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102 ダンジョン25階層

久しぶりにダンジョンの深層攻略スタート……

 桜に弟子入りを志願した男たちの地獄の訓練はその後1週間にわたって続けられていく。


 そんな過酷な訓練に体重増加が影響して巻き込まれた明日香ちゃんは、幸いにも3日後に解放されて通常の訓練に戻っている。大阪で散々食べ散らかしたデザートとお土産で増えた分の体重を何とか解消できたので桜からお許しが出されたよう。



「ふひ~… 本当に死ぬかと思いましたよ~」


「明日香ちゃん、これに懲りてオヤツの食べ過ぎには注意してください」


「桜ちゃん、よくわかりました。これからはデザートの分だけご飯を減らします」


「デザートの量を減らせぇぇぇぇ!」


 明日香ちゃんは本当に懲りているのだろうか? 疑問の余地が大いに残っている気がする。



 さて、レベル30を超える明日香ちゃんにとっても地獄の訓練であったということは、精々レベル8~10程度の男子生徒にとってはどんな影響をもたらしているのだろうか?


 記憶を辿ると彼らは初日のランニングだけでほとんどゾンビに成り掛けていた。そんな彼らが1週間の地獄の試練を乗り越えた結果…




「ボス、お待ちしておりました!」


「ボス、今日も天気が良くて、いい訓練日和です」


「ボス、今日もガンガン行きますぜ」


 喋り方だけではなくて人格まですっかり改造されてしまったらしい。八人の男子生徒はその眼付はまるでどこかの国の特殊部隊か特殊工作員のような鋭い光を湛え、超A級スナイパーのような鋭利な刃物のような顔付きとなっている。



「いい顔付きになってきましたね。さあ、今日も張り切ってグランド100周から始めましょう!」


「「「「「「「「「サー、イエッサー!」」」」」」」」」


 頼朝をはじめとする男子生徒八人は米国海兵隊員張りの気合が入った返事をする。確か女性の上官に対しては「イエス、マム!」のはずだが、細かいことは気にしていない。


 彼らがこのような激しい訓練をどうやって乗り越えたかというと、その主な要因はスキルが上昇したり新たなスキルを獲得した影響が大きい。絶え間ない命の危機に曝された結果、体の自己防衛反応としてスキルが上昇したと考えられる。全員が気合上昇ランク5を獲得して、他には精神耐性ランク5、体力上昇ランク3、瞬発力上昇ランク3、敏捷性上昇ランク3といった感じで、体力面と精神面において大幅なスキルアップを果たしている。


 これは聡史によって鍛えられた際のブルーホライズンにも見られなかった驚くべき現象。明日香ちゃんや美鈴、さらにはカレンでさえもレベルの上昇とともに新たなスキルを獲得したりスキルランクが上がっていた。これが一般的なスキル獲得方法と考えられているが、男子八人の今回のスキル獲得方法は明らかに尋常ではない。


 単なる訓練でこれほどのスキルを獲得したのは異例とも呼べる現象だし、裏を返せばそれだけ桜によって彼らが追い詰められた果ての結果ともいえる。



 そして八人の男子生徒はランニングを終えて第3訓練場へと戻ってくる。これから剣や槍の技術の訓練が開始となる。


 人格まで改造された男たちは無心になって剣を振るう。その傍らではカレンが渚と打ち合いをしている。カレンが一歩動くたびに、彼女の実に立派なお胸がプルンプルンする。


 チラッ!


 男子たちの視線が一瞬カレンの姿を捉えると、何事もなかったかのように元に戻って剣を振るう。だが…


 プルンプルン


 チラッ!


 プルンプルン


 チラッ!


「よそ見するんじゃない!」


 桜からゲンコツの嵐が飛ぶ。人格が変わってもカレンに対する煩悩と妄想だけは以前と変わらない男子たちであった。





   ◇◇◇◇◇





 そして迎えた土曜日、男子八人は桜に率いられてダンジョンへと向かう。



「今日中に全員レベル12以上を目指しますからね」


「サー、イエッサー!」


 桜の言葉に気合が入った返事をする一同。桜から支給された剣や槍を手にして、魔物を相手に大暴れをするつもりのよう。


 そして彼らはまだ一度も足を踏み入れていない2階層に踏み込んでいく。


 ザクッ! グサッ! ドカッ!


「へへへ、ゴブリン共の断末魔の叫びが心地いいぜ」


「首を切断する瞬間の手応えといったら、体中がゾクゾクしてくるな」


「もっとゴブリンを殺させろぉぉぉ!」


「ゴブリンに死を! 殺せ、殺せ、殺せ!」


「「「「「殺せ、殺せ、殺せぇぇぇ!」」」」」


 桜によって完全に洗脳されているヤバい集団となり果てているよう。ゴブリンに向かって躊躇いなく剣を振り下ろす男子たちの姿は先週までとはまったくの別人に映る。



「フフフ、殺戮に身を投じる覚悟ができたようですね。実にいい傾向ですわ」


 すっかりアブナイ集団になってしまった男子生徒たちの様子を見て、桜はシメシメ顔でニンマリしている。どうやらこれが狙いであったのだろう。元々脳筋集団であった男たちを頭で考える必要がない殺戮マシーンに作り替えようという魂胆を最初から持っていたに違いない。これが桜流の育成の恐ろしさともいえる。よくぞ明日香ちゃんは桜の訓練に耐えて自我を保っていたものだ。


 こうしてこの日、ダンジョンで殺戮マシーンと化した男子生徒たちは勢いのままに3階層まで踏み込んで、目標を大幅に上回るレベル15まで到達してようやくダンジョンから出ていくのであった。


 




   ◇◇◇◇◇





 その日の夕方、食堂ではデビル&エンジェルのメンバーが集まって食事をしている。



「桜、例の男子たちの様子はどうだ?」


「お兄様、とってもいい感じに育成が進んでおりますわ」


「そうか、程々にしてくれよ」


「ええ、程々にしていますから、ご安心してください」


 桜が言う「程々」と聡史が考えている「程々」には限りなく大きなギャップが存在している。桜によって魔改造された頼朝たちにとんでもない事態が起きているとは聡史たちはまだ気が付いていない。後々大騒ぎになるが、その時はすでに手の施しようがなくなっているなどとはこの時点では誰も想像していない。



「お兄様、信長たちはひとまず今週の目標を達成しましたので、明日は私も皆さんとご一緒しますわ」


「桜、信長じゃないからな。あいつは頼朝だぞ」


「ええええ! ずっと信長と呼んでいましたけど、本人は特に何も反論しませんでしたよ」


「お前の圧力のせいで反論できなかっただけだろうがぁぁ! もうちょっと頼朝の心情も考えろ」


「まあそんな細かい話はどうでもいいです」


「細かい話で誤魔化すんじゃない!」


 本当に名前を憶えていないのかそれとも頼朝をからかっているだけなのか、その辺は相変わらず桜しか知らないが、久しぶりのこのやり取りを聞いた美鈴やカレンはジト目を桜に向けている。いい加減にしないと、話が進まないでしょう! 的な表情で桜を見ているよう。


 ちなみに明日香ちゃんはデザートに夢中で何も話を聞いていない。桜による地獄のダイエットから逃れてすっかり油断しており、いつも通りのホンワカ気分に浸っている。


 そんなム-ドには一切気を使わない桜が声のトーンを一段階上げる。



「ということで、明日は未踏破の20階層よりも下を目指しましょう!」


「お前の話にどういう前後関係があるのか全然理解できないぞ」


「お兄様は細かすぎます。もっとおおらかになってデンと構えてくださいませ」


「細かいとかそんな問題じゃないだろうがぁぁ! 話題の一切合切をぶった切っていきなりダンジョンの未踏破階層って、一体どうなっているんだと言っている」


 聡史が何を言っても桜にとってはどこ吹く風。ダンジョン攻略に関しては自らの意思を最大限優先しつつ、兄の意見などあっさりないがしろにしている。いざとなったら単身でもダンジョンに突入する性格からして、桜が一度言い出すと聡史にも止めようがない。



「21階層にはどんな魔物がいるのかしら?」


「美鈴ちゃん、その通りですわ。どんな魔物がいるのか自分の目で確かめてこそ真の冒険者と呼べるのです」


 美鈴が何気なく口にした一言に桜が思いっきり乗っかってくる。こうなると流れは一気に桜が考える方向へと傾いて、明日の日曜日にデビル&エンジェルはダンジョンの下層へと向かうことが決定する。






   ◇◇◇◇◇






 デビル&エンジェルの五人は管理事務所で手続き後に一階層に出来上がった転移魔法陣へと向かう。



「さあ、一気に20階層に向かいますわ」


 桜の掛け声とともに全員が魔法陣に入ると、真っ白な光に包まれて一行はあっという間に20階層へと運ばれていく。



「うう、桜ちゃん、怖いですよ~」


 ご存じのように20階層はアンデットが蠢く階層。お化けが怖い明日香ちゃんは使い物にならないので、美鈴が手を引いて通路を引っ張っていく。


 階層ボスのリッチを瞬殺すると、ボス部屋の奥に出現した階段を降りていく。



「よかったです。もうお化けは出てこなくなりましたよ~」


 明日香ちゃんの言葉通り、21階層はパッと見では通常の階層と大きな変化はない。だが通路の幅と高さはさらに広がっており、どう考えても大型の魔物が登場してくる気配がヒシヒシと伝わってくる。これは19階層に登場したオーガよりもさらに大型の魔物が登場するパターンなのか?


 そして桜が気配を感じ取ると…



「足音からしてかなり大型の魔物のようです。雰囲気からすると、ミノタウロスかその亜種でしょう」


 桜が気配を感じ取ってからキッカリ10秒後に通路の角から姿を現したのは人身馬頭の怪物。正確には上半身が馬で腕と足だけ毛むくじゃらの人間の形をしている。身長は3メートルを超えて、隆々とした筋肉によって盛り上がった体付きはいかにもパワーがありそう。手には大型の斧を持っており、足早にこちらに向かってくる。



「それではまずは私が見本を見せますわ」


 余裕の表情で桜はミノタウロスの亜種に向かって歩を進めていく。振り下ろされる斧をあっさりと避けると、右足に強烈なキックを叩き込む。


 グオォォォ!


 桜が放ったキックはミノタウロス亜種の右足を完全に破壊してその巨体を横倒しにする。倒れた魔物は何とか体を起こそうと必死にもがいているが、桜がそんな隙を見逃すはずがない。



「これでトドメですわ」


 桜が胸部に食らわせたストンピング1発で魔物は心臓が破裂してそのまま絶命。その場には大きな肉の塊がドロップアイテムとして残されている。



「馬肉はあまり好きではないのですが、一応もらっておきましょうか」


 人身馬頭の怪物が落としたドロップアイテムであるが、桜にとってはどんな素性であろうとも肉は肉。馬肉が好きではないというのは、あくまでもその味がやや淡白で物足りないという理由に過ぎない。肉を回収した桜はドヤ顔で美鈴たちに振り向く。



「このように横倒しにすると簡単に仕留められますわ。基本的にはオーガと一緒です」


「美鈴の魔法で先制攻撃してくれ。これまでと同様になるべく下半身を狙うのがいいだろう」


 桜の説明を聡史が補強すると美鈴は大きく頷く。魔物の種類が変わろうとも倒し方の基本は変わらないという事実を理解したよう。


 こうして21階層ではミノタウロス狩りが続けられていく。桜は人身牛頭のミノタウロスが登場するとニッコリして、馬頭が来るとムッとした表情を浮かべている。完全に食材の好みで選別しているよう。


 22階層も引き続きミノタウロスが登場する階層のようだが、時折その中に混ざって一つ目の巨人サイクロプスがやってくる。



「美鈴ちゃんは足元に魔法を放って、カレンさんは目を狙ってください」


「いくわよ、ファイアーボール!」


 美鈴の魔法がサイクロプスの足元で大きな爆発を起こす。足から血を流しているサイクロプスだが、まだダメージは小さくて怒りの雄叫びを上げながらこちらに向かってこようとする。



「もう1発、ファイアーボール!」


 さらに美鈴の魔法が炸裂して巨人をその場で足止めにすると、そこにカレンの神聖魔法が放たれる。



「ホーリーアロー!」


 足元に気を取られていたサイクロプスは完全に虚を突かれて、弱点である一つ目にカレンの魔法が直撃する。


 ウオォォォォォォ!


 長い尾を引く叫び声を上げながらサイクロプスの巨体はドシーンという大きな音を立てて倒れていく。その体が消えると、ゴブリンの200倍くらいの大きさの魔石が残されている。



「これなら10万円くらいの価値があるかもしれないですね」


「さ、桜ちゃん、じゅ、10万円ですかぁぁぁ!」


 明日香ちゃんが大エキサイトしている。1体で10万円の価値があるとしたら、いっぱい倒せば大金持ちになれるだろうと頭の中でソロバンを弾いている。もちろん脳内ではパフェ何杯分に相当するのかキッチリ計算されているのはいうまでもない。すべてをパフェに換算するその思考はあまりにも残念すぎる。


 その後22階層に降りていくが、ややサイクロプスの割合が多くなっただけで特に変化はない。


 さらに23階層ではミノタウロスは姿を消して、サイクロプスが中心となってくる。その他にもタイタンと呼ばれるより大きな巨人型の魔物が登場してくるが、すべて桜の餌食となって討伐されていく。



「体がデカいだけで、とんだ木偶の坊ですわ」


「桜ちゃん、普通の冒険者だったら、相手が大きいだけでものすごく苦戦すると思うんだけど」 


「美鈴ちゃん、弱気なことを言ってはいけませんわ。相手が大きかろうが、要は攻撃を受けずに必殺の一撃を食らわせればいいんです」


「それができないから、みんな苦労しているんじゃないのかしら?」


「それは単に鍛錬が足りないだけですわ。私のように常に鍛錬を怠らなければどんな相手でも倒せるようになりますから」


 レベル600オーバーの人間が言っても逆に説得力が薄いように美鈴の耳には聞こえてくるが、ドヤ顔の桜に敢えてこれ以上は突っ込まないようにしている。常人とはあまりにかけ離れた桜の感覚についていこうとすると疲れるだけだと彼女もわかっている。



 その後も25階層まで巨人の魔物が次々に襲ってくるが、次第に対応に慣れた美鈴、明日香ちゃん、カレンの攻撃でバタバタと倒れていく。その結果彼女たちのレベルは36まで上昇する。



「どうやらここが階層ボスの部屋のようです」


 1日で5階層を突破したデビル&エンジェルは、ついに25階層のボスが待ち受ける部屋の前に辿り着く。これまでのボス部屋と比較して3倍ほどの大きな扉が据え付けられている点からいって、やはり巨人型の魔物が待ち受けているよう。



「それでは入りますわ」


 桜が重厚と呼ぶには巨大すぎる扉を押し開くと、そこには巨人型の魔物の中でも最大種であるギガンテスが、その全高10メートルを超えるような巨体をうっそりと持ち上げて、今まさに立ち上がろうとしているのであった。



階層ボスのギガンテスとの戦いはどうなる…… この続きは明日お届けいたします。どうぞお楽しみに!



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[一言] 本当は牛頭、馬頭、一つ目入道ではないのかと思わせるラインナップ。
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