雨アラレを叩き込まれている。桜にここまで追い込まれてもなお未だ致命傷を負っていないのは、さすがというべきかもしれない。だがその重たいパンチの連打に、アスクレーには確実にダメージが蓄積されていくのは言うまでもない。



「これで止めのご臨終パ~ンチ!」


 必殺の右ストレートがアスクレーの顔面に炸裂すると、その体は優に30メートル後方に飛んでいく。頭から床に落ちているが、なおもアスクレーは立ち上がる。



「ほほう、ご臨終パンチを食らって立ち上がった相手は初めてですわ。これは中々面白い対戦になりましたよ」


「まさか人間にここまで殴られるとは予想もしていなかった。だが遊びはここまでだ。真の恐怖を味わえ。極大重力召喚!」


 桜に今までとは毛色の違う闇の波動が襲い掛かる。それは50Gに及ぶ並の人間なら簡単に押し潰される恐ろしい重力であった。いくら何でもこのようなとんでもない重力の中では、さすがの桜も…… いや、普通に立っている。



「うーん、ちょっと動きにくいですねぇ~。それでは身体強化」


 ちょっと待とうか… 通常の重力の50倍だぞ! それを『動きにくい』の一言で済ませていいのか? そのような外野の心配をよそに、桜はさらに連続して身体強化を限界まで掛け続ける。



「久しぶりに身体強化オメガまでパワーアップしてみましたが… うん、中々いい感じに動けるようですね。さて50Gということは、私の体重が50倍になっているということですよね。明日香ちゃんの体重が50倍になったら大変ですが、私は大丈夫ですよ~」


「桜ちゃん、なぜここでわざわざ私を引き合いに出すんですかぁぁ」


 外野から明日香ちゃんが抗議しているが、桜はそんなささやかな苦情など全く気にかけていない様子でスルーしている。体の動きを確かめるように腕や膝を曲げて、徐々に体を高重力と身体強化のバランスに慣らしているようだ。



「さて、体重が50倍ということは、パンチの威力も50倍になるんでしょうか? これは確かめてみる必要がありそうですよねぇ~」


 桜の表情がとっても楽しそうに緩んでいる。体に圧し掛かってくる過剰な重力など、全く意に介さないかのようだ。この様子を見たアスクレーは、トカゲ顔の外見からは分かりにくいが、明らかにその表情が引きつっている。



「な、なぜだ? なぜ人間ごときが妾の限界の重力波動に耐えられるのだ? 有り得ない、これは有り得ない現象だ」


 すでに目の前で起きている事実から目を逸らして現実逃避を開始している。常識を悉く覆す存在である桜の登場は、さぞかしアスクレーにとって大きな誤算であったであろう。



「さて、体もいい感じに慣れてきたし、行ってみましょうか。はぁぁぁぁ… 50倍ご臨終パ~ンチ!」


 重力などもろともしない速度で桜がアスクレーに突っ込んでいく。そして引き気味に構えた右の拳を容赦なくその胸部に叩き込む。



 ドッパァァァァン!


 その一撃で、アスクレーの体がロケット弾の直撃を受けたかのように爆発した。体のパーツが放射状に後方に飛び散って、床に汚いシミを作り出している。



「今日もいい運動ができましたわ」


 勝つのは当然、この程度は軽い近所の散歩と言わんばかりの桜、そこに明日香ちゃんが駆け寄ってくる。



「桜ちゃん、凄いじゃないですか。神様みたいな人を倒しちゃいましたよ~」


「フフフ、全ては私のおかげですね」


「なんでそこで謙虚になれないんですかぁぁ」


 明日香ちゃんさえ声を大にして突っ込んでいる。さらにルシファーさんが…

 


「これ、桜よ。人の出番に割り込んでおきながらその言い草か?」


「まあまあ、美鈴ちゃん。生意気な宇宙人にちょっと我慢ができなかっただけですから、大して気にする必要なないですわ」


「自分で言うセリフではないだろうが」


 あまりにも傍若無人な桜の態度に、さすがのルシファーさんも呆れる。だがこれこそが桜なのだと、離れた場所では聡史とカレンは諦め顔だ。


 とまあこのような話をしていると、この場に居合わせる全員の脳内にアナウンスが響く。



(おめでとうございます、皆さんは比叡ダンジョンを完全攻略いたしました。ただいまからこの場に、異世界に渡る道が開通いたします)


 大山ダンジョンと同様に一行の目の前で部屋の壁が崩れて、宇宙空間に繋がる光の回廊が出現するのであった。

結局我慢できなかった桜がオイシイ所を全部持っていきました。いよいよマハテーィル王国の王都に足を踏み入れる聡史たちは…… この続きは月曜日か火曜日に投稿いたします。どうぞお楽しみに!



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