122 筑波ダンジョン 1
本日はお休みをいただく予定でしたが、何とか書き上げました。122話をどうぞ。
本日は木曜日、1年生は終日実技実習のカリキュラムが組まれている日となっている。午前中の実技訓練を終えた桜はいつものように猛ダッシュで学生食堂に向かうと、これまたいつものようにカウンターで怒涛の勢いで注文を開始。
「A定食とスペシャルランチにキツネうどんとカツ丼、あとはチャーシュー麺、全部大盛りで!」
「あいよ! 桜ちゃん、今日は普段よりも一品多いんだね」
「これからダッシュでダンジョンに向かいまして、コカトリスを狩れるだけ狩ってきますので」
「それは大変だね。頑張っておくれよ」
桜は受け取った料理を片っ端からアイテムボックスに放り込んでから席に向かうと、猛然とご飯とおかず、麺類を口に運んでいく。するとちょうどそこに聡史たちがやってくる。
「桜、ずいぶん早いな」
「お兄様、ジャマしないでください。私は忙しいんですから」
顔も上げずに聡史に答えると、桜は再び料理に没頭する。大量の昼食を10分少々で食べ切ると、ようやくトレーに乗ったランチを口にしようという聡史たちを尻目に、桜は脱兎のごとくに食堂を飛び出してダンジョンに向かって走り去る。
「やれやれ、騒がしいヤツだ」
「桜ちゃんはひとりでコカトリスの肉を集めてくると言っていましたからね」
「週末に筑波遠征があるから張り切るのはわかるが、いくらなんでももうちょっと落ち着いてもらえないだろうか…」
疾風怒濤をまさに地でいく勢いの妹の後姿を聡史は呆れた表情で見送っている。その横では明日香ちゃんが、鬼がいなくなったかのようなのんびりとした表情でスープに口をつけている。
結局この日は、桜ひとりでこの先1週間必要なコカトリスの肉を集めて戻ってくる。一体どれだけ森林階層で恐怖に満ちた魔物の絶叫が巻き起こったのかは桜本人しか知らなかった。
◇◇◇◇◇
翌日の午後3時過ぎに学科の授業が終わると、デビル&エンジェルとブルーホライズンは準備を整えて正門に集まっている。今日のうちに筑波にある第4魔法学院まで移動して、明日の早朝からダンジョンにアタックする予定となっている。
ことに今回はダンジョン内部で1泊するので、ブルーホライズンはテントや寝袋などを分担して背負う。聡史は彼女たちの荷物を一手に引き受けて、次々にアイテムボックスへと収納していく。
「師匠、ありがとうございます」
「助かったぜ! 師匠はやっぱり凄いなぁ」
感謝するやら感心するやらで、ブルーホライズンの面々は聡史に頭を下げている。そんな彼女たちに聡史は今回の筑波ダンジョン遠征の注意を口にする。
「ダンジョンで1泊するのは全員初めてだろうから、日常と勝手が違う点を自分の目で確認するんだぞ」
「「「「「「はい、わかりました」」」」」」
こうして一行はバスに乗って駅へと向かう。
都心に出てから電車を乗り換えつつ筑西市に到着すると、すっかり夜の帳が下りている時間となっている。
「もうバスはないから、タクシーに分乗して第4魔法学院まで向かおうか」
タクシーで30分もしないうちに第4魔法学院へと到着。正門の前で聡史がマギーへ連絡すると、校舎の方向からこちらに向かっくる3つの人影が街灯におぼろげに浮かび上がる。その人影は聡史たちの姿を見留めると手を振りながら駆け寄ってくる。
「聡史! それから他の皆さんも、よく来てくれたわ。歓迎するわよ」
「皆さん、ありがとうございます。攻略を手伝ってもらえてとっても助かります」
「全員八校戦で見掛けた人たちですぅ。あの時はライバルでしたが、今は協力する仲間ですぅ」
マギー、フィオ、マリアの三人が諸手を挙げて聡史たちを歓迎している。聡史たちだけではなくて、ブルーホライズンもトーナメントで優勝しただけあって三人の記憶に留まっているよう。
「わざわざ出迎えに来てもらって済まない。始めて来た場所だから、色々とわからない部分を教えてもらいたい」
「お三人方、この桜様が来たからには大船に乗った気持ちでお任せください」
謝意を示している兄と相変わらず不遜な態度の妹。この娘はどんな場面であっても平常運転なのは言うまでもない。
「それじゃあ、寮のゲストルームに案内するわ。聡史だけは男子寮だから、あちらの担当者が部屋まで案内するから」
「よろしく頼む」
こうして聡史たちは第4魔法学院の学生寮に向かう。特待生寮しか知らない聡史にとっては、初めて足を踏み入れる男子寮であった。
翌日の朝一番で、本日ダンジョンにアタックするメンバーが学生食堂に集まっている。
「ふあぁ~… 桜ちゃん、違うベッドだったので寝付きが悪くてなんだか寝不足ですよ~」
「その割には明日香ちゃんはベッドに入って5分もしないうちにグースカ寝ていましたよ」
朝が弱い明日香ちゃんは大きなアクビをしている。今朝5時半に起きたとはいっても、7時間以上はしっかり寝ているのに…
そんな明日香ちゃんのどうでもいい体調の話は置いといて、聡史はマギーに今回のアタックの目的を確認。
「マギー、今回は具体的にどの辺りまで目指すつもりなんだ」
「いま私たちが躓いているのは15階層のボスなのよね。アンデッドだから私たちにとっては相性が悪いのよ」
「ほえぇぇ~! またお化けの階層ですか…」
アンデッドと聞いて明日香ちゃんが嫌そうな表情をしている。お化けが大の苦手なだけに、この反応はいつも通りなのだが…
「聡史、なんだかビビっているメンバーがいるけど、本当に大丈夫なの?」
「心配するな。カレンがいれば話は簡単だ」
「カレン? 確か回復魔法を使う人だったと記憶しているけど」
カレンと美鈴はまだこの場に顔を出していない。桜や明日香ちゃんのように歯を磨いて顔を洗ったらオーケー! というわけにはいかないよう。というか、この二人は出掛けの身だしなみにあまりにも無頓着すぎる。
「実際目にしてみれば、カレンの凄さがわかるさ」
「前衛職じゃないの? メイスを手にしてトーナメントに出ていたわよ」
「あれは単なる腕試しだ。本職は攻撃魔法と回復役だからな」
「腕試しにしては、他の魔法学院の生徒を圧倒していたじゃないのよ」
マギーは聡史たちのパーティーが一体どうなっているんだと疑うような目を向けている。通常の常識の範疇には収まらない面々なので、いくら異世界から戻ってきたマギーでも想像がつかないらしい。
「お待たせしました」
「遅くなってすいませんでした」
そこに美鈴とカレンがやってくる。続いて…
「皆さん、早いですね」
「うう… 朝は苦手ですぅ」
フィオとマリアも顔を揃える。
日本風美人の美鈴と異世界の血が混ざったカレンに加えて、フランス貴族の血を引く優雅なフィオと東欧美人のマリアという4人が居並ぶ様子は、中々壮観な眺め。
桜や明日香ちゃんもそれなりに容姿は整っているのだが、中身があまりにも絶望的だし… マギーは典型的陽気なアメリカンなので、ちょっとこの4人とは比較がしづらい。
ただしこうして洋の東西から異世界まで、これだけの美女に取り囲まれた聡史を羨む人間は数多いであろう。居合わせるブルーホライズンのメンバーも、同性として眩し気な眼を向けている。
全員が集まったところで、改めて簡単な打ち合わせが始まる。進行役はマギーが買って出る。
「私のレベルは100オーバーで、フィオとマリアがおよそ50程度よ。聡史たちはどうなっているのかしら?」
「俺と桜はマギーよりも上だな。美鈴、カレン、明日香ちゃんの三人は50程度で、ブルーホライズンのメンバーは30にもう少しで手が届く」
「へぇ… 1年生にしては驚異的な成長ぶりね」
「師匠に鍛えられているッス!」
美晴が誇らしげに口を挟んでいる。マギーが評するように、1年生でここまでレベルが上昇するのは驚異的というほかない。
「師匠? マスターのことかしら?」
マギーには、日本語のニュアンスが伝わらないようで首を傾げる仕草。
「彼女たちは、俺が鍛えている。俺のレッスンに弱音を吐かずについてくる頼もしいメンバーだ」
「そうなのね… 聡史の生徒なら、それなりにダンジョンでもやれるでしょうから期待しているわ」
「美鈴とカレンは強力な魔法が使用可能だから、レベル以上に役立ってくれるぞ。深層の魔物でも一撃で片づけるからな」
「やはりね… ダンジョン攻略者の正体が今の聡史の証言で裏付けられたわね」
「その件はノーコメントだ」
各自の能力を確認したところで、話題は攻略の方針に移る。今回は15階層のボス部屋を突破して、さらにその先を目指そうという確認が行われる。
「なるべく今日中に15階層を突破したいわ。その後は、戻ってくるための時間を見ながら先に進むつもりよ。この辺は適宜相談しながら進んでいくから、よろしくお願いね」
「いいぞ、その方向で進もう」
「お兄様、私にお任せいただければ、夕方までには15階層まで進めますわ」
「その辺は桜に任せる。効率よく進んでくれ。ブルーホライズンのメンバーは全員俺たちと同行する。より深い層の魔物がどのようなものか、しっかりその目に刻んでもらいたい」
「「「「「師匠、わかりました」」」」」
「師匠、腕が鳴るぜ」
「美晴ちゃん、私たちにとっては未知の敵なんだから、ひとりで突っ走るんじゃないわよ」
最後に真美からお小言を食らった美晴がテヘペロ顔で頭を掻いている。相変わらず性懲りもない性格をしている。
朝食を終えた後、一行は装備を整えてから筑波ダンジョンへと向かう。
「師匠、一般の冒険者が大勢いますね」
「そうだな。不人気な大山ダンジョンとは大違いだ」
聡史たちの元ホームグラウンドである秩父ダンジョンと同様に、この日は土日とあって筑波ダンジョンには早朝から多くの冒険者が集まっている。駐車場に車を停めて荷物を降ろしている姿がいたるところで目に入る。
「事務所のカウンターが混まないうちに早く入場手続きを済ませるわよ」
マギーに従って、聡史たちは管理事務所に入っていく。短い列に並んでからパーティーごとに手続きを終えると、早速ダンジョンの内部へと入り込む。
「最短距離で15階層を目指しますわ」
ようやく足を踏み入れた筑波ダンジョンが楽しみすぎて居ても立っても居られない桜が、マギーたちを押しのけて先頭に立っている。この娘の性格からして、アウェイであろうが誰かに先頭を譲る気などさらさらないよう。
通路に顔を覘かせるゴブリンたちを蹴散らしながら、あっという間に2階層に下りる階段に到着する。2階層に降りても桜が飛ばし気味に通路を進んでいくために、慣れないフィオとマリアは目を白黒している。
「こんなに急ぎ足でダンジョンを進むなんて有り得ないですぅ」
レベル50を超えるマリアが、ゼイゼイ喘ぎながら何とか3階層に降りていく階段まで辿り着く。普段これほどの速度で走る機会がないせいだろうか、ペットボトルを取り出して中の水をゴクゴク飲み干すマリア。ここまでほとんど全力疾走に近い状況だっただけに、相当喉が渇いているよう。そもそもいくら1、2階層とはいえダンジョン内部で全力疾走するなど他のパーティーからするとあるまじき行為。この辺がいかに桜がブッ飛んでいるかという証明になるだろう。
「桜、さすがにもう少しペースを緩めてくれ。後ろからついてくるだけでも大変そうだ」
「この程度で音を上げるなど鍛え方が足りませんわ。まったく… 仕方がないですからもう少しゆっくり進みます」
デビル&エンジェルやブルーホライズンのメンバーはこのくらいのペースは当然という顔で立ち止まっている。やはり聡史や桜と一緒にいるというのは、人間離れした体力を養うのには抜群の効果があるというのは間違いない。
その後はやや速足程度で通路を進みながら、一行はどんどん階層を降りていく。5階層の階層ボスはこの筑波ダンジョンでもゴブリンキング。時間が惜しいので桜がワンパンで倒して更に下を目指す。
「大山の6階層とあまり変化がないなぁ」
「ここから下の階層は、私たちが見たこともないような魔物が出てくるのよね」
ブルーホライズンの美晴と渚は、相変わらず桜によって次々に吹き飛ばされていく魔物を横目で見ながら手持無沙汰な様子で通路を進んでいる。
「それにしても桜ちゃんの手に掛かると、魔物なんて何の力もないように見えてしまうわね」
「本当だよなぁ… 体は小さいのに、自分の何倍もあるオークをワンパンで吹き飛ばすんだからな」
桜の所業を見た美晴と渚は溜息混じりに言葉を交わす。だがそれよりも驚いているのは、この光景を初めて目の当たりにした第4魔法学院の三人。桁違いの桜の行動に驚きを隠せないでいる。
「なによ、あれは… 私でもあんな真似は不可能よ!」
「第四魔法学院が敗北を喫した理由がよくわかりますね」
「人間には不可能ですぅ! 私の目がおかしいですぅ!」
三人三様ではあるが、いずれも目を見開いて桜の突進を眺めているだけ。
この勢いで次々に階層を突破して、一行は昼近くに10階層のボス部屋まで到達。驚異的な短時間でここまでやってきている。
目の前にはボス部屋の扉が立ち塞がっている。聞くところによると、階層ボスは大山ダンジョンと同様にオークキングという話。
部屋のドアの前で聡史が提案する。
「真美、ここまで何もしなかったから運動不足だろう。美鈴が魔法で支援するから、ブルーホライズンが戦ってみるんだ」
「えええ! 私たちがやるんですか?!」
急に聡史から話を振られた真美が驚いている。まだオークジェネラルでさえ対戦経験がないにも拘らず、ここで急にオークキングなどと言われても… 真美はパーティーの実力と魔物の危険度を天秤にかけて迷っている態度。
「心配しないで大丈夫よ。私の魔法で援護するから安心して立ち向かっていけばいいわ」
「美鈴さん、わかりました。自分たちがどこまで通用するか力を試してみたいです」
美鈴に背中を押されて真美が決心する。美晴をはじめとしたパーティーメンバーも気合を入れ直してドアの前に立つ。
桜がドアを押し広げると、そこにはブルーホライズンにとって初めて遭遇する強敵が待ち構えているのであった。
いきなり10階層に挑むこととなったブルーホライズンのメンバー、彼女たちは…… この続きは明日投稿します。どうぞお楽しみに!
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