誘い 5
「……はぁ……はぁ……」
薄暗い闇の中で、僕は肩で大きくいきをしていた。
眼の前には呆然と座り込む内田さん。間一髪……内田さんの体ごと、べランドの内側に引き寄せることが出来た。
たぶん後一瞬でも遅かったら、内田さんは……そう考えただけでも恐ろしい。
「……私、今、死んでましたよね」
しばらく経ってから内田さんがつぶやくようにそう言った。僕は未だに息を整えるのに精一杯で返答することはできなかった。
すると、内田さんは少し困ったように苦笑いしながら僕を見る。
「……また、邪魔されちゃいましたね」
そう言われた瞬間、僕はなんだかおかしくなってきてしまった。そして、思わずフッと笑ってしまう。
「え……なんで笑うんですか?」
「あ、いや……内田さんと会ったときのこと、思い出しちゃって。内田さん、変わってないなぁ、って」
そう言うと内田さんはキョトンした顔で僕のことを見る。それからなぜかまた泣きそうになりながら僕のことを見る。
「……尾張君も、変わらないですね」
泣きそうになりながら内田さんはそう言った。僕はただ何も言わず内田さんのことを見ていた。
「……ホントに、ごめん」
自然と内田さんにまた謝ってしまった。内田さんは首を横にふる。
「いいんです……私もちょっとおかしかったです……さっき言ったことは、忘れて下さい」
「でも……大丈夫なの?」
そう言うと内田さんは少し黙っていたが、不意に僕のことをジッと真剣に見る。
「……あの女には、絶対、尾張君を渡しません」
「え……渡すって……」
「尾張君も、私のこと、捨てないで下さい」
……なんだかとんでもないことを言われているような気がしたが……悪い気はしなかった。ただ、面と向かってそんなことを言われると恥ずかしかったが。
「……わかった」
僕が了承すると、内田さんは安心したようだった。
「さて。お茶でも飲みますか?」
内田さんは立ち上がると、何事もなかったかのようにそう言う。
僕は思わずまた笑ってしまったが、なんとか内田さんとまだ一緒にいれることに安心したのだった。




