表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無題  作者: ナナシ
第1章
9/102

第9話 『戦々恐々』

「うん、わかった。わかったから......あんまり寄って来ないで?」


「いや、全然分かってないよね!? ......ちょっと......ゆっくり距離取らないで欲しいんだけど......」


「フュフテもお年頃だものね! そういうのに興味があるのは分かるわ。

 でもね、男同士っていうのは、その......あまり健全じゃないと思うの」


 フュフテの懸命な釈明は、残念ながら思い込みの激しいニーナには届かず、少年は腫れもの扱いを受けていた。

 何事にも積極的なニーナでも、そこは恥じらう十五の乙女だからか。

 思春期特有の潔癖さによって、色濃い性癖は受け入れられないらしい。

 性に奔放になるには、彼女の年齢はまだ幼な過ぎるのかもしれない。


「この件は師匠に報告しとくわね。ニュクス師匠に」


「母さんに!? やめて、 殺されるから!」


「おや、はやくもお母様にご紹介頂けるとは。ワタクシ昂ぶって参りました。さっそく手土産を用意せねば」


「黙れよ、変態」


 妄言をのたまうアダムトをバッサリと斬り捨てた後、ニーナの言葉の意味を飲み込み、フュフテは頭を抱える。


 彼女がニュクス師匠と呼ぶ人物は、自分の生みの親である。

 と同時に、フュフテも含めた全員の師匠でもある。


 無論、あやしげなものを教え伝える人物ではない。

 ニュクスが教示するのは魔法についてである。

 誰とは言わないが、アレなことをなにかと教え込もうとしてくる人物のことではない。

 間違っても二人を同列に置こうものなら、ニュクスから指導という名の拷問が開始されるだろう。


(絶対怒られるよ......いや、全然ただの誤解なんだけど。あの人、話聞かないしなぁ......)


 森の民がいくら魔法の素養に秀でた一族であるとはいえ、それはたゆまぬ鍛錬あってのものだ。

 ゆえに、里に住む子供たちは物心がつくくらいの歳になると、優れた魔法士を師とし、魔法の使い方と戦い方を学び始めるのである。


  フュフテの場合はそれが実の母親であり、たまたまニーナの師匠でもあった。

 人にもよるが、大体平均して3〜4人の弟子を教えるので、仲良く共に育ってきたもの同士、兄弟弟子となるのは自然の流れだったのだろう。


「はぁ......」


「? どうしたの? ため息なんかついて?」


 お前のせいなんだけど、と言いたいのをぐっとこらえて、怪訝そうに細い眉を顰めるニーナにじと目を送る。


 ーーあれでうちの母親は厳しいのだ。


 息子の自分が言うのもなんだが、ニュクスはとても大雑把な性格で、ぶっきら棒だし、口が悪い。すぐ手も出る。

 危険人物だ。


 しかし、魔法の腕は超一流。

 聞いた話だと、昔どっかの国相手にたった一人で喧嘩を売り、都市に攻め込んで魔法一発で半壊させたらしい。

 四歳の頃にその話を聞き興奮して、どんな魔法なのかと説明をねだると、


(「私以外、燃え滓も残らんが、見せてやろう」)と、


 凄みのある笑顔で実演しようとし、彼女の常識のなさに恐怖したものだ。

 慌てて止めたのだが、若干おしっこちびったのはご愛嬌というもの。


 「いやそんなもん使おうとするなよ」とか「なんで巻き込む前提なんだ」と、後になって思ったりもしたのだが、基本深く考えてないがゆえの発言だったのだろう。

 そのへんの大雑把さは、弟子のニーナがしっかりと受け継いでいる。困ったことに。


 そんな師匠だが、指導に関しては繊細で厳格だ。

 彼女に魔法を師事するにあたり、いくつか守らねばならないルールのひとつに、『一人前になるまでの間、色恋を禁ずる』というものがある。


 恋愛に現を抜かしては修練がおろそかになる、と言うわけではない。

 感情の揺れ幅が大きくなってしまう可能性が高いから、が理由とのことだ。


 なんでも、魔法は未熟な者が使用する場合、使用時の精神状態によって魔力の制御が左右されてしまうらしい。

 要は、一人前になるまでは危険だから我慢しなさい、ということだ。

 やはり強大な力を扱うには色々と必要なことがあるのだろう。


 だから、「そんな規則を破っています。しかも男相手に」となると、非常に困ったことになるのである。

 最悪、破門になるかもしれない。


 そんな危機的状況を呼び込んできた元凶である灰髪の聖職者を、フュフテは忌々しく睨め付ける。


「そんな視線で見つめられるとたまりません......濡れてしまいますな」


 なにがーー、とは聞かない。

 聞きたくもないし、想像するだにおぞましい。


 いい年をしたおっさんが、目を潤わし頬を上気させ、くねくねと艶めかしく体を震わせる姿は、この上なく気色の悪いものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ