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146 閑話 桜と明日香ちゃんの初詣 2

すっかり忘れておりましたが、読者の皆様、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。


ということで、正月特別編の続きをどうぞ。

「桜ちゃん、晩ご飯の時間までに帰れますよね。昨日から栗ぜんざいをずっと楽しみにしていたんですから」


「おや? 明日香ちゃん、昨日は食べていないんですか?」


「はい、昨日は2つしか食べていません。あと3つ残っていますから、晩ご飯の後に食べるのを楽しみにしているんです」


「一体いくつ食べれば気が済むんですかぁぁぁ!」


 明日香ちゃんの底なしのデザート欲に、半グレ共のアジトに向かう途中であるにも拘らず、桜は思いっきり突っ込んでいる。すでに非日常の世界に片足を突っ込んでいるとは思えないような、普段と全く変わらぬ態度であった。ワゴン車を運転している根性なしの幹部も、呆れた表情で話を聞いている。



「おい、お前たち! いい気になっているのも今のうちだぞ。俺たちの組織には、とんでもない力を持った人間がいるんだからな。ちょっと強いくらいでは、簡単に捻られるぞ」


「まあ、それは面白いですわ。ちょっと車を停めなさい。アジトに連絡して集められるだけ仲間を集めなさい。最低でも30人は集まってもらわないと、せっかく私が出向く意味がないですから」


 

「俺の話をちゃんと聞いていたのか?! 仲間をボコった件はなかったことにするから、今から車を降りてどっかに行けよ!」


「とんでもなくお節介な発言ですね。いいからアジトまで黙って案内すればいいんです。ああ、仲間はしっかりと集めておくんですよ」


 まったく聞く耳を持たない桜に対して心の中でバカなガキだと毒づきながら、幹部の男は車を停めてどこかへ電話をする。



「今なら新年会で大勢いるってよ。中には薬をキメちまっている奴もいるだろうが、あれだけの人数が揃っていれば警察だって手出しできねえよ」


「そうですか。楽しみにしていますわ」


 これ以降桜は一言も喋らずに、ワゴン車のシートに身を埋めて流れる景色を見つめるのだった。







   ◇◇◇◇◇







 ワゴン車は幹線道路から脇道に外れてしばらく進むと、人気のない廃工場に入っていく。そこで車を停めると、幹部の男が降りろと目で合図する。



「この廃工場がアジトですか?」


「ああ、そうだ。階段を上った事務所が、俺たちのたまり場になっている」


「それでは前を歩きなさい」


 幹部の男を先頭にして、その後ろを桜と明日香ちゃんが歩いていく。いく棟かのガランとした建物の内部には、扱う人間が誰もいなくなったまま放置されている機械が所在なさげに置かれている様子が目に入る。かつては大勢の従業員がこの内部で仕事をしていたであろうが、その後倒産したのか若しくは海外に移転したのか、当時の面影を留めているのは打ち捨てられて機械類だけという寂しげな場所であった。


 工場跡地の奥には数棟の建物の中でも最も大きな建物が残されており、その3階の一部分だけ電気が点されている様子が外からでもわかる。



「狭い場所で暴れまわると死人が出かねませんから、アジトにいる全員をここまで呼んできなさい。楽しい宴をお見せしますから」


「後悔するんじゃないぞ」


 幹部はそれだけ言い残すと、建物の内部の階段を駆け上がっていく。しばらく桜と明日香ちゃんが外で待っていると、幹部の話の通りに建物からはよくもこれだけガラの悪い連中がいるものだと呆れるくらいに30人近くの男たちがやってきた。ちなみに仲間を呼びに行った幹部は、何らかのヤキを入れられたようで額から血を流している。



「おい、そこのガキ! よくも北多摩クラーケンをコケにしてくれたな。俺たちは容赦しねえ組織として知れ渡っているんだ。オトシマイは付けさせてもらうぜ」


「まあ、揃いも揃ってバカ面が並んでいますね。バカはバカなりに躾ける方法がありますから、いつでも掛かってきなさい」


 30人を前にして、桜には一切気負いも緊張もない。力を振り翳そうとする相手をより強大な力で捻じ伏せようという、いつも通りの生き生きとした表情であった。そう、桜にとっては闘争こそが生き甲斐、3度の食事とともになくてはならない生命を維持する糧なのだ。



「明日香ちゃんも適当に相手をしてくださいね」


「はぁ~… 初詣のはずが、どうしてこんな目に遭うのでしょうか? 私の栗ぜんざいがどこか遠くに行ってしまいそうです」


 諦め切った表情をしながら、明日香ちゃんは髪留めを外してトライデントを再び呼び出している。すわ戦いの場面かと、トライデントは青白い光を放ってやる気満々な様子だ。



「すぐには死なせねえからな。散々いたぶって地獄を見せてから殺してやるよ。この敷地に中には埋める場所など事欠かないからな。おめえら、取り囲んでじわじわ痛めつけてやれ」


「おうよ、腕一本くらいじゃ済まねえからな」


「まんまと飛び込んできたおめえらがバカなんだぜ」


 桜と明日香ちゃんにはお馴染みの金属バットや鉄パイプを握った男たちが、二人をじわじわと包囲していく。その中でもよく言えば切り込み隊長、別の言い方をすると鉄砲玉が、桜に向かって金属バットを振り下ろそうと迫る。だが……


 金属が固いコンクリートにぶつかる音を立てて、鉄砲玉が振り下ろした金属バットは地面を叩く。つい今までそこにいたはずの桜は、影も残さずに消え去っている。



「どこを見ているんですか?」


 真後ろから掛けられた声に鉄砲玉が驚いて振り向くと、すでに桜の拳が己の腹部に向かって放たれていた。


 

「ウボッ!」


 肺から空気が抜けていくような変な音を残して、鉄砲玉の体は後方2回転して頭から地面に叩き付けられる。桜がちょっと本気を出すとあと10回転は可能なはずだから、相当に手を抜いていると言い切れるであろう。



「こいつ! やりやがったなぁぁ!」


 桜に一瞬で叩きのめされた鉄砲玉の姿に頭に血が上ったのか、男たちは無秩序に二人に向かって襲い掛かってくる。だがこの程度のゴロツキの攻撃が通じるほどヤワな桜と明日香ちゃんではない。次々に手玉に取るように、男たちを地面に叩き付けていく。


 戦いのゴングが鳴って2分もしないうちに、立っているのは最高幹部の五人ほどとなっている。



「まったく口だけ達者で、実力はゴミ以下ですわね」


「クソガキがぁぁぁ! 遊びは終わりだぁぁ! 俺の真の力を見せてやるぜぇぇ! いいか、よく聞けよ。俺には魔法の力があるんだせ」


「魔法?」


「そうだ、驚いたか! 俺の魔法は無敵だぜ」


 どうやら魔法が使えると豪語しているのが、この半グレ組織のリーダーのようだ。彼は指に嵌めた赤い魔石が取り付けられた指輪を煌めかせる。



「なるほど、マジックアイテムですか。これは入手先を吐かせる必要がありそうですね」


 桜はその指輪を見て、別の方向の興味を惹かれている。ダンジョンで発見されたマジックアイテムは管理事務所によって厳重に管理されており、売買されたとしても新たな購入者が登録されるシステムとなっている。どう見てもダンジョンとは無縁であろうこのような半グレ組織のリーダーが所有可能な代物ではない。



「クックック、命乞いなんか聞こえねえぜ。炎に焼かれて死ね! ファイアーボール!」


 男が突き出した右手の平からは、確かにソフトボール大の炎が飛び出す。魔法に関するスキルがなくてもマジックアイテムさえ手に入れれば、練習次第で魔法の使用は可能であった。このリーダーは、何度か自己流で練習しているうちに偶然魔法が発動したケースのようだ。


 ソフトボール大の炎は、小学生のキャッチボール並みの速度で桜に向かって飛んでくる。



「ふん!」


 だが桜が拳を一閃すると、その圧力によってせっかくのファイアーボールは掻き消された。



「なんだとぉぉぉ!」


 飛んでいる途中のファイアーボールが桜によって消し飛ばされたという、この考えうる限り絶対にありえない現象を目の当たりにした半グレ一味は、挙って言葉を失っている。だが実際にはこの程度の素人が発動した魔法など、学院内においてはEクラスの生徒でも鼻でせせら笑うレベルであった。



「さて、マジックアイテムの出所を喋ってもらいましょうか。もう遊びは終わりですよ」


 そう宣言した桜はの姿が消える。見えない影が立っている男たちの前を通るたびに、声も上げずに一人また一人と吹き飛ばされていく。最後に残ったのは、リーダーただ一人であった。



「そのマジックアイテムをどうやって手に入れたんですか?」


「誰が喋るか! さっきのはマグレに違いない。もう一度食らえぇぇ! ファイアーボール」


「無駄ですわ」


 再び同様に桜の拳によってリーダーの魔法は掻き消される。と同時に桜がダッシュして、リーダーの右足が折れない程度に蹴り付ける。



「ウギャァァァ!」


 向う脛を強かに蹴られて、リーダーは地面を転がり回る。だが桜の足が、転がるリーダーの背中を踏み付けてその動きを強制的に止めている。胸部を圧迫するように上から容赦なく力を加えると、リーダーは呼吸ができなくて酸素を求めて藻掻く。



「どこで手に入れましたか?」


「く、苦しい… 助け…て」


 なおも喘ぎながら酸素を求めるリーダーの哀れな姿。先ほどまでの勢いはどこに行ったのだろうか? これが桜の犠牲者に待ち受けている運命といえば、それまでなのだが……



「仕方ありませんね。これでちょっとは話せますか?」


 桜が踏み付ける足の力をちょっとだけ緩めると、リーダーは切れ切れに話をし出す。



「買ったのは、中国マフィアからだ」


「フムフム、連絡先は?」


 ここから先の尋問は、実にスムーズであった。桜の腕が冴え渡っている。人に物を尋ねる時は、実力を行使するのが最も手っ取り早いと心の底から信じている桜ならではと言えよう。敵に回すと実に恐ろしい娘だ。



 この半グレ組織の処分に関して、桜は学院長に丸投げを決め込んだ。最寄りの練馬駐屯地から憲兵隊が派遣される手筈が決定される。ダンジョンに関する犯罪は全てダンジョン管理室に捜査権が一任されており、自衛隊に設けられた憲兵隊がその任にあたるとされている。憲兵隊の取り調べは、警察がスパー銭湯並みの暖かさに感じるというもっぱらの噂が出回っているが、真偽のほどは定かではない。


 それだけではなくて桜は学院長に直電した過程で、マジックアイテムに関する調査の許可まで得るという手回しの良さ… 本人は初詣のご利益がさっそく効果を発揮していると信じているようだが、側で見ている明日香ちゃんならわかっているはずだ。



(自分から積極的にケンカを売っているだけです!)


 腹の底から明日香ちゃんは呆れているのであった。そして腹の底から嘆く。



(私の栗ぜんざいが、どんどん遠ざかっていく~!)








   ◇◇◇◇◇







 桜流の犯罪調査、その方法は極々シンプルだ。対象者をボコボコにして嘘や言い逃れが不可能なまでに追い込んでから情報を吐かせて、新たな調査対象の元に足を運んでは再びボコボコにして情報を吐かせる。証拠? 何それ美味しいの? 証拠よりも自白こそが重要なのだ。


 異世界ではこの繰り返しによって、犯罪を企図し安全な場所から指示を出している親玉のいる場所まで恐るべき短時間で辿り着いていた。もちろん今回もこの方法はいかんなく発揮されている。


 今回も例にもれずに、半グレのリーダーから聞き出した中国マフィアのフロント企業に乗り込んでは、その社員や幹部を徹底的に痛め付けてマフィアの拠点を吐かせる。次にマフィアの拠点に乗り込むと、再びボコボコにして真の黒幕まで明らかにした。


 この過程で、練馬駐屯地憲兵隊の収容施設は、すでに満員を通り越していた。桜が次から次へとホイホイ犯罪に絡む人間を見つけるのもだから、首都圏周辺の憲兵隊が総掛かりで容疑者の連行と事情聴取に明け暮れる羽目に陥る。



「桜ちゃん、もうとっくに我が家では晩ご飯の時間が過ぎていますよ~」


「おやおや、もうそんな時間でしたか! ついつい夢中になって、晩ご飯も忘れていました。今日はこの辺のホテルに泊まって、最後の黒幕を叩きのめすのは明日にしましょう」


「何でそこまでするんですか~! 家に帰りたいですぅぅl」


 明日香ちゃんが涙目で訴えるが、桜は聞き入れる様子はない。泣く泣く明日香ちゃんは、外泊する旨を家に連絡する。



「もしもし、お母さん… やむに已まれぬ事情で、今日は桜ちゃんと一緒にホテルに泊まることになりました」


「そうなの、気をつけてね」


 二宮家の母親は明日香ちゃんを信用しているので、あっさりと外泊を認めてくれた。そもそもが寮生活をしているので、家に戻るほうが珍しいという認識を明日香ちゃんに対して抱いているようだ。


 だが娘を溺愛している父親は明日香ちゃんの外泊という衝撃の事実を告げられて、この世の終わりかというくらいに取り乱したらしい。お父さん、誤解しないでもらいたい。明日香ちゃんは決してふしだらな理由で外泊するわけではないのだ。むしろ桜に振り回されて、より危険な方向に向かって修羅の道を突っ走っているだけだ。



 明日香ちゃんと同様に、桜も外泊の連絡を入れる。



「もしもし、お兄様ですか」


「なんだ、桜ずいぶん遅くまで遊びまわっているんだな」


「ええ、明日香ちゃんと一緒に過ごすのが楽しすぎまして。ということで今日は二人でホテルに泊まりますので、お父様とお母様に伝えておいてくださいませ」


「わざわざホテルになんか泊まらなくても、一度家に帰ればいいじゃないか」


「いえ、それでは明日香ちゃんが家から出なくなる可能性が… ゲフンゲフン! ナンデモアリマセンヨ」


「なぜ最後が棒読みなんだ?」


「お兄様、気にしてはいけません。ということで、よろしくお願いいたします」


 どうやら桜が心配しているのは、明日香ちゃんを家に帰すと明日なんやかんやと理由をつけて自分と一緒の行動を拒否する懸念を感じているせいであった。桜にも一応は明日香ちゃんを振り回しているという自覚があるらしい。だがここまで来たら一心同体とばかりに、今更明日香ちゃんを手放す気などさらさら持っていない桜であった。明日香ちゃん、本当にご愁傷様……







    ◇◇◇◇◇







 桜との通話を終えた聡史は、妹から外泊するという連絡があったと両親に伝える。



「高校生になったばかりの娘が外泊とは、けっして褒められた行いではないぞ」


「明日香ちゃんと一緒なら大丈夫だとは思うけど、なんだか心配だわ」


 両親は世間並みの年頃の女の子を持つ親として、単純に心配をしている。高校に入学したばかりで外泊なんて、色々な意味で道を踏み外してはいまいかと不安を感じているようだ。だがそこに聡史が意見する。



「父さん、母さん! 心配な点はそこじゃないんだ。仮に桜が何か仕出かすとしたら、もっと違う意味の事件が発生するから」


 さすがは異世界を一緒に巡ってきた兄だけあって、聡史は桜を最も理解している。だがその聡史にとっても、この日と翌日の桜の行動は完全に想定外であったと言えよう。








   ◇◇◇◇◇








 翌日都心のホテルをチェックアウトした桜と明日香ちゃんは、一路横浜へと向かう。



「桜ちゃん、単なる情報だけで踏み込んではいけないような場所じゃないですか?」


「ええ、ですから踏み込みませんわ」


「どうするんですか?」


「まあ、それはお楽しみということで」


 こんな話をしながら二人が向かう先は、山手の高台にある中国領事館というプレートが立派な正門に取り付けられた建物であった。確かに外国の領事館など、無闇やたらに踏み込んで騒動など起こせない場所であろう。明日香ちゃんの主張は正しい。



「さて、内部の建物が見渡せる場所がいいですわね。もうちょっと坂を登ってみましょうか」


「桜ちゃん、どこまでいくんですか~?」


 桜の後ろにくっついて、明日香ちゃんも坂を登っていく。



「フムフム、ここからですと館内が一望できますね。パッと見た感じは怪しげな雰囲気は感じられませんが、ここまで証拠が挙がっている以上は有罪ですわ」


「桜ちゃん、いつから裁判官になったんですか?」


「明日香ちゃん、よくぞ聞いてくれました! 私が全てのルールブックです!」


「はあ?」


「ですから、私が有罪と言ったら有罪なんです」


「言っている意味がよくわかりません」


 桜の一方的な主張が理解できないという明日香ちゃん、だがそれは正しい。今日の明日香ちゃんは、とっても常識人に見えてくるから不思議だ。横にとんでもなく非常識な人物が、非常識全開に振る舞っているせいだと思う。きっとそうに違いない。もはや間違いようもないだろう。



「さて内部に踏み込まずに、一切の証拠も残さずに天誅を下すのは実に簡単ですわ」


「桜ちゃん、天誅を下すなんて、何をするつもりですか?」


「決まっています! こうするんです。はぁぁぁぁぁ… メガ盛り太極波ぁぁぁぁ!」


「さ、桜ちゃん! ちょっと待ってぇぇぇぇ!」


 明日香ちゃんが必死に止めようとするが、すでに衝撃波が撒き散らす金属音を轟かせながら、桜の闘気は領事館の建物に一直線… そして着弾。


 建物にぶち当たった太極波は、周囲に爆発の轟音と目も眩むほどの閃光を撒き散らす。幸いにも敷地が広かったので、付近の他の建物はガラスが割れる程度の被害しか及んでいないようだ。


 だが直撃を受けた領事館の三階建ての建物は、跡形もなく倒壊している。濛々とした土煙が舞い上がり、いまだ周囲は視界が霞んだままであった。



「桜ちゃん、いくら何でもやり過ぎですよ!」


「明日香ちゃん、この領事館をこのまま放置しておくと、あの半グレのリーダーのような人間が大勢現れて、罪もない人たちが不幸になるんですよ」


「それはそうですけど、さすがに方法的にどうかと思います」


「領事館は治外法権ですから、日本の政府も手出しができません。それをを隠れ蓑にして悪行三昧なんて、天誅を下す立派な理由ですわ」


「はぁ~… 桜ちゃんと一緒にいると、私の常識がどんどん崩壊していきます」


 明日香ちゃんはこめかみを抑えている。精神的な面から生じる一時的な頭痛にでも襲われているのだろうか。



「さあ、今回のお仕事はこれでお仕舞ですわ。やはり初詣のご利益が存分にありましたね」


「桜ちゃんを初詣なんかに誘わなければよかったです」


 表情が対照的な二人だが、桜の一言に明日香ちゃんは……



「さて、家に帰りましょうか。明日香ちゃんは栗ぜんざいが待っているんじゃないですか?」


「そうでしたぁぁぁぁ! 桜ちゃん、一刻も早く帰りましょう! 栗ぜんざいが昨夜の夢にも出てきたんですよ~」


 桜のたったの一言で、明日香ちゃんの脳内では倒壊した領事館などどうでもいい過去の話に風化している。日中関係に深刻な影響をもたらす大事件よりも、明日香ちゃんにとっては栗ぜんざいのほうが重要であった。こんな性格だからこそ、こうしてずっと桜と親友でいられるのだ。


 こうして二人は、初詣からスタートして二日間に及ぶ修羅の旅を終える。横浜から電車に乗って、何事もなかったかのように自分の家に向かっていくのであった。








   ◇◇◇◇◇







 その日の昼前、楢崎家では聡史がテレビ画面で駅伝中継を見ている。各大学のランナーが懸命に走る姿を見ていると、突然画面がスタジオに切り替わる。



「臨時ニュースをお伝えいたします。本日午前11時頃、横浜にあります中国領事館が突然倒壊いたしました。原因等は現在調査中ですが、警察は事件事故の両面から捜査しております。繰り返します……」


「桜ぁぁぁぁぁ! お前は一体何をやっているんだぁぁぁぁぁ!」


 テレビ画面に向かって一人で絶叫を上げる聡史の姿が、そこにはあるのだった。


正義の執行者桜見参! 悪を見て見ぬフリなどしない、自分に都合のいい正義の味方…… それにしても。仕出かすスケールがあまりにも……


これで正月編は終わりで、次の投稿からは本編が再開します。どうぞお楽しみに!



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[気になる点] 警察がスパー銭湯並みの暖かさに感じるというもっぱらの噂が出回っているが、 スパー→スーパー
[良い点] もしかして桜は明日香ちゃんしか友達いないのでは…。
[一言] まっまあ、中国は謎の爆発が定期的に起こるから (一方的な偏見です。) まあ、中国のメンツを守るなら半グレ集団から自分たちに たどりついたとは、言えないし 自国のダンジョン問題もあるだろう…
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