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142 日本国の態度

3日間お休みをいただくと予告いたしましたが、なんとか時間を見つけて1話だけ書き上げました。その分睡眠時間がぁぁ!

 大阪の葛城ダンジョンから出てきたデビル&エンジェルと異世界からの来訪者は最寄りの八尾駐屯地に収容のはこびとなる。


 この駐屯地の隣接地には八尾空港が設置されている。あまり知られていない小さな空港であるが、測量や撮影、訓練飛行などに用いられる小型の航空機が離発着する他、ヘリなどの運用も行われている。


 もちろん陸上自衛隊も同飛行場を使用しており、聡史たちは同駐屯地で一夜を明かした後に、とんぼ返りで魔法学院へ戻ることとなる。


 このあってはならない事態に憤慨しているのは、もちろん明日香ちゃん。あれだけ楽しみにしていた食い倒れ巡りが、またもやお預けになってしまったせいで相当ご立腹のよう。



「せっかくダンジョンを攻略して戻ってきたのに、なんですぐに戻らないといけないんですかぁぁぁ!」


「明日香ちゃん、学院長からの要請ですから、今回は諦めないと…」


「桜ちゃんは悔しくないんですかぁぁぁぁぁ! せっかくの食い倒れツアーが、みすみすフイになってしまったんですよ!」


「もちろん私も腹立たしいですが、世の中には思い通りにいかないこともあるんですから」


「桜ちゃんはいつから大人になったんですか? 今までなら何が何でも自分の意志を押し通していたのに」


「明日香ちゃん、大阪食い倒れツアーは必ず実現させますから、どうか今回だけは諦めてください」


「まったく、本当に今回だけですからね! 次の機会には絶対に倒れるまで食べまくりますよ!」


「その時こそは、私も徹底的に明日香ちゃんに付き合いますから」


 どうやら明日香ちゃんの怒りも桜の決死の説得で何とか収まったよう。一歩間違うと闇の明日香ちゃんが顕現してしまう恐れがあるので、桜としても相当焦った様子が窺える。


 だが尚も諦め切れない明日香ちゃんは、昨夜桜と二人で調べた食べ歩き候補の店のサイトをため息をつきながら無言で眺めている。これは今後相当に尾を引きそうな予感。食べ物の恨みは一番恐ろしいぞぉ…





   ◇◇◇◇◇





 ひとり明日香ちゃんが不機嫌を引き摺りながらも、デビル&エンジェルは魔法学院に凱旋する。もちろん出迎えるのはEクラスの生徒たち。



「師匠、お帰りなさい!」


「今回はどんな活躍をしてきたんですか?」


「師匠のことだから、人間には不可能なレベルの武勇伝を打ち立ててきたんだろうな」


 真美、ほのか、美晴の三人が、聡史に色々と聞き出そうと話し掛けてくるが、簡単には明かせない内容のいわば国家機密に属する話なので、聡史としても軽々しくは返事ができない。



「なに、それほど大した活躍はしていないから、そんな顔をしても無駄だぞ」


 聡史の何も教えない態度に、期待に満ちていたブルーホライズンの表情がガックリとしたものへと変化していく。



「師匠! また何も教えてくれないんですか… そんなに私たちって信頼がないのかなぁ~?」


「渚、お前たちを信頼していないんじゃないんだ。恐らく渚が考えるよりも大きな問題に現在俺たちは立ち向かっている。今は詳しくは明かせないが、どうか信じてくれ」


「渚ちゃん、師匠は絶対に嘘なんか言わないわ。いつか色々と教えてもらえるはずだから、それまで待ちましょう」


「…そうだね。絵美が言う通りだった。師匠、いつかきっと教えてくださいね」


「ああ、そのうちにきっとな」


 ブルーホライズンは、聡史たちに一礼すると自主練へと戻っていく。


 彼女たちが去ると、今度は頼朝たちが桜に声を掛けようとする。だが桜が険しい顔付きでひと睨みすると、頼朝たちは直立不動で見送るしかない。桜の「何も聞くな」という表情に気圧されて声も出せなかったよう。その威圧感恐るべしと言いたいところであるが、実は明日香ちゃんを宥めるのに気を使ったのと、そろそろ昼食時とあっていちいち相手をするのが面倒なだけというのがどうも真相らしい。


 こうなると不憫なのは頼朝たち。普段からいろいろなとばっちりを食らわされている条件反射なのだろうか? 桜の態度一つで顔面蒼白となるという貧乏くじを引かされた格好となっている。ご愁傷様としか言いようがない。これしきで挫けないで、強く生きるんだぞ!





   ◇◇◇◇◇





 昼食を終えてから個々の部屋で荷物の整理などを終えると、デビル&エンジェルとマリウスたちは再び学院長によって第3会議室へと召集される。今回の報告と、今後の予定を新たに策定するのが目的なのはいうまでもない。



「なるほど… 今回の楢崎中尉以下の面々の行動は魔族にとってはある程度の痛手となるだろうな。何よりも日本に繋がるダンジョンを攻略しようとしていた人員を全滅させられたのだから、あちら側の為政者からしたら我が国に面子を潰されたと受け取るだろう」


 聡史たちから今回の異世界の出来事を報告された学院長のストレートな反応がコレ。ルシファー様と天使の破滅的な攻撃を受けて3千人もの将兵が全滅させられたのだから、さぞかし魔王は腹を立てているだろうと考えているよう。だがそこに、聡史が意見を加える。



「学院長、確かに魔族の鼻っ柱を根こそぎ折ってきました。ですが生存者はいないので、我々の攻撃だったと証言する魔族側の者がいません。一番最初に異世界に渡った時に痛め付けたマルキースという魔族が強いて挙げれば唯一の証人かもしれませんが」


「そうだな、確かに今回は魔族の生き証人はいないだろう。相手がバカでなければ、状況から推察してダンジョンの向こう側からの攻撃だという結論に辿り着く可能性までは否定できないが」


「普通はそうでしょうね。そうだ、レイフェン! マルキース公爵はどうなったか知っているか?」


「ハハハ、あの落城のマルキースですか。あやつはむざむざ城を破壊されるのを手を拱いて見ていた咎で魔王によって処刑されましたな。何者が城を破壊したか等々、あやつの弁明は一切取り上げられませんでした」


「ということは、俺たちが魔族の国に手出ししている件は、魔王には正式に伝わっていないということか?」


「左様であります。魔王は弱者の弁明など耳を貸しませぬ。それ故に、聡史殿らによって城が全壊いたした理由を未だ正確には把握していないか、若しくは耳にしていたとしても信じてはいないかと存じます」


 絶対君主による暴政と呼べばいいのであろうか? 魔王が治めるナズディア王国では、その意に従わぬ者は貴族であろうと容赦なく粛清される運命にあるよう。この話を聞いていた学院長が、聡史に向かって話し出す。



「そうか、思わぬ方向から魔族国家の政治体制が判明したな。さて楢崎中尉、仮に生き残って誰から攻撃を加えられたか証言する者がいれば、魔王の敵意は確実に日本へ向かうだろう。その結果として、マハティール王国へ向けられる戦力が日本へ振り向けられる可能性が高い。ここまでは理解できるな」


「はい、わかります」


 先日の学院長からの指示では「マハティール王国と同盟を結んで来い」という話であった。どうやらその言い方からして、学院長が聡史たちにまだ秘密にしている何らかの情報がありそうな態度に感じられる。



「マハティール王国に対しても、我が国と同盟を結ぶメリットをしっかりとアピールするべきとは思わないか?」


「はあ、確かにメリットをきちんと説明できれば、同盟を結ぶ交渉はスムーズに進むと思います」


 いわくありげな表情の学院長に、聡史は戸惑うばかり。今度はどんな無茶振りが飛んでくるんだとばかりに身構えている。



「実はここ数日で、ダンジョン対策室の内部でマハティール王国との同盟の内容について見解の変化があった。当初は楢崎中尉らの面々を送り込んで間接的な支援に止めようという意見だったが、自衛隊の部隊を実際に現地に派遣して大々的に異世界の戦争に介入しようという結論に達した。もちろん極秘裏に政府の承諾も得ている」


「それで、俺たちにどうしろと言うんですか?」


「もうちょっと頭を働かせろ! つまりだな、魔族の国家であるナズディア王国に日本を代表して宣戦布告して来いという意味だ」


「宣戦布告ですってぇぇぇ!」


 さすがに聡史も驚きを禁じ得ない表情で、大きな声をあげている。


 確か日本には憲法があって戦争を仕掛けるのは禁じられているはずだが、異世界に関しては何らかの例外となるのであろうか?



「学院長、自分が政府の立場に意見するのはどうかと思いますが、表立って宣戦布告は不味いんじゃないですか?」


「楢崎中尉、貴官はバカか? そんな話は黙っていればわからないだろうが!」


「た、確かにその通りですが…」


 ダンジョンを通って異世界との行き来が可能なのは今のところ聡史たちだけ。地球上のどの国家も「未だにダンジョンの最深部の攻略など不可能」と結論付けている。


 唯一の例外は、現在筑波にある第4魔法学院に留学生として滞在しているマギーたちであろう。彼女たちは、デビル&エンジェルとともに実際にダンジョンの最下層を目撃した数少ない人間といえる。



「ちょうどおあつらえ向きに宇都宮の連隊が、那須ダンジョンでさらにレベルアップを目指している最中だ。その連隊を異世界への遠征部隊の中核とするプランが出来つつある。ディーナ王女、我が国の本気を見たくはないか?」


「学院長、日本の素晴らしい軍隊を私たちの国へ送ってくれるというのですか! それは王族としてだけではなく、ひとりの国民としても大歓迎です」


 ディーナ王女たち異世界からの来訪者は魔法学院にやってくる前1週間宇都宮駐屯地に滞在した。その際に自衛隊の士気の高さと規律正しさ、そして信じられないほど高性能な近代兵器の数々を目撃している。自国の騎士団とは比べようもない精強な部隊が直接支援にやってくるなど、まるで夢のような話だと感じている様子が伝わってくる。


 だがここで聡史が敢えて慎重な意見を述べる。



「自衛隊を派遣するのは承知しましたが、補給はどうするんですか? 一個連隊単位となると相当な物量が必要かと思いますが」


「楢崎中尉、桜中尉、二人のアイテムボックスの収納限界はどの程度だ?」


「無限に可能です… あっ!」


 どうやら聡史と桜のアイテムボックスで部隊の装備や補給品一切合切を異世界に運び込もうという案だと、薄々聡史も気が付いたよう。



「二人には、戦車やら装甲車やら燃料と交換部品ともにすべて異世界に持ち込んでもらう。最低でも3か月は現地で活動可能な物量を調達するから、大船に乗った気持ちで行ってこい!」


「ますます断崖に追い込まれていく気持ちになってきます」


 聡史が本音をブッチャケている。ここまで大掛かりな話になるとは聡史自身もこれっぽっちも考えているはずもない。だがこの娘の発想は別次元にブッ飛んでいる。



「これは面白くなってきましたわ! 自衛隊の皆さんを異世界の流儀で鍛えて差し上げます。そうですわ! 物のついでですから、Eクラスの生徒を何人か連れて行くのはいかがでしょうか?」


「桜中尉、いい意見だ。学院長として認めるぞ。人員の選抜は桜中尉に任せる」


「が、学院長! 本当にいいんですか?」


 聡史が相当焦った声で止めに入るが、学院長と桜によって完全に黙殺されている。恐らくブルーホライズンや頼朝たちが巻き込まれるであろうと現時点で簡単に予想がつく。本人たちがまったく知らない場所で異世界行きの話が決定するなんて、例えようもなく恐ろしい学院といえよう。


 美鈴やカレンは、学院の生徒が参加する件に関して特に反対の表明はない。明日香ちゃんに至っては…



「賑やかなほうがいいんじゃないですか」


 あからさまな無責任全開の態度。いや正確に言えば、桜のマークが自分に集中するよりも各方面に分散したほうが好ましいという腹黒い打算が働いている。明日香ちゃんにとって異世界で最も恐ろしいのは環境の変化や魔物の存在ではない。桜にマンツーマンでマークされることこそ、最も避けなければならない最優先事項というのは誰の目にも明らか。


 宇都宮連隊の出発には最低でも今から2か月は要するとの話。それまでの間に聡史たちは残ったダンジョンを攻略して、マハティール王国の王都に最も近いダンジョンに出るルートを発見することが、改めてダンジョン対策室の最重要指令として課せられるのであった。


話がどんどん壮大な方向に発展して戸惑う聡史、まずはこの先どう動くか…… この続きは火曜日に投稿します。どうぞお楽しみに!



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[気になる点] 黙っていれば、バレないって 日本には、2階(わざと)やレンポウなんかの間中が、いるのに 黙っていればは、通用しないのでは? 確かに、先に侵略されたから専守防衛は成立するけど それ…
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