誘い 2
「へぇ。じゃあ、アンタもイジメられてんだ」
大本は特に意外そうでもないという表情でそう言った。
僕は特に大本の質問に答えないということもできず、何か聞かれると答えざるを得なかった。
大本も大本で、遠慮することなく、バンバン質問を繰り返してくる。なんというか……さすが僕や内田さんとは住む世界が違う人間といった感じだ。
「で、同じような境遇のアンタたちは互いに慰めあっていた、と……なんだか可愛そうな話ね」
馬鹿にしているのかいないのか、微妙な調子で大本はそう言う。僕は何も言わずに歩みを進める。
「う~ん……でも、それ、やっぱりアタシも興味あるなぁ」
「……はぁ?」
僕は思わずそう言ってしまった。大本はニンマリと気味の悪い笑顔を浮かべて僕を見る。
「いやぁ、アタシもねぇ、困ってんだよねぇ」
「大本が……困っている? なんで?」
すると、大本はわざとらしく大きくため息をつく。
「最近さぁ、彼氏ともうまくいってなくって……倦怠期ってやつなのかな? それに、内田をイジメんのも飽きてんだよねぇ。アタシの周りの人はまだ楽しんでいるみたいだけど、アタシ、根本的にアイツ嫌いだし」
苦笑いしながらそういう大本。流石に僕は閉口してしまった。
よくもまぁ、こんなことを僕の前で平然というものだ、と。
「だからさぁ、やっぱりアタシも混ぜてよ、その集まりに」
「……僕がいいよ、って言うとでも?」
そう言っても大本はキョトンとしているだけだった。駄目なの? と言いたいがごとく平然としている。
僕はまた歩き出した。やはり、大本はどこかおかしい……いや、おかしくないのかもしれない。
僕をイジメているクラスの奴らも大本と同じなのだろう。退屈で、暇だから、僕をイジメる……その程度の感覚なのだ。
だから、そう考えると、大本がおかしいのではなく、むしろ、これが普通……そう考えるとだんだん悲しくなってきた。
「じゃあさ、変態クンだけでもいいよ」
大本はそう言って僕の横に並んで、僕の顔を覗き込んでくる。
「え……何が?」
「内田だって変態クンに色々話してんでしょ? それは、変態クンが聞き上手ってことだよ。ね? だから、アタシの話も聞いてよ」
「……正直、あまり乗り気じゃないんだけど」
「そう? もし聞いてくれたら……内田へのイジメ、やめるように働きかけてあげてもいいよ? どうする?」
半ば脅迫するかのようにそう言ってくる大本。そう言われてしまうと……僕だって拒否できないのである。
「……わかったよ。内田さんのこと、考えてくれよ」
「はい、じゃ、交渉成立、と。じゃあ、これからよろしくね、変態クン」
そういって、大本は携帯を取り出した。またしてもなんとなくだが、まずい方向に話が進んでいってしまったのではないかと僕は感じるのだった。




