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113 混成パーティー

無事に学院に戻ってきた聡史たちだが、相変わらずドタバタが……

 程なくして基礎実技訓練の時間は終了し、聡史たちは専門実技の課題に向かう。


 第3訓練場に移動してブルーホライズンや男子使徒たちが素振りを開始。その中に混ざっている明日香ちゃんの動きが桜の目に留まる。



「明日香ちゃん、なんだか体の動きが重たいように感じるのは私の目の錯覚でしょうかねぇ~?」


「さささささ、桜ちゃんは何を言っているんですか? わ、わ、私には意味が分かりませんよ~」(震え声)


 桜は明日香ちゃんにジト目を向けている。そこに話を聞き付けた美晴が口を挟んでくる。明日香ちゃん、大ピンチの予感!



「明日香は食後にデザートをお代わりしていたよな」


「み、美晴ちゃん! なんてことを言うんですかぁぁぁ!」


「明日香ちゃん、どうやら悪事はすぐに暴かれるようですね」


 桜はさらにジトーとした目を向けるが、ここまで追い込まれても明日香ちゃんは必死に誤魔化そうと悪足搔きをする。



「そ、その… ちょっとはお代わりをしたかもしれませんが、ご飯はその分減らしましたから」


「普通に一人前食べていたよな」


 またもや美晴がバッサリと切り捨てる。立場が相当悪いと自覚する明日香ちゃんだが、それでもまだ諦めようとはしない。ここで認めてしまったら桜による恐怖のダイエットが待っている。



「確かにデザートを多めに食べたかもしれませんが、その分体も動かしましたよ~」


「監視の目がないからと言いながら結構ダラダラしていたよな」


 美晴によって完全にロープ際まで追い詰められた明日香ちゃん。すでにダウン寸前な模様。セコンドの桜がタオルを投げようと… いや、違う! 引導を渡すべく無慈悲な宣告を下す。



「明日香ちゃん、完全に有罪ですね。今から強制ダイエットを開始します」


「誰か助けてくださいぃぃぃ!」


 こうして明日香ちゃんは再び桜に連れられてグランドへ向かう。手足をバタバタさせながら必死で助けを呼ぶ明日香ちゃんだが、他の生徒たちは誰も見ないフリをしている。



「いいか、目を合わせるんじゃないぞ!」


「目が合っただけで巻き込まれそうだな」


 男子たちの間では、このような会話が交わされている。そして桜にドナドナされる明日香ちゃんの姿が見えなくなっていくのであった。






    ◇◇◇◇◇






 この日はダンジョンへは向かわずに、デビル&エンジェルは放課後に特待生寮へと集まっている。那須に向かった聡史たちはカレンの事情を承知しているが、美鈴と明日香ちゃんは何も知らないのでこれから色々と説明しなければならない。というわけで、お茶を淹れながら敢えて落ち着いた雰囲気づくりをしようと聡史が口を開きかけたところに、カレンが爆弾を放り込む。



「…ということで、私は天使になりました」


「またまたぁ~! カレンったら私をからかっているのね」


「カレンさんも冗談が上手いですよ~」


 急にこんな話をされても、すぐに信じる人間はいないであろう。美鈴と明日香ちゃんは頭からカレンの冗談だと思い込んでいる。あまりのカレンの突拍子もない発言に聡史は頭を抱えている。


 だがそんな聡史の様子を横目に、カレンはまったく空気を読もうとはしない。彼女的には、ハナッから話だけで信じてもらえるとは思っていなかったよう。



「それでは今から真の天使の姿を見せますね。どうか驚かないでください」


 真っ白な光に包まれると、そこには純白のドレスに包まれたカレンが座っている。背中から伸びた翼はリビングの半分の幅に広がり、座っている聡史や桜の頭の上をふさいでいる。



「ほ、ほ、ほ、本物の天使…」


「う~ん…」


 カレンからもたらされた衝撃の事実に美鈴は目を真ん丸くして、明日香ちゃんは白目を剥いて倒れている。ここまで真実を突き付けられると美鈴も信じざるを得ない。



「カレンが天使って… 頭が混乱して訳が分からないわ」


「・・・・・・」


 美鈴は目の前で起こった信じがたい現象を辛うじて認めているようだが、明日香ちゃんは口を開くどころではない。桜が体を揺さぶって何とか起こそうとしているが、目を覚ます気配はなし。



「聡史君たちはカレンが天使だって知っていたの?」


「昨日この目にして俺も驚いた」 


「カレンさんのおかげでその後色々と面白い展開がありましたの」


 魔族に関する話はまだ口外できないので兄妹はその件には触れようとはしない。それよりも聡史には気掛かりな点があるよう。



「カレン、すぐに元の姿に戻れるのか?」


「はい、大丈夫です。今朝目を覚ましてから何度か練習しました。ちょっと空いているお部屋を借ります」


 元に戻るとスッポンポンになってしまうので、人前ではカレン的に色々と不味いらしい。背中の翼を折りたたんでドアを潜り抜けると、カレンは空いているベッドルームに入って着替えをする。なぜか元々着ていた服は傍らに畳まれて置かれているらしい。この辺は細かく追及してはいけない。ディテールを詰めていないご都合主義の賜物と考えてもらいたい。



「お待たせしました」


 ベッドルームから出てきたカレンは学院の制服姿。ちょうどその時、白目を剥いていた明日香ちゃんが目を覚ます。



「あれ? カレンさんが天使になった夢を見たような気がしますが…」


「明日香ちゃんはきっと疲れているんでしょう。暇があるとすぐ居眠りをするんですから」


 改めて説明するのが面倒なので、桜は明日香ちゃんの夢ということでごまかす方向に舵を切っている。目を覚ましたばかりで頭が働かない明日香ちゃんはすっかり桜の誘導を信じ込んでいるよう。それよりも明日香ちゃんには声を特大にして言いたいことがあるらしい。



「そうですよ! 私が疲れている原因は全部桜ちゃんの責任なんですからね」


「デザートを食べすぎた自業自得じゃないんですか?」


「私には責任はありません! 悪いのは桜ちゃんとデザートに含まれているカロリーです!」


 明日香ちゃんお得意の責任転嫁が炸裂。デザートが悪いのではなくて、その中に含まれているカロリーを悪者に仕立てている。詭弁もいいところだろう。これには桜も「もはや打つ手がない!」と呆れた目を向けている。



 ひとまずはカレンに関する話題が一段落したので、ここで聡史が口を開く。



「今回の那須ダンジョンの集団暴走で分かったことがある。この件をさらに明らかにするために大山ダンジョンの攻略を急ぎたい。可能ならば今月中に最下層を目指したいと考えている」


「お兄様、待っておりましたわ! 早速明日から最下層を目指して攻略していきましょう」


 桜が身を乗り出している。ダンジョン攻略という最終的な目的が目の前にぶら下がっているので俄然気合が入ってくるのだろう。



「桜ちゃん、急に攻略をするといっても準備が必要でしょう。場合によっては何日も掛かるかもしれないし」


「そうですよ、桜ちゃん! 学生食堂からオークの肉やコカトリス納入の催促が桜ちゃんがいない間私の所に来ていたんですからね」


「はっ! そうでしたわ。まずは食堂へ納入する肉の確保を… ピコーン! いいことを思いつきました。ブルーホライズンと男子たちにオーク肉は任せましょう。マジックバッグを渡しておけば肉なんか持ち帰り放題ですからね」


 明日香ちゃんの苦情を聞いて桜は下請け業者を使おうと言い出す。確かにブルーホライズンと男子たちが力を合わせればオーク肉くらいならばかなりの量を集められるはず。しかもレベルの上昇にも繋がるので一挙両得といえる。


 

「そうだなぁ~… よし、いいだろう。ブルーホライズンは5階層での活動にだいぶ慣れたから、彼女たちを使って男子に色々と覚えさせよう。ヤツらは頭はポンコツだけどヤル気と気合いで何とかするだろう」


「お兄様、それではさっそく明後日からオークを狩らせますわ」


 こうしてオークの件は解決を見る。あとは食べるだけで魔力が上昇する奇跡の肉であるコカトリスであるが、これは森林のある階層に行かないと手に入らない。コカトリスを必要な量だけ集めてからダンジョンの深部を攻略する方針がこの場で確認されるのであった。







   ◇◇◇◇◇






 翌々日の土曜日、大山ダンジョンにぞろぞろと向かうEクラスの生徒たち。その先頭を歩くのは桜に他ならない。



「今日は天気もいいですし、まさにダンジョン日和ですわね~」


「桜ちゃん、これから暗い場所に潜るのに天気が関係あるんですか?」


「明日香ちゃん、気分の問題ですわ。晴れている日はご飯がより美味しく感じるのと一緒です」


「ああ! そういわれてみれば、お天気がいい日に食べるデザートは格別ですね」


「明日香ちゃんは天気がどうだろうと、年がら年中甘いものを美味しく食べてブクブク太っていますよね」


「誰がブクブクの雪ダルマですかぁぁぁぁ!」


「いや、雪ダルマとは言っていませんから」


 こうしてくだらない話をしながら、あっという間にダンジョンへ到着する。事務所で手続きをすると一行はダンジョンへと入り込む。1階層の転移陣の前で聡史たちは5階層へと向かう混成集団を見送る。彼らには今回は念のためにカレンが同行する。彼女がいれば男子の誰かが1回や2回死んでも大丈夫だから…






   ◇◇◇◇◇






 5階層に降り立った男女総勢15名は3つの即席パーティーに分かれる。前もって組み合わせを決めており、男子三人にブルーホライズンの二人が加わるパーティーが2つと、カレン、ほのか、美晴の三人に男子二人が加わるパーティーが1つという組み合わせとなっている。


 当然この組み合わせを決める際に男子の間で壮絶な殴り合いの闘争があったのは言うまでもない。その理由はもちろん誰がカレンと一緒になるかという一点に尽きる。2枚しかない切符を賭けた死に物狂いの闘争を勝ち抜いたのは頼朝と旅館の親戚の元原。二人は顔に青痣を作りながらも、カレンを目の前にして気合が入った様子。



「それじゃあAグループは渚が指揮して、Bグループは私の指示に従ってね。カレンさん、Cグループはどうしますか?」


 ブルーホライズンのリーダーである真美が各グループの指揮者を確認する。ただしCグループだけはウッカリ決めるのを忘れていたので、この場で誰が指揮を執るかをカレンの決定に委ねている。だったら最初からカレンがリーダーでいいだろうと思うが、それは聡史から禁止されている。将来的に優れたリーダーになってもらうために男子の誰かにその任を負わせたいという意向が働いているらしい。



「そうですねぇ… 信長君に任せましょうか」


「あ、あのぅ… カレンさん、自分は頼朝です」


 桜が間違うのは慣れている頼朝だが、いくら何でもカレンに「信長」と呼ばれて涙目になっている。だが頼朝必死の訴えはカレンによってスルーされた模様。頼朝、無念!


 こうして各グループは枝分かれする別の通路をそれぞれ進み始める。


 Aグループでは普段先頭を務める渚が一歩下がって、代わりに足立が斥候役を務める。その直後には大型の盾を構えた男子と剣を手にする男子が1名。後方は臨時リーダーの渚と魔法使いの千里という布陣でそのまま右側の通路を進んでいく。


 Bグループは斥候役の横田を先頭にして、楯を構える男子二人が直後を進み、後方に真美と絵美という隊形で左側の通路を進んでいく。


 最後のCグループだが、今日に限って先頭は美晴が務める。気合いで魔物を発見すると本人が立候補した結果、なぜか全員からすんなりと認められている。その直後にほのかと剣を持つ男子、後方には頼朝とカレンが並んで歩く。心なしか頼朝の視線が歩くたびにプルンプルンするカレンの胸に向かっているのは気のせいではないだろう。このCグループは中央の通路を選択している。


 そして真っ先に魔物と遭遇したのはこのCグループ。正面から1体のオークがこちらに向かってやってくる。



「美晴、気合で止めてくれ!」


「おう、任せろ!」


 なぜかこれだけで意味が通じる脳筋の頼朝と美晴。盾を構えた美晴がガッシリとオークを受け止めると、ほのかともう一名の男子が横からオークに剣を突き立てる。あっという間に手負いとなったオークは最後の抵抗で暴れるが、美晴は盾を構えたままで一歩も引かない。



「トドメだぜぇぇ!」


 最後は頼朝の剣がオークの首元に突き刺さって断末魔の叫びを上げながらオークは倒れていく。



「信長君、いい感じですよ!」


「は、はい! カレンさん、ありがとうございます」


 礼を述べながらも頼朝の心中は複雑。桜のせいですっかりカレンの頭には「信長」という名前が刷り込まれている。

 

 ドロップアイテムのオーク肉は頼朝が桜から手渡されたマジックバッグに仕舞い込む。桜も鬼ではない。学生食堂への納入代金は全てブルーホライズンと男子たちで山分けの約束になっている。オークを狩れば狩るほど現金収入が入ってくるので、これも各自のヤル気を掻き立てている原因となっている。


 だが男子たちの真の目的は、カレンの前でいい格好をしたいという一点に尽きる。邪な考えと妄想を抱きながら、彼らのオーク討伐は続くのであった。

 

オーク狩りに精を出す男子たちとブルーホライズン。果たして頼朝がカレンに名前を覚えてもらえるのか? この続きは、明日投稿いたします。どうぞお楽しみに!



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